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第22話 決闘前夜
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夜明け前の薄暗い時間。
翔太は夢を見ていた。
広大な荒野に一人立つ翔太の前に、黒い鎧を纏った女騎士が立っている。ヴァルキリー―――その瞳は、深い悲しみに満ちていた。
「なぜ……」
彼女の声が風に乗って届く。
「なぜ私と戦わねばならないのか。私は、ただこの歪んだ世界を正したいだけなのに」
黒い鎧の隙間から、涙が一筋流れ落ちた。それは血のように赤く、地面に落ちると黒い花が咲いた。
「お前も、いずれ分かる。この世界のシステムがいかに残酷か」
ヴァルキリーが槍を構えた瞬間―――
翔太は目を覚ました。
額に汗が滲んでいる。心臓が早鐘のように打っていた。窓の外はまだ暗く、星がかすかに瞬いている。
夢の中のヴァルキリーの瞳が、脳裏に焼き付いて離れない。あれは本当に敵なのか。それとも―――
「救えるかもしれない……人なのか」
翔太は上体を起こし、聖剣エクスカリバーを見つめた。剣は静かに、しかし確かな輝きを放っている。
◆
朝食の席で、ゲオルグが重い口を開いた。
「ヴァルキリーについて、話しておくべきことがある」
食堂の空気が引き締まった。スープを飲む手を止め、全員がゲオルグに注目する。
「10年前、彼女はまさに正義の化身だった」
ゲオルグの声には、かすかな哀愁が滲んでいた。
「民を守るためなら、自分の命すら惜しまない。どんな危険な任務でも、真っ先に志願する。そんな騎士だった」
窓から差し込む朝日が、テーブルの上の食器を照らす。パンの焼ける香ばしい匂いが漂う中、重い話が続いた。
「しかし、彼女は完璧すぎた。正義に執着しすぎた」
ゲオルグは目を閉じた。
「ある村で、瘴気の大発生が起きた。彼女は単身で村に向かったが……間に合わなかった」
千人の村人が、全員瘴気に侵されて死んだ。ヴァルキリーが到着した時には、もう手遅れだった。
「彼女は三日三晩、死者を弔い続けた。そして―――」
ゲオルグが深いため息をついた。
「『この世界のシステムが間違っている』と、そう呟いたと聞いている」
食堂に沈黙が流れた。朝の爽やかな空気が、急に重くなったように感じられる。
◆
―――10年前、ヴァルキリーの回想。
燃え盛る村を前に、若き女騎士は立ち尽くしていた。
金色の長い髪が、煤で汚れている。純白だった鎧も、血と泥にまみれていた。
「なぜ……なぜ間に合わなかった」
彼女の足元には、幼い子供の亡骸があった。まだ5歳にもならないだろう少女。瘴気に侵され、苦しみながら死んでいった。
ヴァルキリーは膝をつき、少女の瞼を閉じてやった。
「私は……最強の騎士のはずだった。誰よりも強く、誰よりも正しく……」
涙が頬を伝う。それは悔恨の涙だった。
「でも、強さだけでは救えない。正義だけでは、守れない」
村の広場には、千体の遺体が並んでいた。老人も、若者も、子供も。皆、瘴気という理不尽な災厄に命を奪われた。
「この世界は……狂っている」
ヴァルキリーの心に、黒い感情が芽生えた。
「一度、すべてをリセットすべきだ。この歪んだシステムごと、世界を作り直さなければ」
その時、彼女の前に黒いローブの人物が現れた。
「その願い、我々が叶えよう」
終焉の使徒―――世界の破壊と再生を目論む組織。
ヴァルキリーは、ゆっくりと立ち上がった。瞳から光が消え、代わりに冷たい決意が宿る。
「ええ……この腐った世界を、終わらせましょう」
◆
現在、ギルドハウスの会議室。
全員が集まり、最終的な作戦会議が行われていた。
