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第3章
第5話 不完全
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「所で、4人は森で起きた異変について知ってる?」
何気なく聞かれた問いかけに、「何も知りませんよ」と自然に返答を行う。
「そう」
その瞬間、クローリアの目が獲物を見定めた狩人の様に細まる。
それと殆ど同時に、僅かな違和感を感じた。
「……スキルか」
「クローリア!あんた!」
自分の浅はかな言動を後悔する。
「驚いたわ。私の〝虚言看破〟に気付くなんてね、一体何者なのかしら?」
〝虚言看破〟というスキルは、取得は難しい部類のスキルだが、相手の嘘を看破するシンプルで有用なスキルだ。おそらく、他にも複数のスキルを組み合わせて〝虚言看破〟を俺が気付くよりも早く発動させていたに違いない。
俺の様に感知能力が高くなければ、気付く事すら出来ない程に巧妙にスキルが発動されていた。
マンドラゴラを持って来たと聞いた時か、それとももっと前から、俺達が樹海で起きた異変について知っていると考えて、隙を探っていたのだろう。
「……」
これからは、下手な返答が出来ない。
「数日前、北の森から多くの魔物達が逃げ出して来る現象――スタンピードが起きたの。規模は小さかったけど、調査の結果、森の奥地で尋常ではない戦闘の痕跡が見つかった」
クローリアの雰囲気が変わり、この場の支配者の様な凄みを感じさせる。
「貴方達、一体何を知っているのかしら?」
「それを知ってどうします?」
動揺した素ぶりを見せずに、クローリアへ質問を返す。
「どうするかは、知ってから決めるわ。どうせ貴方達に出来るのは、ここで話すか、黙るか、の2択しかないんじゃないかしら?」
「話せなくても良いんですか?」
「良いわよ。貴方達が、後悔する事にならなければ、ね」
露骨な脅しだ。
クローリア程の商会長となれば、俺達がアテラに滞在出来なくなる様な状況を作り出すのは容易い。その為、2つの選択肢を提示してはいるが、俺達がアテラで生活して行く為には、たった1つの選択肢を選ぶしかない。
嘘はスキルで見抜かれる上に、曖昧な回答もクローリアが許してくれるとは思えなかった。
「分かりました。お話しします」
「そう、賢明ね」
「但し、フォンティーヌ商会の長にではなく、妖精国王女シルヴァーリア・フォンティーヌの妹君である貴方に、です」
「……。残念だけど、妖精国は既にないわ。だから、私も王族じゃないのよ」
表情を変えず、感情の変化すら見せない精神力は見事な物だ。
「俺達がこれから話す内容は、妖精国滅亡に関わっている、と言ってもですか?」
「っ!?」
僅かにだが、クローリアの感情が漏れ出す。
驚愕と怒りが、魔力に乗って周囲に漏れ出ている。クローリアは、現在フォンティーヌ商会の長を務めてはいるが、10年前までは妖精国の王女、戦場で名を響かせる程のエルフ族、と様々な難局を乗り越えて来た傑物だ。
そんなクローリアから放たれる威圧感に、ヴィルヘルムとリツェアすら、歯を噛み締めて耐えている。
「話しなさい。内容によっては、私は全面的に貴方達を援助するわ」
回答によっては、その逆も然り、だろうな。
「その前に、人払いをして下さい」
「分かったわ」
今更だが、部屋の周囲に潜んでいた者達の存在に俺が気付いていても、クローリアは驚く事はしない。
寧ろ、俺達の誰が気付いていても不思議ではない、と考えて行動していた可能性もある。
人の魔力が遠ざかった事を確認して、魔法を発動させた。
「〝静音静寂〟」
第三階梯魔法〝静音〟の上位互換である、第五階梯魔法〝静音静寂〟は、盗聴を防ぐ防音魔法の中では特に強力な効果を持つ魔法だ。
〝神血之医術〟を使う事が出来てから、今まで徐々に伸び悩んでいた魔法の熟達速度が格段に上昇した。それによって、現在では一部の第七階梯魔法までは使用できる。
「準備はこれくらいで充分じゃないかしら?」
「そうですね」
クローリアの言葉に頷いた俺は、自分が異世界から召喚された人間である事と森であった一連の出来事について話した。
故意的に、自分が勇者トウヤ・イチノセである事は話さない様に、明確な嘘にならない言葉を選んで話す。
常人では、信じられるない様な話もクローリアは、俺の話を遮る事なく聴き続ける。そして、俺の話が終わって漸く口を開いた。
「アスハは、私達……この世界を憎んでいたのね」
最初に出た言葉は、明日羽や聖王国への罵詈雑言などではなく、悲哀が籠もった言葉だった。
「アスハを憎くはないんですか?」
「憎いわよ。殺せるなら、産まれた事を後悔する位の拷問を加えてから殺してやりたい」
クローリアの言葉はきっと本心だ。
だが、言葉の端々には憎しみや怒りに染まりきれない感情が含まれている。
「でも、姉にはいつも言われてたの」
「何をですか?」
「私は何れ、勇者に殺されるって」
まるで、勇者に殺される事を悟っていた様なシルヴァーリアの言葉に俺達は驚く。
「10年前――妖精国は、他種族に肩入れしない中立国家の立場を終戦まで貫いた。でも、女王シルヴァーリアは、1度だけ他国に肩入れした事があったの」
「まさか、異世界召喚?」
俺の言葉に、クローリアは頷く。
「真実は、王族と一部の臣下しか知らないわ」
この世界の10年前――3年以上前に、異世界に召喚された時は、そんな話は全く聞いた事がなかった。
「結果として、戦争は終結して、10年以上前と比べたら随分真面な世の中になった。それでも、姉はずっと後悔していたのよ」
「……」
「『私は、この世界と無関係な子供を戦争に巻き込んでしまった。きっと、あの子達が真実を知れば、私を憎悪する。そして、何れは、私を殺しに来るわ』。そういつも言っていたわ」
「勇者に、怯えていたんですか?」
だから、シルヴァーリアは、俺や明日羽と会う機会が少なかったのかもしれない。
俺がそんな事を考えていると、少しだけクローリアが笑った。
「いいえ、姉は怯えてなんていなかったわ」
「え?」
「寧ろ、姉は勇者達に殺されるのは、当然の報いだと思っていたんじゃないかしら。少なくても、戦争が終結した暁には、真実を勇者達に打ち明けるつもりだったようね」
クローリアは、急に姉に王位を継がされそうになって驚いた、と昔を懐かしむ様に話す。
「それに、私も、大切な人や故郷を失って異世界人の気持ちが少し分かる様になってしまった……。だからか、姉を殺したアスハを完全に怨みきる事がどうしても出来ないの」
確かに、異世界から召喚された俺達――異世界人は、元の世界に帰る送還魔法という希望がなければ、地球で積み重ねていた全てを失った事になる。
家族、友人、知人、思い描いていた将来……その全てを失い、力があるからというだけで強制された道を歩まなければいけない。それが、どんなに過酷で苦痛を伴うか、歩んだ者にしか分からない。
「……私が、戦争が終わって王国に来たのは、姉の指示なのよ」
「どんな指示ですか?」
「不完全な送還魔法を発動する為に、大勢の命と勇者を弄んだ王を監視する事が、私に与えられた役目よ」
事前に聞いていた話では、フォンティーヌ商会の本店は辺境都市にあり、視点は王国内の各都市に建設されている。
その目的が、ヴァルフリート王国国王を監視する為の情報網を作る事だとすれば、話の辻褄も合う。
だが、それ以上に俺は、ある言葉が気に掛かった。
「不完全な……送還魔法……」
「姉から聞いた話だから、詳しい事は知らないわ」
詳細を知らないクローリアに、この場で送還魔法について聞く事はこれ以上は難しそうだ。
「取り敢えず、礼を言っておくわ」
軽くではあるが、真摯に頭を下げるクローリアに、リツェアは目がこぼれ落ちるのではないか、と心配になる程に驚いていた。
「ありがとう。貴方達のおかげで、姉の最期が少し知れたわ」
クローリアは、安堵した様に微笑む。
何気なく聞かれた問いかけに、「何も知りませんよ」と自然に返答を行う。
「そう」
その瞬間、クローリアの目が獲物を見定めた狩人の様に細まる。
それと殆ど同時に、僅かな違和感を感じた。
「……スキルか」
「クローリア!あんた!」
自分の浅はかな言動を後悔する。
「驚いたわ。私の〝虚言看破〟に気付くなんてね、一体何者なのかしら?」
〝虚言看破〟というスキルは、取得は難しい部類のスキルだが、相手の嘘を看破するシンプルで有用なスキルだ。おそらく、他にも複数のスキルを組み合わせて〝虚言看破〟を俺が気付くよりも早く発動させていたに違いない。
俺の様に感知能力が高くなければ、気付く事すら出来ない程に巧妙にスキルが発動されていた。
マンドラゴラを持って来たと聞いた時か、それとももっと前から、俺達が樹海で起きた異変について知っていると考えて、隙を探っていたのだろう。
「……」
これからは、下手な返答が出来ない。
「数日前、北の森から多くの魔物達が逃げ出して来る現象――スタンピードが起きたの。規模は小さかったけど、調査の結果、森の奥地で尋常ではない戦闘の痕跡が見つかった」
クローリアの雰囲気が変わり、この場の支配者の様な凄みを感じさせる。
「貴方達、一体何を知っているのかしら?」
「それを知ってどうします?」
動揺した素ぶりを見せずに、クローリアへ質問を返す。
「どうするかは、知ってから決めるわ。どうせ貴方達に出来るのは、ここで話すか、黙るか、の2択しかないんじゃないかしら?」
「話せなくても良いんですか?」
「良いわよ。貴方達が、後悔する事にならなければ、ね」
露骨な脅しだ。
クローリア程の商会長となれば、俺達がアテラに滞在出来なくなる様な状況を作り出すのは容易い。その為、2つの選択肢を提示してはいるが、俺達がアテラで生活して行く為には、たった1つの選択肢を選ぶしかない。
嘘はスキルで見抜かれる上に、曖昧な回答もクローリアが許してくれるとは思えなかった。
「分かりました。お話しします」
「そう、賢明ね」
「但し、フォンティーヌ商会の長にではなく、妖精国王女シルヴァーリア・フォンティーヌの妹君である貴方に、です」
「……。残念だけど、妖精国は既にないわ。だから、私も王族じゃないのよ」
表情を変えず、感情の変化すら見せない精神力は見事な物だ。
「俺達がこれから話す内容は、妖精国滅亡に関わっている、と言ってもですか?」
「っ!?」
僅かにだが、クローリアの感情が漏れ出す。
驚愕と怒りが、魔力に乗って周囲に漏れ出ている。クローリアは、現在フォンティーヌ商会の長を務めてはいるが、10年前までは妖精国の王女、戦場で名を響かせる程のエルフ族、と様々な難局を乗り越えて来た傑物だ。
そんなクローリアから放たれる威圧感に、ヴィルヘルムとリツェアすら、歯を噛み締めて耐えている。
「話しなさい。内容によっては、私は全面的に貴方達を援助するわ」
回答によっては、その逆も然り、だろうな。
「その前に、人払いをして下さい」
「分かったわ」
今更だが、部屋の周囲に潜んでいた者達の存在に俺が気付いていても、クローリアは驚く事はしない。
寧ろ、俺達の誰が気付いていても不思議ではない、と考えて行動していた可能性もある。
人の魔力が遠ざかった事を確認して、魔法を発動させた。
「〝静音静寂〟」
第三階梯魔法〝静音〟の上位互換である、第五階梯魔法〝静音静寂〟は、盗聴を防ぐ防音魔法の中では特に強力な効果を持つ魔法だ。
〝神血之医術〟を使う事が出来てから、今まで徐々に伸び悩んでいた魔法の熟達速度が格段に上昇した。それによって、現在では一部の第七階梯魔法までは使用できる。
「準備はこれくらいで充分じゃないかしら?」
「そうですね」
クローリアの言葉に頷いた俺は、自分が異世界から召喚された人間である事と森であった一連の出来事について話した。
故意的に、自分が勇者トウヤ・イチノセである事は話さない様に、明確な嘘にならない言葉を選んで話す。
常人では、信じられるない様な話もクローリアは、俺の話を遮る事なく聴き続ける。そして、俺の話が終わって漸く口を開いた。
「アスハは、私達……この世界を憎んでいたのね」
最初に出た言葉は、明日羽や聖王国への罵詈雑言などではなく、悲哀が籠もった言葉だった。
「アスハを憎くはないんですか?」
「憎いわよ。殺せるなら、産まれた事を後悔する位の拷問を加えてから殺してやりたい」
クローリアの言葉はきっと本心だ。
だが、言葉の端々には憎しみや怒りに染まりきれない感情が含まれている。
「でも、姉にはいつも言われてたの」
「何をですか?」
「私は何れ、勇者に殺されるって」
まるで、勇者に殺される事を悟っていた様なシルヴァーリアの言葉に俺達は驚く。
「10年前――妖精国は、他種族に肩入れしない中立国家の立場を終戦まで貫いた。でも、女王シルヴァーリアは、1度だけ他国に肩入れした事があったの」
「まさか、異世界召喚?」
俺の言葉に、クローリアは頷く。
「真実は、王族と一部の臣下しか知らないわ」
この世界の10年前――3年以上前に、異世界に召喚された時は、そんな話は全く聞いた事がなかった。
「結果として、戦争は終結して、10年以上前と比べたら随分真面な世の中になった。それでも、姉はずっと後悔していたのよ」
「……」
「『私は、この世界と無関係な子供を戦争に巻き込んでしまった。きっと、あの子達が真実を知れば、私を憎悪する。そして、何れは、私を殺しに来るわ』。そういつも言っていたわ」
「勇者に、怯えていたんですか?」
だから、シルヴァーリアは、俺や明日羽と会う機会が少なかったのかもしれない。
俺がそんな事を考えていると、少しだけクローリアが笑った。
「いいえ、姉は怯えてなんていなかったわ」
「え?」
「寧ろ、姉は勇者達に殺されるのは、当然の報いだと思っていたんじゃないかしら。少なくても、戦争が終結した暁には、真実を勇者達に打ち明けるつもりだったようね」
クローリアは、急に姉に王位を継がされそうになって驚いた、と昔を懐かしむ様に話す。
「それに、私も、大切な人や故郷を失って異世界人の気持ちが少し分かる様になってしまった……。だからか、姉を殺したアスハを完全に怨みきる事がどうしても出来ないの」
確かに、異世界から召喚された俺達――異世界人は、元の世界に帰る送還魔法という希望がなければ、地球で積み重ねていた全てを失った事になる。
家族、友人、知人、思い描いていた将来……その全てを失い、力があるからというだけで強制された道を歩まなければいけない。それが、どんなに過酷で苦痛を伴うか、歩んだ者にしか分からない。
「……私が、戦争が終わって王国に来たのは、姉の指示なのよ」
「どんな指示ですか?」
「不完全な送還魔法を発動する為に、大勢の命と勇者を弄んだ王を監視する事が、私に与えられた役目よ」
事前に聞いていた話では、フォンティーヌ商会の本店は辺境都市にあり、視点は王国内の各都市に建設されている。
その目的が、ヴァルフリート王国国王を監視する為の情報網を作る事だとすれば、話の辻褄も合う。
だが、それ以上に俺は、ある言葉が気に掛かった。
「不完全な……送還魔法……」
「姉から聞いた話だから、詳しい事は知らないわ」
詳細を知らないクローリアに、この場で送還魔法について聞く事はこれ以上は難しそうだ。
「取り敢えず、礼を言っておくわ」
軽くではあるが、真摯に頭を下げるクローリアに、リツェアは目がこぼれ落ちるのではないか、と心配になる程に驚いていた。
「ありがとう。貴方達のおかげで、姉の最期が少し知れたわ」
クローリアは、安堵した様に微笑む。
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