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第2.5章
第1話 残された者
しおりを挟む俺――深海庸平を含めた生徒達は、聖王国の首都に造られた闘技場に集められていた。
この闘技場では、定期的に生徒同士の試合が行われている。
常日頃の訓練でも時折模擬戦の様な事はするが、闘技場で行われる訓練とは重要性が違う。
10日~15日に1度、定期的に行われる闘技場での試合は、異世界人の実力を王族や貴族などの有力者に示す舞台となっている。そこで実力を示せなければ、これまでの好意的な俺達への風当たりが変わるかもしれない。
この事は、異世界人の纏め役――澤輝も懸念していた。
俺達は、異世界から召喚された人間。そして、俺達を召喚したのは聖王国だ。
多くの生徒達は、その事実から、今の立場や環境が長く続く事を当然だと思っている者も少なくは無い。
確かに、俺達が生まれ育った日本では、ある程度の差はあれど、安全な環境と生活が提供されるのは当然の事だった。
だが、ここは異世界――聖王国だ。
今までの常識では量れない。
「……」
嫌でも思い出すのが、凍夜の姿だ。
召喚されるまでは、俺達と同じ普通の人間だったのに、突然人間離れした力を得ていた。
俺達にとっての日常、普通、常識、そのどれにも当て嵌まらない出来事。
ならば、俺達が持つ常識は、この世界では容易く覆せれるのかもしれない。そう確信するに至るまで、然程時間は掛からなかった。
丁度その頃、澤輝が生徒達の中から力が優れている者や賢明な人達を集めて、聖王国での自分達の振る舞いや今後の事について話し合う機会があった。
結果として、海堂の「強くなれば問題ない」という言葉が、最も最悪の想定から自分達の身を守る方法だった。
だが、その話し合いを行なった所で、生徒達の生活の殆どは変わらなかった。
結局、生徒達に最も足りないのは、『無力である事の自覚』なのかもしれない。
凍夜が行方不明になってから、約2カ月――約60日以上が経過した。
凍夜が行方不明になった当初は、クラス内で最も弱い生徒が事件に巻き込まれたのでは無いか、と話題になった。
だが、1人で国外に旅立った事が知れ渡ると、殆どの生徒達が凍夜を『馬鹿だ』『愚かだ』と罵り、嘲笑った。
だが、実際に凍夜と戦った俺からすると、あまりにも滑稽に感じる。
召喚された異世界人――生徒達の中で、俺の実力は3本の指に入る。そんな俺ですら、凍夜の実力の底を除く事すら出来なかった。
「……」
だからこそ、『なぜ?』と思ってしまう。
凍夜は何を思い、何を考えて国を飛び出したのか。
この国の何が気に入らなかったのか。
一体何を求めていたのか。
何度考えても、結局は『分からない』という結論に辿り着く。
「……」
観客席から見下ろせる位置で、早乙女が小柄な女子生徒と試合をしていた。
相手の女子の固有スキルは戦闘系ではないが、短い刃物を持つ事に慣れている。それに対して、盾で防ぐ早乙女は、斬撃を捌き切れていない。
女子生徒の友人らしき生徒達が、声援を送る。その姿は、スポーツの試合の様だ。
「この訓練にも、皆慣れて来たみたいね」
近くに座っていた風巻の言葉に、「みたいだな」と返答する。
本物の武器や魔法を使うこの訓練は、命懸けの様に見えるが、意外とそうではない。
訓練が行われている闘技場の地面には、肉体へのダメージの一部を精神ダメージに変換する魔法陣が刻まれている。それによって、命に関わる重症は負う事は殆どない。
近くに回復系の魔法やスキルが使える魔導師が控えているので、安全面は充分に考慮されている。
だが、勿論痛みは感じるし、死ぬ可能性も無い訳ではない。その為、当初生徒達の殆どは戸惑い、真面に武器を振るう事すら出来なかった。
それでも、人は慣れる。
訓練を定期的に繰り返す内に、武器への恐怖感が薄れ、自分の力を試す事に楽しみを見出していた。
「……深海が何を考えてるか、当てようか?」
「……。考えを予測されるのは、好きじゃない」
殆どの生徒達は、俺が睨むだけで怯むのに風巻は表情1つ変えない。
「このままで良いのかって、考えてるでしょ?」
「……っ」
考えていた事を当てられて、俺の方の表情が変わる。
「……」
風巻の言う通り、俺は、現状に対して『焦り』を感じていた。
黙り込んだ俺の様子から、自分の予想が間違っていなかった事を察する。
「何か不安な事があるの?」
「逆に聞きたい。風巻さんは、現状に不安はないのか?」
視線を向けなくても、風巻が言い澱んでいる事が分かった。
「……私も同じ。不安だらけ」
「……」
「これから、私達はどうなるんだ?とか、私達の力が敵に通じるのか?とか…………本当に、人を殺す事が出来るのか?とかね」
自分よりも様々な事を考えていた風巻に視線を向ける。
風巻は、普段と変わらない表情で早乙女の戦いを眺めていた。
俺と風巻と早乙女は、凍夜との戦いに負けてから、時折一緒に自主鍛錬に励んでいた。
「……あ」
そうこうしている内に、早乙女が魔法陣の外に押し出され敗北になってしまった。
傷を治した早乙女は、薄暗い出口に向かって歩き出す。そして、観客席に戻って来ると俺達の方に向かって歩いて来た。
「惜しかったわよ」
風巻の言葉に、早乙女が自嘲気味な笑顔で返答した。
「ありがとう、風巻さん」
「早乙女。どうして、攻めて行かない?」
早乙女は、闘技場の訓練を行う様になって、唯一の全敗者だ。
固有スキル『盾魔法』を持っていながら、戦闘に不向きなスキルを持つ者や実力的に拮抗している様な者にも勝てない。その最たる理由は、早乙女は相手を傷つける事に怯えているからだ。
俺達――異世界人にとって、他人を傷付ける事に拒否反応を起こす事は正常だ。
寧ろ、嬉々として力を見せつける海堂の方が、異常と言える。
だが、相手を傷付ける事に怯えていては、自分の望みは決して叶わない。
「深海、早乙女の力は、『護る』事に特化しているの」
「だから?」
「早乙女は、1人で戦う時よりも、パーティー戦で実力を発揮出来るタイプなのよ」
「……」
風巻の言葉には、一理ある。
「だが、常に仲間がいる所で戦えるとは限らない」
「そうだけど……」
「それに、仲間が負けた時、早乙女も負けるのか?」
この世界の戦いで、『負ける』と言う事は、『死ぬ』という事だ。
敵は、俺達が泣き叫び、許しを乞った所で、見逃してくれるほどお人好しな筈がない。だからこそ、自分の勝敗を他人の力に委ねては駄目だ。
「風巻さん、ありがとう。深海君の言う通りだよ」
「早乙女……」
「……」
俺は、自分が間違った事を言ったとは思っていない。
だが、早乙女を傷付けずに自分の気持ちを伝える言葉が他にもあった筈だ。
早乙女が、流れそうになっている涙を堪えている姿を見て、どうしても罪悪感を感じてしまう。
「悪い……」
俺は、何もかもが足りない。
この世界に来て、戸惑ってばかりだ。
いや、地球にいた時も、遅かれ早かれ、同じ壁にぶつかっていただろう。
1度目は、彼の手助けがあって乗り越えたに過ぎない。
「次が、最後の試合になります!!事前に決められていた方は、闘技場まで降りて来て下さい!!」
呼ばれた俺は、2人の脇を通って闘技場の入り口へ向かう。
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