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#002

会敵

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 どうにも「日本社会」という仕組みは我々にとってはなかなかに厄介なものだった。

 周りの人間を窺い、周りの人間に合わせて生きるというなんとも窮屈で共依存的な構造をとっている。人間は存外一人で生きていけるような強い種では無いのか?それとも、人間という生物は自分一人で何も決めたり出来ないのだろうか。

 まったく、ほとんどの人間が群れをなしているせいで、彼らの中からでは適当に選び取ることが出来ないではないか。人間の見分け付かない私では、普段から一人でいる事が多い人間を厳選するだけで日が暮れてしまう。

 これは言わば「戦」なのだ。自分達がヤられる前に相手の数を減らした方が勝利する。

 であれば、重要なのは「頭」だ。と言っても「頭脳」の方ではない。もちろん知識が豊富なのに越したことはないが、ここで私が言いたいのは「頭首」の方だ。国を堕とすのなら首相、街を堕とすのなら市長。

 では、学校を堕とすのならば?

 真っ先に思い浮かんだのは校長だった。しかし、様子見で普通の生徒として一定期間紛れ込み学園生活をおくってみたところ、校長には権力はあれど実際、生徒を動かす力はなさそうだった。どうやらこの学校は生徒の意志を尊重する方針らしい。

 ならば、私が次にナるべきなのは生徒の代表たる生徒会長だった。

 だが、リスクはかなり高い。と言うのも、周りに彼を知る人間があまりに多いからだ。イコール、彼に異変が生じれば気が付いてしまう人間が多いというわけだ。そうなれば、下手をすればこちらの存在を知られてしまう可能性がある。

 それだけは何があっても避けなければならない事態だ。可能性としては低いが、摘発されこの世界に我々のような存在がいるのが常識だと世間に認識されてしまえば最悪の場合戦争が起ってしまうかもしれないからな。特に最近はこの学校にもこちらの存在に気が付いている輩がいるみたいだから尚更だ。

 一方で、それほどのリスクを犯すだけのメリットはある。重要なのは指示することが出来る「立場」だ。一例に過ぎないが、地域交流のある生徒会を自由に操れるようになるのはこちらとしては後々の計画を円滑に進めるのに十分すぎる利点だ。

 その上で、クリアすべき点がいくつかある。

 生徒会長にナること自体はそう難しい事ではない。時間にして六十分もあれば済むだろう。

 しかし、問題はそこまでの経路だ。彼の事を、具体的には仕草や口調口癖、生活習慣や友人関係、学力や運動能力などをくまなく調べ、私自身の本来の素体に上書きしていかなければならない。

 ただのモノマネではない。これは文字通り複製であり、「コピー」だ。彼の周りの人間、その家族や恋人にすら気付かれないようになるのは必須条件、本人以上に本人にならなければならない。

 その事をよく理解していた私は学園生活を送る中で出来るだけ早く、だが、確実に生徒会長「村野コウイチ」を染み込ませていった。そして私の素体が村野コウイチを限りなく完全に模倣出来るようになったころには、季節は百八十度一転してそろそろ蝉が鳴き出しそうな季節になってしまっていた。

 だいたい複製を一人仕上げるのにひと月からふた月ほど要するのだが、今回に関しては念には念を入れておおよそ半年を費やした。いやはや、我ながら彼自身よりも彼の事を知っているのではないだろうか。

 さて、ここまで来てしまえば後はイージーゲーム。真面目で頭が良いと評判とは言え、彼もまた一人の男子高校生。私の今の身体―――「河内森キョウコ」の胸や尻のひとつも揉ませてやれば私がどれだけ怪しかろうがどこへだってほいほいとついてくるだろう。そしたら物理的に近づき村野コウイチを殺し、村野コウイチにナるだけだ。河内森キョウコの身体については後からどうとでもなる。

 私はらしくもなく、この前見たテレビのCMで流れていた歌謡曲の鼻唄をうたいつつ、生徒会長の元へと向かった。
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