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第1話 捕らわれの奴隷少女
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太陽がじりじりと地面を熱し、地面から熱気が立ち上る。吹き付ける風も、ただの熱風でしかなかった。気温は40度を超えている。
そんな世界を何人かの人間が、生気なく足を進ませている。ひとりひとりの足には枷がはめられており、そこから鎖が伸びていた。
伸びた鎖は前を進む別の人間の足の枷に繋がれている。そのように3人の人間が並んで繋がれており、その列が二つ並んでいる。合計6人の人間だ。
残りの4人は奴隷達が逃げないように、油断なく監視する人間達だ。
砂漠の真ん中を奴隷たちが行進させられていた。
奴隷たちの前には、2頭のラクダが引く屋根付きの荷車が走り、鎖がその背面に繋がっているので、歩くペースを落とすことは許されない。
そのようなわけで、いつ終わるかも分からない旅路を絶望的な面持ちで前進するしかない。
それに、もしペースを落とそうものなら、奴隷たちの真横で監視の目を光らせている男に、どんな目にあわされるかわからない。実際抵抗したり、足手まといになる奴隷は容赦なく男の刀の餌食になった。物言わぬ屍になる。
そんなことを望むものなどいない。
左の列の2列目に、まだ若い女性がよろめきながら歩いている。女性というより少女といった方が相応しい。
憔悴しきっており、いつ倒れてもおかしくない。ふと、意識を失ったのか地面に倒れこみ、そのまま動かなくなってしまった。それに巻き込まれて、前後の奴隷たちも膝をつく。
「早く起こせ!」
奴隷を監視していた男が怒鳴る。
「だめ! 完全に意識を失ってる。この子、もう歩けない!」
少女の後ろを歩いていた女性が悲鳴のように叫ぶ。今まで、こうして切り捨てられた人間をたくさん見たのだ。これ以上もうやめてほしいという悲痛に満ちた声だった。
「捨てて行きますか?」
監視していた男は、ラクダに乗っているこの商隊のリーダーと思わしき人物に呼びかける。
「……いや、そいつはなかなか上等だ。貴族がいい値段で買ってくれるだろう。荷車に載せろ」
リーダーがそう判断する。
「はい。わかりました」
男たちがそう判断したのも無理はない。彼女はまるで日本人形のような整った顔立ちに、まだあどけなさが残る美しい少女だった。どこかのお姫様のようにすら見える。
一体どうしてこんなところまで身を窶してしまったのか。奴隷たちは、哀れみに満ちた目を少女に向けた。
少女は鎖を外され、荷車に放り込まれる。
少女の身体は荷車の薄い布の向こうに姿を消した。荷車は布で覆われているので、外からでは中は見ることができない。
「痛っ……」
少女は誰にも聞こえない声を漏らした。
商隊は奴隷たち6人とそれを監視する男が3人。それを率いるターバンをかぶった人間1人の、計10人だった。
商隊はそれからしばらく行進したあと、ラクダと奴隷たちに水を与えるため休憩する。
砂漠では、熱中症か脱水症状で大半が命を落とす。例え、急ぐ旅だったとしても、水分補給を欠かすわけにはいかない。
奴隷たちを監視している男も水を補給しながら、荷車の中を覗き込んだ。さっきの少女にも水を与えなければならない。見るとまだ気を失なっているようだった。
チッと舌をならしつつ男は荷車に乗り込んだ。仕事が増えるのは好きではない。余計な手間をかけさせやがってと、いら立ちを隠しもしなかった。少女の身体を乱暴に揺さぶって起こす。
「ほら飲め!」
衝撃で少女は意識を少し取り戻したようだったが、まだぼんやりしているようだ。強引に水筒を押し付ける。だが、それをうまく手で掴めないでいるらしい。少女の手が力なくぶら下がった。
「水、飲まねえと死んじまうぞ」
「すみません。手に力が入らなくて……」
不承不承、男は少女の口元に水筒を近づけた。水がボタボタと口から零れ落ちる。ほとんど飲めていない。
少女はそれ程、疲弊しているようだった。だが、水を摂取しなければ死んでしまう。死んでしまえば商品として売ることもできない。そうすれば、奴隷を連れて砂漠を越えるという男たちの努力は水の泡になってしまう。
とるべき手段はひとつだ。口移しで少女に水を飲ませる。それしかないだろう。そう思って口に水を含んだ男は、まともに少女の顔を見た。
艶めいた髪、唇。胸は控えめだが、スタイルは悪くない。また、少女の焦点の定まらない瞳に、逆にそそられるものがある。
──なんていい女だ。
そう思った。
まだ若くて美しい。きっと都では高値で取引されるだろう。その前に、俺も少しは楽しませてもらってもいいのではないか、と劣情をもよおした。
少女の口に男の口が重なりかけた、その瞬間。少女の瞳に一瞬、決意の炎が宿った。
男は呼吸が止まる。正確には呼吸が出来なかった。口づけのせいではない。なにしろ、少女の口元には、微かに届いていなかった。
なにやら自分の首の側面に激しい痛みがはしっている。
これは──。
男は、足りない酸素を求めてもがく魚のように、口をパクパクとさせていたが、やがて視界がうっすらぼやけていく。
薄れゆく意識の中、目の前の少女の手刀が自分の首につきたてられていたのが見えた。何かを叫ぼうとするが声は出ない。男は静かに昏倒した。
そんな世界を何人かの人間が、生気なく足を進ませている。ひとりひとりの足には枷がはめられており、そこから鎖が伸びていた。
伸びた鎖は前を進む別の人間の足の枷に繋がれている。そのように3人の人間が並んで繋がれており、その列が二つ並んでいる。合計6人の人間だ。
残りの4人は奴隷達が逃げないように、油断なく監視する人間達だ。
砂漠の真ん中を奴隷たちが行進させられていた。
奴隷たちの前には、2頭のラクダが引く屋根付きの荷車が走り、鎖がその背面に繋がっているので、歩くペースを落とすことは許されない。
そのようなわけで、いつ終わるかも分からない旅路を絶望的な面持ちで前進するしかない。
それに、もしペースを落とそうものなら、奴隷たちの真横で監視の目を光らせている男に、どんな目にあわされるかわからない。実際抵抗したり、足手まといになる奴隷は容赦なく男の刀の餌食になった。物言わぬ屍になる。
そんなことを望むものなどいない。
左の列の2列目に、まだ若い女性がよろめきながら歩いている。女性というより少女といった方が相応しい。
憔悴しきっており、いつ倒れてもおかしくない。ふと、意識を失ったのか地面に倒れこみ、そのまま動かなくなってしまった。それに巻き込まれて、前後の奴隷たちも膝をつく。
「早く起こせ!」
奴隷を監視していた男が怒鳴る。
「だめ! 完全に意識を失ってる。この子、もう歩けない!」
少女の後ろを歩いていた女性が悲鳴のように叫ぶ。今まで、こうして切り捨てられた人間をたくさん見たのだ。これ以上もうやめてほしいという悲痛に満ちた声だった。
「捨てて行きますか?」
監視していた男は、ラクダに乗っているこの商隊のリーダーと思わしき人物に呼びかける。
「……いや、そいつはなかなか上等だ。貴族がいい値段で買ってくれるだろう。荷車に載せろ」
リーダーがそう判断する。
「はい。わかりました」
男たちがそう判断したのも無理はない。彼女はまるで日本人形のような整った顔立ちに、まだあどけなさが残る美しい少女だった。どこかのお姫様のようにすら見える。
一体どうしてこんなところまで身を窶してしまったのか。奴隷たちは、哀れみに満ちた目を少女に向けた。
少女は鎖を外され、荷車に放り込まれる。
少女の身体は荷車の薄い布の向こうに姿を消した。荷車は布で覆われているので、外からでは中は見ることができない。
「痛っ……」
少女は誰にも聞こえない声を漏らした。
商隊は奴隷たち6人とそれを監視する男が3人。それを率いるターバンをかぶった人間1人の、計10人だった。
商隊はそれからしばらく行進したあと、ラクダと奴隷たちに水を与えるため休憩する。
砂漠では、熱中症か脱水症状で大半が命を落とす。例え、急ぐ旅だったとしても、水分補給を欠かすわけにはいかない。
奴隷たちを監視している男も水を補給しながら、荷車の中を覗き込んだ。さっきの少女にも水を与えなければならない。見るとまだ気を失なっているようだった。
チッと舌をならしつつ男は荷車に乗り込んだ。仕事が増えるのは好きではない。余計な手間をかけさせやがってと、いら立ちを隠しもしなかった。少女の身体を乱暴に揺さぶって起こす。
「ほら飲め!」
衝撃で少女は意識を少し取り戻したようだったが、まだぼんやりしているようだ。強引に水筒を押し付ける。だが、それをうまく手で掴めないでいるらしい。少女の手が力なくぶら下がった。
「水、飲まねえと死んじまうぞ」
「すみません。手に力が入らなくて……」
不承不承、男は少女の口元に水筒を近づけた。水がボタボタと口から零れ落ちる。ほとんど飲めていない。
少女はそれ程、疲弊しているようだった。だが、水を摂取しなければ死んでしまう。死んでしまえば商品として売ることもできない。そうすれば、奴隷を連れて砂漠を越えるという男たちの努力は水の泡になってしまう。
とるべき手段はひとつだ。口移しで少女に水を飲ませる。それしかないだろう。そう思って口に水を含んだ男は、まともに少女の顔を見た。
艶めいた髪、唇。胸は控えめだが、スタイルは悪くない。また、少女の焦点の定まらない瞳に、逆にそそられるものがある。
──なんていい女だ。
そう思った。
まだ若くて美しい。きっと都では高値で取引されるだろう。その前に、俺も少しは楽しませてもらってもいいのではないか、と劣情をもよおした。
少女の口に男の口が重なりかけた、その瞬間。少女の瞳に一瞬、決意の炎が宿った。
男は呼吸が止まる。正確には呼吸が出来なかった。口づけのせいではない。なにしろ、少女の口元には、微かに届いていなかった。
なにやら自分の首の側面に激しい痛みがはしっている。
これは──。
男は、足りない酸素を求めてもがく魚のように、口をパクパクとさせていたが、やがて視界がうっすらぼやけていく。
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