「決闘場所は、王都外壁の古戦場です」とソフィアが地図を広げた。
古戦場は、かつて大きな戦いがあった場所。今は草原になっているが、所々に戦いの痕跡が残っている。
「ヴァルキリーの戦闘スタイルは、槍術と聖魔法の融合」
ゲオルグが説明を続ける。
「特に『戦乙女の加護』という技は要注意だ。一定時間、あらゆる防御を無効化する」
トーマスが計算していた帳簿から顔を上げた。
「勝率は……正直、3割程度でしょう」
重い空気が流れる。しかし―――
「でも、俺たちなら」とカールが拳を握った。
「皆で力を合わせれば」とミーナ。
「きっと道は開ける」とクララ。
希望を捨てていない。それが、このギルドの強さだった。
「支援チームは、古戦場の周囲に配置します」
リクが作戦図を指し示す。レベル14になった彼は、もう怯えた少年ではない。
「万が一の時は、この撤退ルートを使います」
アンナが医療品の確認をしていた。包帯、薬草、回復薬。あらゆる事態に備えている。
その時、ローラが立ち上がった。
「翔太さん、これを」
彼女が差し出したのは、黄金色に輝く小瓶だった。
「清浄の霊薬です。浄化力を一時的に3倍に高めます」
翔太は驚いた。3倍―――それは途方もない数字だ。
「ただし、効果は30分。その後は激しい疲労に襲われます」
ローラの琥珀色の瞳が、真剣に翔太を見つめていた。
「最後の切り札として……必ず生きて帰ってきてください」
◆
午後、翔太は一人一人と話をして回った。
訓練場でリクと向き合う。
「翔太さん」
リクの瞳には、もう迷いはなかった。
「僕、翔太さんについていきます。どこまでも」
かつて盗賊に襲われ、瘴気に侵されかけた少年。翔太に救われ、ここまで成長した。
「ありがとう、リク。お前がいてくれて、本当に良かった」
二人は固い握手を交わした。
厨房では、アンナが夕食の準備をしていた。
「翔太様」
彼女は手を止めずに言った。
「必ず、皆で夕食を囲みましょう。明日も、明後日も、ずっと」
包丁がトントンと野菜を刻む音が心地良い。ニンジンとジャガイモの匂いが漂う。
「ああ、約束する」
中庭では、ミーナが魔法の練習をしていた。
「翔太」
彼女は振り返ると、優しく微笑んだ。
「私たちは家族です。家族は、どんな時も一緒」
火の魔法で小さな花火を作り、空に打ち上げる。オレンジ色の光が、昼の空に小さく輝いた。
鍛冶場では、カールが剣を研いでいた。
「騎士として、最後まで戦い抜く」
彼の声は力強かった。研ぎ石が剣を滑る音が、規則正しく響く。
「それが、俺の誇りだ」
図書室では、ソフィアがまだ資料を調べていた。
「データ分析は完璧です。勝率は低くても、可能性はゼロじゃない」
彼女の指が素早くページをめくる。インクの匂いが鼻をくすぐった。
工房では、マルコが最後の調整をしていた。
「聖剣は必ず応えてくれる。信じなさい」
ハンマーが金床を打つ音が、力強く響いた。
そして礼拝堂では、クララが祈りを捧げていた。
「皆の無事を……ずっと祈っています」
ステンドグラスから差し込む光が、七色に輝いていた。
最後に、グスタフの部屋を訪れた。
「このギルドハウスは、私が守ります」
老執事は静かに、しかし力強く言った。
「だから安心して、戦ってきてください」
◆
夕方、意外な来訪者があった。
王城からの使者―――それも密使だった。
「翔太様に、エリーゼ様からのお手紙です」
手渡された封筒には、王家の紋章が押されていた。封蝋の匂いが鼻をついた。
翔太が手紙を開くと、エリーゼの優雅な文字が並んでいた。
『翔太様へ
ヴァルキリーとの決闘の件、父上も承知しております。
国は表立って動けませんが、心は共にあります。
同封の護符を身に着けてください。
