異界の相対者

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学校編

三点

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 入学式が終わるとクラスごとに集合写真を撮り、教室に移動し授業や寮生活について説明があった。クラスはあるが授業は大学のような単位制で他のクラスと授業が一緒になることもあるそうだ。単位が満たないと卒業できない。シズはセドニの顔が浮かんで舌打ちをした。
 寮の部屋はシズとアシスと同じだった。夕食の時間まで荷ほどきをする。
「シズ荷物少ないね」
 アシスの荷物はシズの倍以上あった。本、筋トレグッズなど持って来ていたアシスにくらべ、シズは学校用品を除けば、着替えと少しの生活用品ぐらいしか持って来てなかった。
「私家近いし。いるものあったらすぐ帰れるからな」
「そっか」
「けど筋トレグッズいいな。私も買おうかな」
「貸すよ」
「マジで。サンキュ」
 アシスの荷ほどきも手伝っていれば夕食の時間になった。寮の一階にある食堂に行けば入り口でバリミアが声をかけてきた。
「お疲れー」
 シズとアシスもお疲れと返す。
「荷物片付いた? 」
「私はすぐ終わった。バリミアは? 」
「全然。本持ってき過ぎた」
 バリミアは大きなため息を吐いた。本を置く場所がないらしい。シズ達の部屋の本棚スペースが余ってるから少しなら預かれると、アシスが言えばバリミアは喜んだ。
 寮の食事はバイキング形式でシズはローストビーフとレタスが挟まったサンドイッチを三つ、ポテトサラダと卵スープをトレーに乗せた。シズが席を捜していればリョークが手を振ってきた。隣にはリゴもいた。シズはリョークの隣に座りアシスとバリミアは向かいに座った。
「荷ほどき終わったのかよ?」
 聞いてくることは皆同じだ。
「終わった。リョークは?」
「たいして持って来てないからな」
 私と同じかよ、とシズは思った。
「リョークは部屋誰と一緒なの?」
 アシスが尋ねる。リョークが斜め前方を指さした。
「キャメル色の猫毛の男いるだろ。あいつ」
「あいつ」
「シズ知り合いなの?」
 バリミアに聞かれたがシズは言葉を濁した。入学試験の日、シズの服の汚れを指摘して着替えろとお節介してきた男だった。
「名前はサルファー・カザン。十五歳だとよ」
「十五歳!」
 シズが驚く。十五歳から入学試験は受けれるが、実際試験を突破するのは十七、八歳がほとんどだった。
「十五歳入学者は九十七期生以来だってさ」
 リゴが感心するような口調で言った。
「君がシズ・カンダかい?」
 頭上から聞こえた声にシズが振り向けば色も形もマッシュルーム頭の男がにやにやしながら立っていた。
「……そうだけどあんた誰?」
「ああ、そうだね。自己紹介するよ。僕はマーシー・ラリマ。アオクラスだよ」
 なんかくどい奴だと、シズは思った。
「そう。それはよろしく。で、なんか用?」
「いや、朝聞こえたんだよ。聞くつもりじゃなかったんだけどさ。聞こえちゃったんだよ。いやーびっくりしたよ」
「なにがだよ」
 シズはラリマの態度にイライラする。
「ほら、セドニ教官との会話だよ」
 シズは嫌な予感がした。
「君、入学試験の点数三点だったんだってね」
 リョーク飲んでいた水を噴出した。
「ギャハハハハ! マジかよお前! よく受かったな! 」
 隣のリョークが腹を抱えて大笑いする。シズは悔しいが、事実なのでしょうがなかった。
「でもほらさ、それを覆すほど実技が凄かったってことじゃないか」
 リゴがカバーしてくれたが、ラリマは可哀想な物を嘲笑うかのように首を左右に振る。
「ああ、羨ましいよ。勉強もできなくても城人になれるアカクラスは」
「なんだてめぇ」
 笑っていたリョークがラリマを睨み上げる。
「ああ、ごめん。僕はそういう脅しは怖くて堪らないだ。ただ羨ましいって素直に思っただけだよ。素直にね」
 スライスにしてスパゲッティにあえてやろうかこの野郎と言ってやろうとするのを、シズは堪える。問題は起こしちゃいけない。
「俺も羨ましいと思うよ」
 バリミア達の後ろで誰かが立ち上がりこっちを見た。主席のスファレ・アザムだった。
「生まれつきって凄く恵まれていると思うよ。凄くね」
 アザムはそう言い残して立ち去った。完全なる嫌味だった。
「みんなそう思ってるってことだよ。じゃあね、三点、じゃないやカンダ」
 シズは悔しがって、俯いた。
「明日からシズのあだ名三点だろうね」
 アシスの口をバリミアが押さえる。シズは否定できなかった。


「まあ元気出しなよ」
「別に元気ですー」
 食堂でバリミア達と別れてシズとアシスと階段を上っていた。あんなので落ち込まない。だが、シズは死ぬほどムカついた。
「私は城人になれればいいんだ!!」
 シズが言った。
「みんなそうでしょう」
 アシスはいつだってクールだった。
「あ」
 ふたりが声をした方を見ればサルファー・カザンがいた。
「カザンだっけ?」
 アシスが確認すればカザンは人懐っこい笑みを浮かべた。
「はい。サルファー・カザンです。えっと」
「アシス・ローズ。この子はシズ・カンダ。どっちもアカクラス」
 カザンはああ、例のと呟いた。例のってなんだ。三点のことか、とシズはカザンを見る。
「クド君が言っていたんです。男みたいな女の子がいるって」
「あ、リョークの同室だって聞いた」
 三点の話は聞こえてなかったらしいと、シズは安心した。
「あなただったんですね。僕もてっきり男かと思いました。僕のこと覚えていますか?」
「服着替えろって言ってきた奴だろ。覚えてる」
「けどあなた着替えませんでしたよね」
 あ、こいつ苦手だわ、とシズの表情は引き攣る。
「けど今年アカクラスに二人も女性がいるなんて」
 カザンはシズ達を追い越すと階段の上から見下ろしてきて言った。
「信じられないです」
「は?」
 シズが顔をしかめる。
「いくら三点を無視できるぐらいの身体能力を持っていても」
 やっぱさっきの話聞こえてたのかよーと、シズは表情はますます渇く。
「女はどうあがいても男には敵わないと思いますよ。それでは」
 カザンは笑顔のまま去っていた。シズ達は立ち止まったままでいた。
「……なんだあの生意気敬語」
 シズが静かに怒った。
「なんでしょうね。真っ赤なトマトジュースにしてあげようかしら」
 冷静言うアシスが思いのほか怖く、シズの怒りが少し治まった。
「なんだよ!私が三点なのが悪いのかよ!」
 グチグチ言いながらシズは廊下を歩く。
「悪いだろうね」
「アシス、少しは慰めて」
「三点でも生きててよかったね」
「……ありがとう」
 アシスがドアノブに手をかけドアを開けようとしたが開かない。
「あれ?」
 押すんじゃくて引くんだよとシズが教えようとした瞬間、盛大な音を立ててドアが壁から外れた。ドアはひび割れて床に倒れた。アシスは首を傾げる。
「押すんじゃなくて引くんだよ」
「言うの遅いよ」
 一年やっていくのは相当大変そうだと、シズは思った。
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