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第2章
第9話 敗者
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煙が散り始め、視覚と嗅覚で標的の人間を探す。
あの人間との戦いを望んだ訳じゃないが、ハーディムに支配された俺の体は、奴の命令に逆らう事は出来ない。ハーディムが話していた内容から、あの人間は異世界から聖王国に召喚された人間――異世界人だという事は知っている。
俺達とは、全く関係のない『他所者』。
「!」
思考の途中で、俺に向かって放たれた魔法を魔装の雷を纏わせた槍で相殺する。
異世界に召喚されて、たった数日でこれ程の実力を身に着けた事は、素直に賞賛に値する。
だが、俺達が行なっているのは、試合ではなく、殺し合いだ。
素質、才能、そんな物など関係なく、敵を殺した者のみが勝者となる。
怨むなら、異世界に召喚された己を怨め。
魔法が放たれた位置に視線を向ければ、いつの間にか風下に移動し、こちらに向かって駆けて来る人間を捉える。その首には、細く小さな白蛇が絡み付いていた。
……白蛇?使い魔か。
「第六階梯魔法〝闇槍〟」
先程から魔力を貯めていた魔族の女が、空中に6本の〝闇槍〟を出現させた。
ハーディムの目的は、聖王国から逃亡した人間の確保。又、確保が困難な場合は抹殺。
おそらく、自身の固有スキルが破られた事で、目的を確保から抹殺に切り替えたのだろう。
〝闇槍〟が迫り、誰もが回避を選択するだろう中で、人間は速度を緩める事なく俺の方に向かって加速する。その姿と迷いのない表情に、静かな狂気を感じ、一歩後退した。
「っ!」
その現実を理解するのに、時間は必要なかった。
――また俺は、人間に怯えたのか。
奥歯を音がする程噛み締める。
『くたばれ』
ハーディムの声に従い、〝闇槍〟が迫る。
だが、人間は迫っていた6本の〝闇槍〟を躱すのではなく、急激な前方への加速を選択した。そして、魔法の軌道を全て見抜いていたかの様な動きで潜り抜ける。
目の前の人間は、狩られる弱者ではない。
――だが、何だこの違和感は。
まるで、死人が息を吹き返すかの様に、人間の覇気が増して行く。
風魔法と風魔法を纏わせた剣が人間から放たれる。
俺の体は、魔族の女を護る様に命令されている為、攻撃を避ける訳には行かず、身を挺して剣を弾いた。
その隙に、人間が槍の間合いギリギリの位置にまで迫る。
だが、さほど問題にはならない。先程の近接戦闘で、人間は俺に及ばなかった。だから、これで――
「――今だ!」
「はい!第三階梯魔法〝大閃光〟!」
「「っ!?」」
強い光で、視界が奪われる。
何とか反撃しようとしたが、視界が一瞬で奪われた為、何をしようと遅い。何かが体を通り過ぎた瞬間に、俺の体は呪縛から解き放たれた。
■■■■■
メデルの不意を突いた〝大閃光〟で視界を塞ぎ、その一瞬で『暴食王』を顕現しつつ、ハーディムの〝傀儡隷呪印〟だけを喰い斬った。
普通に殺す事も出来たが、防がれたり、殺す事で発動する効果が〝傀儡隷呪印〟にあるかもしれない。その為、『暴食王』でスキルのみを狙った。
肩で息をする俺を地面に降りたメデルが、心配そうに見上げている。
「……心配ない」
ハーディムの支配から解放された2人の動きに注意しつつ、弾かれて地面に転がっていた剣を回収する。2人の発する魔力からは、既にハーディムの魔力は感じない。
だが、俺と戦うつもりなら、今度こそ殺すしかない。
2人は最初呆然としていたが、自分の身体が自由になっている事を実感し表情を曇らせる。
「どうして……殺してくれなかったの…?」
「そんな……」
女の悲痛に染まった声に、メデルは悲しげな声を発する。
「……私は、取り返しの付かない事を幾つもしたの!だから、今更自由になんて……」
「でも、それは、あの人に操られてしょうがなかった事ですよね」
「しょうがない!?しょうがないで、許される訳がない!!」
女の目から涙が流れる。
「勘違いするな。俺が護ったのは、お前等の命じゃなくて俺の命だ。死にたければ、勝手に死ねば良いだろ」
以前の俺なら、こんな言葉は出て来なかった。それでも、これが今の自分――一ノ瀬凍夜だ。
嘗て、異世界を駆け抜けて、大勢の人々に手を伸ばした勇者は何処にもいない。
