異世界召喚されたのは、『元』勇者です

ユモア

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第3章

第18話 才能

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 フォンティーヌ商会の依頼をカシム達と共に行った翌日は、夕方まで雨が降り続けた。突然の雨は、俺達が依頼を達成した日の深夜から降り始め、辺境都市を出発し、王都に向かおうとしていた商人達が出発を諦める程だ。
 昼過ぎ頃から雨の勢いが弱まったが、雨が降った後の森は魔物達の動きが活発となる。それに、ヴィルヘルム曰く、魔物達の臭いも流され、水の雑音も増える所為で危険を察知するのが難しくなる様だ。

 フォンティーヌ商会の依頼は、高い危険を犯してまで急いでやる依頼ではない。
 依頼者のクローリアも、俺達が怪我を負って依頼を中断せざる負えない状況は望んでいない。

 その為、雨が止んだ翌日から依頼を始める事にした。

 俺達で決めた話は、既にヴィルヘルムがカシム達に伝えている。


 
「どうですか?」
「なかなか上手ね」

 メデルが、室内で先日覚えたばかりの精霊魔法を使っていた。その所為で、 室内リビングには、白い羽毛が漂っている。
 俺は漂う羽毛を摘む。羽毛は、僅かな光を放っており、本物の羽毛の様な手触りを感じた。

「この魔法は、その羽毛が触れている人の痛みと疲労を和らげる事が出来るみたいです」
「傷は治せないの?」
「うぅ、そうみたいです」

 見たところ、範囲は少なくてもリビング全体に及んでいる。
 傷を癒す事が出来ない事は欠点だが、持久戦や応急処置の一つとしては優秀な手札になりそうだ。

「メデルの魔力は、どれくらい使ってるの?」

 精霊魔法で使用される魔力は、個人差がある。
 精霊魔法自体、契約する精霊によって様々な魔法を与えてくれる為、他者と比較するのは難しい。それでも、契約する精霊に気に入られれば、術者が消費する魔力を精霊痕を通じて精霊が何割か肩替わりしてくれる事もある。
 殆どが、1~3割程度を精霊が負担して、殆どを術者の魔力に頼っている。
 半分以上肩替わりしてくれる事は、滅多にない。
 
 俺自身も嘗ては精霊魔法を取得していたが、精霊と契約する事が出来ず、実際に使った事はなかった。
 俺が精霊と契約出来なかった理由はあるのだが――。

「えっと……精霊さんが、魔力の殆どを出してくれてるので……。私が使ってる魔力なんて、本当に少しですよ」
「何?」
「嘘っ!?」

 申し訳なさそうに話すメデルに、俺とリツェアは驚きを隠せなかった。
 元来、精霊は生物ではなく、魔力の塊だ。それ故に、生物としての価値観や思考に囚われる事はない。その為、精霊が人と契約を交わしたとしても、契約者である人を気に入って好意的に協力してくれる事は極稀だ。
 精霊魔法の発動に使われる殆どの魔力を肩替わりする精霊など、噂や御伽話でも聞いた事がない。

 おそらく、リツェアの反応を見ても、俺の知識はあまり間違ってはいなさそうだ。

「え、そんなに凄い事なんですか?」
「凄い事よ。精霊は、魔力の塊だから、魔力が枯渇すれば消滅するかもしれないのよ」

 リツェアの言葉に、メデルは驚愕した。

「だから、精霊と契約しても、精霊は少しの魔力と自分の精霊魔法を契約者に貸すだけっていうのが、私の常識だったんだけど……」

『私、間違ってる?』という感情のこもった視線を受けてる。

「俺も嘗て、似た様な事を聞いた事がある」
「そうだったんですね……」

 メデルは、悲しそうに右手の精霊痕に触れる。
 すると、精霊痕がメデルに語り掛ける様に白い光を放つ。

「え?」
『――――――』
「でも……」
『――――――』

 精霊痕を通じて、契約した精霊と意思疎通を図る事は、熟練した精霊魔法を扱う魔導師――精霊術師達にしか出来ない芸当だ。

『――――――』
「はい、分かりました。精霊さんの力を貸して頂きます」
『――――』

 精霊痕の光がおさまる。

「もしかして、精霊と話してたの?」
「はい。『否。この身の魔力が尽きる事などありません』『聖なる蛇の子よ。貴方の望みの為に、この力は不要ですか?』みたいな事を言われました」
「どうやら、相当メデルの事を気に入ってるみたいね」

 リツェアがメデルの頭を撫でた。それをメデルは、嬉しそうに受け入れる。
 まるで、仲の良い姉妹の様だ。

「そんな、私なんてまだまだですよ」
「謙遜しないの。私じゃ、絶対に出来ない事をメデルは成し遂げたのよ」

 メデルの頭から手を離したリツェアは、腰に手を当ててメデルを見つめていた。



 ◼︎◼︎◼︎◼︎


 降り続いた大雨が止んだ翌日。
 俺達はフォンティーヌ商会の依頼をこなす為に、再び森の奥地へと向かっていた。

「それにしても、薬草ってこんなに種類があったんですね」

 様々なポーションを作る上で、薬草は欠かせない素材だ。
 人工的に薬草を栽培する方法はあるらしいが、大きな施設を建設するには、辺境都市の安全な土地は限られている。それに、人工的な栽培では育てるのが難しい薬草もある。
 人工的な栽培が難しい薬草ほど、限られた環境で自生していたり、高価なポーションに必要不可欠な薬草である事が多い。

 嘗て、俺が異世界に召喚される以前には、稀少な薬草を巡って種族間の争いが起こった事もある。

「うん。この辺りは、薬草の種類も豊富。質問があれば、私が教える」

 いつの間に仲良くなったのか、メデルとミルは親しげに話をしている。その後ろをハイリが歩いていた。
 ハイリの表情は、曇っており、森に入る前から何かを考えている様に見える。

「ありゃ、駄目だな」

 俺の隣を歩くカシムもため息を吐いている。

「何がだ?」
「ハイリの事だよ。あいつ、メデルの事が気になって、集中力が欠けてやがる」

 何故ハイリが、メデルの事を気にしているのか、理由が分からない。

「大方、メデルへの劣等感だな」
「劣等感?」
「ハイリは、間違いなく天才の部類に入る魔導師だ。だがな、メデルはそれ以上の天才だ」

 確かに、メデルの才能は底が分からない。
 召喚当初は、自身の事を『聖蛇の中で最弱』だと表現していた。それでも、幾つかの戦闘を潜り抜けるに連れて、着実に実力を身に付けている。
 メデル自身に、その自覚はない。
 だが、見ている者――特に、メデルと似た系統の力を持つ人からは、嫌でも視線を集める。そして、メデルの才能に様々な感情を抱く筈だ。
 羨望、尊敬、嫉妬、劣等感――。

「自分が必死に歩いて来た道を、自分より遥かに早い速度で駆け抜けて来る奴なんて、普通の奴等からしたら恐怖の対象だ」
「恐怖……」
「悪い。言葉の綾だ」

 申し訳無さそうに、カシムの目が俺を見る。

「いや、カシムは間違ってないと思う」

 嘗て、俺に魔法の才能があった事で、戦争を人間族の勝利で終結させる希望だと持て囃す人達がいた。その中で、一定数、俺の事を揶揄する人や卑下する人が必ずいた。おそらく、その中にはカシムの言う通り、俺に怯えていた人間もいたかもしれない。
 元々、力なんてない。ただの日本人だった俺は、その気持ちを抱く理由を理解出来る。
 
「間違っちゃいねぇが、正しくもねぇだろ?」
「……」
「才能がある奴が結果を出す。才能がねぇ奴は妬む。それは当たり前の事だ。誰が悪い訳でもねぇ」
 
 カシムは、「だが」と言葉を続ける。

「才能ってのは、諦める理由の1つにしかならねぇ。最後に選ぶのは、自分だ」

 カシムの言葉は、何故か俺の心に真っ直ぐに届いた。

「だから、お前みてぇな奴は、俺等の事なんて気にせず、全力で駆け抜ければ良いんだ」

 暑苦しく感じる笑みをカシムは俺に向ける。

「恥ずかしい事を、良くそんな真面目に言えるわね」

 俺とカシムの後ろをやる気なさげに歩いていたリツェアは、カシムに呆れた様な視線を向けていた。
 だが、直ぐに微笑を浮かべて「でも、嫌いじゃないわね」と語る。それに、カシムは戸惑う。

「お、おう」

 カシムと俺の間を追い抜き、足を止めて薬草を探していたハイリの元にリツェアが向かう。
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