29 / 60
第29話 最終決戦
しおりを挟む
「君たちは……」
初代勇者アレクサンダーの声が、崩壊した塔の跡地に響いた。
新月まで、あと一時間。空には一つの星も見えず、世界は深い闇に包まれようとしていた。
崩壊した中央制御塔の瓦礫の中で、黒い結晶から解放された初代勇者アレクサンダーが立っていた。
Lv.99という圧倒的な数値が、システムウィンドウに表示されている。千年の時を経てもなお、その身体からは英雄としての威圧感が放たれていた。
だが、その瞳には深い悲しみが宿っている。
「千年……千年もの間、私はシステムに囚われていた」
アレクサンダーの声は、疲れ果てていた。金色の髪は色褪せ、かつて輝いていたであろう鎧は黒く染まっている。
「世界を守るためだと言われた。誰かが犠牲にならなければ、この世界は崩壊すると」
翔太は聖剣エクスカリバーを握りしめた。刃は淡い光を放ち、まるで何かを語りかけているようだった。
「勇者というのは、世界の穢れを引き受ける器なのだよ、少年」
アレクサンダーが苦笑する。その表情には、千年分の孤独が刻まれていた。
「私の後も、百年ごとに新たな勇者が選ばれ、同じ運命を辿った。だが結局、誰も完全には穢れを浄化できず、システムの中に取り込まれていった」
ミーナが息を呑む音が聞こえた。リクは拳を震わせ、カールは剣の柄を強く握っている。
「私は英雄になりたかったわけじゃない」
初代勇者の目から、一筋の涙が流れた。
「ただ、みんなを守りたかっただけなんだ。家族を、友人を、愛する人を……」
その瞬間、翔太の中で何かが決まった。
「その連鎖を、僕が断ち切ります」
全員が翔太を見た。レベル68の掃除士が、レベル99の英雄に向かって宣言していた。
「あなたも、世界も、全部救ってみせる」
聖剣エクスカリバーが、強い光を放った。まるで翔太の決意に応えるように、刃が震えている。
アレクサンダーの表情が変わった。悲しみの中に、かすかな希望の光が宿る。
「……面白い。掃除士が、私に挑むと?」
「はい。僕は、汚れを取り除く専門家ですから」
◆
次の瞬間、アレクサンダーが動いた。
その速度は、目で追うことすらできない。一瞬で翔太との距離を詰め、拳を振り下ろす。
轟音と共に、地面が割れた。
翔太は間一髪で回避したが、風圧だけで数メートル吹き飛ばされる。周囲の仲間たちも、その余波で転倒した。
「これが……レベル99の力」
グスタフが呻く。老騎士でさえ、立っているのがやっとだった。
だがリクが立ち上がった。全身に傷を負いながらも、聖なる炎を纏う。
「これが勇者の覚悟だ!」
炎の槍が、アレクサンダーに向かって飛ぶ。しかし初代勇者は片手でそれを掴み、握り潰した。
「勇者……か。君も勇者を名乗るのか」
「ああ!俺は本物の勇者になる!仲間を守れる、真の勇者に!」
ミーナも立ち上がる。氷の魔法陣が、彼女の周囲に展開された。
「諦めたら、そこで終わりよ。まだ、戦える」
カールが剣を抜く。その刃に、風の魔法を纏わせた。
「俺たちには、仲間がいる。一人じゃ勝てなくても、みんなでなら」
次々と、50人全員が立ち上がった。商人のマルコも、鍛冶師のトーマスも、それぞれの武器を構える。