女は、此方を睨むのを止め、地面の土を握り締める。
俺はそんな少女に背を向け歩き出そうとした時、獣人の男が口を開いた。
「……お前の様な他所者に、分かってたまるか」
「余所者?」
足が止まった。
「何が違う?お前の様な異世界人には、この世界で生きる俺達の誇りなど理解出来ないだろ」
男の言う通りだ。俺は、この世界の外から来た異世界人――余所者だ。
この世界との繋がりは、裏切られたあの瞬間に途切れている。
「そうだな。俺は、異世界人だ」
地面に座る、男の方を振り返って歩き出す。
だが、今の言葉は、異世界人であっても、命懸けで戦った俺の過去を否定した。
もう既に、何度も俺自身が否定している事だ。それなのに、この男に否定された瞬間、俺の中で何かが湧き出て、熱く燃える様な痛みが走った。
怒りにも似た感情に、自分自身が驚いた。
気付いた時には、自然と口が動いて言葉を発している。
「だから、お前達の誇りになんて知るか」
「貴様っ」
獣人の男が、俺に掴みかかって来た。まるで、虎が獲物を噛み殺す時の様な迫力があったが、恐怖など全く感じない。
寧ろ、男の瞳を睨み返す。
「誇りを失ったら、生きる意味がないのか?」
「「「!?」」」
こんな時に、勇者の姿を思い出す。
「俺が知ってる俺は、誇りなんて持ってなかった。それでも、戦い続けて、その度に多くの物を失った」
本当に、あの時の俺は馬鹿だ。
「勇者だった俺は、本物の馬鹿だ。何度も泣き喚いて、自分の無力感に絶望した。それでも、諦めず、足掻いて、生きて、手を伸ばして進み続けた」
「……」
「そうして進み続けた道が、俺にとっての誇りになっていた」
獣人の男は目を見開き俺を見つめ、少女も俺を見つめている。
「お前達がどんな絶望を味わったか何て、俺にはどうでも良い」
俺は視線を白虎の獣人に向ける。そして、「だが」と言葉を続けた。
「俺の知る勇者だった俺は、絶望の中でも進み続けたぞ」
その結果が、裏切りだ。
俺は、獣人の男の手を払って、再度歩き出す。
後ろをメデルが付いて来る。そして、小声で聞いて来る。
「よろしかったのですか?」
「……決めるのは、俺じゃ無い」
「そうですね」
視界の端でメデルが微笑んでいる様に見えたが、蛇の表情は俺には分からなかった。
俺は、俺を裏切った連中が憎い。
だが、思いは憎しみだけじゃなく、悲しみや喪失感など様々な思いが混ざり合っている。
憎悪しかないと思っていた感情に、別な感情があった。そんな当たり前の事から目を背けていた事に、今更気付く事が出来た。そして、驚く程に、その感情を受け入れている自分がいた。
■■■■■
日が沈み、辺りは闇に包まれる。
俺達は、遠くの方から感じる魔物達の気配に気を配りつつ、焚き火を囲む様に腰を下ろしていた。
『執行者』からの追ってが来るかもしれないので、急いではいるが、夜の森の移動は危険が多すぎる。それに、休める時に休む事は、旅をする上で重要な事だ。
だが、『何故こうなった』と心の中で愚痴る。
俺は火にかけた鍋の蓋を開け、塩と胡椒で味付けした野菜と大きめの魔物肉のスープの味を確認する。
日本で食べていた料理と比べると劣ってしまうが、食べれない程ではない。聖王都で買っていた硬いパンを切り分ければ、夕食は完成だ。
「……」
「……」
俺は、呆れた表情を浮かべつつ、直ぐ抜ける様に警戒は解かない。メデルは、気まずそうな表情を浮かべながら、少女の姿でスープを啜っている。
その原因は、焚き火の反対側に座る2人の所為だ。
焚き火でスープを作っている所に、獣人の男と魔族の少女が現れた。魔力感知によって、接近に気付いていた為、側に置いていた剣を手に取る。
すると、獣人の男が勢い良く頭を下げた。
「先程の無礼をどうか許して頂きたい。そして、許されるなら、恩を返す機会を与えて欲しい」
「……私達、他に行く宛もなくて……」
次に、少女が頭を下げる。
「断る」
「即断しちゃうんですね」
メデルのツッコミを流しつつ、調理を続け現在に至る。
「貴殿の言葉は最もだが、どうかこの通りだ」
遂に、獣人の男が土下座をし始めた。
土下座は、獣人族の伝統でそんな軽い物ではなかった筈だが。
「えっと、それは土下座ですよね?獣人族にとって土下座は、首を相手に捧げているのと同義、だと聞いた事があります」
