最弱職【掃除士】が実は環境最強でした ~ダンジョンの浄化で世界を救う~

宵町あかり

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第29話 最終決戦

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「君たちは……」

初代勇者アレクサンダーの声が、崩壊した塔の跡地に響いた。

新月まで、あと一時間。空には一つの星も見えず、世界は深い闇に包まれようとしていた。

崩壊した中央制御塔の瓦礫の中で、黒い結晶から解放された初代勇者アレクサンダーが立っていた。

Lv.99という圧倒的な数値が、システムウィンドウに表示されている。千年の時を経てもなお、その身体からは英雄としての威圧感が放たれていた。

だが、その瞳には深い悲しみが宿っている。

「千年……千年もの間、私はシステムに囚われていた」

アレクサンダーの声は、疲れ果てていた。金色の髪は色褪せ、かつて輝いていたであろう鎧は黒く染まっている。

「世界を守るためだと言われた。誰かが犠牲にならなければ、この世界は崩壊すると」

翔太は聖剣エクスカリバーを握りしめた。刃は淡い光を放ち、まるで何かを語りかけているようだった。

「勇者というのは、世界の穢れを引き受ける器なのだよ、少年」

アレクサンダーが苦笑する。その表情には、千年分の孤独が刻まれていた。

「私の後も、百年ごとに新たな勇者が選ばれ、同じ運命を辿った。だが結局、誰も完全には穢れを浄化できず、システムの中に取り込まれていった」

ミーナが息を呑む音が聞こえた。リクは拳を震わせ、カールは剣の柄を強く握っている。

「私は英雄になりたかったわけじゃない」

初代勇者の目から、一筋の涙が流れた。

「ただ、みんなを守りたかっただけなんだ。家族を、友人を、愛する人を……」

その瞬間、翔太の中で何かが決まった。

「その連鎖を、僕が断ち切ります」

全員が翔太を見た。レベル68の掃除士が、レベル99の英雄に向かって宣言していた。

「あなたも、世界も、全部救ってみせる」

聖剣エクスカリバーが、強い光を放った。まるで翔太の決意に応えるように、刃が震えている。

アレクサンダーの表情が変わった。悲しみの中に、かすかな希望の光が宿る。

「……面白い。掃除士が、私に挑むと?」

「はい。僕は、汚れを取り除く専門家ですから」



次の瞬間、アレクサンダーが動いた。

その速度は、目で追うことすらできない。一瞬で翔太との距離を詰め、拳を振り下ろす。

轟音と共に、地面が割れた。

翔太は間一髪で回避したが、風圧だけで数メートル吹き飛ばされる。周囲の仲間たちも、その余波で転倒した。

「これが……レベル99の力」

グスタフが呻く。老騎士でさえ、立っているのがやっとだった。

だがリクが立ち上がった。全身に傷を負いながらも、聖なる炎を纏う。

「これが勇者の覚悟だ!」

炎の槍が、アレクサンダーに向かって飛ぶ。しかし初代勇者は片手でそれを掴み、握り潰した。

「勇者……か。君も勇者を名乗るのか」

「ああ!俺は本物の勇者になる!仲間を守れる、真の勇者に!」

ミーナも立ち上がる。氷の魔法陣が、彼女の周囲に展開された。

「諦めたら、そこで終わりよ。まだ、戦える」

カールが剣を抜く。その刃に、風の魔法を纏わせた。

「俺たちには、仲間がいる。一人じゃ勝てなくても、みんなでなら」

次々と、50人全員が立ち上がった。商人のマルコも、鍛冶師のトーマスも、それぞれの武器を構える。

「Aチーム、前衛展開!」

翔太の号令で、近接戦闘組が前に出た。翔太、リク、カールを中心に、騎士団の精鋭たちが並ぶ。

「Bチーム、魔法支援開始!」

ミーナ率いる魔導師団が、詠唱を始める。炎、氷、雷、風──あらゆる属性の魔法陣が空中に描かれていく。

「Cチーム、回復と補助を!」

ローラとクララが、仲間たちに祝福の光を降り注ぐ。体力が回復し、能力が一時的に上昇していく。

アレクサンダーが、初めて真剣な表情を見せた。

「君たちの覚悟、見せてもらおう」

初代勇者が本気を出した。千年の経験に裏打ちされた剣技が、嵐のように襲いかかる。

一撃で騎士が吹き飛び、二撃目で魔法障壁が砕け散る。圧倒的な力の差は、まるで大人と子供のようだった。

だが、その瞳には確かに希望の光が宿っていた。



戦闘の最中、アレクサンダーが翔太に問いかけた。

「なぜ掃除士が戦う? 君の職業は、戦うためのものじゃないだろう」

翔太は聖剣で攻撃を受け止めながら答える。

「掃除は、始まりを作る仕事です」

一瞬、アレクサンダーの動きが止まった。冷たい夜風が、二人の間を通り抜けていく。

「始まり……だと?」

「はい。汚れを取り除くことで、本来の輝きを取り戻す。新しいスタートを切れるようにする。それが掃除の本質です」

翔太は一歩前に出た。聖剣エクスカリバーが、彼の決意に共鳴するように輝きを増していく。

「僕が掃除士だからこそ、できることがある。レベルや職業の強さじゃない。どんな小さな汚れも見逃さず、一つ一つ丁寧に掃除していく。それが、世界を変える力になるんです」