「Aチーム、前衛展開!」
翔太の号令で、近接戦闘組が前に出た。翔太、リク、カールを中心に、騎士団の精鋭たちが並ぶ。
「Bチーム、魔法支援開始!」
ミーナ率いる魔導師団が、詠唱を始める。炎、氷、雷、風──あらゆる属性の魔法陣が空中に描かれていく。
「Cチーム、回復と補助を!」
ローラとクララが、仲間たちに祝福の光を降り注ぐ。体力が回復し、能力が一時的に上昇していく。
アレクサンダーが、初めて真剣な表情を見せた。
「君たちの覚悟、見せてもらおう」
初代勇者が本気を出した。千年の経験に裏打ちされた剣技が、嵐のように襲いかかる。
一撃で騎士が吹き飛び、二撃目で魔法障壁が砕け散る。圧倒的な力の差は、まるで大人と子供のようだった。
だが、その瞳には確かに希望の光が宿っていた。
◆
戦闘の最中、アレクサンダーが翔太に問いかけた。
「なぜ掃除士が戦う? 君の職業は、戦うためのものじゃないだろう」
翔太は聖剣で攻撃を受け止めながら答える。
「掃除は、始まりを作る仕事です」
一瞬、アレクサンダーの動きが止まった。冷たい夜風が、二人の間を通り抜けていく。
「始まり……だと?」
「はい。汚れを取り除くことで、本来の輝きを取り戻す。新しいスタートを切れるようにする。それが掃除の本質です」
翔太は一歩前に出た。聖剣エクスカリバーが、彼の決意に共鳴するように輝きを増していく。
「僕が掃除士だからこそ、できることがある。レベルや職業の強さじゃない。どんな小さな汚れも見逃さず、一つ一つ丁寧に掃除していく。それが、世界を変える力になるんです」
翔太は続けた。激しい攻防の中でも、その声は澄んでいた。
「誰かが片付けなければ、世界は汚れていく。小さな汚れも、放っておけば大きな問題になる。だから僕は、一つ一つ丁寧に掃除していくんです」
リクが叫んだ。
「翔太の浄化で、俺は救われた!心の闇まで、綺麗にしてくれたんだ!」
ミーナも声を上げる。
「私の心の傷も、癒してくれた。翔太の浄化は、ただの掃除じゃない」
アルテミスが涙を流しながら言った。
「罪まで、浄化してくれた。私のような暗殺者でさえ、救ってくれたのよ」
次々と、仲間たちが証言していく。翔太の浄化によって救われた経験を、それぞれが語った。
アレクサンダーの表情が揺らいだ。
「掃除士が……英雄?」
千年間、勇者こそが最高の職業だと信じてきた。それ以外の職業は、勇者を支えるだけの存在だと。
だが目の前の少年は違った。最弱と呼ばれる職業で、世界を変えようとしている。
「もしかしたら、君なら……」
アレクサンダーの剣撃が、わずかに緩んだ。
◆
その時、空が完全な闇に包まれた。
新月の瞬間が訪れたのだ。
星すら見えない漆黒の空。世界が息を止めたような静寂が広がる。そして、瘴気の濃度が急激に上昇し始めた。
黒い霧が、大地から湧き上がる。触れた植物が枯れ、石が腐食していく。
「これが……新月の力」
グスタフが苦しそうに呟いた。瘴気に耐えるだけで、体力が削られていく。
だがその瞬間、翔太の身体に変化が起きた。
エリーゼから贈られた守護石が、眩しい光を放つ。仲間たちの想いが、力となって流れ込んでくる。
そして──
━━━━━━━━━━━
【翔太】レベルアップ!
