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第3章
第11話 鬼と談笑
しおりを挟むアテラの大通りを目的もなく歩く。
必要な物は先程買ったので、特に直ぐに必要な物はない。
だが、あの場に長くいても、ヴィルヘルムとリツェアの面倒事に巻き込まれるのは、今までの旅で嫌という程知っている。だからこそ、巻き込まれる前にこうして市場の方に出て来た。
「……」
今まで、落ち着いて辺境都市の中を見て回る機会が少なかった。その為、様々な商会を見て回ったり、冒険者組合と同じくアテラに不可欠な治癒師組合まで足を運ぶなど、時間を有意義に使う。
だが、辺境都市は広く、半日程度で隅々まで見て回る事は出来なかった。
「お、さっきぶりだな」
日が傾いて来た大通りで、カシムと出会う。
鎧は外し、扱い易そうな片手剣を腰に下げている。カシムが森で使っていたのは、重厚感のある両手剣だった為、護身用の予備装備だろう。
魔法が使える俺やリツェア、アイテムボックスと似たスキル――〝空間収納〟を持つヴィルヘルムは、手に武器を持って街中を歩く事は少ない。
「どうかしたんですか?」
「ああ、悪いな。お前の顔が見えたから、咄嗟に声をかけちまった」
カシムは強面の顔で、笑みを浮かべる。
「こうして会ったのも何かの縁だ。少し早いが、一緒に飯でも食わねぇか?」
「いえ、自分は今から帰る所なので」
丁重に断ったつもりだったのだが、両肩に置かれたカシムの手が俺を逃がさない。
「まぁまぁ、良いじゃねぇか。全部俺が奢るからよ」
抵抗出来ない程の力ではなく、本気なら簡単に抜け出せる程度の力だったが、面倒になりカシムに促されるままに道を歩きだす。
「はぁ、分かりました」
おそらく、カシムも俺が本気で嫌なら、簡単に抜け出せる事は分かっていた様で、抵抗を辞めた俺をみて嬉しそうに表情を緩める。
「おっしゃ!で、何が食いたい?」
「……肉、ですかね。でも、明日も依頼を受けるので、食べ易い物でお願いします」
「肉だな。分かった!俺に任せろ!」
暑苦しい笑顔で上機嫌に了承してくれたが、不安は消えない。
カシムの見た目から、塊肉の丸焼きや癖のある獣肉の香草焼きなどを大盛りで提供する店に連れて行かれそうだ。
だからと言って、こんな内陸の都市で魚料理を出す店はないだろうし、野菜単品の料理を食べる気分ではない。
俺は、多少の我慢は承知でカシムと共に店へと向かう。
「はい!これが、うちの名物だよ!」
ふくよかな体型の女性が運んで来たのは、少し大きめのサイコロステーキの様な形をした肉料理だった。
最初に、酒で煮込んで臭みなどを抜いた後に、ソースと複数の香草を用いて煮込んだ料理は、量は多いのだが、食べ易く、味も塩辛くない。
寧ろ、今回召喚されて食べた料理で1番美味い――聖王国で食べた料理と同じくらい食べ易い、と感じた。
「どうだ?美味いだろ」
「はい」
冒険者などの戦闘に関わる人々は、塩辛い料理を好む傾向がある。
行軍や戦闘の合間での食事は、兵士が戦う為の料理だ。その為、衛生環境が整える事が難しい事から、長く煮込み、味も濃い物が多い。だから、自然と味の好みも濃く、酒に合う味に偏って行くのは、良くある事だ。
俺も10年前の戦場で食べた食事の殆どは、味が濃くて、具材が硬い、と感じる物ばかりで、食事を楽しんだ事はあまり記憶にない。
「ここはな、酒も美味いんだ」
カシムと俺の前に、葡萄の様な香りがする酒が置かれている。そして、カシムは勢い良く酒を胃に流し込む。
俺も一口飲む。元々、酒をあまり美味しいと思わなかったが、飲み難いとは感じなかった。
酒と肉料理、他にも幾つかの注文をしたカシムは、俺にアテラで冒険者として活動する際に苦労する事や周辺に生息する魔物について教えてくれた。
運ばれて来た料理の殆どを食べ終えた頃、カシムが突然自分のパーティーについて話を始めた。
「ハイリは、光属性の魔法が使える優秀な魔導師でな。それに、ミルも弓の扱いは一流なんだ。2人とも、経験不足な所はあるが、才能の塊みたいな奴等なんだぜ」
長年冒険者として活動をしているカシムが言うのだから、2人には戦闘に関連した才能があるのは間違いない。
だが、実力が常に他者より秀でてしまうが故に、自分の力を見誤ってしまう事がある。『自分なら出来る』『この程度なら、大した事はない』――そうやって、判断を誤ってしまう。
カシムが語る2人は、正に才能の欠点を抱えている様に感じた。
「お前は、どう思う?」
「まぁ、カシムさんが言うなら、才能はあるんじゃないですか」
適当にカシムに合わせて返答する。
「なぁ、俺はお前の正直な意見が聞きてぇんだ」
今までの上機嫌な笑みを消し、真剣な表情でカシムは俺を見つめている。
「俺は、2人の事を良く知りません」
「森からの帰り、俺達の戦闘は見てたろ?」
カシムの真剣な目と言葉にのった緊張を感じ取り、俺は姿勢を正して、2人の戦闘の様子を思い出す。
「……2人は、自分の強みを活かしきれていない様に感じました」
幾ら才能という優れた武器を持っていても、磨かなければ単なる鈍だ。
「お前もそう感じたか……」
「あれでは、何れ致命的なミスで死ぬかもしれません」
「……」
つい最近、死にかけているカシムは表情を顰める。
「1人で死ぬのは勝手ですが、2人の場合は他人を巻き込んで死ぬでしょうね」
俺は、カシムを見ながら話す。
「あれは、俺のミスだ。俺が2人を護れなかったから、俺達は死にかけたんだ」
「カシムさんの所為ですか?」
「そうだ」
話をするカシムの目は、迷いがなく、真剣なものだ。
「……」
「何だ?」
「いえ……。パーティーで最も変わるべきなのは、2人ではなく、カシムさんかも、と思っただけです」
「……何?」
カシムが睨み付ける様な視線を向けて来る。
「俺はただ思った事を言っただけです」
困惑して黙るカシムに軽く頭を下げて、俺は席から立ち上がる。
「これ以上は、辞めておきましょう。俺の言葉は、生意気な新人の戯言だと思って下さい」
「……」
「ご馳走様でした」
店の外に出た頃には、すっかり夜になっていた。
▫︎▫︎▫︎▫︎
翌日の早朝。
クローリアに言われていた通り、冒険者組合でフォンティーヌ商会の依頼を受注する為の手続きを行う。
「依頼の手続きは完了しました。しかし、まだ人が揃っていない様ですが」
「何の話ですか?」
「フォンティーヌ商会長様から、雪さんのパーティーと『精霊の角』の皆さんとで、今回の依頼を受注する様に、と話を承っていたのですが……」
受付の女性の『何か手違いがございましたか?』という言葉が出そうな表情に、俺は視線をヴィルヘルム達に向ける。
だが、ヴィルヘルム達も『精霊の角』という冒険者パーティーに関する話は聞いていない様で、首を横に振った。
「あ、そういえば、『他にも当てはある』ってクローリアさんが言ってた様な……」
「そんな事を言ってたかもね」
メデルに言われて、昨日クローリアが帰り際に言っていた言葉を思い出す。
「ならば、その『精霊の角』という者達が来るまで待つしかないか?」
「いや、その必要はねぇよ」
最近、何度も聞いたカシムの声に、視線を冒険者組合の入口の方へ向ける。
そこには、装備を整えたカシム達のパーティー――『精霊の角』の3人が立っていた。
「お話は伺っています」
「私達、手伝う」
カシムは近付いて来るにつれて、故意に背けられていた視線と俺の視線が合う。
昨日よりも瞳から発せられる覇気が弱い。
「お前達と協力する様にって言われてんだ。迷惑かもしれねぇが、暫くは我慢してくれや」
「いえいえ、心強いですよ」
「というか、貴方達もクローリアの知り合いだったの?」
相手を探る様子を隠そうともしないリツェアの言葉に、カシムの視線が横のハイリとミルに向かう。それを察して、ミルが少しの間考えて口を開く。
「同じエルフ族。昔の知り合い」
確かに、長命種のエルフ族の中でもクローリアは顔が広く、有名な人物だ。
現在なら兎も角、過去にエルフ族同士で出会っていた可能性は否定出来ない。それでも、理由が淡白過ぎる。
「……まぁ、理由など些細な事だろう」
ヴィルヘルムの視線を受けて、俺は頷く。
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