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第49話 空中遺跡と風の守護者
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朝日が東の空から昇り、空中遺跡を金色に染めていた。
高原の野営地で、レオンと四人の覚醒個体、リヴィエルは出発の準備を整えていた。護衛隊には地上で待機するよう指示を出している。今回の探索は、レオン、四体、リヴィエル、そしてスライムだけで行う予定だった。
「本当に大丈夫なのですか、殿下」
炎龍騎士団の隊長であるガルヴァンが、不安そうな表情でレオンに尋ねる。レオンを無防備な状態で送り出すことへの抵抗が、その言葉の端々に滲んでいた。
レオンは彼の肩に手を置き、優しく微笑んだ。
「大丈夫です。今回は慎重な接触が必要なんです。大軍で押しかけたら、相手を怖がらせてしまう」
その言葉に、メルキオールが深く頷いて祈りを捧げる。
「神の加護がありますように」
チェン・ロンも算盤を叩きながら、冷静な声で言った。
「無事の帰還を祈ります。我々は待機の構えを整えております」
三国の護衛隊が、遠くから望遠鏡でレオンたちを見守る体制を整えた。万が一の事態に備え、いつでも突入できるよう準備している。
レオンたちは遺跡へと続く光の橋へ向かう。橋は朝日を受けて、虹色に輝いていた。
先頭を歩くフィルミナが、深呼吸をしてから一歩踏み出す。
「行きましょう、レオン様」
光の橋の上に足を踏み入れると、足元が透けて見えた。遥か下の大地が、眩しいほどに遠い。でも、橋はしっかりと足を支えてくれた。魔法陣の光が足の下で輝き、浮遊の魔力を感じ取れる。
リヴィエルが橋の端を見下ろし、少し緊張した様子で呟く。
「高いですね…でも、この魔法技術は本当に凄い」
そんな彼女に、クリスタが笑顔で応じた。
「でも、この景色は最高!こんな体験、滅多にできないわよ」
橋を渡りながら、レオンは周囲を観察していた。古代の魔法陣が橋の下に浮かび、複雑な紋様を描いている。浮遊の原理、魔力の流れ、全てが学びの対象だった。
(こんな高度な魔法技術が…この先に、新しい仲間が待っている)
期待と緊張が胸の中で混ざり合う。研究者としての興奮と、新しい出会いへの不安——どちらも、レオンの心を揺さぶっていた。
橋を渡り切ると、最初の石の島に到着した。
広い石畳の広場が広がり、その先に古代の建造物が見えてくる。石柱が並び、複雑な彫刻が施されていた。風の紋章、魔法文字、様々な意匠が石に刻まれている。
フィルミナは目を閉じ、魔力を感じ取ろうと集中した。
「とても強い気配…でも、優しい」
(この魔力…私たちと同じ。私たちが、この子を守る)
リーダーとしての使命感が胸を満たす。追放者から救済者へ——フィルミナは自分たちの役割を理解していた。かつて救われた者が、今度は救う側になる。その循環が、今ここで完成しようとしていた。
一行が遺跡の内部へと進む。石造りの回廊が続き、風が常に吹き抜けていた。窓から差し込む光が、回廊を幻想的に照らしている。
古い石壁に触れたテラは、その記憶の残滓を感じ取っていた。
「古い…とても古い記憶」
その言葉を聞いて、マリーナが周囲を見回す。
「誰かが住んでいた気配がする。この遺跡には、確かに生活の痕跡が残っているわ」
回廊を進むと、徐々に風の音が大きくなってきた。優しい風の音——まるで誰かが歌っているような、不思議な響きだった。
地上では、護衛隊が緊張した様子で見守っていた。
ガルヴァンが望遠鏡を覗く。
「殿下が遺跡に入られた…突入部隊の準備を!」
メルキオールが杖を掲げる。
「神よ、殿下をお守りください」
チェン・ロンが冷静に言う。
「殿下の指示は『待機』です。我々は信じて待ちましょう」
護衛隊の兵士たちが、不満げに呟く。
「本当に大丈夫なのか…」
「せめて偵察を…」
でも、レオンの指示は絶対だった。護衛隊は、ただ祈りながら見守ることしかできなかった。
---
回廊を進むと、やがて巨大な扉の前に出た。
高さ十メートルはある石造りの扉——その表面には、複雑な魔法陣が刻まれている。風の紋章が中央にあり、六つの円が周囲を囲んでいた。
レオンはその扉を見上げ、魔法陣の構造を理解しようと試みる。
「すごい…これは六体共鳴の魔法陣だ」
フィルミナの表情が真剣なものに変わり、一歩前に出た。
「みんな、手を繋いで」
四人が手を繋ぐ。白、茶、青、紺——四色の光が四人の周りを包み、扉へと伸びていく。
それに呼応するように、魔法陣が反応を始めた。四色の光が円の四つを照らし、淡く輝いている。でも、残りの円はまだ暗いままだった。
クリスタは魔法陣を見つめながら、小さく呟く。
「この封印…私たちと同じ」
(この魔法陣は、六体目を求めている。一緒に、この子を救おう)
共感と決意——クリスタの胸の中で、想いが交錯していた。自分もかつて封じられていた。その痛みを知っているからこそ、今度は救う側になりたい。
扉がゆっくりと開き始める。重い石の音が響き、中から強い風が吹き出してきた。風に乗って、優しい魔力の気配が伝わってくる。
扉が完全に開くと、その先に暗い神殿の内部が見えた。
風の音だけが響いている——不思議な静けさと、何かを待つような空気が、神殿を満たしていた。
レオンが一歩踏み出す。
「行こう」
四体、リヴィエル、スライムが、レオンに続いた。
---
神殿の最奥部——円形の広間に、一行は辿り着いた。
薄暗い空間に、中央の魔法陣だけが淡く光っている。その魔法陣の中心に、少女が膝を抱えて座っていた。
背を向けたまま、動かない。
銀色の長い髪が、風に揺れている。白と青の古代衣装——ぼろぼろだが、優雅な雰囲気を保っていた。少女の周りを、風が渦巻いている。まるで守るように、そして同時に縛るように。
レオンは優しい声で、静かに呼びかけた。
「こんにちは」
少女が少しだけ反応する。でも、顔を上げない。
「また…誰かが来た」
か細い声——どこか諦めたような、虚ろな響きがあった。
フィルミナは深呼吸をして、一歩前に出る。彼女の表情には、確かな決意が浮かんでいた。
「私たちは、あなたに会いに来ました」
少女がゆっくりと顔を上げる。
青灰色の瞳——虚ろで、悲しげで、でも奥にわずかな光が宿っていた。無表情な顔に、300年の孤独が滲み出ている。か弱い体つきだが、その周りを渦巻く風の魔力は、強大な力を秘めていた。
レオンは胸を打たれる。
(こんなに若い子が…300年も、一人で)
研究者としての興味ではなく、純粋な同情——レオンの胸の中で、想いが溢れていた。自分よりも遥かに長い時間、孤独に耐えてきた少女。その痛みを、少しでも理解したかった。
少女がレオンを見つめる。
「あなたは…誰?」
レオンは穏やかに微笑みかけた。
「僕はレオン。君の名前は?」
少女が少し戸惑う。
「名前…エオリア」
「エオリア…綺麗な名前だね」
エオリアの目が、わずかに見開かれる。名前を褒められるなんて、何百年ぶりだろうか。
四体がエオリアの前に集まる。
フィルミナは温かい笑顔を浮かべ、優しい声で語りかけた。
「エオリア、私たちはあなたの仲間です」
フィルミナが続けて、自分たちの境遇を伝える。
「私たちも、同じように孤独だった者。だから、あなたの気持ちがわかる」
クリスタは手を伸ばし、エオリアに向けて希望に満ちた声で呼びかける。
「一緒に、ここを出よう。もう一人で戦わなくていいの」
マリーナの顔に、明るい笑顔が広がった。
「家族になろう。私たちと一緒に」
テラが最後に、静かだが確かな声で付け加える。
「もう一人じゃない。私たちがいる」
リヴィエルも静かに頷きながら、エオリアに寄り添う。
「私たちが守るから。もう怖がらなくていい」
エオリアの目に、わずかに光が宿る。でも、すぐに虚ろな表情に戻った。
(また...誰かが来た。でも、どうせ...みんな去っていく)
300年の孤独が教えた絶望——エオリアの心の中で、希望と諦めが戦っていた。何度も期待して、何度も裏切られた。もう、誰も信じられない。でも、それでも——この人たちの目は、優しかった。
スライムが「シュワアア」と鳴いて、エオリアの方へ飛んでいく。
エオリアが少し驚いて、スライムを見つめた。
「これは...何?」
レオンが笑顔で答える。
「僕の友達のスライムだよ」
スライムがエオリアの手の上に乗る。温かい感触——エオリアは、その温もりに少しだけ心が和んだ。
---
四体がエオリアの周りを囲む。
レオンとリヴィエル、スライムは少し離れて、優しく見守っていた。
フィルミナが手を伸ばす。
「共鳴しましょう」
四人が手を繋ぎ、エオリアに向けて魔力を送る。白、茶、青、紺——四色の光がエオリアを包み始めた。
エオリアは驚いたように目を見開く。
「これは...温かい」
光が徐々に強くなる。風の魔力が四色の光に呼応し、銀色の気配が加わっていく。四色の光と風の銀色——五つの色が調和し、広間全体を照らし始めた。
エオリアの周りを渦巻いていた風が、攻撃的な気配から保護的で優しいものへと、少しずつ変化していく。
魔法陣が強く反応する。広間全体が光に包まれ、封印が少しずつ解けていく様子が見えた。
エオリアの青灰色の瞳に、確かな光が戻ってくる。輝きが宿り、表情に感情が現れ始めた。
驚き——戸惑い——そして、微かな希望。
エオリアが初めて、か細いながらも確かな存在感のある声で言葉を発する。
「あなた...たちは?」
フィルミナは彼女を包み込むように、優しく答えた。
「私たちは、あなたの家族」
クリスタが希望に満ちた表情で、手を差し伸べる。
「一緒に来て。もう、ここにいる必要はないわ」
マリーナの顔に、喜びの涙が浮かぶ。
「やっと会えた...新しい家族」
(新しい仲間...やっと会えた。私たちの家族が、また増える)
喜びと感動——マリーナの胸の中で、想いが溢れていた。追放された者同士が集まり、家族になる。その奇跡を、もう一度目の当たりにしている。この喜びを、エオリアと分かち合いたかった。
リヴィエルは穏やかな笑顔を浮かべ、エオリアの不安を和らげようとする。
「大丈夫。私たちが守るから」
(私も、レオン様に救われて家族ができた。今度は私が、この子を支える番)
かつて自分も貴族家が没落し、レオンに救われた記憶が蘇る。あの時の不安と、そして安心——それを、今エオリアに伝えたい。リヴィエルの心は、静かな決意に満ちていた。
テラが深い声で、静かに付け加える。
「私たちが、守る。もう誰にも、傷つけさせない」
エオリアの表情が変化していく。無表情から、少しずつ感情が浮かび上がる。戸惑いと、希望と、そして——涙。
「温かい...これは何...?」
(温かい...こんな感覚、忘れていた。これが...家族?)
エオリアの心の中で、何かが溶けていく。300年間凍りついていた感情が、少しずつ温かくなっていく。この人たちは、本当に自分を受け入れてくれるのだろうか。そんな希望が、胸の中で芽生え始めていた。
共鳴が強まる。五色の光が広間を満たし、遺跡全体が輝き始めた。外から見ても分かるほど、強い光が神殿を包んでいく。
スライムが「シュワアア!」と喜びの声を上げる。
---
エオリアは震える足でゆっくりと立ち上がる。
足元が少しふらついたが、フィルミナがすぐに支えた。
「大丈夫?」
エオリアは小さく頷く。
「うん...大丈夫」
五人が手を繋ぐ。白、茶、青、紺、そして銀色——五色の光が広間を満たし、圧倒的な美しさで輝いていく。魔法陣が完全に反応し、封印が解けていく音が響いた。
遺跡全体が光に包まれる。外から見ても、その光は眩しいほどだった。
レオンは温かい笑顔を浮かべ、エオリアに語りかける。
「ようこそ、僕たちの家族へ」
エオリアは、初めて微かな笑顔を見せた。小さな、でも確かな笑顔——それは、300年ぶりの希望の証だった。
地上では、護衛隊が遺跡全体が光るのを見ていた。
ガルヴァンは剣を高々と掲げ、勝利を宣言する。
「作戦成功!空中要塞を制圧したぞ!」
メルキオールが感動の涙を浮かべながら、祈りを捧げる。
「神域の奇跡!歴史的瞬間だ!」
チェン・ロンは素早く算盤を叩き、その価値を計算していた。
「新資源確保成功!これは大変な価値がある!」
一般の兵士たちが歓声を上げる。
「レオン様万歳!」
「世界統一また一歩!」
レオンの知らないところで、また新たな伝説が生まれようとしていた。
神殿の中で、五人の覚醒個体が手を繋いだまま立っている。
エオリアが小さく、震える声で呟く。
「私には...罪があります」
フィルミナは彼女の手をしっかりと握りしめ、力強く答えた。
「大丈夫。私たちがいる」
レオンも穏やかに頷きながら、エオリアに寄り添う。
「ゆっくり、話してくれればいい。急がなくていいから」
クリスタが両手でエオリアの手を包み込む。
「何があっても、家族だから。一緒に乗り越えられる」
マリーナは明るい笑顔を見せながら、希望に満ちた声で言う。
「一緒に乗り越えよう。もう一人で抱え込む必要はないわ」
テラが静かだが、確かな声で付け加える。
「私たちは、仲間。どんな過去があっても、それは変わらない」
リヴィエルは優しく微笑みながら、エオリアの肩に手を置いた。
「もう一人じゃない。これからは、ずっと一緒だから」
エオリアの目から、一筋の涙が流れた。
(温かい...家族...私にも、居場所が)
希望——それは、300年の孤独を経て、ようやく訪れた光だった。暗闇の中で待ち続けた少女に、ついに家族が現れた。この温もりを、二度と手放したくない。そんな想いが、エオリアの胸を満たしていた。
遺跡の光が、徐々に穏やかになっていく。五体共鳴の力が、遺跡全体を優しく包んでいた。
新しい家族——五人の覚醒個体が、ここに誕生した。
風の守護者エオリアは、もう一人ではなかった。
高原の野営地で、レオンと四人の覚醒個体、リヴィエルは出発の準備を整えていた。護衛隊には地上で待機するよう指示を出している。今回の探索は、レオン、四体、リヴィエル、そしてスライムだけで行う予定だった。
「本当に大丈夫なのですか、殿下」
炎龍騎士団の隊長であるガルヴァンが、不安そうな表情でレオンに尋ねる。レオンを無防備な状態で送り出すことへの抵抗が、その言葉の端々に滲んでいた。
レオンは彼の肩に手を置き、優しく微笑んだ。
「大丈夫です。今回は慎重な接触が必要なんです。大軍で押しかけたら、相手を怖がらせてしまう」
その言葉に、メルキオールが深く頷いて祈りを捧げる。
「神の加護がありますように」
チェン・ロンも算盤を叩きながら、冷静な声で言った。
「無事の帰還を祈ります。我々は待機の構えを整えております」
三国の護衛隊が、遠くから望遠鏡でレオンたちを見守る体制を整えた。万が一の事態に備え、いつでも突入できるよう準備している。
レオンたちは遺跡へと続く光の橋へ向かう。橋は朝日を受けて、虹色に輝いていた。
先頭を歩くフィルミナが、深呼吸をしてから一歩踏み出す。
「行きましょう、レオン様」
光の橋の上に足を踏み入れると、足元が透けて見えた。遥か下の大地が、眩しいほどに遠い。でも、橋はしっかりと足を支えてくれた。魔法陣の光が足の下で輝き、浮遊の魔力を感じ取れる。
リヴィエルが橋の端を見下ろし、少し緊張した様子で呟く。
「高いですね…でも、この魔法技術は本当に凄い」
そんな彼女に、クリスタが笑顔で応じた。
「でも、この景色は最高!こんな体験、滅多にできないわよ」
橋を渡りながら、レオンは周囲を観察していた。古代の魔法陣が橋の下に浮かび、複雑な紋様を描いている。浮遊の原理、魔力の流れ、全てが学びの対象だった。
(こんな高度な魔法技術が…この先に、新しい仲間が待っている)
期待と緊張が胸の中で混ざり合う。研究者としての興奮と、新しい出会いへの不安——どちらも、レオンの心を揺さぶっていた。
橋を渡り切ると、最初の石の島に到着した。
広い石畳の広場が広がり、その先に古代の建造物が見えてくる。石柱が並び、複雑な彫刻が施されていた。風の紋章、魔法文字、様々な意匠が石に刻まれている。
フィルミナは目を閉じ、魔力を感じ取ろうと集中した。
「とても強い気配…でも、優しい」
(この魔力…私たちと同じ。私たちが、この子を守る)
リーダーとしての使命感が胸を満たす。追放者から救済者へ——フィルミナは自分たちの役割を理解していた。かつて救われた者が、今度は救う側になる。その循環が、今ここで完成しようとしていた。
一行が遺跡の内部へと進む。石造りの回廊が続き、風が常に吹き抜けていた。窓から差し込む光が、回廊を幻想的に照らしている。
古い石壁に触れたテラは、その記憶の残滓を感じ取っていた。
「古い…とても古い記憶」
その言葉を聞いて、マリーナが周囲を見回す。
「誰かが住んでいた気配がする。この遺跡には、確かに生活の痕跡が残っているわ」
回廊を進むと、徐々に風の音が大きくなってきた。優しい風の音——まるで誰かが歌っているような、不思議な響きだった。
地上では、護衛隊が緊張した様子で見守っていた。
ガルヴァンが望遠鏡を覗く。
「殿下が遺跡に入られた…突入部隊の準備を!」
メルキオールが杖を掲げる。
「神よ、殿下をお守りください」
チェン・ロンが冷静に言う。
「殿下の指示は『待機』です。我々は信じて待ちましょう」
護衛隊の兵士たちが、不満げに呟く。
「本当に大丈夫なのか…」
「せめて偵察を…」
でも、レオンの指示は絶対だった。護衛隊は、ただ祈りながら見守ることしかできなかった。
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回廊を進むと、やがて巨大な扉の前に出た。
高さ十メートルはある石造りの扉——その表面には、複雑な魔法陣が刻まれている。風の紋章が中央にあり、六つの円が周囲を囲んでいた。
レオンはその扉を見上げ、魔法陣の構造を理解しようと試みる。
「すごい…これは六体共鳴の魔法陣だ」
フィルミナの表情が真剣なものに変わり、一歩前に出た。
「みんな、手を繋いで」
四人が手を繋ぐ。白、茶、青、紺——四色の光が四人の周りを包み、扉へと伸びていく。
それに呼応するように、魔法陣が反応を始めた。四色の光が円の四つを照らし、淡く輝いている。でも、残りの円はまだ暗いままだった。
クリスタは魔法陣を見つめながら、小さく呟く。
「この封印…私たちと同じ」
(この魔法陣は、六体目を求めている。一緒に、この子を救おう)
共感と決意——クリスタの胸の中で、想いが交錯していた。自分もかつて封じられていた。その痛みを知っているからこそ、今度は救う側になりたい。
扉がゆっくりと開き始める。重い石の音が響き、中から強い風が吹き出してきた。風に乗って、優しい魔力の気配が伝わってくる。
扉が完全に開くと、その先に暗い神殿の内部が見えた。
風の音だけが響いている——不思議な静けさと、何かを待つような空気が、神殿を満たしていた。
レオンが一歩踏み出す。
「行こう」
四体、リヴィエル、スライムが、レオンに続いた。
---
神殿の最奥部——円形の広間に、一行は辿り着いた。
薄暗い空間に、中央の魔法陣だけが淡く光っている。その魔法陣の中心に、少女が膝を抱えて座っていた。
背を向けたまま、動かない。
銀色の長い髪が、風に揺れている。白と青の古代衣装——ぼろぼろだが、優雅な雰囲気を保っていた。少女の周りを、風が渦巻いている。まるで守るように、そして同時に縛るように。
レオンは優しい声で、静かに呼びかけた。
「こんにちは」
少女が少しだけ反応する。でも、顔を上げない。
「また…誰かが来た」
か細い声——どこか諦めたような、虚ろな響きがあった。
フィルミナは深呼吸をして、一歩前に出る。彼女の表情には、確かな決意が浮かんでいた。
「私たちは、あなたに会いに来ました」
少女がゆっくりと顔を上げる。
青灰色の瞳——虚ろで、悲しげで、でも奥にわずかな光が宿っていた。無表情な顔に、300年の孤独が滲み出ている。か弱い体つきだが、その周りを渦巻く風の魔力は、強大な力を秘めていた。
レオンは胸を打たれる。
(こんなに若い子が…300年も、一人で)
研究者としての興味ではなく、純粋な同情——レオンの胸の中で、想いが溢れていた。自分よりも遥かに長い時間、孤独に耐えてきた少女。その痛みを、少しでも理解したかった。
少女がレオンを見つめる。
「あなたは…誰?」
レオンは穏やかに微笑みかけた。
「僕はレオン。君の名前は?」
少女が少し戸惑う。
「名前…エオリア」
「エオリア…綺麗な名前だね」
エオリアの目が、わずかに見開かれる。名前を褒められるなんて、何百年ぶりだろうか。
四体がエオリアの前に集まる。
フィルミナは温かい笑顔を浮かべ、優しい声で語りかけた。
「エオリア、私たちはあなたの仲間です」
フィルミナが続けて、自分たちの境遇を伝える。
「私たちも、同じように孤独だった者。だから、あなたの気持ちがわかる」
クリスタは手を伸ばし、エオリアに向けて希望に満ちた声で呼びかける。
「一緒に、ここを出よう。もう一人で戦わなくていいの」
マリーナの顔に、明るい笑顔が広がった。
「家族になろう。私たちと一緒に」
テラが最後に、静かだが確かな声で付け加える。
「もう一人じゃない。私たちがいる」
リヴィエルも静かに頷きながら、エオリアに寄り添う。
「私たちが守るから。もう怖がらなくていい」
エオリアの目に、わずかに光が宿る。でも、すぐに虚ろな表情に戻った。
(また...誰かが来た。でも、どうせ...みんな去っていく)
300年の孤独が教えた絶望——エオリアの心の中で、希望と諦めが戦っていた。何度も期待して、何度も裏切られた。もう、誰も信じられない。でも、それでも——この人たちの目は、優しかった。
スライムが「シュワアア」と鳴いて、エオリアの方へ飛んでいく。
エオリアが少し驚いて、スライムを見つめた。
「これは...何?」
レオンが笑顔で答える。
「僕の友達のスライムだよ」
スライムがエオリアの手の上に乗る。温かい感触——エオリアは、その温もりに少しだけ心が和んだ。
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四体がエオリアの周りを囲む。
レオンとリヴィエル、スライムは少し離れて、優しく見守っていた。
フィルミナが手を伸ばす。
「共鳴しましょう」
四人が手を繋ぎ、エオリアに向けて魔力を送る。白、茶、青、紺——四色の光がエオリアを包み始めた。
エオリアは驚いたように目を見開く。
「これは...温かい」
光が徐々に強くなる。風の魔力が四色の光に呼応し、銀色の気配が加わっていく。四色の光と風の銀色——五つの色が調和し、広間全体を照らし始めた。
エオリアの周りを渦巻いていた風が、攻撃的な気配から保護的で優しいものへと、少しずつ変化していく。
魔法陣が強く反応する。広間全体が光に包まれ、封印が少しずつ解けていく様子が見えた。
エオリアの青灰色の瞳に、確かな光が戻ってくる。輝きが宿り、表情に感情が現れ始めた。
驚き——戸惑い——そして、微かな希望。
エオリアが初めて、か細いながらも確かな存在感のある声で言葉を発する。
「あなた...たちは?」
フィルミナは彼女を包み込むように、優しく答えた。
「私たちは、あなたの家族」
クリスタが希望に満ちた表情で、手を差し伸べる。
「一緒に来て。もう、ここにいる必要はないわ」
マリーナの顔に、喜びの涙が浮かぶ。
「やっと会えた...新しい家族」
(新しい仲間...やっと会えた。私たちの家族が、また増える)
喜びと感動——マリーナの胸の中で、想いが溢れていた。追放された者同士が集まり、家族になる。その奇跡を、もう一度目の当たりにしている。この喜びを、エオリアと分かち合いたかった。
リヴィエルは穏やかな笑顔を浮かべ、エオリアの不安を和らげようとする。
「大丈夫。私たちが守るから」
(私も、レオン様に救われて家族ができた。今度は私が、この子を支える番)
かつて自分も貴族家が没落し、レオンに救われた記憶が蘇る。あの時の不安と、そして安心——それを、今エオリアに伝えたい。リヴィエルの心は、静かな決意に満ちていた。
テラが深い声で、静かに付け加える。
「私たちが、守る。もう誰にも、傷つけさせない」
エオリアの表情が変化していく。無表情から、少しずつ感情が浮かび上がる。戸惑いと、希望と、そして——涙。
「温かい...これは何...?」
(温かい...こんな感覚、忘れていた。これが...家族?)
エオリアの心の中で、何かが溶けていく。300年間凍りついていた感情が、少しずつ温かくなっていく。この人たちは、本当に自分を受け入れてくれるのだろうか。そんな希望が、胸の中で芽生え始めていた。
共鳴が強まる。五色の光が広間を満たし、遺跡全体が輝き始めた。外から見ても分かるほど、強い光が神殿を包んでいく。
スライムが「シュワアア!」と喜びの声を上げる。
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エオリアは震える足でゆっくりと立ち上がる。
足元が少しふらついたが、フィルミナがすぐに支えた。
「大丈夫?」
エオリアは小さく頷く。
「うん...大丈夫」
五人が手を繋ぐ。白、茶、青、紺、そして銀色——五色の光が広間を満たし、圧倒的な美しさで輝いていく。魔法陣が完全に反応し、封印が解けていく音が響いた。
遺跡全体が光に包まれる。外から見ても、その光は眩しいほどだった。
レオンは温かい笑顔を浮かべ、エオリアに語りかける。
「ようこそ、僕たちの家族へ」
エオリアは、初めて微かな笑顔を見せた。小さな、でも確かな笑顔——それは、300年ぶりの希望の証だった。
地上では、護衛隊が遺跡全体が光るのを見ていた。
ガルヴァンは剣を高々と掲げ、勝利を宣言する。
「作戦成功!空中要塞を制圧したぞ!」
メルキオールが感動の涙を浮かべながら、祈りを捧げる。
「神域の奇跡!歴史的瞬間だ!」
チェン・ロンは素早く算盤を叩き、その価値を計算していた。
「新資源確保成功!これは大変な価値がある!」
一般の兵士たちが歓声を上げる。
「レオン様万歳!」
「世界統一また一歩!」
レオンの知らないところで、また新たな伝説が生まれようとしていた。
神殿の中で、五人の覚醒個体が手を繋いだまま立っている。
エオリアが小さく、震える声で呟く。
「私には...罪があります」
フィルミナは彼女の手をしっかりと握りしめ、力強く答えた。
「大丈夫。私たちがいる」
レオンも穏やかに頷きながら、エオリアに寄り添う。
「ゆっくり、話してくれればいい。急がなくていいから」
クリスタが両手でエオリアの手を包み込む。
「何があっても、家族だから。一緒に乗り越えられる」
マリーナは明るい笑顔を見せながら、希望に満ちた声で言う。
「一緒に乗り越えよう。もう一人で抱え込む必要はないわ」
テラが静かだが、確かな声で付け加える。
「私たちは、仲間。どんな過去があっても、それは変わらない」
リヴィエルは優しく微笑みながら、エオリアの肩に手を置いた。
「もう一人じゃない。これからは、ずっと一緒だから」
エオリアの目から、一筋の涙が流れた。
(温かい...家族...私にも、居場所が)
希望——それは、300年の孤独を経て、ようやく訪れた光だった。暗闇の中で待ち続けた少女に、ついに家族が現れた。この温もりを、二度と手放したくない。そんな想いが、エオリアの胸を満たしていた。
遺跡の光が、徐々に穏やかになっていく。五体共鳴の力が、遺跡全体を優しく包んでいた。
新しい家族——五人の覚醒個体が、ここに誕生した。
風の守護者エオリアは、もう一人ではなかった。
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伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
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武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
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私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
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これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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