Lv.68 → Lv.100
称号獲得:真なる浄化王
新スキル:世界浄化
━━━━━━━━━━━
システムの限界を突破した。
レベル100──それは、この世界の頂点に立つ数値だった。
だが同時に、代償も発動する。
「っ……!」
翔太の髪の一部が、白く変色した。レベル100に到達した代償として、寿命の一部が削られたのだ。
「翔太様!」
ローラが駆け寄ろうとするが、翔太は手で制した。
「大丈夫です。これくらいの代償なら、安いものです」
真なる浄化王となった翔太と、千年の英雄アレクサンダー。
最強と最強が、ついに真正面から激突した。
聖剣と英雄の剣が交わるたび、空間が震える。浄化の光と、千年の孤独がぶつかり合う。
◆
「これが、僕の答えです」
翔太が叫んだ。そして振り返り、仲間たちに手を差し伸べる。
「みんな、もう一度力を貸してください」
迷いはなかった。50人全員が、再び手を繋いだ。
リクが右手を、ミーナが左手を握る。その後ろにカール、グスタフ、ローラ、そして全員が輪になって繋がった。
「今度こそ、世界を浄化する」
翔太の全身から、金色の光が溢れ出す。それは仲間たちを通じて増幅され、巨大な光の柱となって天を貫いた。
光の柱は、まるで生きているように脈動しながら、天空を目指して伸びていく。その光の中には、無数の金色の粒子が舞っていた。
「聖浄化・創世!」
究極の浄化技が発動する。
金色の光が、波紋のように世界中に広がっていく。触れた瘴気が、次々と光の粒子に変わっていった。
大地からは新しい芽が出始め、枯れた木々の枝に若葉が芽吹く。汚れた川の水が澄み、魚たちが再び泳ぎ始める。空気中に漂う腐敗臭が消え、代わりに花の香りが漂い始めた。
枯れた大地に緑が戻り、汚染された水が透明になり、腐敗した空気が清浄になっていく。
そしてその光は、アレクサンダーをも包み込んだ。
「あ……」
千年の孤独が、溶けていく。
システムという檻に閉じ込められていた魂が、解放されていく。
「温かい……こんなに温かいなんて」
初代勇者の目から、涙が止まらなかった。それは悲しみの涙ではなく、喜びの涙だった。
「ありがとう、掃除士」
アレクサンダーが、初めて笑った。千年ぶりの、心からの笑顔だった。
「君は、真の英雄だ」
システムの呪縛から完全に解放されたアレクサンダーの身体が、光の粒子となって昇っていく。
「世界を、頼んだよ」
最後にそう言い残して、初代勇者は天へと還っていった。
「やっと、家に帰れる」
その声は、どこまでも穏やかだった。
◆
奇跡は、そこで終わらなかった。
新月の闇を破って、東の空から光が差し込んできた。
「太陽が……」
誰かが呟いた。だが、その光は一つではなかった。
「二つ?」
東の空に、二つの太陽が昇っていた。
一つは、いつもの太陽。
そしてもう一つは、翔太の聖浄化・創世によって生まれた、新たな太陽だった。
浄化の力が結晶化し、永遠に世界の瘴気を浄化し続ける第二の太陽となったのだ。
システムウィンドウが、祝福のメッセージを表示する。
━━━━━━━━━━━
【世界に奇跡が起きました】
新たな太陽の誕生により
この世界は永遠に
瘴気から守られます
創造者:佐藤翔太
━━━━━━━━━━━
すべての瘴気が消滅した。
枯れ果てていた大地に、見る見るうちに緑が広がっていく。濁っていた川が透明になり、死んでいた土地に花が咲き始めた。
遠くから、人々の歓声が聞こえてくる。
王都の人々が、農村の人々が、世界中の人々が、空を見上げて喜んでいた。
「やった……」
カールが膝をついた。緊張の糸が切れたのだ。
「やったんだ!」
リクが叫び、ミーナと抱き合った。グスタフは静かに涙を流し、ローラとクララは互いの手を握りしめている。
「若い者たちが、新しい時代を作った」
老騎士の言葉には、深い感慨が込められていた。
◆
王都への帰還は、凱旋となった。
街中の人々が通りに出て、英雄たちを出迎えた。花びらが舞う中を、50人の仲間たちが行進していく。
「英雄様だ!」
「世界を救ってくれた!」