王家に伝わる守護の力が宿っています。
必ず、生きて戻ってきてください。
あなたを信じています。
第三王女 エリーゼ』
封筒の中には、青い宝石のついた護符が入っていた。触れると、温かい力を感じる。
「お返事は……」と使者が尋ねた。
「伝えてください」
翔太は真っ直ぐ使者を見つめた。
「必ず勝って、戻ってきます、と」
使者は深く頭を下げ、足早に去っていった。
翔太は護符を握りしめた。エリーゼの想いが、掌を通じて伝わってくるようだった。
空を見上げると、夕焼けが美しく広がっている。オレンジと紫のグラデーションが、まるで絵画のようだ。
「王国騎士団も、万が一の時は動いてくれる……」
それは心強い後ろ盾だった。しかし、翔太は自分の力で勝ちたかった。ヴァルキリーと正面から向き合い、彼女の心に触れたかった。
◆
夜、ギルドハウスの礼拝堂に全員が集まった。
クララが前に立ち、静かに祈りの言葉を紡ぐ。
「偉大なる神よ、明日戦いに臨む我らに、勇気と知恵を授けたまえ」
蝋燭の炎が揺らめき、影が壁に踊る。香の匂いが礼拝堂を満たしていた。
全員が目を閉じ、黙祷を捧げた。
それぞれが、それぞれの想いを胸に祈る。家族のこと、仲間のこと、未来のこと。
「明日も……皆で笑い合えますように」
クララの言葉に、全員が心の中で頷いた。
礼拝堂を出ると、月のない夜空が広がっていた。新月前夜―――星だけが冷たく輝いている。
オリオン座、北斗七星、カシオペア座。無数の星が、まるで見守るように瞬いていた。
「明日か……」とゲオルグが呟いた。
「ああ」と翔太が答える。
風が吹いた。夜の冷たい風が、緊張で火照った頬を冷やす。
一人、また一人と、それぞれの部屋へ戻っていく。足音が廊下に響き、やがて静寂が訪れた。
◆
深夜、翔太は自室で聖剣エクスカリバーを見つめていた。
剣は月光を受けて、神秘的な輝きを放っている。新たに浮かび上がった太陽の紋様が、まるで脈動するように光っていた。
「ヴァルキリー……」
翔太は静かに呟いた。
「あなたも、きっと苦しんでいる」
正義感が強すぎるが故に、世界の理不尽さに絶望した女騎士。彼女の心の闇を、浄化することはできるだろうか。
「いや、できる」
翔太は決意を新たにした。
「俺の浄化は、ただ汚れを取り除くだけじゃない。心の傷も、悲しみも、絶望も……すべてを清らかにする力だ」
聖剣を鞘に収め、枕元に置く。
護符を首にかけ、清浄の霊薬を懐に忍ばせた。
「ヴァルキリー、あなたを救いたい」
それは甘い考えかもしれない。相手は終焉の使徒第三位。話し合いで解決できる相手ではないかもしれない。
でも―――
「それでも、試してみる価値はある」
窓の外を見ると、東の空がかすかに白み始めていた。夜明けが近い。
新月の夜―――決闘の時は迫る。
ギルドハウスは静寂に包まれていた。皆、それぞれの部屋で眠りについているか、あるいは眠れずに天井を見つめているか。
明日、何が起きるのか。
それは、神のみぞ知る。
翔太は目を閉じた。
夢の中で、また会うかもしれない。悲しみに満ちた瞳の女騎士と。
その時は―――
きっと、違う未来を見せてあげたい。
━━━━━━━━━━━━━━━
【翔太】
職業:掃除士
レベル:57
HP:1,200 / 1,200
MP:1,740 / 1,740
スキル:
・浄化 Lv.15
・聖浄化 Lv.3
・浄化領域展開 Lv.4
・聖浄化・極光
・聖浄化・完全解放
・聖浄化・天照
・聖浄化・連撃
・聖浄化・断
・鑑定 Lv.5
・収納 Lv.5
・剣術 Lv.5
所持品:
・聖剣エクスカリバー(新紋様出現)
・清浄の霊薬×3
・王女の護符(NEW)
━━━━━━━━━━━━━━━
翔太は夢を見ていた。
広大な荒野に一人立つ翔太の前に、黒い鎧を纏った女騎士が立っている。ヴァルキリー―――その瞳は、深い悲しみに満ちていた。
「なぜ……」
彼女の声が風に乗って届く。
「なぜ私と戦わねばならないのか。私は、ただこの歪んだ世界を正したいだけなのに」
黒い鎧の隙間から、涙が一筋流れ落ちた。それは血のように赤く、地面に落ちると黒い花が咲いた。
「お前も、いずれ分かる。この世界のシステムがいかに残酷か」
ヴァルキリーが槍を構えた瞬間―――
翔太は目を覚ました。
額に汗が滲んでいる。心臓が早鐘のように打っていた。窓の外はまだ暗く、星がかすかに瞬いている。
夢の中のヴァルキリーの瞳が、脳裏に焼き付いて離れない。あれは本当に敵なのか。それとも―――
「救えるかもしれない……人なのか」
翔太は上体を起こし、聖剣エクスカリバーを見つめた。剣は静かに、しかし確かな輝きを放っている。
◆
朝食の席で、ゲオルグが重い口を開いた。
「ヴァルキリーについて、話しておくべきことがある」
食堂の空気が引き締まった。スープを飲む手を止め、全員がゲオルグに注目する。
「10年前、彼女はまさに正義の化身だった」
ゲオルグの声には、かすかな哀愁が滲んでいた。
「民を守るためなら、自分の命すら惜しまない。どんな危険な任務でも、真っ先に志願する。そんな騎士だった」
窓から差し込む朝日が、テーブルの上の食器を照らす。パンの焼ける香ばしい匂いが漂う中、重い話が続いた。
「しかし、彼女は完璧すぎた。正義に執着しすぎた」
ゲオルグは目を閉じた。
「ある村で、瘴気の大発生が起きた。彼女は単身で村に向かったが……間に合わなかった」
千人の村人が、全員瘴気に侵されて死んだ。ヴァルキリーが到着した時には、もう手遅れだった。
「彼女は三日三晩、死者を弔い続けた。そして―――」
ゲオルグが深いため息をついた。
「『この世界のシステムが間違っている』と、そう呟いたと聞いている」
食堂に沈黙が流れた。朝の爽やかな空気が、急に重くなったように感じられる。
◆
―――10年前、ヴァルキリーの回想。
燃え盛る村を前に、若き女騎士は立ち尽くしていた。
金色の長い髪が、煤で汚れている。純白だった鎧も、血と泥にまみれていた。
「なぜ……なぜ間に合わなかった」
彼女の足元には、幼い子供の亡骸があった。まだ5歳にもならないだろう少女。瘴気に侵され、苦しみながら死んでいった。
ヴァルキリーは膝をつき、少女の瞼を閉じてやった。
「私は……最強の騎士のはずだった。誰よりも強く、誰よりも正しく……」
涙が頬を伝う。それは悔恨の涙だった。
「でも、強さだけでは救えない。正義だけでは、守れない」
村の広場には、千体の遺体が並んでいた。老人も、若者も、子供も。皆、瘴気という理不尽な災厄に命を奪われた。
「この世界は……狂っている」
ヴァルキリーの心に、黒い感情が芽生えた。
「一度、すべてをリセットすべきだ。この歪んだシステムごと、世界を作り直さなければ」
その時、彼女の前に黒いローブの人物が現れた。
「その願い、我々が叶えよう」
終焉の使徒―――世界の破壊と再生を目論む組織。
ヴァルキリーは、ゆっくりと立ち上がった。瞳から光が消え、代わりに冷たい決意が宿る。
「ええ……この腐った世界を、終わらせましょう」
◆
現在、ギルドハウスの会議室。
全員が集まり、最終的な作戦会議が行われていた。
「決闘場所は、王都外壁の古戦場です」とソフィアが地図を広げた。
古戦場は、かつて大きな戦いがあった場所。今は草原になっているが、所々に戦いの痕跡が残っている。
「ヴァルキリーの戦闘スタイルは、槍術と聖魔法の融合」
ゲオルグが説明を続ける。
「特に『戦乙女の加護』という技は要注意だ。一定時間、あらゆる防御を無効化する」
トーマスが計算していた帳簿から顔を上げた。
「勝率は……正直、3割程度でしょう」
重い空気が流れる。しかし―――
「でも、俺たちなら」とカールが拳を握った。
「皆で力を合わせれば」とミーナ。
「きっと道は開ける」とクララ。
希望を捨てていない。それが、このギルドの強さだった。
「支援チームは、古戦場の周囲に配置します」
リクが作戦図を指し示す。レベル14になった彼は、もう怯えた少年ではない。
「万が一の時は、この撤退ルートを使います」
アンナが医療品の確認をしていた。包帯、薬草、回復薬。あらゆる事態に備えている。
その時、ローラが立ち上がった。
「翔太さん、これを」
彼女が差し出したのは、黄金色に輝く小瓶だった。
「清浄の霊薬です。浄化力を一時的に3倍に高めます」
翔太は驚いた。3倍―――それは途方もない数字だ。
「ただし、効果は30分。その後は激しい疲労に襲われます」
ローラの琥珀色の瞳が、真剣に翔太を見つめていた。
「最後の切り札として……必ず生きて帰ってきてください」
◆
午後、翔太は一人一人と話をして回った。
訓練場でリクと向き合う。
「翔太さん」
リクの瞳には、もう迷いはなかった。
「僕、翔太さんについていきます。どこまでも」
かつて盗賊に襲われ、瘴気に侵されかけた少年。翔太に救われ、ここまで成長した。
「ありがとう、リク。お前がいてくれて、本当に良かった」
二人は固い握手を交わした。
厨房では、アンナが夕食の準備をしていた。
「翔太様」
彼女は手を止めずに言った。
「必ず、皆で夕食を囲みましょう。明日も、明後日も、ずっと」
包丁がトントンと野菜を刻む音が心地良い。ニンジンとジャガイモの匂いが漂う。
「ああ、約束する」
中庭では、ミーナが魔法の練習をしていた。
「翔太」
彼女は振り返ると、優しく微笑んだ。
「私たちは家族です。家族は、どんな時も一緒」
火の魔法で小さな花火を作り、空に打ち上げる。オレンジ色の光が、昼の空に小さく輝いた。
鍛冶場では、カールが剣を研いでいた。
「騎士として、最後まで戦い抜く」
彼の声は力強かった。研ぎ石が剣を滑る音が、規則正しく響く。
「それが、俺の誇りだ」
図書室では、ソフィアがまだ資料を調べていた。
「データ分析は完璧です。勝率は低くても、可能性はゼロじゃない」
彼女の指が素早くページをめくる。インクの匂いが鼻をくすぐった。
工房では、マルコが最後の調整をしていた。
「聖剣は必ず応えてくれる。信じなさい」
ハンマーが金床を打つ音が、力強く響いた。
そして礼拝堂では、クララが祈りを捧げていた。
「皆の無事を……ずっと祈っています」
ステンドグラスから差し込む光が、七色に輝いていた。
最後に、グスタフの部屋を訪れた。
「このギルドハウスは、私が守ります」
老執事は静かに、しかし力強く言った。
「だから安心して、戦ってきてください」
◆
夕方、意外な来訪者があった。
王城からの使者―――それも密使だった。
「翔太様に、エリーゼ様からのお手紙です」
手渡された封筒には、王家の紋章が押されていた。封蝋の匂いが鼻をついた。
翔太が手紙を開くと、エリーゼの優雅な文字が並んでいた。
『翔太様へ
ヴァルキリーとの決闘の件、父上も承知しております。
国は表立って動けませんが、心は共にあります。
同封の護符を身に着けてください。
王家に伝わる守護の力が宿っています。
必ず、生きて戻ってきてください。
あなたを信じています。
第三王女 エリーゼ』
封筒の中には、青い宝石のついた護符が入っていた。触れると、温かい力を感じる。
「お返事は……」と使者が尋ねた。
「伝えてください」
翔太は真っ直ぐ使者を見つめた。
「必ず勝って、戻ってきます、と」
