七年越しに叶った初恋は、蜂蜜のように甘い。

野地マルテ

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何故こんなことに

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 ──熱い……

 身体の中心から、何かどろどろと熱いものが込み上げてくる。みじろぎすると、パリッとした布地が肌に触れ、その感触にびくりと身体が跳ねた。

 はっと目を開ける。私はどうも寝ていたらしい。起きあがろうとしたが、重だるくて上体をあげることすら出来なかった。

 ──何これ……

 あまりにも身体が熱くてすぐに気がつかなかったが、私は何も身につけていなかった。何だか股のあたりが落ち着かなくて脚を擦り合わせると、くちゅりと水音がする。何故か脚の間が粗相をしたようにぐっしょり濡れていた。

 四角いベッドがあるだけの簡素な部屋。壁は灰色で天井は白い。長方形の窓が半分開けられていて、そこから風が入り、むきだしの肌に当たるたびにぞわぞわとした刺激が走る。刺激を感じるたびにお腹にぐっと力が入り、月の障りの時のように、秘部の隙間からなにやら漏れ出るものを感じた。

 私はアセルと食事をしていたはず。
 お気に入りの若草色のドレスを着て、屋敷の近くにある自然派レストランでランチを楽しんでいた。

 それがどうして、私は裸でベッドの上に転がされているのか。
 飾り気のない白い天井を見上げ、回らない頭で懸命に今の状況を理解しようとするも、吐きだす息は荒く、肌は敏感になっていてちょっとした事でも変な声が出そうになる。
 全身が落ち着かなくて、むずむずして──自分の身体にただならぬことが起きていることだけはすぐに認識できた。

 ──アセルに事情を聞かなきゃ

 先ほどからシャワーのような水音が聞こえる。おそらく浴びている人間はアセルだろう。彼はどうしてこんな、いきなり人を襲うような真似をしているのか。

 口のなかに蜂蜜のような濃厚な甘味を感じる。
 私は寝ている間に媚薬の類を飲まされたのかもしれない。購読している俗本に、媚薬は不自然な甘味がつけられたものが多いから気をつけるようにと書かれてあったのを、ふと思い出した。

 恐怖よりも先に怒りが沸いてきた。もっと普通に口説いて、同意を得てからこういうことをすればいいのに。
 なぜアセルはいきなり私のドレスを脱がしているのか。

 食事か、飲み物にも何か入れられていたのかもしれない。記憶が確かなら、私はとつぜん気を失ったはずだ。
 そう、アセルからプロポーズされた直後に。




 ◆




「……アセル、これは一体どういうことなの?」

 腰に大判タオル一枚を巻いて、シャワールームから出てきたアセルをじろりと睨む。自分ばかり身体を隠すものを持っていてズルい。こっちはベッドの上に掛布団の一つもなく、身体を隠すことが出来ないというのに。

 男に裸を見られるのはものすごく恥ずかしかったが、下手に手で隠そうとすると相手を煽ることになる。キッとアセルを睨んで恥ずかしさを我慢した。

 私が怒っている様子を見、アセルは明らかに瞳を揺らしていた。
 そして彼はその場に蹲り、額を床に着けたのだった。

「フラウ、頼む! 今から俺と既成事実を作ってくれないか?」
「……嫌だと言ったら?」
「悪いけど、無理やりヤラせてもらう」
「む、無理やり?」

 今にも襲いかかってきそうなほど、興奮している様子のアセルをなんとか宥め、事情を聞いてみると、どうも彼は私の父に『お嬢さんをください』をしてスッパリ断られたらしい。

「お館様は、俺たちの歳が離れているから結婚を了承出来ないと言うんだ。恋人として付き合っていて、すでに既成事実もあるなら許すと言って……」
「なら、先に恋人同士になればいいじゃないの!」
「フラウに告白して断られたら? 俺は君の兄の連れでしかないんだぞ? 下手したらずっと避けられてしまうじゃないか!」

 アセルも私と似たような事に悩んでいた。愛の告白を断られたら、避けられてしまうかもしれないと悩んでいたのだ。
 出会って七年。関係を壊したくないと思うには、充分すぎる付き合いの長さだ。
 だからと言って、いきなり既成事実を作ろうとするのは性急すぎると思うが。

「しかも俺は十歳の君に一目惚れしている。少女趣味ロリコンだと思われて、嫌われたら……俺は生きていけない」
「嫌わないわ。だって歳の差は仕方ないじゃない」
「フラウディナ……」
「私も、あなたに気持ちを伝えたら、避けられてしまうんじゃないかって怖かったわ。だって、私もあなたが好きだもの!」

 何やら怪しげな薬を飲まされ、知らない部屋で裸で転がされていても、怒りは沸いても恐怖を感じない程度には、私はアセルを信用しているし、愛していた。
 ……それにまあ、私は十代とはいえもうとっくに成人していた。この国の成人は十六歳。私がアセルと二人きりで食事に行くことを承諾した時点で、これは自己責任なのだ。

「そうか。俺たちの気持ちは同じ……。じゃあ、結婚もしてくれる?」
「ええ。……王宮で侍女をやれなくなっちゃうのは残念だけど、仕方がないわ」
「王宮で侍女なんかやったらダメだ。フラウは可愛いからすぐにお手付きになってしまうよ」

 お互い裸で、ベッドの上で並んで座りながら苦笑いしあう。
 犯されかけたというのに、なんとも和やかな雰囲気になったが、私の身体は依然、興奮したままだ。
 ふと視線を下へおろすと、ささやかな膨らみがあるだけの胸の先端はピンと勃ちあがっているし、股の間にある小さな突起はぷっくり紅く色づいている。
 秘部からとめどなく流れる愛液でシーツには染みが出来、何だか独特な匂いまでしていた。

 ──これ、どうするのよ……。

 アセルが早々にシャワールームから戻って来なかったら、私はおそらく自分のどろどろに蕩けた秘部に指を挿れ、胸の尖りをつまんでいたかもしれない。
 はしたないところを見られたくなくて、私はギリギリのところを耐えたのだ。

「アセル、私に変なものを飲ませたでしょう?」
「わかった? うちのお抱え薬師が作った秘伝の媚薬と……睡眠薬を少々。媚薬を飲むとはじめてでも快楽を感じるらしいよ? せめてフラウには気持ちよくなって貰いたいと思って……」
「そこはテクニックで何とかしましょうよ」
「俺は五十代の閨女から指導を受けただけだからなぁ……。自信がなくて。何せ閨女相手ではうんともすんとも勃たなかったからな」
「ね、閨女って。アセルはモテるでしょう? 誰かと付き合えば良かったのに……」
「……忙しかったんだよ。それに余暇はぜんぶフラウのために使いたかった。フラウ以外の女性に興味はないよ」
「あっ」

 するりと背面に腕を回されて、肩を抱かれる。手の大きさ。石鹸の香りと触れ合った肌の温かさ。そして鍛えあげられた無駄のない身体に胸がどくりと跳ねた。熱を帯びた青い瞳が私を射抜く。

「絶対にフラウと結婚したい。君をかならず幸せにするから、俺に身体をゆだねてくれないか?」
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