「ありがとう、ありがとう!」
城門の前で、エリーゼが待っていた。
王女のドレスを着た彼女は、しかし身分も立場も忘れて駆け寄ってきた。
「おかえりなさい、翔太様」
その瞳には、涙が光っている。
「約束、守ってくれたのね」
翔太は優しく微笑んだ。
「ただいま、エリーゼ」
二人は抱き合った。周囲から歓声と祝福の拍手が起こる。
玉座の間で、国王が立ち上がった。
「佐藤翔太よ」
威厳ある声が響く。
「その功績を称え、そなたを王国騎士団長に任命する」
どよめきが起こった。異世界からの来訪者が、いきなり騎士団長という破格の待遇だ。
「そして」
国王は続けた。
「我が娘エリーゼとの婚約を、正式に認める」
民衆から、割れんばかりの大歓声が上がった。
だが翔太は、静かに頭を下げた。
「光栄なお言葉、ありがとうございます。ですが」
全員が息を呑んだ。
「僕は、掃除士のままでいます」
沈黙が広がった。最高の地位を断るなど、前代未聞だった。
「騎士団長という立場より、掃除士として世界を綺麗にしていく方が、僕には合っています」
そして、エリーゼを見つめた。
「でも、エリーゼとは一緒にいたい。それだけは、譲れません」
エリーゼが涙を流しながら頷いた。
「私も、翔太様と一緒にいられれば、それで十分です」
国王は、しばらく沈黙していたが、やがて笑い声を上げた。
「はっはっは!実に君らしい。よかろう、好きにするがいい」
新しい人生の始まりだった。
◆
それから数日後、仲間たちはそれぞれの道を歩み始めた。
リクは、本当の勇者を目指して修行の旅に出ることにした。
「今度こそ、名前だけじゃない真の勇者になってくる」
ミーナは王立魔法学院の教師になることを決めた。
「次の世代に、正しい魔法の使い方を教えるの」
カールは騎士団の教官として、若い騎士たちを育てることにした。
「翔太から学んだことを、みんなに伝えていくよ」
アルテミスは、新設された浄化士ギルドの幹部となった。
「翔太様の理念を、広めていきます」
浄化士ギルドは急速に発展していた。
かつて最弱と呼ばれた職業が、今では憧れの職業となっている。新たな浄化士たちが次々と誕生し、世界中で活動を始めていた。
「これで終わりじゃない」
翔太は、遠くの山々を見つめながら言った。
「世界にはまだ、掃除すべき場所がたくさんある」
エリーゼが隣に立つ。
「どこへでも、ついていきます」
リクが笑った。
「また一緒に冒険できる日を楽しみにしてるぜ」
ミーナも頷く。
「私たちは、永遠の仲間よ」
新たな冒険への予感が、風に乗って運ばれてくる。
「さあ——」
翔太が天を仰ぐ。
「世界の大掃除の始まりだ」
いつもの決め台詞が、新たな意味を帯びて響いた。
第二の太陽が、優しく世界を照らしていた。
━━━━━━━━━━━━━━━
【翔太】
職業:掃除士
称号:真なる浄化王
レベル:100
HP:5,000 / 5,000
MP:10,000 / 10,000
状態:完全覚醒
スキル:
・浄化 Lv.MAX
・聖浄化 Lv.MAX
・浄化領域展開 Lv.MAX
・世界浄化(NEW)
・聖浄化・創世(NEW)
・その他多数
━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━
【最終決戦結果】
撃破:初代勇者(救済)
解放:システムの呪縛
世界の瘴気:完全浄化
第二の太陽:誕生
味方被害:なし(全員生還)
佐藤翔太:王国騎士団長就任(辞退)
第三王女エリーゼと婚約
浄化士ギルド:王国公認ギルドへ昇格
━━━━━━━━━━━━━━━
初代勇者アレクサンダーの声が、崩壊した塔の跡地に響いた。
新月まで、あと一時間。空には一つの星も見えず、世界は深い闇に包まれようとしていた。
崩壊した中央制御塔の瓦礫の中で、黒い結晶から解放された初代勇者アレクサンダーが立っていた。
Lv.99という圧倒的な数値が、システムウィンドウに表示されている。千年の時を経てもなお、その身体からは英雄としての威圧感が放たれていた。