メデルは、見た目以上に博識だ。そして、メデルの言う通り、獣人族が土下座するという事は、相手にその場で命を取られても文句は言えないという事だ。
つまり、この男は己の命を賭けている事になる。
とんでもなく大袈裟に、土下座の意味と文化を伝えたのは、おそらく過去の異世界人だろう。と心の中で舌打ちをしつつ、2人に向けて口を開く。
「許すも何も、俺とお前達には何の関係もない。それに、お前達は、自分が敵ではないと証明出来るのか?」
「不可能だ」
男の言葉に、女も黙り込む。
「主。2人から悪い感情は、感じませんよ」
「……」
メデルの悪人を見抜く感覚は、かなり鋭い。
「分かった。それじゃ、私達が勝手に付いて行く。だから、貴方が怪しいと思ったら、その時は迷わず殺せば良い」
これは予想外の返答だった。
「敵かもしれない連中が、近くにいて平気な筈がないだろう」
「ならば、今直ぐ殺してくれて構わない」
獣人の男と視線が交錯する。最近見たばかりの覚悟を決めた人の目だ。
俺は、溜め息は吐く。
「分かった」
俺は目の前の2人に警戒しながら、夕食を食べ始める。すると、、グ~~と音が2つ聞こえた。
最初は無視していたが、音はなり続ける。
『『グッ、グ~~……』』
視線を向ければ、地面に座っている2人が鍋の中のスープを凝視していた。
「主。あの……」
メデルの言いたい事は分かる。それに、良い加減耳障りだった為、アイテムボックスから追加の器を取り出す。
「……食えよ」
2人の前に、スープを注いで置く。
「ありがとう」
「すまない」
俯きつつ、2人はスープを手に取った。そして、熱々のスープを程よく冷まし、喉に流し込む。
「ぅ、温かい……」
「くぅ、美味い」
「……はぁ」
久方ぶりだという温かく、真面な食事を涙を流しながら食べる2人が、今後俺の旅に同行する事になった。
「……本当に、すまん……お代わり…を頂きたい……」
「…………」
「……頼む。少し食べたら、余計に腹が減って死にそうになった」
「…………皿」
自分の判断が正しかったのか、悩みつつ俺は男から皿を受け取った。
あの人間との戦いを望んだ訳じゃないが、ハーディムに支配された俺の体は、奴の命令に逆らう事は出来ない。ハーディムが話していた内容から、あの人間は異世界から聖王国に召喚された人間――異世界人だという事は知っている。
俺達とは、全く関係のない『他所者』。
「!」
思考の途中で、俺に向かって放たれた魔法を魔装の雷を纏わせた槍で相殺する。
異世界に召喚されて、たった数日でこれ程の実力を身に着けた事は、素直に賞賛に値する。
だが、俺達が行なっているのは、試合ではなく、殺し合いだ。
素質、才能、そんな物など関係なく、敵を殺した者のみが勝者となる。
怨むなら、異世界に召喚された己を怨め。
魔法が放たれた位置に視線を向ければ、いつの間にか風下に移動し、こちらに向かって駆けて来る人間を捉える。その首には、細く小さな白蛇が絡み付いていた。
……白蛇?使い魔か。
「第六階梯魔法〝闇槍〟」
先程から魔力を貯めていた魔族の女が、空中に6本の〝闇槍〟を出現させた。
ハーディムの目的は、聖王国から逃亡した人間の確保。又、確保が困難な場合は抹殺。
おそらく、自身の固有スキルが破られた事で、目的を確保から抹殺に切り替えたのだろう。
〝闇槍〟が迫り、誰もが回避を選択するだろう中で、人間は速度を緩める事なく俺の方に向かって加速する。その姿と迷いのない表情に、静かな狂気を感じ、一歩後退した。
「っ!」
その現実を理解するのに、時間は必要なかった。
――また俺は、人間に怯えたのか。
奥歯を音がする程噛み締める。
『くたばれ』
ハーディムの声に従い、〝闇槍〟が迫る。
だが、人間は迫っていた6本の〝闇槍〟を躱すのではなく、急激な前方への加速を選択した。そして、魔法の軌道を全て見抜いていたかの様な動きで潜り抜ける。
目の前の人間は、狩られる弱者ではない。
――だが、何だこの違和感は。
まるで、死人が息を吹き返すかの様に、人間の覇気が増して行く。
風魔法と風魔法を纏わせた剣が人間から放たれる。
俺の体は、魔族の女を護る様に命令されている為、攻撃を避ける訳には行かず、身を挺して剣を弾いた。
その隙に、人間が槍の間合いギリギリの位置にまで迫る。
だが、さほど問題にはならない。先程の近接戦闘で、人間は俺に及ばなかった。だから、これで――
「――今だ!」
「はい!第三階梯魔法〝大閃光〟!」
「「っ!?」」
強い光で、視界が奪われる。
何とか反撃しようとしたが、視界が一瞬で奪われた為、何をしようと遅い。何かが体を通り過ぎた瞬間に、俺の体は呪縛から解き放たれた。
■■■■■
メデルの不意を突いた〝大閃光〟で視界を塞ぎ、その一瞬で『暴食王』を顕現しつつ、ハーディムの〝傀儡隷呪印〟だけを喰い斬った。
普通に殺す事も出来たが、防がれたり、殺す事で発動する効果が〝傀儡隷呪印〟にあるかもしれない。その為、『暴食王』でスキルのみを狙った。
肩で息をする俺を地面に降りたメデルが、心配そうに見上げている。
「……心配ない」
ハーディムの支配から解放された2人の動きに注意しつつ、弾かれて地面に転がっていた剣を回収する。2人の発する魔力からは、既にハーディムの魔力は感じない。
だが、俺と戦うつもりなら、今度こそ殺すしかない。
2人は最初呆然としていたが、自分の身体が自由になっている事を実感し表情を曇らせる。
「どうして……殺してくれなかったの…?」
「そんな……」
女の悲痛に染まった声に、メデルは悲しげな声を発する。
「……私は、取り返しの付かない事を幾つもしたの!だから、今更自由になんて……」
「でも、それは、あの人に操られてしょうがなかった事ですよね」
「しょうがない!?しょうがないで、許される訳がない!!」
女の目から涙が流れる。
「勘違いするな。俺が護ったのは、お前等の命じゃなくて俺の命だ。死にたければ、勝手に死ねば良いだろ」
以前の俺なら、こんな言葉は出て来なかった。それでも、これが今の自分――一ノ瀬凍夜だ。
嘗て、異世界を駆け抜けて、大勢の人々に手を伸ばした勇者は何処にもいない。
女は、此方を睨むのを止め、地面の土を握り締める。
俺はそんな少女に背を向け歩き出そうとした時、獣人の男が口を開いた。
「……お前の様な他所者に、分かってたまるか」
「余所者?」
足が止まった。
「何が違う?お前の様な異世界人には、この世界で生きる俺達の誇りなど理解出来ないだろ」
男の言う通りだ。俺は、この世界の外から来た異世界人――余所者だ。
この世界との繋がりは、裏切られたあの瞬間に途切れている。
「そうだな。俺は、異世界人だ」
地面に座る、男の方を振り返って歩き出す。
だが、今の言葉は、異世界人であっても、命懸けで戦った俺の過去を否定した。
もう既に、何度も俺自身が否定している事だ。それなのに、この男に否定された瞬間、俺の中で何かが湧き出て、熱く燃える様な痛みが走った。
怒りにも似た感情に、自分自身が驚いた。
気付いた時には、自然と口が動いて言葉を発している。
「だから、お前達の誇りになんて知るか」
「貴様っ」
獣人の男が、俺に掴みかかって来た。まるで、虎が獲物を噛み殺す時の様な迫力があったが、恐怖など全く感じない。
寧ろ、男の瞳を睨み返す。
「誇りを失ったら、生きる意味がないのか?」
「「「!?」」」
こんな時に、勇者の姿を思い出す。
「俺が知ってる俺は、誇りなんて持ってなかった。それでも、戦い続けて、その度に多くの物を失った」
本当に、あの時の俺は馬鹿だ。
「勇者だった俺は、本物の馬鹿だ。何度も泣き喚いて、自分の無力感に絶望した。それでも、諦めず、足掻いて、生きて、手を伸ばして進み続けた」
「……」
「そうして進み続けた道が、俺にとっての誇りになっていた」
獣人の男は目を見開き俺を見つめ、少女も俺を見つめている。
「お前達がどんな絶望を味わったか何て、俺にはどうでも良い」
俺は視線を白虎の獣人に向ける。そして、「だが」と言葉を続けた。
「俺の知る勇者だった俺は、絶望の中でも進み続けたぞ」
その結果が、裏切りだ。
俺は、獣人の男の手を払って、再度歩き出す。
後ろをメデルが付いて来る。そして、小声で聞いて来る。
「よろしかったのですか?」
「……決めるのは、俺じゃ無い」
「そうですね」
視界の端でメデルが微笑んでいる様に見えたが、蛇の表情は俺には分からなかった。
俺は、俺を裏切った連中が憎い。
だが、思いは憎しみだけじゃなく、悲しみや喪失感など様々な思いが混ざり合っている。
憎悪しかないと思っていた感情に、別な感情があった。そんな当たり前の事から目を背けていた事に、今更気付く事が出来た。そして、驚く程に、その感情を受け入れている自分がいた。
■■■■■
日が沈み、辺りは闇に包まれる。
俺達は、遠くの方から感じる魔物達の気配に気を配りつつ、焚き火を囲む様に腰を下ろしていた。
『執行者』からの追ってが来るかもしれないので、急いではいるが、夜の森の移動は危険が多すぎる。それに、休める時に休む事は、旅をする上で重要な事だ。
だが、『何故こうなった』と心の中で愚痴る。
俺は火にかけた鍋の蓋を開け、塩と胡椒で味付けした野菜と大きめの魔物肉のスープの味を確認する。
日本で食べていた料理と比べると劣ってしまうが、食べれない程ではない。聖王都で買っていた硬いパンを切り分ければ、夕食は完成だ。
「……」
「……」
俺は、呆れた表情を浮かべつつ、直ぐ抜ける様に警戒は解かない。メデルは、気まずそうな表情を浮かべながら、少女の姿でスープを啜っている。
その原因は、焚き火の反対側に座る2人の所為だ。
焚き火でスープを作っている所に、獣人の男と魔族の少女が現れた。魔力感知によって、接近に気付いていた為、側に置いていた剣を手に取る。
すると、獣人の男が勢い良く頭を下げた。
「先程の無礼をどうか許して頂きたい。そして、許されるなら、恩を返す機会を与えて欲しい」
「……私達、他に行く宛もなくて……」
次に、少女が頭を下げる。
「断る」
「即断しちゃうんですね」
メデルのツッコミを流しつつ、調理を続け現在に至る。
「貴殿の言葉は最もだが、どうかこの通りだ」
遂に、獣人の男が土下座をし始めた。
土下座は、獣人族の伝統でそんな軽い物ではなかった筈だが。
「えっと、それは土下座ですよね?獣人族にとって土下座は、首を相手に捧げているのと同義、だと聞いた事があります」
メデルは、見た目以上に博識だ。そして、メデルの言う通り、獣人族が土下座するという事は、相手にその場で命を取られても文句は言えないという事だ。
つまり、この男は己の命を賭けている事になる。
とんでもなく大袈裟に、土下座の意味と文化を伝えたのは、おそらく過去の異世界人だろう。と心の中で舌打ちをしつつ、2人に向けて口を開く。
「許すも何も、俺とお前達には何の関係もない。それに、お前達は、自分が敵ではないと証明出来るのか?」
「不可能だ」
男の言葉に、女も黙り込む。
「主。2人から悪い感情は、感じませんよ」
「……」
メデルの悪人を見抜く感覚は、かなり鋭い。
「分かった。それじゃ、私達が勝手に付いて行く。だから、貴方が怪しいと思ったら、その時は迷わず殺せば良い」
これは予想外の返答だった。
「敵かもしれない連中が、近くにいて平気な筈がないだろう」
「ならば、今直ぐ殺してくれて構わない」
獣人の男と視線が交錯する。最近見たばかりの覚悟を決めた人の目だ。
俺は、溜め息は吐く。
「分かった」
俺は目の前の2人に警戒しながら、夕食を食べ始める。すると、、グ~~と音が2つ聞こえた。
最初は無視していたが、音はなり続ける。
『『グッ、グ~~……』』
視線を向ければ、地面に座っている2人が鍋の中のスープを凝視していた。
「主。あの……」
メデルの言いたい事は分かる。それに、良い加減耳障りだった為、アイテムボックスから追加の器を取り出す。
「……食えよ」
2人の前に、スープを注いで置く。
「ありがとう」
「すまない」
俯きつつ、2人はスープを手に取った。そして、熱々のスープを程よく冷まし、喉に流し込む。
「ぅ、温かい……」
「くぅ、美味い」
「……はぁ」
久方ぶりだという温かく、真面な食事を涙を流しながら食べる2人が、今後俺の旅に同行する事になった。
「……本当に、すまん……お代わり…を頂きたい……」
「…………」
「……頼む。少し食べたら、余計に腹が減って死にそうになった」
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ファンタジー
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異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
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