翔太は続けた。激しい攻防の中でも、その声は澄んでいた。

「誰かが片付けなければ、世界は汚れていく。小さな汚れも、放っておけば大きな問題になる。だから僕は、一つ一つ丁寧に掃除していくんです」

リクが叫んだ。

「翔太の浄化で、俺は救われた!心の闇まで、綺麗にしてくれたんだ!」

ミーナも声を上げる。

「私の心の傷も、癒してくれた。翔太の浄化は、ただの掃除じゃない」

アルテミスが涙を流しながら言った。

「罪まで、浄化してくれた。私のような暗殺者でさえ、救ってくれたのよ」

次々と、仲間たちが証言していく。翔太の浄化によって救われた経験を、それぞれが語った。

アレクサンダーの表情が揺らいだ。

「掃除士が……英雄?」

千年間、勇者こそが最高の職業だと信じてきた。それ以外の職業は、勇者を支えるだけの存在だと。

だが目の前の少年は違った。最弱と呼ばれる職業で、世界を変えようとしている。

「もしかしたら、君なら……」

アレクサンダーの剣撃が、わずかに緩んだ。



その時、空が完全な闇に包まれた。

新月の瞬間が訪れたのだ。

星すら見えない漆黒の空。世界が息を止めたような静寂が広がる。そして、瘴気の濃度が急激に上昇し始めた。

黒い霧が、大地から湧き上がる。触れた植物が枯れ、石が腐食していく。

「これが……新月の力」

グスタフが苦しそうに呟いた。瘴気に耐えるだけで、体力が削られていく。

だがその瞬間、翔太の身体に変化が起きた。

エリーゼから贈られた守護石が、眩しい光を放つ。仲間たちの想いが、力となって流れ込んでくる。

そして──

━━━━━━━━━━━
【翔太】レベルアップ!
 Lv.68 → Lv.100

 称号獲得:真なる浄化王
 
 新スキル:世界浄化
━━━━━━━━━━━

システムの限界を突破した。

レベル100──それは、この世界の頂点に立つ数値だった。

だが同時に、代償も発動する。

「っ……!」

翔太の髪の一部が、白く変色した。レベル100に到達した代償として、寿命の一部が削られたのだ。

「翔太様!」

ローラが駆け寄ろうとするが、翔太は手で制した。

「大丈夫です。これくらいの代償なら、安いものです」

真なる浄化王となった翔太と、千年の英雄アレクサンダー。

最強と最強が、ついに真正面から激突した。

聖剣と英雄の剣が交わるたび、空間が震える。浄化の光と、千年の孤独がぶつかり合う。



「これが、僕の答えです」

翔太が叫んだ。そして振り返り、仲間たちに手を差し伸べる。

「みんな、もう一度力を貸してください」

迷いはなかった。50人全員が、再び手を繋いだ。

リクが右手を、ミーナが左手を握る。その後ろにカール、グスタフ、ローラ、そして全員が輪になって繋がった。

「今度こそ、世界を浄化する」

翔太の全身から、金色の光が溢れ出す。それは仲間たちを通じて増幅され、巨大な光の柱となって天を貫いた。

光の柱は、まるで生きているように脈動しながら、天空を目指して伸びていく。その光の中には、無数の金色の粒子が舞っていた。

「聖浄化・創世!」

究極の浄化技が発動する。

金色の光が、波紋のように世界中に広がっていく。触れた瘴気が、次々と光の粒子に変わっていった。

大地からは新しい芽が出始め、枯れた木々の枝に若葉が芽吹く。汚れた川の水が澄み、魚たちが再び泳ぎ始める。空気中に漂う腐敗臭が消え、代わりに花の香りが漂い始めた。

枯れた大地に緑が戻り、汚染された水が透明になり、腐敗した空気が清浄になっていく。

そしてその光は、アレクサンダーをも包み込んだ。

「あ……」

千年の孤独が、溶けていく。

システムという檻に閉じ込められていた魂が、解放されていく。

「温かい……こんなに温かいなんて」

初代勇者の目から、涙が止まらなかった。それは悲しみの涙ではなく、喜びの涙だった。

「ありがとう、掃除士」

アレクサンダーが、初めて笑った。千年ぶりの、心からの笑顔だった。

「君は、真の英雄だ」

システムの呪縛から完全に解放されたアレクサンダーの身体が、光の粒子となって昇っていく。

「世界を、頼んだよ」

最後にそう言い残して、初代勇者は天へと還っていった。

「やっと、家に帰れる」

その声は、どこまでも穏やかだった。



奇跡は、そこで終わらなかった。

新月の闇を破って、東の空から光が差し込んできた。

「太陽が……」

誰かが呟いた。だが、その光は一つではなかった。

「二つ?」

東の空に、二つの太陽が昇っていた。

一つは、いつもの太陽。

そしてもう一つは、翔太の聖浄化・創世によって生まれた、新たな太陽だった。

浄化の力が結晶化し、永遠に世界の瘴気を浄化し続ける第二の太陽となったのだ。

システムウィンドウが、祝福のメッセージを表示する。

━━━━━━━━━━━
【世界に奇跡が起きました】

