40 / 241
学校編
卒業
しおりを挟む「シズ・カンダ、卒業試験の点数良かっただろう? 中間は可だったが、今回は良だった」
ペタの個室の居酒屋で酒を舐めながらセッシサンはセドニの肩に手を置いた。百期生の卒業試験の採点を終えて、お疲れさま会(セッシサン主催)を三人で開いていた。
「カンダさん図書館で勉強しているのを何度か見かけましたよ。入学試験の三点はよっぽどのことがあったのでしょう」
サンスは眼鏡をかけ直しながら微笑んだ。
「いざって時に失敗するのは現場で心配物ですよ」
「大丈夫だって! あいつは度胸がある。まあ、警棒はちょっと危なっかしいところはあるが体術はトップだ。めちゃくちゃだけどな」
焼き鳥を齧りながらセッシサンは豪快に笑う。
「けど、アオクラスのトップの三人が誰も二局にも七局にも行かないとは少し驚きましたね。ラリマ君は八局。コイズさんは一局。特にアザム君。まさか九局に行くとは」
サンスがセドニに目をやる。
「本人が決めたなら仕方ありません。それにアザムは九局で良かったと俺は思っています」
「そうか?お前可愛がってだろう、アザムのこと。少し寂しいだろう?」
セッシサンはセドニをつつきながら煙草を咥えて火を付けた。吐き出した煙が淡い照明の明りと交わり合う。セドニはささやかな微笑みを浮かべた。
「少しは残念ですね。けど、今は彼が九局行って貰って嬉しいと思いますよ」
「今は? 」
サンスが首を捻る。セドニは微笑んだだけで何も答えなかった。
「あいつら城人になっても当分俺らのこと『教官! 』って呼ぶんだろうな」
「一年間もうそれで染みついていますからね。仕方ないですよ。けどすぐ慣れますよね、セドニ副局長」
セドニはグラスを揺らして氷を鳴らした。
「すぐに慣れて欲しいです。先生はやっぱり俺には向いてない」
セッシサンは煙をセドニに吹きかけた。セドニは咳こむ。
「何言ってんだよ! 俺なんて二年に一回やらなきゃいけねぇんだぞ。アオクラスになるお前は四年に一回じゃねぇかよ! 俺は四年に二回だぞ! 倍だ倍! 」
「僕も三年に一回ですから。まあ三年なんてすぐですよね」
「そうだ! 二年なんて毎年と同じだよ! ったくよ!あとさ、」
セッシサンは酔いが回ってきたのか、口がベラベラと動き始めた。セドニそれをめんどくさそうにし、サンスはデザートのアイスクリームを頼んでいた。
無事卒業が決まると寮の部屋を片付け始める。卒業式は来週、六月十二日。奇しくもシズの誕生日だ。この時期学生は新しい家を捜しに忙しくなる。まあ、私はジャモンの元へと帰るだけだ。窓ガラスを拭いているとアシスが家捜しから帰ってきた。
「おかえり。いいところあった?」
アシスは微妙な顔をしてベッドに座った。
「完全に出遅れた。皆卒業試験前から決めてたみたい。良い所は全部埋まってた。ペタ家賃高いんだよ」
そのままどすんとアシスはベッドにうつ伏せになった。
「そっか。大変だな」
シズは雑巾をバケツの中に放り込む。窓ガラスはピカピカになった。それを満足そうに眺めるとバケツを抱え廊下に出ようとするとアシスが後ろから小さな声で言った。
「シズの所居候させてー」
シズは立ち止まる。そうだ、うちアパートじゃんか。アシスを振り返る。
「たぶんいいよ」
「えっ!? 」
アシスが起き上がる。本人は冗談のつもりだったようだ。
「ジャモンに一応聞いてみないと分からないけど。たぶんいいよ。アパート経営したいって言ってたし。聞いてみる」
アシスは私からバケツをひったくる。
「なんだよ! 」
「あと片付けとくから今すぐ聞いて! すぐ! 」
「へ? 」
「早く! 」
シズはアシスに半分脅され寮の一階にある電話からジャモンに電話をかけるとちょうどリフォームが終わった所だから大歓迎と言ってくれた。家賃も相場の半値にしてくれると言った。
「そんなに安くしてくれていいのか?」
「金儲けするつもりはないからね」
シズとジャモンは皮肉ながら金はあるのだ。けど、もしカーネスとドッペルゲンガーを捕まえることができたら「金使ったくせに! 」って言われるだろうか。まあ勝手に連れて来られたんだ。慰謝料だ。ばんばん使ってやろうとシズは開き直った。
「あ、空き部屋あと五部屋、あ、アシスちゃんを除いてあと四部屋あるからいい人いたら入居して貰っていいからねー」
「おお。サンキュ」
アシスに報告するとバリミアが部屋に来ており、バリミアも住むと言った。夜、寮の食堂でその話をリョークとリゴにすれば二人も住むと言った。再びジャモンに電話をすれば残りの一部屋はシズが住めばいいと言った。
「シズも大人の女性だからひとりの方がいいだろう。あ、ご飯はできるだけ食べに来てね。ひとりじゃ寂しいからさ。オヤコドン作るからね! 」
そう笑う受話器の向こうのジャモンにちょっとだけ、シズは泣きそうになった。
六月十二日。
一葉館での卒業式を終えて卒業証書を片手に、シズはひとり外に出た。卒業生代表は入学から変わらず首席のアザムがした。バリミアは一回も学年トップを奪えなかったと舌打ちしていた。
「あなた本当に城人になるんですか?」
いつの間にかシズの横にカザンがいた。
「しつこいねー、お前も」
「親切心ですよ。他の城人よりも嫌な思いするんじゃないですか ?それに、」
「それに? 」
「ただでさえ女で四局なんだから嫁に行きそこないますよ」
「いらぬ心配胸に染みますー」
カザンを見れば呆れた様子だった。結婚なんて話この世界じゃ到底考えられない。
「やっとここまで来たんだよ」
シズは十九歳になった。ここに来て一年。分かったことは、ドッペルゲンガーが九十七期生だったかもしれないことと、その生き残りだったかもしれないということだけだ。しかもどちらも決定的な確証ではない。
「二十代のうちには帰りたいな」
浦島太郎はごめんだ。
「帰る? 」
カザンが訝し気な顔をしたが、シズは話を変えて誤魔化した。
「お前なんで監察蹴ったんだよ? 」
「ああ。別に蹴ってはないですよ。選ばれなかっただけで」
「九局長に指名されたのに? 」
「詳しいことは知りません。けどまあ四局で頑張りますよ。来月からもよろしくお願いします」
カザンは立ち去った。シズは寮に置いているトランクを取りに戻る途中、セドニに会った。セドニはシズの目の前に立ち止まる。どうせ「お前みたいなのが卒業するとはな」「いい気になるなよ」「城人なったらそのうちクビにしてやる」とかろくでもない事を言うんだろうとシズは思っていた。セドニは一言だけ言って立ち去った。シズはその場で固まり瞬きを繰り返した。そして振り返る。セドニの背中はいつものようにまっすぐだった。
「気をつけろよ」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる