最弱職【掃除士】が実は環境最強でした ~ダンジョンの浄化で世界を救う~

宵町あかり

文字の大きさ
21 / 60

第21話 特訓の始まり

しおりを挟む
 朝5時。
 ギルドハウスの訓練場に、ひんやりとした朝の空気が満ちていた。翔太は一人、聖剣エクスカリバーを手に立っている。

 ―――『聖浄化・天照』を、もっと制御できるようにならないと。

 新月まであと3日。終焉の使徒第三位ヴァルキリーとの決闘が迫っている。レベル57になったとはいえ、相手は推定レベル65。生半可な力では太刀打ちできない。

「聖浄化……天照!」

 翔太が聖剣を振るうと、金色の光が溢れ出した。太陽のような温かい光が訓練場全体を包み込む。しかし―――

「うっ……!」

 膝が震えた。全身の魔力が一気に吸い取られていくような感覚。額から汗が滴り落ちる。わずか10秒で限界が来た。光が消え、翔太は片膝をついた。

 息が荒い。心臓が激しく鼓動している。この技の消費MPは500。翔太の最大MPは1740あるが、問題は負荷だった。一度に大量の魔力を放出することで、身体に想像以上の負担がかかる。

「まだ……まだ練習が足りない」

 翔太は立ち上がり、深呼吸をした。朝露に濡れた草の匂いが鼻腔をくすぐる。ひんやりとした空気が火照った身体を冷やしてくれた。



 ギルドハウスの地下、薬草工房。
 ローラが真剣な表情で薬草をすり潰していた。石臼がゴリゴリと音を立てる。

 彼女の手元には、数十種類の薬草が並んでいる。清浄草、月光花、聖水晶の粉末……どれも浄化に関連する素材だ。

「もう少し……もう少しで完成するはず」

 ローラの瞳に決意の光が宿っていた。

 彼女には忘れられない記憶がある。8歳の時、瘴気の大発生で両親を失った。薬師だった父は最後まで治療薬を作ろうとしていたが、間に合わなかった。母は瘴気に侵された父を最後まで看病し、共に逝った。

 ―――もう、誰も失いたくない。

 ローラは新しい薬の開発に没頭していた。名付けて『清浄の霊薬』。浄化力を一時的に高める特殊な薬だ。

「清浄草のエキスを3滴……月光花の花粉をひとつまみ……」

 ガラスのフラスコの中で、透明な液体がゆっくりと色を変えていく。最初は無色だったものが、薄い金色に、そして輝くような黄金色へ。

 薬草の爽やかな香りが工房に広がった。ミントに似た清涼感のある香りに、ほのかな花の甘さが混じる。

「最後に……聖水晶の粉末を」

 ローラが慎重に粉末を加えると、液体が一瞬、太陽のように輝いた。

「できた……!」

 完成した薬を小瓶に移し、ローラは慎重に一滴だけ舌に乗せた。

 瞬間、身体中に温かい力が広がった。魔力が活性化し、浄化の力が高まっているのを感じる。効果は確かにある。ただし―――

「うっ……」

 30分後、急激な脱力感が襲った。一時的に力を高める代償として、使用後は疲労が残る。それでも、決戦では必ず役に立つはずだ。

「翔太さんに……これを」

 ローラは完成した霊薬を大切に抱えた。琥珀色の瞳に、強い決意が宿っていた。



 鍛冶場では、マルコが聖剣エクスカリバーの調整をしていた。

「ふむ……この剣、確実に成長している」

 マルコの職人としての勘が告げていた。聖剣は使い手と共に成長する―――それが彼の哲学だ。

 ハンマーで軽く剣身を叩くと、澄んだ音が響いた。その音色は以前より高く、より美しい。剣自体が翔太の成長に呼応して変化している。

「おや……?」

 剣身に新たな紋様が浮かび上がっていた。太陽を模したような複雑な文様。それは『聖浄化・天照』を使うたびに、少しずつ刻まれていったものらしい。

「これは……まだ完全に覚醒していない」

 マルコは確信した。聖剣エクスカリバーには、まだ隠された力がある。それが完全に目覚めた時、翔太の力は飛躍的に高まるだろう。

 鍛冶師として30年。数多くの武器を見てきたマルコだが、これほど特別な剣は初めてだった。

「武器は使い手と共に成長する……翔太殿、あなたと共にこの剣も進化していく」

 マルコは丁寧に剣を磨き上げた。炉の熱気が顔を照らす中、汗を拭いながら作業を続ける。聖剣の輝きが、さらに増していった。



 午後、ギルドメンバー全員が訓練場に集まった。

「3つのチームに分かれて、連携訓練を行います」と翔太が説明した。

 **Aチーム**は翔太、ミーナ、カール。攻撃に特化したチームだ。

「ミーナの魔法で敵を牽制し、カールが突撃、俺が浄化で止めを刺す」

 3人の連携は見事だった。ミーナの火球が敵の動きを制限し、カールの剣技が防御を崩し、翔太の浄化が決定打となる。

 **Bチーム**はリク、アンナ、グスタフ、シン。支援と防御のスペシャリストたち。

「リクの知識で敵の弱点を見抜き、アンナとグスタフが補助、シンが機動力で撹乱する」

 リクがすっかり成長していた。以前は怯えていた少年が、今では的確な指示を出している。レベルも14に上がり、自信もついてきた。

 **Cチーム**はゲオルグ、クララ、トーマス、ソフィア。情報収集と回復支援の要。

「ゲオルグの結界で守りを固め、クララが回復、トーマスとソフィアが情報分析」

 それぞれのチームが、その特色を活かした戦術を磨いていった。



 夕方、ソフィアが青ざめた顔で翔太のもとへ駆け寄ってきた。

「翔太様……ヴァルキリーについて、新しい情報が」

 彼女が解読した古文書には、驚くべき内容が記されていた。

「終焉の使徒第三位ヴァルキリー……元は王国最強の女騎士」

 ゲオルグが息を呑んだ。

「まさか……あのヴァルキリーが」

 10年前、彼女は王国の英雄だった。正義感が強く、民を守るためなら命も惜しまない。そんな騎士だった。

「推定レベル65……称号は『戦乙女』」

 ソフィアが続ける。

「10年前に突然失踪し、その後終焉の使徒として現れたと」

 なぜ彼女が終焉の使徒になったのか。正義感が強すぎるが故の悲劇があったのか。

「彼女の武器は『戦乙女の槍』……聖属性と闇属性、両方を操る」

 翔太は拳を握りしめた。強敵だ。しかし―――

「彼女にも、何か事情があるはず」



 夕食時、アンナの手作りシチューの香りが食堂に広がった。

 野菜と肉がたっぷり入った温かいシチュー。パンを浸して食べると、疲れた身体に染み渡る。

「美味しい!」とクララが笑顔を見せた。

「リク、すごく成長したね」とミーナが優しく言った。

「皆さんのおかげです」

 リクが照れながら答える。彼の成長を、全員が認めていた。

「なんだか……家族みたいだ」

 クララの一言に、皆が温かい笑顔を浮かべた。

 グスタフが咳払いをして立ち上がった。

「ヴァルキリーとの決闘……必ず勝ちましょう」

「そうだ!」とカールが力強く頷いた。

「皆で力を合わせれば」とアンナ。

「きっと勝てる」とシン。

 一人一人が、決意を新たにしていった。



 夜、翔太は一人屋上で月を見上げていた。

 新月まであと2日。月はすでにかなり欠けていて、細い三日月になっている。

 風が吹いた。夜の冷たい風が頬を撫でる。

「ヴァルキリー……なぜ終焉の使徒に」

 正義の騎士が、なぜ世界を終わらせようとする側に回ったのか。その理由を知りたかった。

 そして、できることなら―――

「説得できないだろうか」

 甘い考えかもしれない。でも、翔太は信じたかった。浄化の力は、破壊ではなく救済の力だと。

 聖剣エクスカリバーが、月光を受けてかすかに輝いた。まるで翔太の決意に応えるように。

「必ず……皆を守る」

 翔太は決意を新たに、夜空を見上げた。

 新月の夜、何が起こるのか。それはまだ、誰にも分からない。

━━━━━━━━━━━━━━━
【翔太】
 職業:掃除士
 レベル:57
 HP:1,200 / 1,200
 MP:1,740 / 1,740
 
 スキル:
 ・浄化 Lv.15
 ・聖浄化 Lv.3
 ・浄化領域展開 Lv.4
 ・聖浄化・極光
 ・聖浄化・完全解放
 ・聖浄化・天照
 ・聖浄化・連撃(NEW)
 ・聖浄化・断(NEW)
 ・鑑定 Lv.5
 ・収納 Lv.5
 ・剣術 Lv.5
━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━
【浄化士ギルド・メンバー】
 
 リク(従者)Lv.14
 アンナ(家政術師)Lv.12
 グスタフ(施設管理士)Lv.16
 ミーナ(元素魔術師)Lv.21
 カール(元騎士)Lv.25
 シン(獣人族)Lv.12
 ゲオルグ(元宮廷魔術師)Lv.27
 クララ(司祭見習い)Lv.10
 トーマス(会計士)Lv.13
 ローラ(薬師)Lv.14
 マルコ(鍛冶師)Lv.16
 ソフィア(書記官)Lv.9
━━━━━━━━━━━━━━━
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!

たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。 新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。 ※※※※※ 1億年の試練。 そして、神をもしのぐ力。 それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。 すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。 だが、もはや生きることに飽きていた。 『違う選択肢もあるぞ?』 創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、 その“策略”にまんまと引っかかる。 ――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。 確かに神は嘘をついていない。 けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!! そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、 神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。 記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。 それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。 だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。 くどいようだが、俺の望みはスローライフ。 ……のはずだったのに。 呪いのような“女難の相”が炸裂し、 気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。 どうしてこうなった!?

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

ホームレスは転生したら7歳児!?気弱でコミュ障だった僕が、気づいたら異種族の王になっていました

たぬきち
ファンタジー
1部が12/6に完結して、2部に入ります。 「俺だけ不幸なこんな世界…認めない…認めないぞ!!」 どこにでもいる、さえないおじさん。特技なし。彼女いない。仕事ない。お金ない。外見も悪い。頭もよくない。とにかくなんにもない。そんな主人公、アレン・ロザークが死の間際に涙ながらに訴えたのが人生のやりなおしー。 彼は30年という短い生涯を閉じると、記憶を引き継いだままその意識は幼少期へ飛ばされた。 幼少期に戻ったアレンは前世の記憶と、飼い猫と喋れるオリジナルスキルを頼りに、不都合な未来、出来事を改変していく。 記憶にない事象、改変後に新たに発生したトラブルと戦いながら、2度目の人生での仲間らとアレンは新たな人生を歩んでいく。 新しい世界では『魔宝殿』と呼ばれるダンジョンがあり、前世の世界ではいなかった魔獣、魔族、亜人などが存在し、ただの日雇い店員だった前世とは違い、ダンジョンへ仲間たちと挑んでいきます。 この物語は、記憶を引き継ぎ幼少期にタイムリープした主人公アレンが、自分の人生を都合のいい方へ改変しながら、最低最悪な未来を避け、全く新しい人生を手に入れていきます。 主人公最強系の魔法やスキルはありません。あくまでも前世の記憶と経験を頼りにアレンにとって都合のいい人生を手に入れる物語です。 ※ ネタバレのため、2部が完結したらまた少し書きます。タイトルも2部の始まりに合わせて変えました。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々
ファンタジー
ソドムの少年から平安武士、さらに日本兵から二十一世紀の男子高校生へ。 一つ一つの人生は短かった。 しかし幸か不幸か、今まで自分がどんな人生を歩んできたのかは覚えている。 だからこそ今度こそは長生きして、生きている実感と、生きる希望を持ちたい。 そんな想いを胸に、青年は五度目の命にして今までの四回とは別の世界に転生した。 早死にの男が、今まで死んできた世界とは違う場所で、今度こそ生き方を見つける物語。 本作は、「小説家になろう」、「カクヨム」、にも投稿しております。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

処理中です...