新たな太陽の誕生により
この世界は永遠に
瘴気から守られます

創造者:佐藤翔太
━━━━━━━━━━━

すべての瘴気が消滅した。

枯れ果てていた大地に、見る見るうちに緑が広がっていく。濁っていた川が透明になり、死んでいた土地に花が咲き始めた。

遠くから、人々の歓声が聞こえてくる。

王都の人々が、農村の人々が、世界中の人々が、空を見上げて喜んでいた。

「やった……」

カールが膝をついた。緊張の糸が切れたのだ。

「やったんだ!」

リクが叫び、ミーナと抱き合った。グスタフは静かに涙を流し、ローラとクララは互いの手を握りしめている。

「若い者たちが、新しい時代を作った」

老騎士の言葉には、深い感慨が込められていた。



王都への帰還は、凱旋となった。

街中の人々が通りに出て、英雄たちを出迎えた。花びらが舞う中を、50人の仲間たちが行進していく。

「英雄様だ!」
「世界を救ってくれた!」
「ありがとう、ありがとう!」

城門の前で、エリーゼが待っていた。

王女のドレスを着た彼女は、しかし身分も立場も忘れて駆け寄ってきた。

「おかえりなさい、翔太様」

その瞳には、涙が光っている。

「約束、守ってくれたのね」

翔太は優しく微笑んだ。

「ただいま、エリーゼ」

二人は抱き合った。周囲から歓声と祝福の拍手が起こる。

玉座の間で、国王が立ち上がった。

「佐藤翔太よ」

威厳ある声が響く。

「その功績を称え、そなたを王国騎士団長に任命する」

どよめきが起こった。異世界からの来訪者が、いきなり騎士団長という破格の待遇だ。

「そして」

国王は続けた。

「我が娘エリーゼとの婚約を、正式に認める」

民衆から、割れんばかりの大歓声が上がった。

だが翔太は、静かに頭を下げた。

「光栄なお言葉、ありがとうございます。ですが」

全員が息を呑んだ。

「僕は、掃除士のままでいます」

沈黙が広がった。最高の地位を断るなど、前代未聞だった。

「騎士団長という立場より、掃除士として世界を綺麗にしていく方が、僕には合っています」

そして、エリーゼを見つめた。

「でも、エリーゼとは一緒にいたい。それだけは、譲れません」

エリーゼが涙を流しながら頷いた。

「私も、翔太様と一緒にいられれば、それで十分です」

国王は、しばらく沈黙していたが、やがて笑い声を上げた。

「はっはっは!実に君らしい。よかろう、好きにするがいい」

新しい人生の始まりだった。



それから数日後、仲間たちはそれぞれの道を歩み始めた。

リクは、本当の勇者を目指して修行の旅に出ることにした。

「今度こそ、名前だけじゃない真の勇者になってくる」

ミーナは王立魔法学院の教師になることを決めた。

「次の世代に、正しい魔法の使い方を教えるの」

カールは騎士団の教官として、若い騎士たちを育てることにした。

「翔太から学んだことを、みんなに伝えていくよ」

アルテミスは、新設された浄化士ギルドの幹部となった。

「翔太様の理念を、広めていきます」

浄化士ギルドは急速に発展していた。

かつて最弱と呼ばれた職業が、今では憧れの職業となっている。新たな浄化士たちが次々と誕生し、世界中で活動を始めていた。

「これで終わりじゃない」

翔太は、遠くの山々を見つめながら言った。

「世界にはまだ、掃除すべき場所がたくさんある」

エリーゼが隣に立つ。

「どこへでも、ついていきます」

リクが笑った。

「また一緒に冒険できる日を楽しみにしてるぜ」

ミーナも頷く。

「私たちは、永遠の仲間よ」

新たな冒険への予感が、風に乗って運ばれてくる。

「さあ——」

翔太が天を仰ぐ。

「世界の大掃除の始まりだ」

いつもの決め台詞が、新たな意味を帯びて響いた。

第二の太陽が、優しく世界を照らしていた。

━━━━━━━━━━━━━━━
【翔太】
 職業:掃除士
 称号:真なる浄化王
 レベル:100
 HP:5,000 / 5,000
 MP:10,000 / 10,000
 
 状態:完全覚醒
 
 スキル:
 ・浄化 Lv.MAX
 ・聖浄化 Lv.MAX
 ・浄化領域展開 Lv.MAX
 ・世界浄化(NEW)
 ・聖浄化・創世(NEW)
 ・その他多数
━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━
【最終決戦結果】
 
 撃破:初代勇者(救済)
 解放:システムの呪縛
 
 世界の瘴気:完全浄化
 第二の太陽:誕生
 
 味方被害:なし(全員生還)
 
 佐藤翔太:王国騎士団長就任(辞退)
      第三王女エリーゼと婚約
 
 浄化士ギルド:王国公認ギルドへ昇格
━━━━━━━━━━━━━━━
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