異界の相対者

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城人編

心許せない夜

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 バライトがエレベーターに乗っていると、六階で止まる。ガラガラと扉が開く。すると乗ってきたのは、バライトが会いたいと思っていた人物だった。ハクエンはバライトを一瞥してエレベーターに乗り込んだ。扉が閉まる。
「久しぶり、ハクエン」
「そうだな、バライト」
 この二人もまた同期である。だがクラスも違い、学生時代はお互いそんなに接点がなかった。けれど、微妙な同期だ。
「この間でかい事件あって大変だったみたいだね」
「でかい事件? 」
「カルセドニー工場」
「ああ、あれね。大変だったな」
 ハクエンごく自然に大変だった微笑みを浮かべた。
「事件が発覚する前に、カラミン班を現地に派遣しているよね? 」
「情報があったからな」
「へえ。あれって本当に国から補助金だまし取ろうとしただけ? 」
「我々の調査ではそうだったが、そっちは違う何かを掴んだのか? 」
「あら、うまい返しだ。ハクエン四局長」
 殺伐とした間があく。
「隠し事が上手な男はモテないぜ」
「悪いな。俺は奥さんにモテればそれでいい。あと娘」
 独身のバライトは額に青筋が浮かぶ。エレベーターが一階について扉が開いた。
「あと、訂正だ」
 エレベーターから出ると、ハクエンはバライトを指さす。
「隠し事は下手な男の方がモテないぜ。バライト九局長」
 ハクエンは笑いながら去ろうとする。バライトは思わず呼び止めた。
「ハクエン。ひとつ助言だ」
 ハクエンは黙って立ち止まった。
「シズ・カンダの事、気を付けておけよ」
「え? 」
 バライトはハクエンを抜かし颯爽と去った。
「やばい。ムカついたから余計な事を教えちゃった。カルカにバレたら怒られる」


 九月がもうすぐ終わる。風が少し冷たくなってきた。暮れるのも早い。たまにはどっかに寄って帰ろうかとぶらぶらしているとシズは声をかけられた。カザンだった。
「おう。偶然だな」
「偶然じゃないです」
「え? 」
「待ちぶせしていました。少し話したい事があって」
「そ、そうか」
 シズは近くにあったカフェを指さす。
「店、入るか? 」
「いえ。また誰かに見られたら面倒なので」
「そうだな」
 それからシズはカザンと並んで歩いた。
「こっち私の家の方向だけどいいのか? お前んち遠くなるんじゃねぇの? 」
「こっちの道からでも帰れるんで、心配しなくていいです」
「さいですか」
 街灯を五本過ぎるとカザンが言った。
「アルガーについて調べるのは諦めます。カラミンさんに気が付かれた事もありますし。これがもっと上にもばれて、ウェスに迷惑かけたくないので。ウェスに再会できたから、ウェスが生きているのが分かったのでもう終わりにします」
 あっさりだな。それがシズの正直な感想だった。けれどカザンの事だ。色々のリスクを考え、諦めるという答えを出したんだろう。
「そうか。けど私はまだミトスの事を調べるよ」
「それは分かっています。けど、見極めはちゃんとしてください」
「見極め? 」
「やめ時です」
「……ああ」
 やめ時。それはシズが元の世界に戻れた時だ。簡単に、シズはやめられない。
「カンダさん」
「なんだ? 」
「カンダさん、何かもっと大事な事隠していませんか? 」
 シズは分かりやすく動揺したのが自分でも分かった。カザンが立ち止まる。シズも立ち止まざるをえない。切れかかった街灯がちかちか光る。
「ミトス・スイドがあなたの双子の片割れかもしれない。顔もそっくりだ。説得力がある。けれど、僕にはその奥が見えて仕方ないです」
 ミトスを見つける事が、シズのゴールではない。シズのゴールは元の世界に戻る事。
「あなたの本当の目的はなんですか? 」
 元の世界に帰る事。それに一番近いのは、カーネスを見つける事。けれどそれはあまりにも手がかりが少ないから、シズはミトスの素性を知りたかった。そんな事をシズはカザンに話せない。私この世界の人間じゃないんですよ。そんな事、シズは話せなかった。そんな事を話せないぐらいに、カザンは現実的世界じみている。おとぎ話の世界なのにカザンからは現実じみた匂いがする。それなのに、それなのにここには私の生命の匂いがしない。だから目の前にいるカザンと自分は違う。ずっとシズは、そう思っている。ジャモンともバリミア達とも、私は違う。ずっとシズはそう思っている。自分だけ違う人間だ。だから、
「言えない」
 カザンがショックを受けた。それがすぐ、シズはわかった。カザンが傷ついた顔をこんなに分かりやすくするなんて思いもしなかった。それだけシズに心を開いていた。シズはなんてこったと思う。
「カザンが九十七期生の悲劇について私に話せないような感じ」
 凄くずるい言い訳をシズはした。笑ってごまかしたが、カザンの表情は変わらない。空気は空回りしている。
「そうですよね。すいません」
 カザンが本当に寂しそうに笑った。いや、私達利用し合う関係だったじゃんか。あんたなんでこんなに私に心許してんの。シズはたまらなくなる。
「ごめん」
 シズはも謝るしかない。
「いえ、じゃあ僕はここでお疲れさまです」
「お疲れ」
 カザンが背を向ける。その背中をシズは見送る。カザンはシズがきっと言ってくれると期待した。もっと助けになってくれようとした。その期待を、シズは裏切った。
「ああああ」
 シズは思わずその場で蹲る。自分が悪い。悪い。けど、シズは憂鬱に飲まれる。

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