使者は深く頭を下げ、足早に去っていった。
翔太は護符を握りしめた。エリーゼの想いが、掌を通じて伝わってくるようだった。
空を見上げると、夕焼けが美しく広がっている。オレンジと紫のグラデーションが、まるで絵画のようだ。
「王国騎士団も、万が一の時は動いてくれる……」
それは心強い後ろ盾だった。しかし、翔太は自分の力で勝ちたかった。ヴァルキリーと正面から向き合い、彼女の心に触れたかった。
◆
夜、ギルドハウスの礼拝堂に全員が集まった。
クララが前に立ち、静かに祈りの言葉を紡ぐ。
「偉大なる神よ、明日戦いに臨む我らに、勇気と知恵を授けたまえ」
蝋燭の炎が揺らめき、影が壁に踊る。香の匂いが礼拝堂を満たしていた。
全員が目を閉じ、黙祷を捧げた。
それぞれが、それぞれの想いを胸に祈る。家族のこと、仲間のこと、未来のこと。
「明日も……皆で笑い合えますように」
クララの言葉に、全員が心の中で頷いた。
礼拝堂を出ると、月のない夜空が広がっていた。新月前夜―――星だけが冷たく輝いている。
オリオン座、北斗七星、カシオペア座。無数の星が、まるで見守るように瞬いていた。
「明日か……」とゲオルグが呟いた。
「ああ」と翔太が答える。
風が吹いた。夜の冷たい風が、緊張で火照った頬を冷やす。
一人、また一人と、それぞれの部屋へ戻っていく。足音が廊下に響き、やがて静寂が訪れた。
◆
深夜、翔太は自室で聖剣エクスカリバーを見つめていた。
剣は月光を受けて、神秘的な輝きを放っている。新たに浮かび上がった太陽の紋様が、まるで脈動するように光っていた。
「ヴァルキリー……」
翔太は静かに呟いた。
「あなたも、きっと苦しんでいる」
正義感が強すぎるが故に、世界の理不尽さに絶望した女騎士。彼女の心の闇を、浄化することはできるだろうか。
「いや、できる」
翔太は決意を新たにした。
「俺の浄化は、ただ汚れを取り除くだけじゃない。心の傷も、悲しみも、絶望も……すべてを清らかにする力だ」
聖剣を鞘に収め、枕元に置く。
護符を首にかけ、清浄の霊薬を懐に忍ばせた。
「ヴァルキリー、あなたを救いたい」
それは甘い考えかもしれない。相手は終焉の使徒第三位。話し合いで解決できる相手ではないかもしれない。
でも―――
「それでも、試してみる価値はある」
窓の外を見ると、東の空がかすかに白み始めていた。夜明けが近い。
新月の夜―――決闘の時は迫る。
ギルドハウスは静寂に包まれていた。皆、それぞれの部屋で眠りについているか、あるいは眠れずに天井を見つめているか。
明日、何が起きるのか。
それは、神のみぞ知る。
翔太は目を閉じた。
夢の中で、また会うかもしれない。悲しみに満ちた瞳の女騎士と。
その時は―――
きっと、違う未来を見せてあげたい。
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【翔太】
職業:掃除士
レベル:57
HP:1,200 / 1,200
MP:1,740 / 1,740
スキル:
・浄化 Lv.15
・聖浄化 Lv.3
・浄化領域展開 Lv.4
・聖浄化・極光
・聖浄化・完全解放
・聖浄化・天照
・聖浄化・連撃
・聖浄化・断
・鑑定 Lv.5
・収納 Lv.5
・剣術 Lv.5
所持品:
・聖剣エクスカリバー(新紋様出現)
・清浄の霊薬×3
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定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
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