だが、その瞳には深い悲しみが宿っている。
「千年……千年もの間、私はシステムに囚われていた」
アレクサンダーの声は、疲れ果てていた。金色の髪は色褪せ、かつて輝いていたであろう鎧は黒く染まっている。
「世界を守るためだと言われた。誰かが犠牲にならなければ、この世界は崩壊すると」
翔太は聖剣エクスカリバーを握りしめた。刃は淡い光を放ち、まるで何かを語りかけているようだった。
「勇者というのは、世界の穢れを引き受ける器なのだよ、少年」
アレクサンダーが苦笑する。その表情には、千年分の孤独が刻まれていた。
「私の後も、百年ごとに新たな勇者が選ばれ、同じ運命を辿った。だが結局、誰も完全には穢れを浄化できず、システムの中に取り込まれていった」
ミーナが息を呑む音が聞こえた。リクは拳を震わせ、カールは剣の柄を強く握っている。
「私は英雄になりたかったわけじゃない」
初代勇者の目から、一筋の涙が流れた。
「ただ、みんなを守りたかっただけなんだ。家族を、友人を、愛する人を……」
その瞬間、翔太の中で何かが決まった。
「その連鎖を、僕が断ち切ります」
全員が翔太を見た。レベル68の掃除士が、レベル99の英雄に向かって宣言していた。
「あなたも、世界も、全部救ってみせる」
聖剣エクスカリバーが、強い光を放った。まるで翔太の決意に応えるように、刃が震えている。
アレクサンダーの表情が変わった。悲しみの中に、かすかな希望の光が宿る。
「……面白い。掃除士が、私に挑むと?」
「はい。僕は、汚れを取り除く専門家ですから」
◆
次の瞬間、アレクサンダーが動いた。
その速度は、目で追うことすらできない。一瞬で翔太との距離を詰め、拳を振り下ろす。
轟音と共に、地面が割れた。
翔太は間一髪で回避したが、風圧だけで数メートル吹き飛ばされる。周囲の仲間たちも、その余波で転倒した。
「これが……レベル99の力」
グスタフが呻く。老騎士でさえ、立っているのがやっとだった。
だがリクが立ち上がった。全身に傷を負いながらも、聖なる炎を纏う。
「これが勇者の覚悟だ!」
炎の槍が、アレクサンダーに向かって飛ぶ。しかし初代勇者は片手でそれを掴み、握り潰した。
「勇者……か。君も勇者を名乗るのか」
「ああ!俺は本物の勇者になる!仲間を守れる、真の勇者に!」
ミーナも立ち上がる。氷の魔法陣が、彼女の周囲に展開された。
「諦めたら、そこで終わりよ。まだ、戦える」
カールが剣を抜く。その刃に、風の魔法を纏わせた。
「俺たちには、仲間がいる。一人じゃ勝てなくても、みんなでなら」
次々と、50人全員が立ち上がった。商人のマルコも、鍛冶師のトーマスも、それぞれの武器を構える。
「Aチーム、前衛展開!」
翔太の号令で、近接戦闘組が前に出た。翔太、リク、カールを中心に、騎士団の精鋭たちが並ぶ。
「Bチーム、魔法支援開始!」
ミーナ率いる魔導師団が、詠唱を始める。炎、氷、雷、風──あらゆる属性の魔法陣が空中に描かれていく。
「Cチーム、回復と補助を!」
ローラとクララが、仲間たちに祝福の光を降り注ぐ。体力が回復し、能力が一時的に上昇していく。
アレクサンダーが、初めて真剣な表情を見せた。
「君たちの覚悟、見せてもらおう」
初代勇者が本気を出した。千年の経験に裏打ちされた剣技が、嵐のように襲いかかる。
一撃で騎士が吹き飛び、二撃目で魔法障壁が砕け散る。圧倒的な力の差は、まるで大人と子供のようだった。
だが、その瞳には確かに希望の光が宿っていた。
◆
戦闘の最中、アレクサンダーが翔太に問いかけた。
「なぜ掃除士が戦う? 君の職業は、戦うためのものじゃないだろう」
翔太は聖剣で攻撃を受け止めながら答える。
「掃除は、始まりを作る仕事です」
一瞬、アレクサンダーの動きが止まった。冷たい夜風が、二人の間を通り抜けていく。
「始まり……だと?」
「はい。汚れを取り除くことで、本来の輝きを取り戻す。新しいスタートを切れるようにする。それが掃除の本質です」
翔太は一歩前に出た。聖剣エクスカリバーが、彼の決意に共鳴するように輝きを増していく。
