49 / 57
第49話 愛されたかった娘
しおりを挟む
(雑魚がどれだけ束になったところで無駄よ……!)
「ああっ……! 力が漲ってくる……!!」
朱い魔石の効果は絶大だった。
どれだけ魔法のスペルを唱えても、体内の魔力が尽きることがない。いつもは苦労して呼び出している高位の氷の魔法も楽々発動させることができた。
無数の氷の槍が、矢が、次々にアザレア達へ向かって飛んでいく。
「はははは……! あっはははっ……!!」
多幸感に、笑いが止まらなくなる。
もう巨氷兵も必要ない。
この身さえあれば、自分が忌々しく思うものすべてを滅ぼすことができる。
(アザレア……)
炎の壁の向こう側にいるであろう、女の顔を思い浮かべる。
自分には一切何もしてくれなかった父が、あの女には文鳥を贈り、一流の魔法の教師をつけた。
自分には父との思い出がひとつもない。
だが、あの女には、父から贈り物をされたという事実がある。
(ゆるせない……)
ストメリナは父である大公から、いないものとして扱われてきた。叱られることはあっても、褒められたことはただの一度もない。とうぜん、謝られたことも。
記念式典が始まる前、大公はアザレアに謝罪していた。大公はアザレアのことを自分の娘だと認めていた。
(あんなお父様の声……聞いたことがなかったわ)
心から申し訳なく思っている。そんな声色だった。
認めたくはないが、あんな声、アザレアのことを本気で思っていなければ出せないだろう。
(認めたくない……)
自分が大公から愛されていないのに。
なぜ、なぜ、アザレアばかりが。
「ウバアアアアアア!!!」
心に悲しみが渦巻くほど、憎しみで満たされるほど、力が溢れ出てくる。
「死ねっっ!! アザレアァァァァーーーー!!」
ストメリナは両腕を突き出すと、手の先にありったけの魔力を込めた。水色の巨大な玉が現れる。玉からは稲妻のようなオーラが放たれていた。
(私はアザレアを倒し、イルダフネごとブルクハルト王国を滅ぼす……!! そうすれば、お父様は私を見てくださるはず……! いないものとして扱っていたことを謝ってくださるはずよ!)
ストメリナが自分に微笑みかける大公の姿を思い浮かべた、その時だった。
彼女は背中にズンッと重い衝撃を感じた。
「えっ……」
ふと、腹部を見る。
するとそこには深々と氷の槍が突き刺さっていた。
あまりの衝撃的な光景に、ストメリナは固まった。
(なにこれ……どういうこと……!?)
この場にいる人間で、氷の槍が使える人間は自分しかいないはずだ。
エレメンタルマスターに匹敵する能力を持つディルクは最初に倒した。
では、この氷の槍を呼び出したのは誰なのか。
ストメリナは恐る恐る振り向く。
そこには、彼女が愛されたいと願い続けている相手がいた。
「お、お父様……!?」
ストメリナが振り返ると、そこにはなんと大公がいた。
大公が、この氷の槍を呼び出し、突き刺したのだ。
「どうして……?」
(なぜ、どうして、私がお父様から氷の槍で突き刺されなくてはならないの……?)
ストメリナの両目から大粒の涙が溢れ落ちる。
と、同時に、彼女はその場に倒れ込んだ。
「ストメリナ!?」
ストメリナが放っていた魔法が消え、異変に気がついたアザレア達が駆け寄ってくる。
(おのれ……!)
ストメリナは魔法のスペルを唱えようとするも、無理だった。腹部を貫いた氷の槍は急激に体温を奪う。全身ががたがたと震える。出血も相当なもので、白い衣装が瞬く間に赤黒く染まっていく。
(私、まさか……死ぬの……? こんなところで……?)
「お、おとう……さま……助け、て……」
ストメリナは震える手を、大公へ向かって伸ばした。
だが、彼女の手が取られることはなく。
「ふぐっ!!」
大公はストメリナを蹴り上げる。
氷の槍の上部がぽきんと折れ、その上に大公は足を置いた。
(どうして……)
ストメリナを踏みつけ、見下ろす大公の目は、ぞっとするほど冷たいものだった。
「ああっ……! 力が漲ってくる……!!」
朱い魔石の効果は絶大だった。
どれだけ魔法のスペルを唱えても、体内の魔力が尽きることがない。いつもは苦労して呼び出している高位の氷の魔法も楽々発動させることができた。
無数の氷の槍が、矢が、次々にアザレア達へ向かって飛んでいく。
「はははは……! あっはははっ……!!」
多幸感に、笑いが止まらなくなる。
もう巨氷兵も必要ない。
この身さえあれば、自分が忌々しく思うものすべてを滅ぼすことができる。
(アザレア……)
炎の壁の向こう側にいるであろう、女の顔を思い浮かべる。
自分には一切何もしてくれなかった父が、あの女には文鳥を贈り、一流の魔法の教師をつけた。
自分には父との思い出がひとつもない。
だが、あの女には、父から贈り物をされたという事実がある。
(ゆるせない……)
ストメリナは父である大公から、いないものとして扱われてきた。叱られることはあっても、褒められたことはただの一度もない。とうぜん、謝られたことも。
記念式典が始まる前、大公はアザレアに謝罪していた。大公はアザレアのことを自分の娘だと認めていた。
(あんなお父様の声……聞いたことがなかったわ)
心から申し訳なく思っている。そんな声色だった。
認めたくはないが、あんな声、アザレアのことを本気で思っていなければ出せないだろう。
(認めたくない……)
自分が大公から愛されていないのに。
なぜ、なぜ、アザレアばかりが。
「ウバアアアアアア!!!」
心に悲しみが渦巻くほど、憎しみで満たされるほど、力が溢れ出てくる。
「死ねっっ!! アザレアァァァァーーーー!!」
ストメリナは両腕を突き出すと、手の先にありったけの魔力を込めた。水色の巨大な玉が現れる。玉からは稲妻のようなオーラが放たれていた。
(私はアザレアを倒し、イルダフネごとブルクハルト王国を滅ぼす……!! そうすれば、お父様は私を見てくださるはず……! いないものとして扱っていたことを謝ってくださるはずよ!)
ストメリナが自分に微笑みかける大公の姿を思い浮かべた、その時だった。
彼女は背中にズンッと重い衝撃を感じた。
「えっ……」
ふと、腹部を見る。
するとそこには深々と氷の槍が突き刺さっていた。
あまりの衝撃的な光景に、ストメリナは固まった。
(なにこれ……どういうこと……!?)
この場にいる人間で、氷の槍が使える人間は自分しかいないはずだ。
エレメンタルマスターに匹敵する能力を持つディルクは最初に倒した。
では、この氷の槍を呼び出したのは誰なのか。
ストメリナは恐る恐る振り向く。
そこには、彼女が愛されたいと願い続けている相手がいた。
「お、お父様……!?」
ストメリナが振り返ると、そこにはなんと大公がいた。
大公が、この氷の槍を呼び出し、突き刺したのだ。
「どうして……?」
(なぜ、どうして、私がお父様から氷の槍で突き刺されなくてはならないの……?)
ストメリナの両目から大粒の涙が溢れ落ちる。
と、同時に、彼女はその場に倒れ込んだ。
「ストメリナ!?」
ストメリナが放っていた魔法が消え、異変に気がついたアザレア達が駆け寄ってくる。
(おのれ……!)
ストメリナは魔法のスペルを唱えようとするも、無理だった。腹部を貫いた氷の槍は急激に体温を奪う。全身ががたがたと震える。出血も相当なもので、白い衣装が瞬く間に赤黒く染まっていく。
(私、まさか……死ぬの……? こんなところで……?)
「お、おとう……さま……助け、て……」
ストメリナは震える手を、大公へ向かって伸ばした。
だが、彼女の手が取られることはなく。
「ふぐっ!!」
大公はストメリナを蹴り上げる。
氷の槍の上部がぽきんと折れ、その上に大公は足を置いた。
(どうして……)
ストメリナを踏みつけ、見下ろす大公の目は、ぞっとするほど冷たいものだった。
75
あなたにおすすめの小説
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
婚約破棄された氷の令嬢 ~偽りの聖女を暴き、炎の公爵エクウスに溺愛される~
ふわふわ
恋愛
侯爵令嬢アイシス・ヴァレンティンは、王太子レグナムの婚約者として厳しい妃教育に耐えてきた。しかし、王宮パーティーで突然婚約破棄を宣告される。理由は、レグナムの幼馴染で「聖女」と称されるエマが「アイシスにいじめられた」という濡れ衣。実際はすべてエマの策略だった。
絶望の底で、アイシスは前世の記憶を思い出す――この世界は乙女ゲームで、自分は「悪役令嬢」として破滅する運命だった。覚醒した氷魔法の力と前世知識を武器に、辺境のフロスト領へ追放されたアイシスは、自立の道を選ぶ。そこで出会ったのは、冷徹で「炎の公爵」と恐れられるエクウス・ドラゴン。彼はアイシスの魔法に興味を持ち、政略結婚を提案するが、実は一目惚れで彼女を溺愛し始める。
アイシスは氷魔法で領地を繁栄させ、騎士ルークスと魔導師セナの忠誠を得ながら、逆ハーレム的な甘い日常を過ごす。一方、王都ではエマの偽聖女の力が暴かれ、レグナムは後悔の涙を流す。最終決戦で、アイシスとエクウスの「氷炎魔法」が王国軍を撃破。偽りの聖女は転落し、王国は変わる。
**氷の令嬢は、炎の公爵に溺愛され、運命を逆転させる**。
婚約破棄の屈辱から始まる、爽快ザマアと胸キュン溺愛の物語。
これで、私も自由になれます
たくわん
恋愛
社交界で「地味で会話がつまらない」と評判のエリザベート・フォン・リヒテンシュタイン。婚約者である公爵家の長男アレクサンダーから、舞踏会の場で突然婚約破棄を告げられる。理由は「華やかで魅力的な」子爵令嬢ソフィアとの恋。エリザベートは静かに受け入れ、社交界の噂話の的になる。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる