異世界召喚されたのは、『元』勇者です

ユモア

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第3章

第6話 拠点(仮)

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「それじゃ、行こうかしら」
「何処にですか?」

 洗練された動作で立ち上がったクローリアに、言葉の意味を尋ねる。

「さっき言ったでしょ?話の内容によっては、貴方達を全面的に支援するって」
「お金でもくれるの?」
「貴方達程の実力なら、お金も直ぐに稼げるでしょ。だから、私は当分の間住む為の拠点を準備してあげるわ」

 自信に満ちた勝ち誇った笑みを浮かべて、クローリアは「着いてきなさい」と言って部屋を出て行く。

 俺達は、突然の状況の変化に困惑していたが、主人がいなくなった部屋にいる訳にもいかず、部屋を出てクローリアを追う。
 部屋を出た先では、既にエルフ族の少女が待っており、通って来た別の道から外へと案内される。そこには、馬車が用意され、その前でクローリアが従者から上着を預かっている所だった。
 見るからに高級そうな馬車だったが、クローリアの従者達に促されて乗り込む。


 ◻︎◻︎◻︎◻︎


 クローリアが用意してくれていたのは、以前に買い取っていた建物、だそうだ。
 古民家程度を予想していたのだが、実物はその正反対だった。
 家と言うより、屋敷や豪邸と呼ぶ様な規模の建造物を前に、数人の人々が玄関や窓を開けて掃除を始めている。最初に掃除がある程度終わったリビングに通されるが、その間、廊下に置かれている家具や絵画などだけ見ても、侘び寂びといった日本の文化を全否定したような豪邸だ。

「「「「…………」」」」

 元々汚れていたかすら怪しい程に、綺麗な屋敷の床や壁を見て、手際良く掃除を熟すクローリアの従者を見る。

「取り敢えず、こっちで掃除はするから、後は勝手に使いなさい」
「そ、掃除、大変そうですね」
「なら、人でも雇いなさい」
 
 なんだか人としての違いを見せつけられている気分になるのか、特にヴィルヘルムはゲンナリとしている。

 種族的な思想や好みは個人差はあるが、獣人族は自然的な物を尊ぶ種族だ。その為、派手な装飾は苦手なのかもしれない。
 対して、エルフ族は、多種族よりも長命である事が関係しているからか、自然は尊ぶが生きる手段の1つくらいにしか考えていない。そして、お金などに対する執着心も人間とは違う。
 殆どのエルフ族にとっての金は、財産・宝ではあるが、やはり何かを得る手段でしかない。
 おそらくクローリアの場合は、自分の力を示す武器程度の認識なのだろう。だからこそ、財力を用いて、高価な物――武器を揃えている。

「少し、外を回ってくる」
「私は、掃除を手伝って来ますね」
「ああ」

 2人が部屋からいなくなっても、周囲で人が行き交っている。
 落ち着けるまでには、暫くかかりそうだ。
 
「それにしても、本当に色々あったのね」
「ええ、本当にね」

 クローリアには、リツェアがハーディムに捕まり奴隷の様な扱いを受けていた事を大まかには話している。
 俺は、リツェアがハーディムから受けた行為の殆どを知らない為、詳しい事は話せない。それに、リツェアとクローリアの関係がどういった物かも聞いていなかった。
『腐れ縁』と表現する程なので、親しくなかった訳ではないだろう。

「ねぇ、今からでも遅くないわよ?」
「有難いけど、私は暫く雪達と一緒にいるつもりよ」
「そう。また、ふられちゃったわね」

 大して落ち込んだ様子のないクローリアは、まるで断れる事を想定していたかの様だ。
 俺達から特にクローリアに振る話題がなく、周囲の音ばかりが響く中で、クローリアは部下が用意した紙に何かを書き始めた。そして、書き終わった紙を綺麗に畳んで封筒に入れる。

「これは、冒険者組合への推薦書よ。これを渡せば、今後の冒険者生活は、間違いなく良くなる筈よ」

 俺は、推薦書を受け取って礼を述べる。それに対し、なんでもない様にクローリアは返す。

「貴方達から得た借りは、これで返せたかしら?」
「充分に返して貰いましたよ」
「というか、貰い過ぎて気まずいんですけど」

 不機嫌そうに視線を逸らすリツェアは、勝ち誇った様な笑みを浮かべるクローリアを見て、少しだけ悔しそうな表情を見せる。

「貰い過ぎたと思うなら、商会の依頼を優先して受けてくれても良いのよ」
「結局、目的はそっちね」
「何のことかしら?冒険者が受注する依頼を選ぶのは、当然の権利よ」
「ふん。出す依頼が無くなって、吠え面をかかないでよ」
「期待してるわ」

 やはり、2人のやり取りは親しい人同士の物だ。

 俺は、今も会話を続ける2人を置いて外へと向かう。そこでは、暫く手入れをせずに荒れていた庭の整備を行っていた。
 クローリアの連れて来た部下――従業員の殆どが人間族だが、中にはエルフ族や獣人族もいる。珍しい種族では、魔族ではあるが、姿や思考が極めて人間族に近い――巨人族の少年がいた。
 灰色の瞳と髪、褐色の肌、露出した腕や顔に刻まれた白い刺青は、巨人族の特徴だ。巨人族は、魔族の中でも随一の力を有する種族、と評されている。
 
 嘗て、『巨神』と呼ばれた巨人族の王が放った一撃は、当時最高硬度を誇っていた魔王の造り上げた城壁を破壊した。その逸話は、嘗て有名だった。

 巨人族の少年は、骨太で広い両肩に重い荷物を抱えて走り回っている。そんな大人顔負けの働きぶりは、巨人族の並外れた腕力の片鱗を存分に証明していた。

「アトゥム君!またそんなに一杯持って」

 働き者の幼い巨人族――アトゥムを嗜めたのは、先程掃除を手伝いに向かったメデルだった。
 いつの間に仲良くなったのかは不明だが、メデルに嗜められたアトゥムは、野生的な笑みを浮かべる。そして、「平気さ」と元気に返答していた。

「俺達の種族は、力持ちだし、身体だって丈夫なんだぜ」

 荷物を運び終えたアトゥムは、力瘤を作ってメデルに自分の体を自慢している。

「もう~、そう言う事じゃないんですよ」

 頬を少し膨らませながら、メデルは疲労回復の光属性の魔法をアトゥムにかける。

「おっ、ありがとな!これで、まだまだ働けそうだ」

 そう言って走り去って行くアトゥムを悔しそうに見送ったメデルは、自分の姿を見ている俺に気付いた。

「主、見てたんですね」
「掃除を手伝ってたんじゃないのか?」
「掃除の方は大体終わったので……」

 だから庭の整備の手伝いに来ていた様だ。

 だが、メデルの小柄で華奢な体では庭の整備の様な重労働を手伝う事は難しく、従業員達の疲労回復に勤めていたのだろう。

「あっ!!」

 驚いた声に、俺とメデルは視線を声の聞こえた方向に向ける。
 そこには、アトゥムの隣に立つ、小柄な蒼い髪の少女が俺達――厳密にはメデルの方を向いて驚いていた。

 蒼い髪の少女が驚いている原因が、自分だと気付いているメデルだが、見覚えがないのか、困惑した表情を浮かべている。

「……メデル、昨日お前のポーチを盗もうとした子供だ」
「え、あの時の?」

 一瞬しか顔を見ていなかったメデルも、漸く少女の事を思い出す。

「あ、あのー、えっと――」

 なんと言葉をかけて良いか迷っていたメデルの言葉は、突然の大声に遮られた。

「――ニア!また人の物を盗んだのか!!」

 急に大声で蒼い髪の少女――ニアを叱ったのは、隣に立つアトゥムだった。
 アトゥムの表情は、怒りを見せながらも、困惑している様な雰囲気がある。アトゥムは、同年代の子供と比べて大きな体を屈めて、ニアと向き合う。

「なぁ、本当なのか?ニアは、盗みはしないって、兄ちゃんと約束しただろ?」
「……」

 盗んだ事を否定しないニアを見て、悲しげな表情でアトゥムはニアを見つめる。

「どうして、盗みなんか……」
「煩い!あんたには関係ないでしょ!!」

 ニアは、肩に置かれていたアトゥムの手を振り払った。その拍子に、ニアが持って来ていた籠が地面に落ち、ニアの懐から綺麗な糸で編まれた布袋も一緒に落ちる。

「っ!」

 それを広い上げたアトゥムの表情は、酷い物だった。

「……これは――」
「知らないっ」

 庭から走り去るニアを追う気力がなかったのか、伸ばしていた手をアトゥムは下ろす。そして、メデルの元に歩み寄って来ると、真摯に頭を下げた。

「ごめん。謝って済む話じゃないのは分かってるけど、僕には謝る事しかない出来ない」
「良いですよ、結果的に返して貰えたので」

 微笑みながら、「気にしてませんよ」とメデルは話すが、アトゥムの悲痛な表情が晴れる事はなかった。

「ありがとう。今回の事は、いつか必ず本人から謝罪させますから」

 メデルの兄か、保護者だと思ったのか、アトゥムは必死に俺にも頭を下げる。

「メデルが良いなら、俺は話を大きくするつもりはないよ」
「あ、ありがとうございます」

 俺の言葉に安堵したアトゥムは、上司と思われる人の所へ向かう。そして、何か言われる度に頭を下げて、庭から出て大通りへと続く道の方に向かった。
 


 
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