貧乏令嬢は玉の輿なんか夢みない

皆月潤

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閑話1 阿婆擦れと呼ばれる少女

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私の名前はヴィクトリカ。
アルトレシア王国国王、マルクスの妻で、アルトシュタイン公爵家当主のレーベレヒトの実姉でございます。
先日、いつまで経っても結婚しようとしない愚弟が遂に重い腰を上げたと聞いた時は、それはそれは安堵致しました。
王妃としての自覚が無いつもりはございませんが、私もアルトシュタイン家に連なる者である以上、やはり実家の後継ぎというのは気になるものでございます。
しかし、安堵したのと同時に少々釈然としない気持ちもございました。
正直なところを申しますと、初め婚約者の候補として上がった名前を見た時、私の眉はしかんでいたことでしょう。

”メリッサ・アーレンハイム……良くない噂の多い貧乏子爵家の娘を婚約者になど、あの愚弟は一体何を考えているのでしょうか”

しかし、その後すぐにエラリーが動き出した事で私の疑問は氷解致しました。

”モンロー伯爵家には子供がいませんからね、彼の家と繋がりを持つために、エラリーの庇護下にある彼女に目を付けたのでしょう。モンロー家は家格こそ伯爵家ですが、その経済力は王国内で3番目ですからね。我が弟にしては中々家の為になるいい選択ではないですか。一先ず婚約しておいて、正妻を娶ってから、側室として迎えれば家格も問題ないでしょう。何より、漸く弟が当主としての役目を果たそうとしているのですもの。姉として一肌脱ぎましょう”

エラリーにもいつもお世話になってますものね。
私は密かにこの婚約を支持しようと心に決めました。

しかし、件の婚約顔合わせは愚かな弟の所為でとんだ茶番へ成り果ててしましました。
全く、あの愚弟は本当にどうしようもありません。
一瞬でもあの愚弟を信じた私はなんと愚かだったのでしょうか。

”あの阿呆にはお仕置きが必要ですね。”

それにしてもと、私は思考を愚弟への怒りから切り替えます。

”メリッサと言いましたか、よくない噂の多い子爵令嬢でしたから、いくらエラリーのお気に入りとは言えあまり期待はしていなかったのですが、彼女にはいい意味で裏切られましたね。”

整っていて、それでいてどこか不思議な感じのする目を引く容姿。
子爵家の令嬢とは思えない程、洗練された所作。
受け答えの端々から感じられる聡明さ。
あの様な状況で一人冷静に行動する胆力に、己が心の内を悟られまいとする気丈さ。
自身よりも他人の事を気遣える慈愛の精神。
なるほど、エラリーのお気に入りと言うのも頷けますね。
世間の評判というものがどれ程当てにならないものか改めて痛感致しました。
あの愚弟には一度忠告しておいた方が良いかもしれません。

”貴方が見向きもせずに逃した魚は、存外大物かもしれませんよ”

私は愉悦が表情に表れないよう努めて無表情を装う。
エラリーとアーレンハイム夫妻には申し訳ないけれど、公爵家の為にはあれは囲っておいた方が良いでしょう。

”あの愚弟が少しでも早く彼女の価値に気づける様、私も動かなくてはなりませんね”

そう判断し、私は側仕えを呼び寄せた。
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