忘却の魔王と契約書 ~古文書館の真実探求者~

宵町あかり

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第8話 古文書館連盟と記憶解放作戦

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夜明けの光が古文書館を照らす中、数十人の記録保全局構成員が建物を完全に包囲していた。

 朝の冷たい空気に、魔法的な緊張感が漂っている。黒いローブを纏った人影が規則正しく配置され、その整然とした動きはまるで軍隊のようだった。古文書館の石造りの壁は、朝日を受けて金色に輝いているが、その美しさとは対照的に、包囲網は死の静寂を保っている。

「他館との連絡は既に取れている」オルドスが緊迫した声で言う。「合流地点まで移動する必要がある」

 館長としての威厳を保ちながらも、その瞳には深い危機感が宿っていた。内心では、長年守り続けてきた古文書館を手放すことへの葛藤と、より大きな真実のための戦いへの決意が交錯していた。

 セレスティアが複数の契約書を広げている。羊皮紙が机の上に扇状に並べられ、それぞれに複雑な魔法陣が描かれている。

「大規模転移契約を準備しますが、全員同時では魔力が足りません」

 彼女の声は冷静だったが、額には汗が浮かんでいる。内心では、回復しきっていない力の限界を感じながらも、仲間を守り抜く責任の重さを痛感していた。

「私が正面から突撃して注意を引きます」エリナが剣に手をかける。

「危険すぎます」レトが慌てて止める。「もっと安全な方法を......」

 眼鏡を押し上げる彼の手が微かに震えている。内心では、論理的な解決策を見つけられない自分への苛立ちと、仲間を失う恐怖が込み上げていた。

「分散転移契約があります」セレスティアが別の契約書を取り出した。「時間差で脱出可能ですが、準備に時間が必要です」

 その間にも、記録保全局の魔法攻撃が古文書館の結界を削っていく。青白い光の槍が結界に衝突し、火花を散らす。結界が軋む音が建物全体に響いた。

「古文書保護結界!」

 セレスティアが館内の重要資料を魔法的に保護する。金色の光が書架を包み込み、まるで薄い繭のように書物を守っていく。続けて別の契約を発動した。

「記憶保全契約!」

 建物自体に真実の記録が刻まれていく。たとえ建物が破壊されても、記憶は残り続ける。内心では、契約魔王としての使命を果たす喜びと、古文書館との別れの悲しみが交錯していた。

「緊急避難契約!」

 複数の転移点が同時に生成される。空間が歪み、淡い光の輪が床に浮かび上がった。

「一人ずつ転移します。私が最後に」オルドスが指示を出す。

 レト、エリナ、リリアナ、そしてセレスティアの順番で転移していく。オルドスが最後の仕事を完了させた。

「館長として、最後まで古文書館を守った。合流地点は『聖者の森の遺跡』だ」

 全員の脱出が完了した瞬間、古文書館は記録保全局に制圧された。

「これで後戻りはできない」オルドスがつぶやく。「真実のために戦うしかない」

◆◇◆

 聖者の森の古い遺跡に到着すると、既に他の古文書館の館長たちが集結していた。

 巨大な樹木に囲まれた遺跡は、苔むした石造りの構造物が点在し、太古の威厳を保っている。朝の光が木々の間から差し込み、緑の葉を通過した光が幻想的な模様を地面に描いていた。空気は湿り気を帯び、土と苔の匂いが鼻をくすぐった。

「オルドス!」

 屈強な体格の中年男性が手を上げる。北部古文書館のマーカス館長だった。

「皆、よく集まってくれた」

 オルドスが紹介する。内心では、同志たちとの再会への安堵と、これから始まる困難な戦いへの緊張が入り混じっていた。

「西部のイザベラ館長、南部のガレス館長、東部のセシリア館長だ」

 イザベラは高位魔法使いの風格を持つ女性で、紫のローブが優雅に揺れている。ガレスは王室と距離を置く貴族然とした男性で、端正な顔立ちに憂いを帯びている。セシリアは民間出身らしい親しみやすい女性で、温かな笑みを浮かべていた。

「状況は皆同じです」マーカスが報告する。「記録保全局からの圧力が急激に強まっている」

「300年前から、我々真実を守る学者たちの秘密ネットワークが存在していました」オルドスが説明する。

「記録保全局の動きを監視し、互いに情報を共有してきた」イザベラが続ける。「しかし、今回の事態は予想を超えています」

 彼女の声には、魔法使いとしての洞察力から来る不安が滲んでいた。内心では、300年間守り続けてきた秘密が露見する恐怖と、真実を明かす時が来たという確信が交錯していた。

 各館長が持つ情報が統合されていく。

「北部の軍事記録には、忘却の時代の戦闘痕跡が残っている」マーカス。

「西部には、魔法的記憶操作の詳細術式の記録がある」イザベラ。

「南部では、王室内部の権力構造変化を追跡してきた」ガレス。

「東部には、民間に残る口伝による真実の断片がある」セシリア。

 セレスティアが注目の中心になった。朝の光が彼女の銀髪を照らし、まるで神聖な存在のような輝きを放っている。

「契約魔王の力なしには、記憶操作ネットワークの破壊は不可能です」イザベラが言う。

「民の記憶を本来の状態に戻すには、強力な真実の契約が必要」セシリアが続ける。

「ただし、失敗すれば全員が反逆者として処刑される」ガレスが現実を告げる。

 作戦の概要が固まっていく。王都地下の記憶操作ネットワーク中枢部への同時侵入、各館の専門知識を活かした役割分担、そしてセレスティアの「真実開示契約」による一斉解放。

「困難な作戦ですが」オルドスがまとめる。「これが最後のチャンスです」

◆◇◆

 遺跡の中央、古代の契約魔法陣の上で、セレスティアが真の力を開放する準備を始めた。

 巨大な石の魔法陣は、幾何学的な模様と古代文字で覆われている。セレスティアが中央に立つと、魔法陣が反応して微かな光を放ち始める。周囲の空気が震え、魔力の流れが目に見えるほど濃密になっていく。

「『真実開示契約』の準備には、膨大な魔力が必要です」

 セレスティアの声は静かだが、その重みは全員に伝わった。内心では、この契約が自分の存在意義そのものだという確信と、失敗への恐れが交錯していた。

 セレスティアが重大な提案をする。

「連盟の皆様と契約を結ばせてください。『真実追求同盟契約』により、全員の意志と魔力を統合します」

「ただし、この契約には大きなリスクが伴います」

 契約のリスクが説明される。契約者全員の生命力を共有することになり、一人が倒れれば全員に影響が及ぶ。失敗すれば、全員が記憶を失う可能性もある。

「騎士として、正義のために命を懸ける覚悟はある」マーカスが最初に答えた。

 剣の柄を握りしめ、戦士の誇りを示す。内心では、学者として過ごした後半生よりも、若き日の騎士としての熱い血が蘇っていた。

「魔法使いとして、真実の魔法に人生を捧げよう」イザベラが続く。

「貴族として、民の幸福のために戦う」ガレス。

「学者として、知識の自由を守る」セシリア。

 レトが前に出る。若い学者の顔に、決意が刻まれている。

「僕も契約に参加します。真実探求者として」

 内心では、学問への情熱と、仲間と共に戦う誇りが胸を熱くしていた。

「正義のため、最後まで戦います」エリナが剣を掲げる。

 朝日が剣身に反射し、眩い光を放つ。内心では、騎士見習いとしての未熟さへの不安と、それでも正義を貫く決意が交錯していた。

「王室を裏切った以上、最後まで責任を取ります」リリアナが決意を込める。

 古代魔法陣が光り、8人の意志が一つに統合される。それぞれの魔力が光の糸となって中央のセレスティアに集まっていく。金色、紫色、赤色、緑色、青色——様々な色の光が混ざり合い、純白の輝きとなった。

 セレスティアの魔王としての真の力が完全に覚醒した。

「これで、記憶操作ネットワークを破壊できます」

 その声には、300年間待ち続けた使命を果たす喜びが込められていた。内心では、ついにこの時が来たという感動と、仲間たちへの感謝が溢れていた。

 作戦開始が決定される。明日の夜、王都への同時侵入を決行する。

「300年間の嘘を、今夜で終わらせましょう」

 セレスティアの言葉に、全員が頷いた。

◆◇◆

 聖者の森を出発する8人の同盟軍。しかし、王都上空には不穏な魔法的オーラが立ち込めていた。

 夕暮れの空が血のような赤に染まる中、王都の方角から立ち上る巨大な魔法陣の光が見える。それは、まるで巨大な目のように空を睨みつけ、不気味な脈動を繰り返していた。

「相手も本気です」セレスティアが警告する。「記憶を永久に封印する術式を準備している」

 彼女の顔に、深い憂慮が浮かぶ。内心では、時間との戦いになることへの焦りと、民を救わなければという使命感が交錯していた。

「あれは......『忘却の大魔法陣』」イザベラが青ざめる。

「つまり、明日の夜明けまでに決着をつけなければ......」マーカス。

「民の記憶は永遠に失われる」ガレスが完成させる。

 王都の魔法陣がさらに巨大化していく。赤い光が天を焦がし、まるで第二の太陽のような輝きを放っている。

「でも、僕たちには真実があります」レトが眼鏡を押し上げる。「文献によると、真実は必ず勝利します」

 内心では、理論だけでなく、仲間たちとの絆という真実の力を信じていた。

「正義と仲間たちと共に、最後まで戦います」エリナが力強く言う。

「300年間待ち続けた、この瞬間のために」

 セレスティアの瞳に、契約魔王としての決意が宿っていた。

 8人は手を取り合い、王都へ向けて歩き続ける。それぞれの手から伝わる温もりが、絆の強さを物語っていた。夕闇が深まる中、彼らの影は一つに重なり、まるで運命共同体のように見えた。

 真実と偽りの最終決戦が、いよいよ始まろうとしていた。
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