異界の相対者

文字の大きさ
76 / 241
城人編

バレる

しおりを挟む
セドニがエレベーターを呼ぶとガラガラと扉が開いた。そこにはひとり先客がいた。顔見知りだったが、そこまで気にすることなくエレベーターに乗り込んだ。扉が閉まる。
「他国研修お疲れさま、セドニ」
「ありがとう、カルカ」
 セドニとサカルカ、二人は同期で同じアオクラスかつルームメイトだった。
「他国研修って一年目以外の奴らは希望者だろう?あんな面倒なものによく行ったな」
「勉強だ」
「勉強ですか」
 険悪な間があく。
「他に理由があったんじゃないのか?」
 セドニは何も答えない。
「例えば、シズ・カンダとか? 写真の騒動の事聞いたぞ」
 セドニは鼻で笑った。カルカは舌打ちしそうになる。カルカはセドニに鼻で笑われるのが学生の頃から最高にムカついていた。
「さすが九局。些細な事を無理矢理問題にする天才だな」
「仕事だからな」
「嫌われるぞ」
「もう嫌われている」
 チンと鳴り、エレベーターの扉が開く。セドニが先に出る。
「セドニ」
 少し遅れて出たカルカがセドニの背中を呼び止めた。セドニが立ち止まり、少し振り向いた。
「ちゃんとしろよ」
 セドニは無視して歩き出した。カルカは隠れて舌打ちした。

 長期休暇がもうすぐそこまで迫っていた。それを使って、ミトス・スイドの故郷であるフェナのヘミモル村に、シズは行く事にした。それを見回りの時、カザンに報告した。
「じゃあ僕が列車の切符を手配します」
 すると意外な親切が返ってきた。
「え、なんで? 」
「カンダさん、まだ見張られているんでしょう? 」
 インデッセから帰ってきて、シズはまた時々目線を感じることがあった。
「また襲われたら大変ですし、フェナに行くまで見張られたら嫌でしょう」
「嫌だな。鬱陶しい」
「だからカンダさんはカモフラージュにどこか違う行き先の切符を駅で買ってください。お金は少しかかりますけど」
「それは大丈夫」
 金ならある。ミトスがジャモンにくれた金だ。その金でミトスの事を調べに行く。皮肉というか、シズは変な感じだった。
 定時が過ぎてもリョークとアシスはまだ仕事をしていた。例の窃盗グループの件だ。その事でオドー班はここの所ずっと残業だ。
「何かあったら手伝うから。いつでも言えよ」
 帰り際、シズはアシスに声をかける。
「ありがとう、シズ」
「おい! カンダ! 俺も励ませ! 」
「お先にねー」
「くそう! どいつもこいつも! 」
 リョークをからかいかわし、アパートに帰るとバリミアは十月にコーサに行くための準備に追われていた。久しぶりに、シズはジャモンと二人で夕食を食べる。きのこたっぷり生クリームソースのフーメンだ。
「けど凄いよ。名前と故郷まで分かるなんて。やっぱり、シズは凄いね」
 ジャモンはシズを褒めた。
「ほぼカザンのおかげだよ。行ってもなんにもねぇかもしれないけどな」
 見つけた宝箱は空っぽでした、とありえなくもない。
「何もないなんて事は絶対にないよ。人が生きていた跡っていうのは数年じゃ消えないよ」
「そうか」
 まだ元の世界に私の生きていた跡は残っているって事か。それは心強いとシズは喜ぶ。
「あ、そうだ。私がフェナに行くのカザンとジャモンしか知らねぇから。大変だと思うけど、バリミア達には内緒にしといてくれ」
「分かっているよ。けど皆それどころじゃないかな? 」
「確かにな」
 アシスもリョークもバリミアも仕事に忙しい。「リゴは?最近会ってないけど」
 リゴの名前を出すとジャモンはにやにやした。
「リゴ君は、彼女が出来たんだよ」
「え! 嘘! 」
「近所にパン屋あるだろう?そこの看板娘」
「え! あのレモン色のパン屋の? 超可愛い子じゃん! 」
「しかも女の子の方から好きって」
「すげぇじゃん! 」
 リゴの部屋に行ったが、デートの留守のようだった。

 次の日国民局の食堂で、シズがサンドイッチを食べているとカザンが隣にきた。そしてこっそりポケットに入れた。
「日付合っているかどうか帰ったら確認してください」
「助かる」
 それから成行きで一緒に昼を食べて食堂を出た。昼休みのエレベーターはいつものように混んでいて、二人は階段で行こうとした。
「あっれー。カンダとカザンじゃん。何一緒にお昼食べたの? 」
 振り返るとカラミンがいた。後輩たちは、嫌な顔を出さないようにする。
「カンダなんで眉間に皺寄せるの」
 シズの表情筋は我慢しきれなかった。
「お疲れさまです」
 カザンがクールに挨拶をして階段を上ろうとする。
「ちょっと二人で仲良くご飯食べるならさ、先輩も誘ってよ。奢らないけど」
 そこは奢れよとシズは心の中で文句を言う。
「たまには仲間に入れてよ」
 ほカラミンは右腕をカザンの肩に回し、左腕をシズの肩に回した。
「やめてください」
 カザンが本気で嫌がっている。シズも無言で腕を払おうとしたが、ぎゅっとしめられさらに引き寄せられた。カラミンの顔に顔が付く。
「ねぇ」
 甘く重く静かな一言だった。その声色でヤバいとシズは直感した。
「なんか二人でこそこそしてるよねぇ?先輩を差し置いて」
 シズは目線をカザンにやらないようにした。
「別に、何も」
 カザンが素っ気なく答えた。
「九十七期生とオクターについて調べているって、先輩は小耳に挟んだけどね」
 シズは昨日、オドーに聞かれていたことを察した。シラを切るか、白状するか猛スピードで脳内会議をする。
「もし、調べていたとしてもカラミンさんに関係ありますか?」
 カザンは冷たく言った。少し間をあけてカラミンは笑った。不気味だ。
「あるよ」
「ミソーナ! 」
 女の声がカラミンの名前を呼んだ。カラミンの拘束が緩み、ふたりはつかさず逃げる。
「こら! ちょっとまだ話は終わってないよ! 」
「悪いわね、もう私の番よ。昨日約束すっぽかしたでしょ! どんだけ待ったと思ってるの! 」
 結構な美人がカラミンに延々と怒っていた。シズ達は階段を上がる。
「あんな事言ってよかったのかよ」
 調べていたとしても、カラミンには関係ない。結構強気な発言だった。
「大丈夫です。僕が適当にごまかしときます。あなたは興味本位で僕に付き合っていた事にしてください」
「おお。分かった」
 カザンが年下なのを時々思い出して、シズはびっくりする。私、来年二十歳だぞ。私、大人。カザン高校生。シズはなんか、悲しかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

処理中です...