「僕が掃除士だからこそ、できることがある。レベルや職業の強さじゃない。どんな小さな汚れも見逃さず、一つ一つ丁寧に掃除していく。それが、世界を変える力になるんです」
翔太は続けた。激しい攻防の中でも、その声は澄んでいた。
「誰かが片付けなければ、世界は汚れていく。小さな汚れも、放っておけば大きな問題になる。だから僕は、一つ一つ丁寧に掃除していくんです」
リクが叫んだ。
「翔太の浄化で、俺は救われた!心の闇まで、綺麗にしてくれたんだ!」
ミーナも声を上げる。
「私の心の傷も、癒してくれた。翔太の浄化は、ただの掃除じゃない」
アルテミスが涙を流しながら言った。
「罪まで、浄化してくれた。私のような暗殺者でさえ、救ってくれたのよ」
次々と、仲間たちが証言していく。翔太の浄化によって救われた経験を、それぞれが語った。
アレクサンダーの表情が揺らいだ。
「掃除士が……英雄?」
千年間、勇者こそが最高の職業だと信じてきた。それ以外の職業は、勇者を支えるだけの存在だと。
だが目の前の少年は違った。最弱と呼ばれる職業で、世界を変えようとしている。
「もしかしたら、君なら……」
アレクサンダーの剣撃が、わずかに緩んだ。
◆
その時、空が完全な闇に包まれた。
新月の瞬間が訪れたのだ。
星すら見えない漆黒の空。世界が息を止めたような静寂が広がる。そして、瘴気の濃度が急激に上昇し始めた。
黒い霧が、大地から湧き上がる。触れた植物が枯れ、石が腐食していく。
「これが……新月の力」
グスタフが苦しそうに呟いた。瘴気に耐えるだけで、体力が削られていく。
だがその瞬間、翔太の身体に変化が起きた。
エリーゼから贈られた守護石が、眩しい光を放つ。仲間たちの想いが、力となって流れ込んでくる。
そして──
━━━━━━━━━━━
【翔太】レベルアップ!
Lv.68 → Lv.100
称号獲得:真なる浄化王
新スキル:世界浄化
━━━━━━━━━━━
システムの限界を突破した。
レベル100──それは、この世界の頂点に立つ数値だった。
だが同時に、代償も発動する。
「っ……!」
翔太の髪の一部が、白く変色した。レベル100に到達した代償として、寿命の一部が削られたのだ。
「翔太様!」
ローラが駆け寄ろうとするが、翔太は手で制した。
「大丈夫です。これくらいの代償なら、安いものです」
真なる浄化王となった翔太と、千年の英雄アレクサンダー。
最強と最強が、ついに真正面から激突した。
聖剣と英雄の剣が交わるたび、空間が震える。浄化の光と、千年の孤独がぶつかり合う。
◆
「これが、僕の答えです」
翔太が叫んだ。そして振り返り、仲間たちに手を差し伸べる。
「みんな、もう一度力を貸してください」
迷いはなかった。50人全員が、再び手を繋いだ。
リクが右手を、ミーナが左手を握る。その後ろにカール、グスタフ、ローラ、そして全員が輪になって繋がった。
「今度こそ、世界を浄化する」
翔太の全身から、金色の光が溢れ出す。それは仲間たちを通じて増幅され、巨大な光の柱となって天を貫いた。
光の柱は、まるで生きているように脈動しながら、天空を目指して伸びていく。その光の中には、無数の金色の粒子が舞っていた。
「聖浄化・創世!」
究極の浄化技が発動する。
金色の光が、波紋のように世界中に広がっていく。触れた瘴気が、次々と光の粒子に変わっていった。
大地からは新しい芽が出始め、枯れた木々の枝に若葉が芽吹く。汚れた川の水が澄み、魚たちが再び泳ぎ始める。空気中に漂う腐敗臭が消え、代わりに花の香りが漂い始めた。
枯れた大地に緑が戻り、汚染された水が透明になり、腐敗した空気が清浄になっていく。
そしてその光は、アレクサンダーをも包み込んだ。
「あ……」
千年の孤独が、溶けていく。
システムという檻に閉じ込められていた魂が、解放されていく。
「温かい……こんなに温かいなんて」
初代勇者の目から、涙が止まらなかった。それは悲しみの涙ではなく、喜びの涙だった。
「ありがとう、掃除士」
アレクサンダーが、初めて笑った。千年ぶりの、心からの笑顔だった。
「君は、真の英雄だ」
システムの呪縛から完全に解放されたアレクサンダーの身体が、光の粒子となって昇っていく。
「世界を、頼んだよ」
最後にそう言い残して、初代勇者は天へと還っていった。
「やっと、家に帰れる」
その声は、どこまでも穏やかだった。
◆
奇跡は、そこで終わらなかった。
新月の闇を破って、東の空から光が差し込んできた。
「太陽が……」
誰かが呟いた。だが、その光は一つではなかった。
「二つ?」
東の空に、二つの太陽が昇っていた。
一つは、いつもの太陽。
そしてもう一つは、翔太の聖浄化・創世によって生まれた、新たな太陽だった。
浄化の力が結晶化し、永遠に世界の瘴気を浄化し続ける第二の太陽となったのだ。
システムウィンドウが、祝福のメッセージを表示する。
━━━━━━━━━━━
【世界に奇跡が起きました】
新たな太陽の誕生により
この世界は永遠に
瘴気から守られます
創造者:佐藤翔太
━━━━━━━━━━━
すべての瘴気が消滅した。
枯れ果てていた大地に、見る見るうちに緑が広がっていく。濁っていた川が透明になり、死んでいた土地に花が咲き始めた。
遠くから、人々の歓声が聞こえてくる。
王都の人々が、農村の人々が、世界中の人々が、空を見上げて喜んでいた。
「やった……」
カールが膝をついた。緊張の糸が切れたのだ。
「やったんだ!」
リクが叫び、ミーナと抱き合った。グスタフは静かに涙を流し、ローラとクララは互いの手を握りしめている。
「若い者たちが、新しい時代を作った」
老騎士の言葉には、深い感慨が込められていた。
◆
王都への帰還は、凱旋となった。
街中の人々が通りに出て、英雄たちを出迎えた。花びらが舞う中を、50人の仲間たちが行進していく。
「英雄様だ!」
「世界を救ってくれた!」
「ありがとう、ありがとう!」
城門の前で、エリーゼが待っていた。
王女のドレスを着た彼女は、しかし身分も立場も忘れて駆け寄ってきた。
「おかえりなさい、翔太様」
その瞳には、涙が光っている。
「約束、守ってくれたのね」
翔太は優しく微笑んだ。
「ただいま、エリーゼ」
二人は抱き合った。周囲から歓声と祝福の拍手が起こる。
玉座の間で、国王が立ち上がった。
「佐藤翔太よ」
威厳ある声が響く。
「その功績を称え、そなたを王国騎士団長に任命する」
どよめきが起こった。異世界からの来訪者が、いきなり騎士団長という破格の待遇だ。
「そして」
国王は続けた。
「我が娘エリーゼとの婚約を、正式に認める」
民衆から、割れんばかりの大歓声が上がった。
だが翔太は、静かに頭を下げた。
「光栄なお言葉、ありがとうございます。ですが」
全員が息を呑んだ。
「僕は、掃除士のままでいます」
沈黙が広がった。最高の地位を断るなど、前代未聞だった。
「騎士団長という立場より、掃除士として世界を綺麗にしていく方が、僕には合っています」
そして、エリーゼを見つめた。
「でも、エリーゼとは一緒にいたい。それだけは、譲れません」
エリーゼが涙を流しながら頷いた。
「私も、翔太様と一緒にいられれば、それで十分です」
国王は、しばらく沈黙していたが、やがて笑い声を上げた。
「はっはっは!実に君らしい。よかろう、好きにするがいい」
新しい人生の始まりだった。
◆
それから数日後、仲間たちはそれぞれの道を歩み始めた。
リクは、本当の勇者を目指して修行の旅に出ることにした。
「今度こそ、名前だけじゃない真の勇者になってくる」
ミーナは王立魔法学院の教師になることを決めた。
「次の世代に、正しい魔法の使い方を教えるの」
カールは騎士団の教官として、若い騎士たちを育てることにした。
「翔太から学んだことを、みんなに伝えていくよ」
アルテミスは、新設された浄化士ギルドの幹部となった。
「翔太様の理念を、広めていきます」
浄化士ギルドは急速に発展していた。
かつて最弱と呼ばれた職業が、今では憧れの職業となっている。新たな浄化士たちが次々と誕生し、世界中で活動を始めていた。
