異界の相対者

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学校編

入学式

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九月。シズは八月にバリミアと一緒に仕立てにいった制服を身にまとう。いわば学生服だ。漆黒のズボンにブレザー。ネクタイはアカ。クラスによってネクタイは違う。胸元には葉と枝をモチーフにした銀刺繍の国章。これは城人の制服にもある。シズは洗面所の鏡で襟と髪の毛を整える。
「よし」
 洗面所を出るといいにおいが漂っていた。シズがキッチンへ行くとオヤコドンがあった。
「シズ、似合うね」
「私もそう思う」
 ジャモンのオヤコドンはやっぱり親子丼とはどこか違った。それでも美味しいし、懸命に再現しようしてくれていることがシズは本当に嬉しかった。
「荷物はもう全て寮に送ってあるんだよね?」
「うん」
 バリミアと買い物に行った時、教材を買いに行くより生活用品を買いに行く方が大変だった。バリミアは細かい。十件店を回ってタオル買うのに三件目に行った店に戻ったり。人が買おうとすれば「もっと真剣に選びなさい!」とシズは怒られた。けれどバリミアのおかげで、シズはいい物は買えた。けどもう一緒に買い物に行くのはごめんだとシズは思った。
「足りないものがあったら電話して。送るよ。お金も。あのお金はシズのために使わなきゃいけないからね」
「ありがとう。でも私だけじゃ使いきれないからヨークもちゃんと自分の物買いなよ。アパートのリフォームは業者に頼んだりしてお金かけた方が楽じゃないのか?」
「そうだね。けどひとりでやりたいから」
 ジャモンどこまでもお人好しだった。今日ここを出るとシズが帰るのは年末だ。約四か月ジャモンとお別れである。
「ジャモン、戸締りとか気を付けなよ」
「うん。シズも本当につらいことがあったらここにいつでも帰ってきていいからね」
「……うん」
 ジャモンとの朝が当分ないのはシズも寂しい。けど、帰るためにいくんだ。つらいぐらいで、シズはやめるわけにはいかない。今よりもっと強くなるんだ。シズは決意を固め直しオヤコドンを流し込むようにかきこんだ。

 シズが城前広場にいけば自分と同じ制服をきた者が沢山いた。シズは背筋を伸ばし城の門をくぐる。
「運が良い奴だな」
 聞き覚えのある声だった。シズは振り返りも立ち止まりもしてやらなかった。
「エリートさんなのに私のこと落とせなかったんですね」
シズは 敬語で嫌味を吐いてセドニを横目で見る。憎たらしいぐらい涼しい顔をしていた。
「入学したぐらいで随分浮かれているようだな」
「あ?」
 浮かれて何が悪いんだとシズは腹がった。入学式っていうのは基本浮かれる儀式だろうが、とセドニを睨む。
「お前の頭で卒業への単位が満たせるとは思えないが」
 セドニは入学式が始まる前からシズのテンション下げてくる。
「三点」
「え?」
「入学試験の時のお前の筆記の点数だ」
 三点。え、十点もなかったんだ。本当に受かったの奇跡だな、とシズは茫然とした。
「せいぜい恥をかけ。シズ・カンダ」
 セドニはシズから離れて行った。シズは火が出るくらいの息を吐き飛ばした。いつか鼻の穴にワサビ詰めてやると息巻く。こっちにもワサビあるのかなとシズは考えた。
「受かってたのね」
 セドニがいなくなった隣にアシスがきた。
「アシス!よかった受かってたんだ」
「まあね。たぶん寮の部屋同じだと思うからよろしく」
「こちらこそ」
 一年やっていけそうだ。シズは自信を持った。


 入学式は城の隣にある一葉館いちようかんで行われる。「樋口一葉?」とシズがアシスについ漏らした。アシスは無視した。シズが他の入学者の会話を盗み聞きすれば「一枚の緑葉から木は実る。木が劣れば緑葉消える」というこの国の諺からだという。国民のひとりひとりを大事にしなければ枝に葉はつかない、国は発展しないという教訓だ。そのためカサヌではよく幹と枝が土地、葉が民に例えるらしかった。これは国章が表している。なるほどなと感心しながら、シズは胸元の銀の国章を撫ぜた。
 一葉館に入れば試験の時と同じように右からアオ、キイロ、アカクラスごとに並んでいた。クラスの中では来た者順らしく皆前からつめていく。その時アオクラスの席ですでに座っていたバリミアをシズは見つけた。向こうもシズに気が付き、手をあげれた。アシスの姿を見て口パクでよかったねと言った。席に座るとシズのちょうど前がリョークだった。背中をつつく。リョークはもの凄く睨んだ顔で振り返った。常に喧嘩売るなこいつとシズは呆れる。
「なんだカンダかよ」
「張り切って早く来たんだな、お前」
「うるせぇよ。リゴと一緒に来たからだよ」
 リゴは三十分前行動タイプだった。
「怪力も受かったんだな」
 リョークはアシスの方を見た。アシスは右手を握ったり開いたりした。
「どうも。アシス・ローズです。朝新鮮なフルーツジュースが飲みたかったら言って。すぐ作るわよ」
「……遠慮しまーす」
 くだらない雑談をしていれば「静粛に」と聞こえ館内は水を打ったように静かになり入学式は始まった。壇上には国王と王子が出て来た。国王は今年で六十だとジャモンからシズは聞いていたが、実際に見ると四十前後くらい若く見えた。ミモザ色の髪もふさふさだった。隣座る王子も王と同じ髪の色でオールバックにしていた。涼しげな目元、まっすぐに伸びた背筋からは王位の品格がにじみ出ている。進行係が国王に挨拶を促す。国王が豪華な椅子から立ち上がり前へ出れば重厚な迫力が迫って来た。
「諸君、この度は入学おめでとう。この良き日に君達は希望、不安様々な感情を抱えているだろう。学校生活が始まれば不安の方が大きくなることもあるはずだ。君達は将来カサヌの幹とならなければならない。その自覚を胸にこの一年間しっかりと学び成長しなければならない。心身ともに強くなりこのカサヌ国の未来を君達に託せることをこのカサヌ国の王として私は願っている」
 拍手が鳴り響く。シズの拍手は周りとずれていたが盛大な音の中で簡単に紛れた。心身共に強くなりたいと望んでいる。けれどこの国の将来についてはバリミア達には悪いが、シズは何も思わない。自分の将来はここにはないとシズは当たり前のように思った。
「続いて新入生代表による宣誓。代表、アオクラス、スファレ・アザム」
「はい」
 大きな声ではなかったが響く声だった。紫がかった黒髪をセンターで分けた男が壇上に上がる。表情は緊張しているようでも高揚しているようでもなく冷静だった。
「代表ってことは首席か?」
 シズはアシスに耳打ちする。
「だろうね。それにアザムといえば相当な資産家で有名らしいよ。さっき聞いた」
「ボンボンってことか」
 アザムは形式ばった言葉を並べて真面目に学校生活を送り、立派な城人になることを目指すみたいなことを話していた。
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