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城人編
捜査二日目(責任)
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「今日は本当にすいません。あ、寝ちゃったんですね」
ウェルネルはシズの背中からシリマを抱き寄せた。それでもシリマは起きなかった。
「自由な子なんで、大変だったでしょう? 」
「いえ、いい子でしたよ」
少しごねたが、基本的には聞き分けのいい子だった。
「スキャさん。僕らこれから飲みに行こうと思うんですけど、いい店知りませんか? 軽く飲める所がいいんですけど」
シズはぎょっとした。カザンが飲みに行こうなんて言うなんてありえなかった。この世界は十五歳からお酒は飲める。
「俺がよく仕事仲間と行く店でもいですか? 」
「助かります」
カザンは飲み屋の場所を聞くと礼を言った。ウェルネルも重ね重ね今日の礼をくれて、シズ達が見えなくなるまで見送ってくれた。
「一回宿に戻って服を着替えましょう」
「お前が飲みに行こうなんてどういう風の吹き回しだよ」
「勘違いしないでください。仕事の一環です」
「え? 」
「カルセドニー工場の従業員がいたら盗み聞きできるじゃないですか。仕事仲間と行けば仕事の話は必ずするでしょう。いるかどうかは分かりませんけどね。見つかるまで何軒か梯子しましょう」
シズ達は宿に戻ると私服に着替えて飲み屋街に出かけた。カラミンはまだ宿に帰っていなかった。
ウェルネルが教えてくれた店に入ると、ウェルネルが着ていた作業服と同じものを着ていた男が三人いた。カザンと目配せするとその三人の隣に座り、酒と軽いつまみを注文した。その三人はずっと家族の話をして、仕事の話をなかなかしなかった。シズが店員捕まえて煮物を追加した時だった。
「そういえば今日ウェルネルの奥さん大丈夫だったのかよ。仕事すぐに戻ってきたみたいだけどよ」
「大丈夫だって、本人言ってたぜ。まあ無理して戻って来たんだろう。プロジェクトがもう終わりに向けて急ピッチで作業してるらしいからな」
やっと仕事の話をしはじめた。カザンはすました顔で酒を飲む。
「ウェルネル早く通常ラインに早く戻って来ないかな。あいつ手先が器用だし、丁寧だから役に立つんだよな」
「プロジェクトが終わるなら帰って来るだろう。けどまあ、極秘プロジェクトってカッコイイよな。ウェルネル出世するぜ」
「ウェルネルさんなら誰も文句いわないでしょう。けどちょっとだけウェルネルさん達が作っている部品見たことあるんですけど」
「あ、お前、社長にあれだけ関係者以外見るなって言われてただろう?」
「ちょっとだけですよ! 見慣れない部品でした。あれどうやって使うんだろう」
おまちどうさま、と煮物がテーブルに置かれた。人参を一口食べる。
「それ食べたら出ますよ」
「もうか? 」
カザンは顔を近づけると囁いた。
「だいたい分かりました。宿に戻ったらカラミンさんに報告しましょう」
シズは頷くと、できるだけ急いで煮物を食べ終えて店を出た。
「子守りしながらよくそこまで調べたねー。よく頑張った。けど俺もそれ全部もう知ってる」
カラミンの部屋に行くと帰って来ていたので、シズとカザンが報告すれば軽くそう言われた。
「全部って……」
さすがのカザンも戸惑っていた。
「カルセドニー工場が昔武器屋だったのも、社長が借金あったのも、今やってるプロジェクトは鉄道会社とはまったく関係ないことも全部、知ってる知ってる」
シズはカラミンのすべての軽さが腹立たしかった。
「じゃあそのプロジェクトで作らされている部品が、」
「銃の部品だろうね」
カザンの続きをカラミンはクッキーを食べながら喋った。
「ハクエン局長にはもう連絡したから。セッシサン副局長連れて明日車で来るって。そしたらみんなで工場行こう。あ、カザン今何時?」
「八時前です。なんで聞くんですか?カラミンさん腕時計付けているじゃないですか?」
カラミンの左腕にはベルトの部分くたくたになった使い込まれた腕時計ははめられていた。毎朝髪をきっちりセットしてくるし、シャツのアイロンも完璧なカラミンが付けるには違和感があった。
「これくるってるんだよね。ほら」
カラミンの時計はまだ五時にもなっていなかった。
「新しいの買った方がいいんじゃないですか? 」
カザンが言った。
「これお気に入りなの。俺、向かいのレストランに八時に予約してるから行くね。明日寝坊しちゃ駄目だよー。じゃあねー」
手を振ってカラミンは部屋を出ていった。
「あの先輩マジで張り倒したい。涙ボクロ全部ひきちぎって山分けしようぜ、カザン! 」
「そんなグロい物いりませんよ」
シズもいらなかった。ため息を吐くと、シリマを抱っこしてシズ達を見送ってくれたウェルネルを思い出してしまった。
「ウェルネルさんは銃の部品だと知って仕事していたのかな」
「知らなかったと思いますよ。実際会ってみても、さっきの飲み屋にいた仕事場の人の話を聞いてみても僕の印象ではそう思いましたけど」
シズもそうだった。ウェルネルは騙されていたということだろうお。騙されてしていた仕事に誇りを持ち、シリマもその誇りが自慢なのだ。
「……あの家族どうなるんだろうな」
明日以降のことを想像するとシズはいたたまれなかった。
「どうなっても僕達にはどうしようもないです。どんなに理不尽なことが起きても、自分の人生自分でしか責任とれませんよ」
シズはそれが自分のことを言われているようだった。自分の意思とは関係なく知らない世界に連れて来られても、自分でどうにかして帰るしかない。それをシズは知っている。
