54 / 241
城人編
苦いご指名
しおりを挟む「おい、カザン危ねぇぞ! 」
「っわ! 」
子ども達が走ってきてカザンが慌てて避けようとしたが間に合わず、足元をすくわれ尻餅を付いた。
「こら、お前ら謝れ! 」
シズは走っていく子ども達に叫んだが聞こえてないようで、楽しそうに去っていた。カザンは立ち上がると制服に付いた土を払った。
「……お前最近心ここにあらずって感じだぞ。なんだ、失恋か? 」
「ふざけた会話をするつもりはありません」
失恋じゃない事ぐらいシズも分かっている。カザンの様子がおかしくなったのはカルセドニー工場の件の後だ。あの件にさすがのカザンも心を痛めているのかと思った。けれど、カザンはどんなに理不尽でも自分の人生自分でしか責任がとれないとしっかり言った。そうきっぱりと言ったのにこんな風に引きずるだろうかとシズは考える。
ふと商店がシズの目に入った。瓶のソーダ水が売られている。それをシズは二本買う。
「カザン。今日クソ暑いから、ちょっと休憩しようぜ」
「しません。見回り中ですよ」
冷たく言い捨てられ、カザンは先を歩く。シズはソーダ水をジャケットの左右のポケットそれぞれに入れると、カザンの右手を掴んだ。カザンはぎょっとした顔で私を見る。
「な、なんですか!? 」
「お前、私になんか隠してないか? 」
「それは隠し事ぐらいありますよ」
シズは掴んだ右手を引っ張ると、カザンの耳元で囁いた。
「カルセドニー工場の事件で何かあっただろ? 」
カザンの表情は変わらなかった。けれどシズから目をそらした。
「別に何も、って、いったぁ! 」
シズはカザンの右手を強い力で握った。
「最近アシスに、新しい握力の筋トレグッズ貰ってさ」
シズはさらに強く握る。
「痛い痛い痛い痛いです! 」
「結構握力ついたんだよな。私の本気体験してみるか?」
「嫌です! しません! 」
「じゃあ喋る? 」
カザンは眉間に皺を寄せて黙る。シズはまた少し力を強めた。
「いいっ! もう無理! 本気で無理です! 」
「じゃあ言うか? 」
「言います言います! 言うから離してくださいっ! 」
公園行くと木陰の下にあるベンチに座った。エンジジャケットを脱いで、シャツを腕まくりするとシズはソーダ水の蓋を開けた。辺りを見渡し、例の視線がないのを確かめる。公園なら子ども達のはしゃぎ声で会話を聞かれることはないだろう。カザンはさっきシズが握りしめた右手をソーダ水で冷やしている。
「大げさだな、お前。言っとくけど利き手じゃねぇぞ」
「いや、右手もげると思いましたからね。馬鹿って本当に容赦ないですよね」
「左手もやっとくか? 」
「遠慮シマス」
カザンはソーダ水を握りしめたまま、ブランコで遊ぶ子どもを見ていた。子どもは明るいオレンジ色の髪を跳ねさせてはしゃいでいた。
「……ロドさんが用心棒兼何でも屋の話をしていたの覚えていますか?」
「ああ。確か、オレンジの髪色でサルファーって名前の男だろ?その時も思ったけど、サルファーってカザンと名前一緒だよな」
カザンは子どもからソーダ水に目線を落とした。
「まだ憶測です」
「ああ」
シズは瓶に口を付けた。
「その用心棒のサルファー、もしかしたらルバかもしれません」
シズは飲んでいたソーダ水を吐き出しそうになった。慌てて飲み込み咳き込む。
「マジかよ」
「ルバの髪色はオレンジです。そしてカンダさんと同い年です。あと昔、サルファーって名前を羨ましがってくれたことがあったんです。根拠はこの三つだけです」
「……それで、どうするんだよ」
シズが聞く。
「来月の長期休暇にルバを捜しに行ってみようと思います。もし、もし僕の憶測があたって見つけることが出来たなら、あなたにそっくりさんの城人の事聞いておきます」
「……頼んだ」
カザンはやっとソーダ水の蓋を開けて、飲んだ。
「遅かったね。まさかサボってたの? 」
戻るとカラミンが絡んできた。カザンはさりげなく無視をして自分の席に座った。
「してませんよ」
シズはエンジジャケットを脱いで、シャツを捲り上げて、さらにネクタイも緩めた。
「おお、お前ら帰ったか」
セッシサン副局長がやってきた。
「どうかしたんっすか? 」
「毎年恒例。カンダには苦い思い出だろうな」
シズは何の事だと首を傾ける。
「一年目の城人三人連れて王が他国訪問。去年、インデッセの王が来ただろう?」
「げ」
シズとトニオとハモる。
「俺行ったな、昔。ベグテクタだったけど」
カラミンが懐かしそうに呟いた。
「え、カラミンさん選ばれてたんですか?」
シズは信じられなかった。
「えってなに。カンダ。失礼だよ!」
「こいつ卒業した時同期で成績トップ2だったからよ」
オドーが言えばカラミンは鼻高々の様子で自慢げに鼻を鳴らした。
「タンサのことは一回も抜けなかったけどな」
「あいつはアオクラスでしょ!アカクラスなのに同期で二番目に凄いっていうのが凄いの!」
実際凄いのだけれど、カラミンは喋れば喋るほどその凄さを自ら薄めている。
「で、今年はうちがメヨを訪問する。うちの局からも一人選ばれた」
ああ、カザンだなと皆が思った。
「カンダ。お前だ」
シズはセッシサンを信じられないという目で見返した。
「しかも、ヨール王から直々の指名だそうだ。良かったな、去年窓から現れて。相当気に入られているぞ、お前」
「え、何それ! どういうこと! 」
カラミンがめっちゃ食いついてきたが、それを無視する。
「来月だから。色々準備して置けよ」
そう言い残してセッシサンは仕事に戻った。
「よかったですね」
カザンが胡散臭い微笑みをくれた。
「もしかしてお前行きたかった? 」
「まさか。僕基本的に旅行とか嫌いなんですよね。逆に助かりました」
「あっそ」
王様とか、シズもすこぶるめんどくさかった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる