転生王子はスライムを育てたい ~最弱モンスターが世界を変える科学的飼育法~

宵町あかり

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第50話 裏切り者の烙印

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 翌朝、遺跡に朝日が差し込んでいた。

 レオンと五体、リヴィエル、シグレは遺跡の奥を探索していた。石造りの回廊を進むと、これまで見たことのない部屋が次々と現れる。古代の住居跡、祭壇、そして——

「殿下、これは」

 シグレが立ち止まり、目の前に広がる光景に息を呑んだ。石棚が壁一面に並ぶ図書室——古代の知識が眠る場所だった。

 古代の文献が無数に保管されている。羊皮紙、石板、魔法で保存された書物——500年前の知識が、ここに眠っていた。

 レオンは目を輝かせながら、図書室全体を見回した。

「すごい...古代の記録がこんなに残っているなんて」

 研究者としての興奮が胸を満たす。前世の科学知識と、この世界の魔法——両方を学んできたレオンにとって、古代文献は宝の山だった。

(500年前の記録...失われた知識が、ここに)

 シグレは慎重に文献を一冊取り出し、ページをめくる。

「古代語で書かれていますね。読めますか?」

 レオンは自信を持って頷いた。

「シグレ先生に習ったおかげで、何とか読めます」

 フィルミナたちも興味津々で近づいてくる。でも、エオリアだけは少し離れた場所で、不安そうにしていた。

 最初の文献を手に取り、レオンはゆっくりとページを開く。

「第5覚醒個体、エオリア...」

 エオリアの名前が、最初の行に記されていた。

「風の守護者として生まれた」

「自由を愛し、変化を促す存在」

「調和の中で、最も自由な力を持つ」

 ここまでは、エオリアを称賛する内容だった。フィルミナが安心したように微笑む。

 でも、次のページをめくった瞬間——

 レオンの表情が凍りついた。

 地上では、ガルヴァンが通信魔法で報告を聞いていた。

「古代図書室発見...機密情報の宝庫だ!」

 メルキオールが祈りを捧げる。

「神の記録を発見されたか」

 チェン・ロンが冷静に付け加える。

「殿下は、いつも重要な発見をされる」

---

 レオンの手が震えている。

「これは...」

 文献に書かれた内容——それは、あまりにも衝撃的だった。

「エオリア、調和を破壊せし裏切り者」

「500年前、第1から第4覚醒個体を攻撃」

「四体が傷つけられた記録あり」

「エオリアは追放を受けるべき存在」

 室内が静まり返る。重苦しい沈黙が、図書室を包んだ。

 フィルミナは文献を覗き込み、その内容を読むにつれて顔が青ざめていく。

「そんな...エオリアが私たちの前の世代を?」

 テラが額に手を当て、深く集中する。

「記憶が...確かに攻撃された記憶がある」

 マリーナは混乱した様子で、エオリアと文献を交互に見つめた。

「でも、どうして?どうしてそんなことを?」

 クリスタは文献を見つめながら、何かを考え込んでいる。

「待って...何か違う気がする。この記述、変じゃない?」

 リヴィエルの表情が警戒に変わり、剣に手を伸ばしかける。

「殿下、これは罠かもしれません。慎重に」

 エオリアが文献を見て、顔が真っ青になった。震える声で言う。

「違う...私は裏切ってない!」

 必死の訴え——でも、文献という証拠が目の前にあった。

「信じて...お願い」

 涙声で訴えるエオリア。青灰色の瞳に、涙が浮かんでいた。

「でも、証拠が...」

 絶望的な表情で、エオリアは俯いた。

 レオンが文献を見つめる。

(裏切り者...?でも、エオリアはそんな人じゃない気がする)

 研究者としての冷静さと、人としての直感——両方が、レオンの心の中で戦っていた。

(何かがおかしい...この記録、本当なのか?)

 フィルミナは複雑な表情でエオリアを見つめていた。

(証拠がある...でも、昨日の優しさは嘘じゃなかった)

 リーダーとして、真実を見極めなければならない。でも、心のどこかで——エオリアを信じたかった。

---

 シグレがさらに奥の棚から、別の文献を発見する。

「殿下...さらに記録があります」

 レオンはその文献を受け取り、ページを開いた。そこには、さらに詳細な証拠が記されていた。

「エオリア、500年前の冬至の日、遺跡にて四体を攻撃」

 具体的な日時が記載されていた。

 次の文献には、破壊された遺跡の図面が描かれている。そこには「エオリアの魔力により破壊」という注釈があった。

 さらに別の箱から、魔力痕跡が残された結晶が見つかる。シグレが魔力を感じ取り、驚いた表情を浮かべた。

「これは...エオリアの魔力と一致します」

 証拠が次々と積み重なっていく。

 エオリアは必死に弁明しようとするが、声が震えて言葉にならない。

「確かに...この日、私はここにいた」

「でも、攻撃なんてしてない!」

「誰かが...誰かが私の力を使った」

 泣きながら訴えるエオリア。

「信じて...本当に違うの」

 でも、証拠はあまりにも具体的だった。

 テラは混乱した様子で、記憶を探ろうとする。

「記憶にない...でも記録は確か」

 マリーナも困惑し、どう反応していいかわからない様子だ。

「どっちが本当なの?どっちを信じれば...」

(この子は...本当に裏切り者なのか?)

 マリーナの心の中で、疑念と信頼が揺れ動いていた。昨日まで一緒に笑っていた仲間。その子が裏切り者だったなんて、信じたくない。でも、証拠がこんなにある。何を信じればいいのだろう。

 フィルミナは複雑な表情でエオリアを見つめながら、心の中で葛藤していた。

 レオンは文献を見つめながら、違和感を覚えていた。

(証拠は確かにある...でも)

 研究者としての直感が、何かを告げていた。

(この日付...少しずれている気がする)

 前世の科学的思考が働き始める。

(時系列が合わないところがある)

 文献を読み返し、図面を確認する。

(まるで...後から作られたような)

 クリスタはエオリアに近づき、彼女の手を取る。

「私も...追放された時、嘘をつかれた」

 共感の眼差しで、エオリアを見つめる。

(証拠だけで人を裁くのは...間違っている)

 かつて自分も、根拠のない噂で追放された。その痛みを、クリスタは忘れていない。だからこそ、エオリアの訴えを信じたい。証拠よりも、人を信じる勇気が必要なのではないか。

(科学者として、証拠だけで判断はできない)

 レオンの心の中で、決意が固まっていった。

---

 緊張が高まる中、レオンが前に出た。

「待ってください」

 冷静な声——研究者としての、理性的な響きがあった。

 全員がレオンを見つめる。

 レオンは文献を一つ一つ手に取り、丁寧に検証し始める。日付を確認し、図面を分析し、魔力痕跡を調べる——その姿は、まさに研究者そのものだった。

「この記録には、不自然な点があります」

「まず、この日付。時系列が少しずれている」

 指で日付の部分を示しながら、論理的に説明する。

「エオリアがここにいたとされる時刻に、別の場所にいた記録もある」

 別の文献を開いて、矛盾点を明示する。

「次に、この魔力痕跡」

 結晶を手に取り、光にかざして観察する。

「確かにエオリアの魔力に似ている。でも...微妙に違う」

 前世の科学知識が働く。

「まるでコピーされたような。DNAクローンと同じ原理かもしれない」

 シグレは驚いた表情を浮かべ、その可能性を理解する。

「魔力のコピー...理論的には可能ですが」

(確かに...魔力結晶による転写技術は文献にあった。しかし実用化された記録はない。もし誰かがその技術を...)

 シグレの心の中で、古代魔法学の知識が次々と繋がっていく。禁じられた技術。失われたはずの知識。それが、この事件の鍵を握っているのではないか。研究者として、この謎を解明したい衝動に駆られる。

 レオンは頷き、さらに推理を続ける。

「そして、最も重要なこと——動機がない」

 エオリアを見つめる。

「エオリアが四体を攻撃する理由が、どこにもない」

 研究者として、論理的に分析する。でも、その目は温かかった。

「証拠だけで判断はできない」

 エオリアの前に立つ。

「エオリア、君の言葉を聞かせて」

「僕は...君を信じたい」

「一緒に、真実を見つけよう」

「科学者として、そして人として」

 エオリアが驚いたように目を見開く。

 信じられないという表情——300年間、誰も信じてくれなかったから。

 涙が溢れる。

「本当に...信じてくれるの?」

「誰も...誰も信じてくれなかったのに」

 泣き崩れるエオリア。レオンが優しく肩に手を置いた。

「大丈夫。一緒に真実を証明するから」

(証拠よりも、人を信じる。それが僕の選択)

 科学者としての論理と、人としての温かさ——両方が、レオンの決断を支えていた。

 クリスタは涙目になりながら、レオンの優しさに感動する。

「レオン様...優しい」

 フィルミナはエオリアに駆け寄り、その肩を抱いた。

「そうよ。証拠だけじゃわからない。あなたの心は、嘘をついていない」

 そして、エオリアを力強く抱きしめる。

「私たちがいる。もう一人で戦わなくていい」

 マリーナは明るい笑顔を見せながら、エオリアの手を取った。

「私も信じる!証拠より、あなたを信じるわ」

 テラが深い声で、静かに付け加える。

「記憶を...もっと調べよう。真実は必ず見つかる」

 リヴィエルは剣から手を離し、穏やかに微笑んだ。

「殿下が信じるなら...私も信じます」

 五人が手を繋ぐ。家族の絆が、再び温かく輝いた。

(エオリアが...真実を見つけてくれる)

 エオリアの心の中で、希望が芽生えていた。300年間凍りついていた心が、少しずつ溶けていく。この温もりを、信じてもいいのだろうか。

 地上では、ガルヴァンが通信魔法で報告を聞いていた。

「殿下が裏切り者を擁護!」

「これが...殿下の洗脳技術か!」

 メルキオールが祈りを捧げる。

「神の慈悲を体現された...」

 チェン・ロンが冷静に言う。

「殿下の判断を信じましょう」

---

 エオリアはゆっくりと語り始める。涙を拭いながら、500年間抱えてきた真実を打ち明けた。

「500年前...私は確かにここにいた」

「でも、その時、誰かが四体を攻撃した」

「私の力が...使われていた」

 震える声で告白する。

「誰かが私の魔力をコピーして...」

 レオンは真剣な表情で、その言葉を一つ一つ受け止めている。

「魔力のコピー...可能なのか?」

 前世の知識が働く。

「DNAのクローン技術があった。魔力も同じ原理でコピーできるかもしれない」

「でも、誰が?何のために?」

 シグレが別の文献を発見し、レオンに差し出す。

「殿下...これを」

 古い羊皮紙に、興味深い記述があった。

「秩序を守る者たち」

「変化を恐れ、調和を破壊しようとした」

「五体の集合を阻止する使命」

 レオンはその文献を読み進め、眉をひそめる。

「これは...組織の存在を示唆している」

 エオリアが涙を流しながら、続ける。

「私は...罪を着せられた」

「でも、戦えば誰かを傷つける」

「だから...自分が消えれば平和が保たれると思った」

「500年間、ずっと...」

 フィルミナはエオリアを強く抱きしめ、その背中を優しく撫でた。

「そんな...あなたは犠牲になったのね。一人で、すべてを背負って」

 クリスタも涙を流しながら、エオリアの手を握る。

「私と同じ...追放された。でも、もう違う。私たちがいる」

 四体全員がエオリアを囲み、温かい抱擁で包む。

「もう一人じゃない。私たちが、あなたを守る」

 温かい抱擁——エオリアの心が、少しずつ開いていく。

 レオンは決意を込めた表情で、宣言する。

「魔力コピー理論...研究したい」

 地上では、ガルヴァンが叫んでいた。

「兵器複製技術だ!殿下の新戦略!」

 メルキオールが祈りを捧げる。

「神の力のコピー...冒涜か奇跡か」

 チェン・ロンが算盤を叩く。

「特許申請の準備を!」

 レオンは、そんな反応を知る由もなかった。

 遺跡の外——木々の影で、黒いローブの人物が立っていた。

「やはり...五体が集まり始めている」

「報告せねば...」

 人物が姿を消す。風だけが、不穏な気配を残していった。

 神殿の中で、レオンが宣言する。

「次は、本格的な推理だ」

「真実を証明してみせる」

 五人が手を繋ぎ、共鳴の光が広間を照らす。

 新たな謎——でも、家族がいれば乗り越えられる。

 エオリアが小さく微笑んだ。

(レオンが...真実を見つけてくれる)

 希望——それは、500年ぶりに訪れた、本当の光だった。
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