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第4章
第15話 極限の代償
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「素晴らしい威力ですね」
背後の木々は抉れ、ファウストの隣に立っていた混合獣は、両足の一部を残して消え去った。その現実に、素直な賞賛を口にしたファウストは、恐怖を映さない灰色の瞳で俺を見つめている。
「ですが、トウヤさんへの負担も大きい技の様ですね」
「……っ」
神器を持つ左腕から、痛み以外を感じない。
熱を感じない。肩から下の感覚がない。
だが、意識を失いそうな激痛だけは、明確だ。
「おそらく、無事に2発目を放つ事は出来そうにありませんね」
「……」
ファウストの推測は正確で、反論する事が出来ない。
「やはり……その力は、人には過ぎた物の様ですね」
ファウストが足を俺に向けて踏み出す。
嘗て、種族を問わず人々が『魔王』と呼んだ恐怖の象徴が、明確な意思を持って、俺を見据えている。
この先の戦いは、指先の動き、僅かな仕草、息遣い、その全てに警戒しても足りない。
瞬きの瞬間にも周囲を警戒し、死の間合いを見極める。それが、魔王と呼ばれる存在と戦う上での最低条件。
大勢の者達にとって、それは不可能な事だ。
本来、『魔王』に挑む事は無謀で、倒す事は不可能だ。それ故に、奴等は『魔王』――恐怖の象徴と呼ばれる。
「ふー……」
無駄な感情と思考を息と共に吐き出す。
迷いのない俺の表情を見た後に、ファウストは俺から視線を外す。
「……ここまでかい?」
突然歩みを止めたファウストが、虚空に向けて声をかける。
「?」
ファウストの謎の行動の意図を理解出来ない俺の前に、突然聖王国の王女――シャルティアが姿を現す。
「?!」
何も感じなかった位置に、突然シャルティアが現れた事に驚愕する。
だが、少し遅れて、僅かに何かが破られた様な感覚を感じた事と目の前で起こった事象を照らし合わせて、1つの事柄を予測する事が出来た。
「……幻」
俺の呟きに、初めてシャルティアは瞳の奥底から感情を見せる。
記憶にあるシャルティアは、まるで台本に記された役を適切に熟す役者の様な存在だった。
「……なるほど。流石は『神の器』ですね」
感情を奥底に隠し、シャルティアは納得した様に呟く。
「神の、器……ヴァナル・ガンドの事か……」
何故シャルティアまで、神器の事を知っているのかは分からない。
だが、敵が単独ではなく、集団や組織的に動いている事を予測する事は出来た。
「ヴァナル・ガンド。破壊の主人たる神獣の力を行使する道具」
文献を読み上げる様に紡がれるシャルティアの声に、俺は耳を傾ける。
「それは、私の言う『神の器』ではありません」
シャルティアは、傷一つない指先を俺に突き付ける。
「私が言う『神の器』とは、トウヤ・イチノセ。貴方自身の事です」
「っ!!?」
シャルティアの言葉の意味が理解出来ず、シャルティアの語る言葉の続きを待つ事しか出来ない。それを知ってか、知らずか、シャルティアは無知な者に教え込む様に語り始めた。
「極限スキル『全能なる魔導師』について、貴方はどの程度知っていますか?」
『全能なる魔導師』を俺が取得している事を知っている者はいない。
嘗て、俺が種族特有の魔法を次々取得していた事に疑問を抱く人々は大勢いた。その者達の中の極一部は、俺が極限スキルを持つ者故だと言う事を知っていたが、『全能なる魔導師』という名前まで知っている者はいない。
嘗て、異世界に召喚された当初から取得していたスキル――『全能なる魔導師』。その名前を他人に話す事は、何故だか憚られた。
理由は、分からない。何故か、その名を知られてはいけない気がした。
「何故、その名前を知っている!?」
「まずは、私の質問にお答えて下さい」
「……全ての魔法を取得出来るスキルだ」
『全能なる魔導師』は、魔導師にとっての不可能を可能にする力だ。
「では、疑問に思う事はありませんでしたか?」
「何をだ?」
「『どうして、一部の種族固有の魔法を人間である筈の自分が使えるのか?』『どうして、強くなる事を実感する度に、新たな魔法を取得する事が出来たのか?』――本当に、何一つ疑問に思いませんでしたか?」
「――っ」
シャルティアに指摘されて、自分の異質な部分に気づく。
嘗て、異世界に召喚された当初は、『全能なる魔導師』の力について疑問に感じる事があった。
だが、冒険を得て強くなる度に、『全能なる魔導師』に対する凡ゆる疑問が無くなり、自分にとって当然の力の様に感じていた。
「種族固有の魔法は、種族特有の器官や身体構造、魔力や血筋などが鍵となって発動します。種族を問わない固有魔法であっても、数多くの条件が適合した際に、偶然発現する希少な魔法です。それでは、人間だった貴方が、あれだけの魔法を偶然にも得られる可能性は、どれだけあると思いますか?」
「……」
「0%――現実的に不可能です」
左手の痛みの所為か、激しく心臓が鼓動を刻んでいる。
『聞いてはいけない』と体が叫び声を上げている様に感じた。
だが、俺は――。
「ならどうして俺は、あんなに、幾つもの魔法が使えたんだ?」
――聞かなければいけない……そう思った。
「不可能を可能にする方法が、1つだけあるではありませんか?」
「何?」
「身体を創り変えれば良いのです」
「……」
言葉を出そうとして、声が出なかった。
「身体の構造、血液、魔力、精神――存在を創り変えれば、全ての魔法が使えるのは、必然だとは思いませんか?」
「ぁ、それじゃ……」
「トウヤ・イチノセ。いえ、一ノ瀬凍夜。貴方は嘗て、新たな魔法を得る度、強くなる度に、自分の身体を捨て、新たな身体に創り変えていた」
「……」
「今の貴方は、言うなれば、『完全なる生きた混合獣』その物なのです」
シャルティアの言葉を否定しようとするが、全てを納得してしまった。
凡ゆる魔法が使えた謎。そして、強くなる度に、『全能なる魔導師』に対する疑問が消えていった謎。
俺自身が、自分を『そういう存在』に創り変えていたからだった。
言葉にならない恐怖が、染み込んで行く。
まるで、自分の体の全てが、自分の体ではなくなったかの様な感覚。
自分の体の奥で、自分ではない何かが蠢いている様な気味の悪さが急に込み上げて来る。
「話は終わっていませんよ?」
「……」
ファウストの声に、視線をシャルティアに向ける。それを待っていたかの様に、シャルティアは再び話し出す。
「そして、漸く貴方は、『神の器』として完成した」
「完成した、だと?」
「はい。ですが、精神の適合が不充分だった故に、貴方を繋ぎ止める事が出来なかった。だから、最後で失敗してしまった」
「……」
シャルティアの語る言葉の意味が、全く理解出来なかった。
「ですが、今回は失敗する事はありません」
咄嗟にシャルティアに向けて構える。
「無駄ですよ。既に、楔は穿たれました」
シャルティアの視線が、俺の左手に向かう。
「っ!!」
ヴァナル・ガンドから突然現れた鎖が、左腕に巻き付く。
今まで起きた事のない現象に、驚愕する。
だが、目の前で起きている事を危険だと判断するより早く、右手が動く。そして、左手からヴァナル・ガンドを捨てさせようとした。
「……っ」
だが、腕自体の感覚ない筈の左手は、異常な力で神器を握っている。
そうしている間に、鎖は蛇の様に、左腕から首、胴体、右腕、両足などへと巻き付いていく。
「くっ、これは……」
「もう何も知る必要はありません」
「何を……」
「貴方はただ、眠れば良いのです。既に、この世界の物語に置ける、貴方の役目は終わったのですから」
抵抗しようにも、鎖が切れる様子はない。その上、鎖が巻き付いた箇所の感覚が失われていく。そして、徐々に意識が遠のき、暗闇の底に沈んで行く。
背後の木々は抉れ、ファウストの隣に立っていた混合獣は、両足の一部を残して消え去った。その現実に、素直な賞賛を口にしたファウストは、恐怖を映さない灰色の瞳で俺を見つめている。
「ですが、トウヤさんへの負担も大きい技の様ですね」
「……っ」
神器を持つ左腕から、痛み以外を感じない。
熱を感じない。肩から下の感覚がない。
だが、意識を失いそうな激痛だけは、明確だ。
「おそらく、無事に2発目を放つ事は出来そうにありませんね」
「……」
ファウストの推測は正確で、反論する事が出来ない。
「やはり……その力は、人には過ぎた物の様ですね」
ファウストが足を俺に向けて踏み出す。
嘗て、種族を問わず人々が『魔王』と呼んだ恐怖の象徴が、明確な意思を持って、俺を見据えている。
この先の戦いは、指先の動き、僅かな仕草、息遣い、その全てに警戒しても足りない。
瞬きの瞬間にも周囲を警戒し、死の間合いを見極める。それが、魔王と呼ばれる存在と戦う上での最低条件。
大勢の者達にとって、それは不可能な事だ。
本来、『魔王』に挑む事は無謀で、倒す事は不可能だ。それ故に、奴等は『魔王』――恐怖の象徴と呼ばれる。
「ふー……」
無駄な感情と思考を息と共に吐き出す。
迷いのない俺の表情を見た後に、ファウストは俺から視線を外す。
「……ここまでかい?」
突然歩みを止めたファウストが、虚空に向けて声をかける。
「?」
ファウストの謎の行動の意図を理解出来ない俺の前に、突然聖王国の王女――シャルティアが姿を現す。
「?!」
何も感じなかった位置に、突然シャルティアが現れた事に驚愕する。
だが、少し遅れて、僅かに何かが破られた様な感覚を感じた事と目の前で起こった事象を照らし合わせて、1つの事柄を予測する事が出来た。
「……幻」
俺の呟きに、初めてシャルティアは瞳の奥底から感情を見せる。
記憶にあるシャルティアは、まるで台本に記された役を適切に熟す役者の様な存在だった。
「……なるほど。流石は『神の器』ですね」
感情を奥底に隠し、シャルティアは納得した様に呟く。
「神の、器……ヴァナル・ガンドの事か……」
何故シャルティアまで、神器の事を知っているのかは分からない。
だが、敵が単独ではなく、集団や組織的に動いている事を予測する事は出来た。
「ヴァナル・ガンド。破壊の主人たる神獣の力を行使する道具」
文献を読み上げる様に紡がれるシャルティアの声に、俺は耳を傾ける。
「それは、私の言う『神の器』ではありません」
シャルティアは、傷一つない指先を俺に突き付ける。
「私が言う『神の器』とは、トウヤ・イチノセ。貴方自身の事です」
「っ!!?」
シャルティアの言葉の意味が理解出来ず、シャルティアの語る言葉の続きを待つ事しか出来ない。それを知ってか、知らずか、シャルティアは無知な者に教え込む様に語り始めた。
「極限スキル『全能なる魔導師』について、貴方はどの程度知っていますか?」
『全能なる魔導師』を俺が取得している事を知っている者はいない。
嘗て、俺が種族特有の魔法を次々取得していた事に疑問を抱く人々は大勢いた。その者達の中の極一部は、俺が極限スキルを持つ者故だと言う事を知っていたが、『全能なる魔導師』という名前まで知っている者はいない。
嘗て、異世界に召喚された当初から取得していたスキル――『全能なる魔導師』。その名前を他人に話す事は、何故だか憚られた。
理由は、分からない。何故か、その名を知られてはいけない気がした。
「何故、その名前を知っている!?」
「まずは、私の質問にお答えて下さい」
「……全ての魔法を取得出来るスキルだ」
『全能なる魔導師』は、魔導師にとっての不可能を可能にする力だ。
「では、疑問に思う事はありませんでしたか?」
「何をだ?」
「『どうして、一部の種族固有の魔法を人間である筈の自分が使えるのか?』『どうして、強くなる事を実感する度に、新たな魔法を取得する事が出来たのか?』――本当に、何一つ疑問に思いませんでしたか?」
「――っ」
シャルティアに指摘されて、自分の異質な部分に気づく。
嘗て、異世界に召喚された当初は、『全能なる魔導師』の力について疑問に感じる事があった。
だが、冒険を得て強くなる度に、『全能なる魔導師』に対する凡ゆる疑問が無くなり、自分にとって当然の力の様に感じていた。
「種族固有の魔法は、種族特有の器官や身体構造、魔力や血筋などが鍵となって発動します。種族を問わない固有魔法であっても、数多くの条件が適合した際に、偶然発現する希少な魔法です。それでは、人間だった貴方が、あれだけの魔法を偶然にも得られる可能性は、どれだけあると思いますか?」
「……」
「0%――現実的に不可能です」
左手の痛みの所為か、激しく心臓が鼓動を刻んでいる。
『聞いてはいけない』と体が叫び声を上げている様に感じた。
だが、俺は――。
「ならどうして俺は、あんなに、幾つもの魔法が使えたんだ?」
――聞かなければいけない……そう思った。
「不可能を可能にする方法が、1つだけあるではありませんか?」
「何?」
「身体を創り変えれば良いのです」
「……」
言葉を出そうとして、声が出なかった。
「身体の構造、血液、魔力、精神――存在を創り変えれば、全ての魔法が使えるのは、必然だとは思いませんか?」
「ぁ、それじゃ……」
「トウヤ・イチノセ。いえ、一ノ瀬凍夜。貴方は嘗て、新たな魔法を得る度、強くなる度に、自分の身体を捨て、新たな身体に創り変えていた」
「……」
「今の貴方は、言うなれば、『完全なる生きた混合獣』その物なのです」
シャルティアの言葉を否定しようとするが、全てを納得してしまった。
凡ゆる魔法が使えた謎。そして、強くなる度に、『全能なる魔導師』に対する疑問が消えていった謎。
俺自身が、自分を『そういう存在』に創り変えていたからだった。
言葉にならない恐怖が、染み込んで行く。
まるで、自分の体の全てが、自分の体ではなくなったかの様な感覚。
自分の体の奥で、自分ではない何かが蠢いている様な気味の悪さが急に込み上げて来る。
「話は終わっていませんよ?」
「……」
ファウストの声に、視線をシャルティアに向ける。それを待っていたかの様に、シャルティアは再び話し出す。
「そして、漸く貴方は、『神の器』として完成した」
「完成した、だと?」
「はい。ですが、精神の適合が不充分だった故に、貴方を繋ぎ止める事が出来なかった。だから、最後で失敗してしまった」
「……」
シャルティアの語る言葉の意味が、全く理解出来なかった。
「ですが、今回は失敗する事はありません」
咄嗟にシャルティアに向けて構える。
「無駄ですよ。既に、楔は穿たれました」
シャルティアの視線が、俺の左手に向かう。
「っ!!」
ヴァナル・ガンドから突然現れた鎖が、左腕に巻き付く。
今まで起きた事のない現象に、驚愕する。
だが、目の前で起きている事を危険だと判断するより早く、右手が動く。そして、左手からヴァナル・ガンドを捨てさせようとした。
「……っ」
だが、腕自体の感覚ない筈の左手は、異常な力で神器を握っている。
そうしている間に、鎖は蛇の様に、左腕から首、胴体、右腕、両足などへと巻き付いていく。
「くっ、これは……」
「もう何も知る必要はありません」
「何を……」
「貴方はただ、眠れば良いのです。既に、この世界の物語に置ける、貴方の役目は終わったのですから」
抵抗しようにも、鎖が切れる様子はない。その上、鎖が巻き付いた箇所の感覚が失われていく。そして、徐々に意識が遠のき、暗闇の底に沈んで行く。
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