「そうだな」
知っていても、それでも、シズはどこかでまだ誰かに救いを求めているのかもしれない。
ウェルネルはシズの背中からシリマを抱き寄せた。それでもシリマは起きなかった。
「自由な子なんで、大変だったでしょう? 」
「いえ、いい子でしたよ」
少しごねたが、基本的には聞き分けのいい子だった。
「スキャさん。僕らこれから飲みに行こうと思うんですけど、いい店知りませんか? 軽く飲める所がいいんですけど」
シズはぎょっとした。カザンが飲みに行こうなんて言うなんてありえなかった。この世界は十五歳からお酒は飲める。
「俺がよく仕事仲間と行く店でもいですか? 」
「助かります」
カザンは飲み屋の場所を聞くと礼を言った。ウェルネルも重ね重ね今日の礼をくれて、シズ達が見えなくなるまで見送ってくれた。
「一回宿に戻って服を着替えましょう」
「お前が飲みに行こうなんてどういう風の吹き回しだよ」
「勘違いしないでください。仕事の一環です」
「え? 」
「カルセドニー工場の従業員がいたら盗み聞きできるじゃないですか。仕事仲間と行けば仕事の話は必ずするでしょう。いるかどうかは分かりませんけどね。見つかるまで何軒か梯子しましょう」
シズ達は宿に戻ると私服に着替えて飲み屋街に出かけた。カラミンはまだ宿に帰っていなかった。
ウェルネルが教えてくれた店に入ると、ウェルネルが着ていた作業服と同じものを着ていた男が三人いた。カザンと目配せするとその三人の隣に座り、酒と軽いつまみを注文した。その三人はずっと家族の話をして、仕事の話をなかなかしなかった。シズが店員捕まえて煮物を追加した時だった。
「そういえば今日ウェルネルの奥さん大丈夫だったのかよ。仕事すぐに戻ってきたみたいだけどよ」
「大丈夫だって、本人言ってたぜ。まあ無理して戻って来たんだろう。プロジェクトがもう終わりに向けて急ピッチで作業してるらしいからな」
やっと仕事の話をしはじめた。カザンはすました顔で酒を飲む。
「ウェルネル早く通常ラインに早く戻って来ないかな。あいつ手先が器用だし、丁寧だから役に立つんだよな」
「プロジェクトが終わるなら帰って来るだろう。けどまあ、極秘プロジェクトってカッコイイよな。ウェルネル出世するぜ」
「ウェルネルさんなら誰も文句いわないでしょう。けどちょっとだけウェルネルさん達が作っている部品見たことあるんですけど」
「あ、お前、社長にあれだけ関係者以外見るなって言われてただろう?」
「ちょっとだけですよ! 見慣れない部品でした。あれどうやって使うんだろう」
おまちどうさま、と煮物がテーブルに置かれた。人参を一口食べる。
「それ食べたら出ますよ」
「もうか? 」
カザンは顔を近づけると囁いた。
「だいたい分かりました。宿に戻ったらカラミンさんに報告しましょう」
シズは頷くと、できるだけ急いで煮物を食べ終えて店を出た。
「子守りしながらよくそこまで調べたねー。よく頑張った。けど俺もそれ全部もう知ってる」
カラミンの部屋に行くと帰って来ていたので、シズとカザンが報告すれば軽くそう言われた。
「全部って……」
さすがのカザンも戸惑っていた。
「カルセドニー工場が昔武器屋だったのも、社長が借金あったのも、今やってるプロジェクトは鉄道会社とはまったく関係ないことも全部、知ってる知ってる」
シズはカラミンのすべての軽さが腹立たしかった。
「じゃあそのプロジェクトで作らされている部品が、」
「銃の部品だろうね」
カザンの続きをカラミンはクッキーを食べながら喋った。
「ハクエン局長にはもう連絡したから。セッシサン副局長連れて明日車で来るって。そしたらみんなで工場行こう。あ、カザン今何時?」
「八時前です。なんで聞くんですか?カラミンさん腕時計付けているじゃないですか?」
カラミンの左腕にはベルトの部分くたくたになった使い込まれた腕時計ははめられていた。毎朝髪をきっちりセットしてくるし、シャツのアイロンも完璧なカラミンが付けるには違和感があった。
「これくるってるんだよね。ほら」
カラミンの時計はまだ五時にもなっていなかった。
「新しいの買った方がいいんじゃないですか? 」
カザンが言った。
「これお気に入りなの。俺、向かいのレストランに八時に予約してるから行くね。明日寝坊しちゃ駄目だよー。じゃあねー」
手を振ってカラミンは部屋を出ていった。
「あの先輩マジで張り倒したい。涙ボクロ全部ひきちぎって山分けしようぜ、カザン! 」
「そんなグロい物いりませんよ」
シズもいらなかった。ため息を吐くと、シリマを抱っこしてシズ達を見送ってくれたウェルネルを思い出してしまった。
「ウェルネルさんは銃の部品だと知って仕事していたのかな」
「知らなかったと思いますよ。実際会ってみても、さっきの飲み屋にいた仕事場の人の話を聞いてみても僕の印象ではそう思いましたけど」
シズもそうだった。ウェルネルは騙されていたということだろうお。騙されてしていた仕事に誇りを持ち、シリマもその誇りが自慢なのだ。
「……あの家族どうなるんだろうな」
明日以降のことを想像するとシズはいたたまれなかった。
「どうなっても僕達にはどうしようもないです。どんなに理不尽なことが起きても、自分の人生自分でしか責任とれませんよ」
シズはそれが自分のことを言われているようだった。自分の意思とは関係なく知らない世界に連れて来られても、自分でどうにかして帰るしかない。それをシズは知っている。
「そうだな」
知っていても、それでも、シズはどこかでまだ誰かに救いを求めているのかもしれない。
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