「これで終わりじゃない」
翔太は、遠くの山々を見つめながら言った。
「世界にはまだ、掃除すべき場所がたくさんある」
エリーゼが隣に立つ。
「どこへでも、ついていきます」
リクが笑った。
「また一緒に冒険できる日を楽しみにしてるぜ」
ミーナも頷く。
「私たちは、永遠の仲間よ」
新たな冒険への予感が、風に乗って運ばれてくる。
「さあ——」
翔太が天を仰ぐ。
「世界の大掃除の始まりだ」
いつもの決め台詞が、新たな意味を帯びて響いた。
第二の太陽が、優しく世界を照らしていた。
━━━━━━━━━━━━━━━
【翔太】
職業:掃除士
称号:真なる浄化王
レベル:100
HP:5,000 / 5,000
MP:10,000 / 10,000
状態:完全覚醒
スキル:
・浄化 Lv.MAX
・聖浄化 Lv.MAX
・浄化領域展開 Lv.MAX
・世界浄化(NEW)
・聖浄化・創世(NEW)
・その他多数
━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━
【最終決戦結果】
撃破:初代勇者(救済)
解放:システムの呪縛
世界の瘴気:完全浄化
第二の太陽:誕生
味方被害:なし(全員生還)
佐藤翔太:王国騎士団長就任(辞退)
第三王女エリーゼと婚約
浄化士ギルド:王国公認ギルドへ昇格
━━━━━━━━━━━━━━━
11
あなたにおすすめの小説
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ホームレスは転生したら7歳児!?気弱でコミュ障だった僕が、気づいたら異種族の王になっていました
たぬきち
ファンタジー
1部が12/6に完結して、2部に入ります。
「俺だけ不幸なこんな世界…認めない…認めないぞ!!」
どこにでもいる、さえないおじさん。特技なし。彼女いない。仕事ない。お金ない。外見も悪い。頭もよくない。とにかくなんにもない。そんな主人公、アレン・ロザークが死の間際に涙ながらに訴えたのが人生のやりなおしー。
彼は30年という短い生涯を閉じると、記憶を引き継いだままその意識は幼少期へ飛ばされた。
幼少期に戻ったアレンは前世の記憶と、飼い猫と喋れるオリジナルスキルを頼りに、不都合な未来、出来事を改変していく。
記憶にない事象、改変後に新たに発生したトラブルと戦いながら、2度目の人生での仲間らとアレンは新たな人生を歩んでいく。
新しい世界では『魔宝殿』と呼ばれるダンジョンがあり、前世の世界ではいなかった魔獣、魔族、亜人などが存在し、ただの日雇い店員だった前世とは違い、ダンジョンへ仲間たちと挑んでいきます。
この物語は、記憶を引き継ぎ幼少期にタイムリープした主人公アレンが、自分の人生を都合のいい方へ改変しながら、最低最悪な未来を避け、全く新しい人生を手に入れていきます。
主人公最強系の魔法やスキルはありません。あくまでも前世の記憶と経験を頼りにアレンにとって都合のいい人生を手に入れる物語です。
※ ネタバレのため、2部が完結したらまた少し書きます。タイトルも2部の始まりに合わせて変えました。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜
最上 虎々
ファンタジー
ソドムの少年から平安武士、さらに日本兵から二十一世紀の男子高校生へ。
一つ一つの人生は短かった。
しかし幸か不幸か、今まで自分がどんな人生を歩んできたのかは覚えている。
だからこそ今度こそは長生きして、生きている実感と、生きる希望を持ちたい。
そんな想いを胸に、青年は五度目の命にして今までの四回とは別の世界に転生した。
早死にの男が、今まで死んできた世界とは違う場所で、今度こそ生き方を見つける物語。
本作は、「小説家になろう」、「カクヨム」、にも投稿しております。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる