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第4章
第4話 親子の距離
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バルザックから緊急招集についての説明を受け、その内容を整理しながらメデル達の元に向かう。
2階からの階段を降りて来る最中に、人の増えた冒険者組合内は、様々な声が飛び交っている。その殆どが、今回の緊急招集に関する話題だ。
調査村の一件には、緘口令が敷かれている訳ではないので、話しは冒険者間で電波し、辺境都市中に広がって行くだろう。
そんな事になれば、辺境伯に対する不満は増してしまう。
人々の不満が募れば、何れ取り返しのつかない事になるかもしれない。それが分からない程、アーク辺境伯は無能な人物ではなかった筈だ。
それとも、10年という時の流れが、彼を変えたのかもしれない。
「考え事?」
リツェアがメデルと共に、階段の側に立っていた。
「まぁ……」
今は、辺境伯の考えについて考えている場合ではない、と思考を切り替える。
「それより、ヴィルヘルムは?」
「まだ戻って来てません、主」
「なら、ヴィルヘルムを探してから詳しい話をするか」
「ま、だいたいの話は、聞かなくても分かるけど」
そう言いながら、リツェアは周囲の冒険者に視線を向けた。
既に、冒険者組合を出て行った人達もいるが、おそらく金級以上の冒険者は、自分の命と今回の依頼を天秤にかけて考えている。
「私達はどうするの?」
「……依頼の事か?」
「緊急招集を受けたからって、参加を強制された訳じゃないんでしょ?」
「ああ」
リツェアの言う通り、今回の依頼は、緊急招集を受けたからといって、参加を強制された訳じゃない。
「悩んでるの?」
悩んでいる様に見えたのか、リツェアのかけた言葉に頷く。
「別にどっちでも良いんじゃない?」
「……他人事だな」
「だって、他人事でしょ」
辛辣な言葉を放ったリツェアは、近くに空いていた椅子に座る。
「今起きてる事も、これから起きる事も、殆どの事は他人事。そんな事に、私達が命を賭ける必要ってある?」
視線を冒険者達の方に向けたまま、リツェアは話し続ける。その言葉に、俺はハッキリとした答えは出せない。
「『俺が、助けたいって思ったんだ』」
他人の言葉を借りた様な台詞に、俺はリツェアに視線を戻す。
「凄く陳腐な言葉でしょ」
「そうだな」
「でも、結局はそんなもんか、っても、思うのよね」
リツェアの視線は、遠くを見ていた。
まるで、過去と現在を照らし合わせる様に。
「命を賭ける価値って、人それぞれだし、状況だってある」
「……」
「私達は、命を賭ける価値がない事だと思っても、突然命を賭けざる負えなくなる時だってあるしね」
リツェアが何を言いたいのか、正直分からない。
だが、『俺が、助けたいって思ったんだ』という台詞は、少し馴染みがあった。
「雪っ、雪!」
俺を見つけたカシムが、階段を駆け降りて来る。
「カシム?」
「今回の依頼を受けるのか?」
「正直、悩んでる」
俺の言葉に、カシムは表情を顰める。
「なぁ、雪。俺達に、力を貸してくれねぇか?」
「……」
「頼む」
いつも冗談を言う事が多いカシムだったが、今の彼からは鬼気迫った物を感じる。
「一体どうしたんだ?」
「俺も詳しい事は分からねぇ。だが、嫌な予感がする」
「だから、俺達の力が必要なのか?」
「そうだ」
真っ直ぐに、カシムは俺の目を見つめていた。その姿を、何故か興味深げにリツェアが眺めて来ている。
先程のリツェアの会話の意味は、分からない。
だが、今言える言葉を考える。
「それで、依頼を受ける事になったんだな?」
家――屋敷の庭で合流したヴィルヘルムに、緊急招集で聞いた説明とカシムがバルザックから受けた話の内容を4人で整理して説明する。
俺が依頼を受けてしまった事に関しては、想定していたのか、ヴィルヘルムは特に何も思っていない様だ。
「今回の依頼は、俺が独断で受けてしまったから、3人は無理しなくて――」
「――私は、着いて行きます!」
俺が話終える前に、リツェアは大きな声で同行をする意思を主張した。
リツェアとヴィルヘルムも頷く。
「まずは、フォンティーヌ商会からポーションや薬類を買って来るか。それと、食料だな」
「蟲の状態異常も雪とメデルが入れば、大丈夫だと思うけど、あって困る物でもないしね」
「そうですね」
緊急招集があった事と調査村の事情を既に知っていたクローリアは、ポーションなどの必要な道具を全てフォンティーヌ商会が準備してくれた。
提示されていた時間には早いが、俺達は西門に向かう。
誰も到着していないと思っていたのだが、バルザックが既に到着し、歩いて来るこちらに視線を向けていた。
隣を歩くヴィルヘルムの雰囲気が変わる。
本人は抑えているつもりでも、周りからすれば、ヴィルヘルムの変化は分かりやすかった。
元々、獣人族は感情を抑制する事が得意な種族ではない。
どちらかと言えば、感情に素直な人達が多い。
俺達は、バルザックから離れた位置で止まり、俺だけがバルザックの元に向かう。
近付くにつれ、バルザックと視線が合う。
「依頼を受けるのか?」
「はい」
ギロリと視線が動く。
並の人では、睨まれただけで息が詰まりそうになるだろう。
「……そうか。助かる」
「カシムさんに、頼まれましたから」
「あいつは、君の事を随分信頼している様だったな」
「そうですか?」
バルザックは、一瞬だけ笑みを浮かべた。
「ああ。珍しい事だ」
「……」
「それに――」
「?」
バルザックの視線が、俺の後方に向かう。
そこには、先程まで離れた位置でバルザックの方を睨んでいたヴィルヘルムが、俺達の方に歩いて来ていた。その少し後ろをメデルとリツェアが不安そうな表情を浮かべながら、歩いて来ている。
俺の少し前程の位置で、ヴィルヘルムは足を止める。
「「……」」
場が沈黙する。
「久しぶりだな」
その沈黙を破ったのは、ヴィルヘルムの方だった。
「そうだな」
事情を知らないリツェアとメデルは、困惑してヴィルヘルムを眺める事しか出来ない。
「ヴィルヘルム。どうして、ここにいる?お前は、獣王戦士団に、入隊したと思っていたんだが……」
『獣王戦士団』とは、人間の国で言う騎士団や軍の様な組織だ。
産まれながらの戦闘民族である獣人族の中でも、『戦士』と認められた者しか所属する事は出来ない。
「……」
ヴィルヘルムは、一度掌を握り直す。
「お前の言う通り、俺は獣王戦士団に入隊していた」
「だったら――」
「――知ってどうする?」
「っ」
「……次に会った時、殴ってやろうと思ったが、そんな顔のお前を殴っても、2人が可哀想なだけだ」
バルザックに背を向けて、立ち去る背中を困惑したままのリツェアとメデルが追う。
「追わなくて良いんですか?」
「……君は、何か知っているのか?」
「ヴィルヘルムと組合長の関係についてなら」
視線を地面に向けたまま、座り込みそうなバルザックに言葉をかける。
「……俺に、追う資格はない。息子も、嫌だろ」
まるで、確信している様な言葉だった。
だが、俺はそうは思わなかった。
「そうですか?」
「……?」
「貴方には、ヴィルヘルムを追う資格があると思いますよ」
バルザックが俺を見つめる。
無意識になのか、俺の奪った左腕のあった場所を右手が触れた。
結局、バルザックはヴィルヘルムを追う事はなかった。その間に、バルザックを補助する役目があるのか、組合の職員が到着し、冒険者達も次々と西門へと集合し始める。
集まった冒険者パーティーの代表が、バルザックと組合職員の周囲に集まると、今回行われる作戦の概要が伝えられた。
今回集まった冒険者は、大きく3つの部隊に分けられる。
1つが、最も敵の攻撃を受ける可能性のある村の正面から突入する部隊。もう1つは、敵の後方――村の裏側から攻める部隊の2つに分けられる。そして、2つの部隊を同時にカバーする、後方支援の3つの部隊に分けられる様だ。
詳しい舞台の振り分けは、調査村付近に到着後に発表される。
「改めて、今回の依頼を受けてくれた事を感謝する。それでは、組合側で用意した馬車に乗り込んで、出発してくれ。馬車があるパーティーは、そちらを使用してくれ」
冒険者パーティーのリーダーを集めた簡単な会議を終えたところで、バルザックが全体に向けて大声で謝辞と指示を出した。
その声を聞いた冒険者達は、ギルドが貸し出す馬車に乗り込み移動を開始する。
2階からの階段を降りて来る最中に、人の増えた冒険者組合内は、様々な声が飛び交っている。その殆どが、今回の緊急招集に関する話題だ。
調査村の一件には、緘口令が敷かれている訳ではないので、話しは冒険者間で電波し、辺境都市中に広がって行くだろう。
そんな事になれば、辺境伯に対する不満は増してしまう。
人々の不満が募れば、何れ取り返しのつかない事になるかもしれない。それが分からない程、アーク辺境伯は無能な人物ではなかった筈だ。
それとも、10年という時の流れが、彼を変えたのかもしれない。
「考え事?」
リツェアがメデルと共に、階段の側に立っていた。
「まぁ……」
今は、辺境伯の考えについて考えている場合ではない、と思考を切り替える。
「それより、ヴィルヘルムは?」
「まだ戻って来てません、主」
「なら、ヴィルヘルムを探してから詳しい話をするか」
「ま、だいたいの話は、聞かなくても分かるけど」
そう言いながら、リツェアは周囲の冒険者に視線を向けた。
既に、冒険者組合を出て行った人達もいるが、おそらく金級以上の冒険者は、自分の命と今回の依頼を天秤にかけて考えている。
「私達はどうするの?」
「……依頼の事か?」
「緊急招集を受けたからって、参加を強制された訳じゃないんでしょ?」
「ああ」
リツェアの言う通り、今回の依頼は、緊急招集を受けたからといって、参加を強制された訳じゃない。
「悩んでるの?」
悩んでいる様に見えたのか、リツェアのかけた言葉に頷く。
「別にどっちでも良いんじゃない?」
「……他人事だな」
「だって、他人事でしょ」
辛辣な言葉を放ったリツェアは、近くに空いていた椅子に座る。
「今起きてる事も、これから起きる事も、殆どの事は他人事。そんな事に、私達が命を賭ける必要ってある?」
視線を冒険者達の方に向けたまま、リツェアは話し続ける。その言葉に、俺はハッキリとした答えは出せない。
「『俺が、助けたいって思ったんだ』」
他人の言葉を借りた様な台詞に、俺はリツェアに視線を戻す。
「凄く陳腐な言葉でしょ」
「そうだな」
「でも、結局はそんなもんか、っても、思うのよね」
リツェアの視線は、遠くを見ていた。
まるで、過去と現在を照らし合わせる様に。
「命を賭ける価値って、人それぞれだし、状況だってある」
「……」
「私達は、命を賭ける価値がない事だと思っても、突然命を賭けざる負えなくなる時だってあるしね」
リツェアが何を言いたいのか、正直分からない。
だが、『俺が、助けたいって思ったんだ』という台詞は、少し馴染みがあった。
「雪っ、雪!」
俺を見つけたカシムが、階段を駆け降りて来る。
「カシム?」
「今回の依頼を受けるのか?」
「正直、悩んでる」
俺の言葉に、カシムは表情を顰める。
「なぁ、雪。俺達に、力を貸してくれねぇか?」
「……」
「頼む」
いつも冗談を言う事が多いカシムだったが、今の彼からは鬼気迫った物を感じる。
「一体どうしたんだ?」
「俺も詳しい事は分からねぇ。だが、嫌な予感がする」
「だから、俺達の力が必要なのか?」
「そうだ」
真っ直ぐに、カシムは俺の目を見つめていた。その姿を、何故か興味深げにリツェアが眺めて来ている。
先程のリツェアの会話の意味は、分からない。
だが、今言える言葉を考える。
「それで、依頼を受ける事になったんだな?」
家――屋敷の庭で合流したヴィルヘルムに、緊急招集で聞いた説明とカシムがバルザックから受けた話の内容を4人で整理して説明する。
俺が依頼を受けてしまった事に関しては、想定していたのか、ヴィルヘルムは特に何も思っていない様だ。
「今回の依頼は、俺が独断で受けてしまったから、3人は無理しなくて――」
「――私は、着いて行きます!」
俺が話終える前に、リツェアは大きな声で同行をする意思を主張した。
リツェアとヴィルヘルムも頷く。
「まずは、フォンティーヌ商会からポーションや薬類を買って来るか。それと、食料だな」
「蟲の状態異常も雪とメデルが入れば、大丈夫だと思うけど、あって困る物でもないしね」
「そうですね」
緊急招集があった事と調査村の事情を既に知っていたクローリアは、ポーションなどの必要な道具を全てフォンティーヌ商会が準備してくれた。
提示されていた時間には早いが、俺達は西門に向かう。
誰も到着していないと思っていたのだが、バルザックが既に到着し、歩いて来るこちらに視線を向けていた。
隣を歩くヴィルヘルムの雰囲気が変わる。
本人は抑えているつもりでも、周りからすれば、ヴィルヘルムの変化は分かりやすかった。
元々、獣人族は感情を抑制する事が得意な種族ではない。
どちらかと言えば、感情に素直な人達が多い。
俺達は、バルザックから離れた位置で止まり、俺だけがバルザックの元に向かう。
近付くにつれ、バルザックと視線が合う。
「依頼を受けるのか?」
「はい」
ギロリと視線が動く。
並の人では、睨まれただけで息が詰まりそうになるだろう。
「……そうか。助かる」
「カシムさんに、頼まれましたから」
「あいつは、君の事を随分信頼している様だったな」
「そうですか?」
バルザックは、一瞬だけ笑みを浮かべた。
「ああ。珍しい事だ」
「……」
「それに――」
「?」
バルザックの視線が、俺の後方に向かう。
そこには、先程まで離れた位置でバルザックの方を睨んでいたヴィルヘルムが、俺達の方に歩いて来ていた。その少し後ろをメデルとリツェアが不安そうな表情を浮かべながら、歩いて来ている。
俺の少し前程の位置で、ヴィルヘルムは足を止める。
「「……」」
場が沈黙する。
「久しぶりだな」
その沈黙を破ったのは、ヴィルヘルムの方だった。
「そうだな」
事情を知らないリツェアとメデルは、困惑してヴィルヘルムを眺める事しか出来ない。
「ヴィルヘルム。どうして、ここにいる?お前は、獣王戦士団に、入隊したと思っていたんだが……」
『獣王戦士団』とは、人間の国で言う騎士団や軍の様な組織だ。
産まれながらの戦闘民族である獣人族の中でも、『戦士』と認められた者しか所属する事は出来ない。
「……」
ヴィルヘルムは、一度掌を握り直す。
「お前の言う通り、俺は獣王戦士団に入隊していた」
「だったら――」
「――知ってどうする?」
「っ」
「……次に会った時、殴ってやろうと思ったが、そんな顔のお前を殴っても、2人が可哀想なだけだ」
バルザックに背を向けて、立ち去る背中を困惑したままのリツェアとメデルが追う。
「追わなくて良いんですか?」
「……君は、何か知っているのか?」
「ヴィルヘルムと組合長の関係についてなら」
視線を地面に向けたまま、座り込みそうなバルザックに言葉をかける。
「……俺に、追う資格はない。息子も、嫌だろ」
まるで、確信している様な言葉だった。
だが、俺はそうは思わなかった。
「そうですか?」
「……?」
「貴方には、ヴィルヘルムを追う資格があると思いますよ」
バルザックが俺を見つめる。
無意識になのか、俺の奪った左腕のあった場所を右手が触れた。
結局、バルザックはヴィルヘルムを追う事はなかった。その間に、バルザックを補助する役目があるのか、組合の職員が到着し、冒険者達も次々と西門へと集合し始める。
集まった冒険者パーティーの代表が、バルザックと組合職員の周囲に集まると、今回行われる作戦の概要が伝えられた。
今回集まった冒険者は、大きく3つの部隊に分けられる。
1つが、最も敵の攻撃を受ける可能性のある村の正面から突入する部隊。もう1つは、敵の後方――村の裏側から攻める部隊の2つに分けられる。そして、2つの部隊を同時にカバーする、後方支援の3つの部隊に分けられる様だ。
詳しい舞台の振り分けは、調査村付近に到着後に発表される。
「改めて、今回の依頼を受けてくれた事を感謝する。それでは、組合側で用意した馬車に乗り込んで、出発してくれ。馬車があるパーティーは、そちらを使用してくれ」
冒険者パーティーのリーダーを集めた簡単な会議を終えたところで、バルザックが全体に向けて大声で謝辞と指示を出した。
その声を聞いた冒険者達は、ギルドが貸し出す馬車に乗り込み移動を開始する。
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