異界の相対者

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城人編

初日

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 アベンチュレの北、チャロとの街境付近にある「カルセドニー工場」で働く、ウェルネル・スキャは今日で五歳になる息子の話を同僚にしていた。
「もう五歳か。早いな」
 ウェルネルの同僚は月日の流れをしみじみ感じた。ウェルネルはそれを笑いながら一年以上かけて取り組んでいる部品の数をチェックしていた。
「早いですよ、まったく」
「そりゃあ白髪も増えるわな」
「俺まだないっすから!」
「見つけてないだけだぞ」
「ええー、あれ、この部品一個足りない」
 同僚はウェルネルが数えている部品を見た。
「ああ、その箱ならさっき、ロドさんが触ってたぞ?サンプルに一個持って行ったんじゃないか?」
 カルセドニー社長の秘書の名前が同僚から出て、自分のミスではないことが分かるとウェルネルは安心した。
「後で念のため聞いてみときます。あ、俺今日残業しませんから。ケーキ買って帰らないといけないんですよ」



「城人なってからの初出勤だから今日はケーキを焼いて帰りを待っとくよ」
「やった!! 」
 バリミアが万歳して喜んだ。
「お前なんでちゃっかりここで朝飯食べてんだよ」
 ジャモンお手製ピリ辛スモークチキンサンドを食べながら喜ぶバリミアをシズは横目で見た。
「だってぜひおいでって。ジャモンのご飯すっごく美味しいから来ちゃうわよ!」
「うん。美味しい」
 ちゃっかりアシスもいてポテトサラダを頬張っている。
「いつでもごはん食べに来ていいからね。夜は来るってリゴ君とリョーク君も言ってたからね」
 優しいジャモンは呼んでない者も拒まない。わざわざ呼んでくる。そして去る者を優しい眼差しで見送るタイプだ。シズがカーネスに感謝することを無理矢理見つけるとしたら保護者をジャモンにしてくれことだけだ。シズがアシスお手製アップルジュースを飲み干すと部屋のドアがノックされた。
「俺達そろそろ行くよ」
 リゴの声だ。シズが時計を見ればもういい時間だった。ヨール王の一件以来、シズは遅刻はメンドクサイこととインプットしている。漆黒の制服に身を包むとシズ達はキミドリアパートを出た。
 国民局。シズがこの建物に入るのは願書を出しに行った時以来、一年ぶりだ。一局員以外はすべてこの国民局に毎日通う。一局は例外で王族が住んでいる城にある。
 二階は三局(総務)。三階は二局(政策)と五局(出納)。四階は六局(整備)。五階に七局(外交)と八局(司法)。八局もまた例外で、城外に施設を持っている。色々あるが、ざっくり言えば留置場と拘置所だ。そこで尋問も行う。犯罪者を王族達に近寄らせるわけにはいかない。そして六階が四局。九局は八階にある。六階なんて毎日階段上がるなんてつらいとシズが思っていたら、なんとエレベーターがあった。映画でしか見たことのないような物凄くアナログな(矢印が半円に動いて階数を表示する。階移動はボタンではなくハンドル。蛇腹式のドア)でエレベーターは自分では操作できず、動かす人がいつも乗っていて行きたい階数をその人にお願いする。耳が遠いじいさんが今日は乗っていた。

 六階の四局があるフロアは六局、三局に次ぐ大所帯なためか結構広かった。アカクラスの同期がもう何人か来て整列していた。シズ達もそこへならう。集合時間の十分前には全員揃い、黒の短髪で制服の上からでも胸板が厚いと分かるがっしりとした男が前に出た。どうやら四局長のようだ。
「私はセルサ・ハクエンだ。四局の局長だ」
 ハクエン局長の声は低いと言うのではなく重く、よく響いた。ただの自己紹介なのにこの人には逆らってはいけないという威圧が押し寄せた。皆、後ろで組んだ手を握りしめる。
「我々四局は、国の治安を守り、民の生活を安全に維持することが仕事だ」
 新人ひとりひとりに言うようにハクエン局長は目線をゆっくりと右から左へと動かす。
「安全を脅かす人間は必ず武器を持っている。刃物を持っていることもあるだろう。けれど我々は刃物を持たない。持つのは警棒一本だ。しかし警棒でも人は殺せる」
 周りが息を飲む。
「けれど我々はけして人を殺すために警棒を使わない。ただ安全を脅かす力を抑え込むためだけに使うのだ。我々はけして味方の、そして敵の命も奪ってはいけない。それを最初に覚えて置いて欲しい」
 周りが返事をする。シズは出遅れて返事を出来なかったが澄ました顔をしておいた。
「我々は持とうと思えば警棒より凄い武器を持つことができる。けど、持たない。武器を持てば相手も武器を持つ。それが常だ。本当は警棒なんて使わず丸腰で敵を押さえたいぐらいだ」
 ハクエン局長は力強い微笑みを浮かべた。
「だから本音を言えば君達には武器を持つ人間より強い人間になって欲しい。そして人は自分のためにどこまで限界を高められるか。人が人のためにどこまでやってのけれるか。その最大値を是非とも見せてくれたまえ。期待している。以上」
 また周りがでかい返事をする。今度はシズもなんとか合わせられた。
「はい。知っていると思うが四局副局長のセッシサンです」
 横からセッシサン教官が出てくると手に持っている紙を見ながら頭を掻いた。
「これから外回り用のジャケットを配る。これは門番の時にも着る。」
エンジのブレザーだった。
「そしてお前たち新人同士で二人組を作る。それ対して一人先輩が教育係が付く。これから二人ずつ呼ぶ。一緒に呼ばれた奴が相棒だ。助け合って仲良くやれよ」
 名前が呼ばれていく。学校時と同じようにアシスがいいな。もうリョークでもいい。
「次。リョーク・クド。アシス・ローズ」
 え、嘘。その二人組んじゃうの。シズは悲しむ。
「お先」
 アシスがシズの耳元で微笑むと前へ行く。少しつまらない、まあしょうがないとシズは仕切り直す。
「次。シズ・カンダ」
「はい」
 シズが呼ばれた。
「サルファー・カザン」
「げっ」
「カンダ、げって言うな。俺はお前と組むカザンが可哀想だと思うぞ」
 同期達が爆笑する。誰かが頑張れ三点と言ったのが聞こえた。
「ひどくないすっか、セッシサン教官」
「俺はもうセッシサン副局長だ。はい、ブレザー」
 シズはエンジのブレザーを受け取る。
「不本意でしょうがこれからよろしくお願いします」
 カザンが憎たらしい笑顔で立っている。
「どうも」
「まあ僕はあなたが余計な事しないように見張れると思ったら少し便利ですけど」
「もう見張りは沢山だ」
 カザンはシズを一瞥したが場所が場所だからか何も言わなかった。学校を卒業した今もシズは見られている。シズは最近それが、セドニなのか正直分からなくなってきた。セドニがそんなに暇には思えない。誰かに命令して自分を見張らせているっていうのもありえるけれど、とシズはごちゃごちゃ考えながらモヤモヤしていた。
(気をつけろよ)
 卒業式の日に言われたその一言がシズの頭に蘇る。この一言が余計にセドニを分からなくさせている。
「局長、なんか二人とも問題児ぽいんですけど」
 陽気でわざとらしさがある声だった。シズが見ればにこにこしたココア色の髪を靡かしたチャラそうな男がいた。左目の下に三つぐらい涙ホクロがある。
「セッシサンの話じゃどっちもアカクラスきっての逸材と言っていたぞ」
 ハクエン局長がカザンの肩に手を置く。
「カザンは三年ぶりの十五歳入学者で、筆記はアカクラストップ。百期生の中でも四位だ」
 そしてその手がシズの肩に移る。
「カンダは体術がトップクラス。女とは思えない程の体力がある。とにかく足が速く、そして強い」
「ありがとうございます」
 褒められるのはシズも素直に嬉しい。先輩らしき男はへぇ、凄いねと明らかに凄いと思っていない口調で言った。
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