53 / 60
第53話 東の大陸からの使者
しおりを挟む
朝の港に、いつもとは違う活気が満ちていた。
「東の商船が見えたぞ!」
見張り台からの声に、集まった人々がざわめく。翔太とエリーゼも、ゆっくりとした足取りで港へと向かっていた。
「無理しなくていいよ」
翔太が心配そうにエリーゼを見る。昨日、妊娠が判明したばかりだ。
「大丈夫。私も東の大陸の人たちに会ってみたいの」
エリーゼが微笑むと、その頭上に【体調:良好】という表示が一瞬現れて消えた。システムもまだ完全には落ち着いていないらしい。
港に着くと、すでに多くの人々が集まっていた。商人たちは興奮気味に話し合い、子供たちは初めて見る大型船に目を輝かせている。
「でかいなあ!」
リクも到着していた。隣にはミーナ、そしてカールやレオの姿もある。
「皆も来たのか」
「こんな機会、滅多にないだろ?」
確かに、東の大陸との交流は虚無王との戦いで長らく途絶えていた。平和が戻った今、ようやく海路も安全になったのだ。
◆
東の商船は、見慣れた帆船とは明らかに異なる造りをしていた。
船体には美しい龍の彫刻が施され、赤と金の鮮やかな帆が風を受けて膨らんでいる。マストの先端には、見たことのない形の旗がはためいていた。
「あれは……煌国(こうこく)の紋章だ」
王宮から派遣された外交官が説明する。
「煌国?」
「東の大陸にある大国です。我々とは異なるシステムで動いているという話ですが……」
船が接岸すると、タラップが降ろされた。
最初に降りてきたのは、絹のような光沢を持つ衣服を纏った中年の男性だった。長い髪を高く結い上げ、腰には見慣れない形の剣を帯びている。
男性は港に降り立つと、両手を前で組み、深々と頭を下げた。
「初めまして。私は煌国の交易商、リン・シャオと申します」
流暢な共通語だが、独特のイントネーションが混じっている。
《リン・シャオ 三段【交易商】》
翔太の頭上に、見慣れない表示が現れた。レベルではなく、「段」という単位らしい。
「ようこそ、ヴェリディアン王国へ。私は王国騎士団長のガイウスです」
ガイウスが前に出て挨拶を交わす。
リン・シャオは微笑みながら、後ろを振り返った。
「皆、降りてきなさい」
船から次々と人々が降りてくる。皆、色鮮やかな衣服を身に着け、大きな荷物を抱えていた。
「これは……」
荷物の中から、見たことのない品物が次々と取り出される。
透き通るような白い陶器、虹色に輝く絹織物、そして芳しい香りを放つ小さな木箱。
「これは我が国の特産品です。ぜひ、ご覧ください」
リン・シャオが木箱を開けると、濃厚な香りが広がった。
「香辛料?」
「はい。これは『天香(てんこう)』と呼ばれる香辛料です。料理に少し加えるだけで、驚くほど風味が豊かになります」
商人たちが興味深そうに品物を眺める中、リン・シャオは翔太たちに気付いた。
「おや、あなたは……」
彼の目が翔太のステータスを確認したらしい。驚きの表情を浮かべる。
「レベル200……いえ、この圧倒的な清浄な気……まさか、あの虚無王を倒したという?」
「ええ、まあ……」
翔太が照れくさそうに頷くと、リン・シャオは再び深々と頭を下げた。
「お会いできて光栄です。東の大陸にも、あなたの功績は伝わっています」
「そんな、大げさな……」
リン・シャオは顔を上げると、今度はエリーゼに目を向けた。その瞬間、彼の表情が柔らかくなる。
「奥様は……生命を宿しておられますね」
「え? わかるんですか?」
エリーゼが驚く。
「我が国には、気の流れを読む技術があります。新しい命の輝きは、特に美しく見えるものです」
リン・シャオは部下に何か指示すると、小さな袋を取り出させた。
「これを」
差し出された袋を開けると、中には美しい翡翠の腕輪が入っていた。
「これは?」
「煌国に伝わる安産のお守りです。母子の健康を願う気が込められています」
「でも、こんな高価そうなもの……」
エリーゼが遠慮すると、リン・シャオは首を横に振った。
「平和をもたらした英雄のお子様です。これくらいは、させていただきたい」
◆
港に仮設の交易所が設けられ、東の品物が並べられた。
「この布、すごく肌触りがいいわ!」
「この茶葉、初めての香りだ」
街の人々は、珍しい品物に夢中になっていた。
翔太たちは、リン・シャオから煌国について詳しく話を聞いていた。
「我が国は、あなた方とは異なるシステムで成り立っています」
「段位制、でしたっけ?」
ミーナが尋ねる。
「はい。レベルではなく、修行によって段位を上げていく。一段から始まり、最高位は九段です」
「へえ、面白いな」
リクが興味深そうに頷く。
「ただし」リン・シャオが続けた。「段位は単なる強さの指標ではありません。技術、知識、そして心の在り方すべてを総合したものです」
「心の在り方?」
「はい。いくら技術があっても、心が伴わなければ段位は上がりません」
その考え方は、どこか掃除士の理念に通じるものがあった。
リン・シャオは翔太を見つめた。
「実は、あなたにお願いがあります」
「何でしょう?」
「『掃除』という概念に、我々はとても興味があります」
意外な言葉に、翔太は目を丸くした。
「掃除に?」
「はい。聞くところによれば、単なる清掃ではなく、世界そのものを清める技術だとか」
リン・シャオの目が真剣な光を帯びる。
「我が国にも、邪気を払う術はあります。しかし、あなたの『掃除』は、それをはるかに超えた何かのようです」
カールが誇らしげに胸を張った。
「その通りです! 翔太様の掃除術は、世界を救った偉大な技術なのです」
「やはり……」リン・シャオが頷く。「もし可能なら、その技術を学ばせていただけないでしょうか」
翔太は少し考えてから答えた。
「掃除の技術自体は、誰でも学べます。ただ……」
「ただ?」
「本質を理解するには、時間がかかるかもしれません」
「時間なら、いくらでもかけます」
リン・シャオの真摯な態度に、翔太は微笑んだ。
「わかりました。でも、一人で教えるのは大変だな……」
ふと、翔太の脳裏にあるアイデアが浮かんだ。
「そうだ、いっそのこと……」
「翔太?」
エリーゼが不思議そうに見つめる。
「掃除を体系的に教える場所を作るのはどうだろう? 学校みたいな」
「学校?」
レオの目が輝いた。
「それいいですね! 掃除士学校!」
カールも興奮気味に同意する。
「素晴らしいアイデアです! 世界中から生徒が集まるかもしれません」
リン・シャオも期待に満ちた表情を見せた。
「それは素晴らしい。我が国からも、ぜひ留学生を送らせていただきたい」
◆
夕方になり、歓迎の宴が開かれることになった。
王宮から料理人が派遣され、港に大きなテーブルが並べられる。ヴェリディアン王国の料理と、煌国から持ち込まれた食材を使った料理が、次々と並んでいく。
「これは煌国の餃子(ぎょうざ)という料理です」
リン・シャオが説明する、小麦粉の皮に包まれた料理を、翔太は興味深そうに口に運んだ。
「うまい!」
肉汁が口いっぱいに広がる。
「これは春巻き(はるまき)です」
パリパリとした食感が楽しい。
東西の料理が並ぶテーブルを囲んで、人々は楽しそうに語り合っていた。
文化の違いが、時に笑いを生む。
煌国の人々は、フォークとナイフの使い方に苦戦し、ヴェリディアンの人々は、箸の扱いに四苦八苦していた。
「こう持つんです」
「いや、難しい……」
言葉は通訳魔法でなんとか通じるものの、細かなニュアンスの違いで、おかしな会話になることもあった。
煌国の若者が、ヴェリディアンの女性に声をかける。
「あなたは月のように美しい」
それが「あなたは丸い」と誤訳されて、場が凍りついたり。
リン・シャオがガイウスに挨拶した時、煌国式のお辞儀をしたつもりが、通訳魔法が「あなたの前で地面に頭をつけます」と訳してしまい、ガイウスが慌てて止める一幕も。
「そ、そんな大それたことを!」
「いえ、これが我が国の礼儀ですから」
また、ヴェリディアンの商人が煌国の茶を一気に飲み干したところ、煌国の人々が驚愕した。
「その茶は、少しずつ味わうものです!」
「え? 嗉が渇いてたから……」
「いや、そういう意味では……」
でも、そんな失敗も、すぐに笑い話になった。
エリーゼは、煌国の女性商人と話をしていた。
「妊娠中は、温かいお茶がいいですよ」
女性は、香り高い茶葉を分けてくれた。
「これは安胎茶(あんたいちゃ)。母子ともに健康でいられるように」
「ありがとうございます」
異国の地にも、命を慈しむ心は同じようにあった。
◆
宴も終盤にさしかかった頃、リン・シャオが立ち上がった。
「皆様、本日は温かく迎えていただき、ありがとうございます」
彼は杯を掲げる。
「これを機に、煌国とヴェリディアン王国の間に、定期的な交易路を開きたいと思います」
歓声が上がる。
「月に一度、我々の船がこの港を訪れます。品物だけでなく、人の交流も深めていければ」
ガイウスが代表して答えた。
「我々も同じ思いです。平和だからこそできる、素晴らしい交流になるでしょう」
翔太も立ち上がった。
「掃除士学校の件も、本格的に考えてみます。東の技術と西の技術、お互いに学び合えることがたくさんありそうです」
「期待しています」
リン・シャオが微笑む。
宴が終わり、人々が帰路につき始めた頃、翔太とエリーゼは港に残って海を眺めていた。
「世界って、思っていたより広いのね」
エリーゼが呟く。
「ああ。まだまだ知らないことがたくさんある」
翔太は東の空を見つめた。
「この子が大きくなったら、一緒に煌国を訪ねてみたいな」
「そうね。きっと素敵な旅になるわ」
エリーゼがお腹をそっと撫でる。
リン・シャオがくれた翡翠の腕輪が、月明かりを受けて優しく輝いていた。
「掃除士学校か……」
翔太が考え込むように呟く。
「作るの?」
「うん。これまで、掃除の技術は個人個人で伝えてきたけど、体系的に教える場所があってもいいかもしれない」
「素敵なアイデアだと思うわ」
エリーゼが微笑む。
「子供たちが、掃除を通じて世界の大切さを学べる場所」
「そうだな。戦うためじゃなく、守り、育てるための技術として」
二人の前には、穏やかな海が広がっている。
東の大陸との新しい繋がりは、世界をより豊かにしていくだろう。
そして、掃除士学校という新しい夢も、形になろうとしていた。
平和な世界で、新たな交流が始まる。
それは、次の世代への素晴らしい贈り物になるはずだった。
━━━━━━━━━━━━━━━
【ステータス】
翔太 Lv.200【創世の掃除士】
HP: 99999/99999
MP: 50000/50000
エリーゼ Lv.60【聖女・生命を宿す者】
HP: 8000/8000
MP: 5000/5000
━━━━━━━━━━━━━━━
「東の商船が見えたぞ!」
見張り台からの声に、集まった人々がざわめく。翔太とエリーゼも、ゆっくりとした足取りで港へと向かっていた。
「無理しなくていいよ」
翔太が心配そうにエリーゼを見る。昨日、妊娠が判明したばかりだ。
「大丈夫。私も東の大陸の人たちに会ってみたいの」
エリーゼが微笑むと、その頭上に【体調:良好】という表示が一瞬現れて消えた。システムもまだ完全には落ち着いていないらしい。
港に着くと、すでに多くの人々が集まっていた。商人たちは興奮気味に話し合い、子供たちは初めて見る大型船に目を輝かせている。
「でかいなあ!」
リクも到着していた。隣にはミーナ、そしてカールやレオの姿もある。
「皆も来たのか」
「こんな機会、滅多にないだろ?」
確かに、東の大陸との交流は虚無王との戦いで長らく途絶えていた。平和が戻った今、ようやく海路も安全になったのだ。
◆
東の商船は、見慣れた帆船とは明らかに異なる造りをしていた。
船体には美しい龍の彫刻が施され、赤と金の鮮やかな帆が風を受けて膨らんでいる。マストの先端には、見たことのない形の旗がはためいていた。
「あれは……煌国(こうこく)の紋章だ」
王宮から派遣された外交官が説明する。
「煌国?」
「東の大陸にある大国です。我々とは異なるシステムで動いているという話ですが……」
船が接岸すると、タラップが降ろされた。
最初に降りてきたのは、絹のような光沢を持つ衣服を纏った中年の男性だった。長い髪を高く結い上げ、腰には見慣れない形の剣を帯びている。
男性は港に降り立つと、両手を前で組み、深々と頭を下げた。
「初めまして。私は煌国の交易商、リン・シャオと申します」
流暢な共通語だが、独特のイントネーションが混じっている。
《リン・シャオ 三段【交易商】》
翔太の頭上に、見慣れない表示が現れた。レベルではなく、「段」という単位らしい。
「ようこそ、ヴェリディアン王国へ。私は王国騎士団長のガイウスです」
ガイウスが前に出て挨拶を交わす。
リン・シャオは微笑みながら、後ろを振り返った。
「皆、降りてきなさい」
船から次々と人々が降りてくる。皆、色鮮やかな衣服を身に着け、大きな荷物を抱えていた。
「これは……」
荷物の中から、見たことのない品物が次々と取り出される。
透き通るような白い陶器、虹色に輝く絹織物、そして芳しい香りを放つ小さな木箱。
「これは我が国の特産品です。ぜひ、ご覧ください」
リン・シャオが木箱を開けると、濃厚な香りが広がった。
「香辛料?」
「はい。これは『天香(てんこう)』と呼ばれる香辛料です。料理に少し加えるだけで、驚くほど風味が豊かになります」
商人たちが興味深そうに品物を眺める中、リン・シャオは翔太たちに気付いた。
「おや、あなたは……」
彼の目が翔太のステータスを確認したらしい。驚きの表情を浮かべる。
「レベル200……いえ、この圧倒的な清浄な気……まさか、あの虚無王を倒したという?」
「ええ、まあ……」
翔太が照れくさそうに頷くと、リン・シャオは再び深々と頭を下げた。
「お会いできて光栄です。東の大陸にも、あなたの功績は伝わっています」
「そんな、大げさな……」
リン・シャオは顔を上げると、今度はエリーゼに目を向けた。その瞬間、彼の表情が柔らかくなる。
「奥様は……生命を宿しておられますね」
「え? わかるんですか?」
エリーゼが驚く。
「我が国には、気の流れを読む技術があります。新しい命の輝きは、特に美しく見えるものです」
リン・シャオは部下に何か指示すると、小さな袋を取り出させた。
「これを」
差し出された袋を開けると、中には美しい翡翠の腕輪が入っていた。
「これは?」
「煌国に伝わる安産のお守りです。母子の健康を願う気が込められています」
「でも、こんな高価そうなもの……」
エリーゼが遠慮すると、リン・シャオは首を横に振った。
「平和をもたらした英雄のお子様です。これくらいは、させていただきたい」
◆
港に仮設の交易所が設けられ、東の品物が並べられた。
「この布、すごく肌触りがいいわ!」
「この茶葉、初めての香りだ」
街の人々は、珍しい品物に夢中になっていた。
翔太たちは、リン・シャオから煌国について詳しく話を聞いていた。
「我が国は、あなた方とは異なるシステムで成り立っています」
「段位制、でしたっけ?」
ミーナが尋ねる。
「はい。レベルではなく、修行によって段位を上げていく。一段から始まり、最高位は九段です」
「へえ、面白いな」
リクが興味深そうに頷く。
「ただし」リン・シャオが続けた。「段位は単なる強さの指標ではありません。技術、知識、そして心の在り方すべてを総合したものです」
「心の在り方?」
「はい。いくら技術があっても、心が伴わなければ段位は上がりません」
その考え方は、どこか掃除士の理念に通じるものがあった。
リン・シャオは翔太を見つめた。
「実は、あなたにお願いがあります」
「何でしょう?」
「『掃除』という概念に、我々はとても興味があります」
意外な言葉に、翔太は目を丸くした。
「掃除に?」
「はい。聞くところによれば、単なる清掃ではなく、世界そのものを清める技術だとか」
リン・シャオの目が真剣な光を帯びる。
「我が国にも、邪気を払う術はあります。しかし、あなたの『掃除』は、それをはるかに超えた何かのようです」
カールが誇らしげに胸を張った。
「その通りです! 翔太様の掃除術は、世界を救った偉大な技術なのです」
「やはり……」リン・シャオが頷く。「もし可能なら、その技術を学ばせていただけないでしょうか」
翔太は少し考えてから答えた。
「掃除の技術自体は、誰でも学べます。ただ……」
「ただ?」
「本質を理解するには、時間がかかるかもしれません」
「時間なら、いくらでもかけます」
リン・シャオの真摯な態度に、翔太は微笑んだ。
「わかりました。でも、一人で教えるのは大変だな……」
ふと、翔太の脳裏にあるアイデアが浮かんだ。
「そうだ、いっそのこと……」
「翔太?」
エリーゼが不思議そうに見つめる。
「掃除を体系的に教える場所を作るのはどうだろう? 学校みたいな」
「学校?」
レオの目が輝いた。
「それいいですね! 掃除士学校!」
カールも興奮気味に同意する。
「素晴らしいアイデアです! 世界中から生徒が集まるかもしれません」
リン・シャオも期待に満ちた表情を見せた。
「それは素晴らしい。我が国からも、ぜひ留学生を送らせていただきたい」
◆
夕方になり、歓迎の宴が開かれることになった。
王宮から料理人が派遣され、港に大きなテーブルが並べられる。ヴェリディアン王国の料理と、煌国から持ち込まれた食材を使った料理が、次々と並んでいく。
「これは煌国の餃子(ぎょうざ)という料理です」
リン・シャオが説明する、小麦粉の皮に包まれた料理を、翔太は興味深そうに口に運んだ。
「うまい!」
肉汁が口いっぱいに広がる。
「これは春巻き(はるまき)です」
パリパリとした食感が楽しい。
東西の料理が並ぶテーブルを囲んで、人々は楽しそうに語り合っていた。
文化の違いが、時に笑いを生む。
煌国の人々は、フォークとナイフの使い方に苦戦し、ヴェリディアンの人々は、箸の扱いに四苦八苦していた。
「こう持つんです」
「いや、難しい……」
言葉は通訳魔法でなんとか通じるものの、細かなニュアンスの違いで、おかしな会話になることもあった。
煌国の若者が、ヴェリディアンの女性に声をかける。
「あなたは月のように美しい」
それが「あなたは丸い」と誤訳されて、場が凍りついたり。
リン・シャオがガイウスに挨拶した時、煌国式のお辞儀をしたつもりが、通訳魔法が「あなたの前で地面に頭をつけます」と訳してしまい、ガイウスが慌てて止める一幕も。
「そ、そんな大それたことを!」
「いえ、これが我が国の礼儀ですから」
また、ヴェリディアンの商人が煌国の茶を一気に飲み干したところ、煌国の人々が驚愕した。
「その茶は、少しずつ味わうものです!」
「え? 嗉が渇いてたから……」
「いや、そういう意味では……」
でも、そんな失敗も、すぐに笑い話になった。
エリーゼは、煌国の女性商人と話をしていた。
「妊娠中は、温かいお茶がいいですよ」
女性は、香り高い茶葉を分けてくれた。
「これは安胎茶(あんたいちゃ)。母子ともに健康でいられるように」
「ありがとうございます」
異国の地にも、命を慈しむ心は同じようにあった。
◆
宴も終盤にさしかかった頃、リン・シャオが立ち上がった。
「皆様、本日は温かく迎えていただき、ありがとうございます」
彼は杯を掲げる。
「これを機に、煌国とヴェリディアン王国の間に、定期的な交易路を開きたいと思います」
歓声が上がる。
「月に一度、我々の船がこの港を訪れます。品物だけでなく、人の交流も深めていければ」
ガイウスが代表して答えた。
「我々も同じ思いです。平和だからこそできる、素晴らしい交流になるでしょう」
翔太も立ち上がった。
「掃除士学校の件も、本格的に考えてみます。東の技術と西の技術、お互いに学び合えることがたくさんありそうです」
「期待しています」
リン・シャオが微笑む。
宴が終わり、人々が帰路につき始めた頃、翔太とエリーゼは港に残って海を眺めていた。
「世界って、思っていたより広いのね」
エリーゼが呟く。
「ああ。まだまだ知らないことがたくさんある」
翔太は東の空を見つめた。
「この子が大きくなったら、一緒に煌国を訪ねてみたいな」
「そうね。きっと素敵な旅になるわ」
エリーゼがお腹をそっと撫でる。
リン・シャオがくれた翡翠の腕輪が、月明かりを受けて優しく輝いていた。
「掃除士学校か……」
翔太が考え込むように呟く。
「作るの?」
「うん。これまで、掃除の技術は個人個人で伝えてきたけど、体系的に教える場所があってもいいかもしれない」
「素敵なアイデアだと思うわ」
エリーゼが微笑む。
「子供たちが、掃除を通じて世界の大切さを学べる場所」
「そうだな。戦うためじゃなく、守り、育てるための技術として」
二人の前には、穏やかな海が広がっている。
東の大陸との新しい繋がりは、世界をより豊かにしていくだろう。
そして、掃除士学校という新しい夢も、形になろうとしていた。
平和な世界で、新たな交流が始まる。
それは、次の世代への素晴らしい贈り物になるはずだった。
━━━━━━━━━━━━━━━
【ステータス】
翔太 Lv.200【創世の掃除士】
HP: 99999/99999
MP: 50000/50000
エリーゼ Lv.60【聖女・生命を宿す者】
HP: 8000/8000
MP: 5000/5000
━━━━━━━━━━━━━━━
0
あなたにおすすめの小説
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ホームレスは転生したら7歳児!?気弱でコミュ障だった僕が、気づいたら異種族の王になっていました
たぬきち
ファンタジー
1部が12/6に完結して、2部に入ります。
「俺だけ不幸なこんな世界…認めない…認めないぞ!!」
どこにでもいる、さえないおじさん。特技なし。彼女いない。仕事ない。お金ない。外見も悪い。頭もよくない。とにかくなんにもない。そんな主人公、アレン・ロザークが死の間際に涙ながらに訴えたのが人生のやりなおしー。
彼は30年という短い生涯を閉じると、記憶を引き継いだままその意識は幼少期へ飛ばされた。
幼少期に戻ったアレンは前世の記憶と、飼い猫と喋れるオリジナルスキルを頼りに、不都合な未来、出来事を改変していく。
記憶にない事象、改変後に新たに発生したトラブルと戦いながら、2度目の人生での仲間らとアレンは新たな人生を歩んでいく。
新しい世界では『魔宝殿』と呼ばれるダンジョンがあり、前世の世界ではいなかった魔獣、魔族、亜人などが存在し、ただの日雇い店員だった前世とは違い、ダンジョンへ仲間たちと挑んでいきます。
この物語は、記憶を引き継ぎ幼少期にタイムリープした主人公アレンが、自分の人生を都合のいい方へ改変しながら、最低最悪な未来を避け、全く新しい人生を手に入れていきます。
主人公最強系の魔法やスキルはありません。あくまでも前世の記憶と経験を頼りにアレンにとって都合のいい人生を手に入れる物語です。
※ ネタバレのため、2部が完結したらまた少し書きます。タイトルも2部の始まりに合わせて変えました。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜
最上 虎々
ファンタジー
ソドムの少年から平安武士、さらに日本兵から二十一世紀の男子高校生へ。
一つ一つの人生は短かった。
しかし幸か不幸か、今まで自分がどんな人生を歩んできたのかは覚えている。
だからこそ今度こそは長生きして、生きている実感と、生きる希望を持ちたい。
そんな想いを胸に、青年は五度目の命にして今までの四回とは別の世界に転生した。
早死にの男が、今まで死んできた世界とは違う場所で、今度こそ生き方を見つける物語。
本作は、「小説家になろう」、「カクヨム」、にも投稿しております。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる