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城人編
シズの休暇(スイド家の隣人)
しおりを挟む「え、シズちゃん城人なんだ! 」
「ちゃんはやめろよ、ちゃんは」
慣れない呼び方に、シズは思わず顔を引きつった。宿を出て、レアーメが会わせたいという奴の所に行くため、シズはさっぱりした小麦畑に沿って歩く。くっきりとしたひつじ雲が空に模様をつけている。顔を見られるたびにレアーメのようにいちいち驚かれても困るため、シズは帽子をかぶってきた。
「えー。もうシズちゃんでしっくりきたからな。許して」
「シズちゃんって感じじゃねぇだろう、私」
そんな呼び方、シズは小学生以来だった。
「ミトスって奴どんな奴だったんだ?」
シズは率直に聞いた。幼馴染の事が聞かれるのが嬉しいか、レアーメは可愛いえくぼをつくって微笑んだ。そして小麦畑を眺めゆったりと歩く。その歩調にシズも合わせる。
「ミトスは小さい頃から小麦畑が大好きだった。実った小麦の輝きより美しい輝きはこの世にはないっていつも言ってた。他の子ども達が畑仕事手伝うのを嫌がってもミトスだけは違った。本当に楽しそうに小麦畑と戯れてた。大人になったらこの世界で一番美しい小麦畑を作るんだって本気で言っていたのよ」
レアーメは心底おかしそうに笑い声を上げた。
「それなのになんで城人になろうなんて? 」
レアーメは困ったような顔をして首を振った。
「分からない。けどミトスのお母さん達が死んだのがひとつの理由だったと思う。ミトスはまだ子ども時に親亡くしちゃったから、畑はルビオ家の人が管理してくれることになったけど結局そのまま譲り受ける事になった。あ、これから行くのがタルク家ね。そこの息子も幼馴染なの。年は少し上のお兄さんよ」
「へぇ」
「けどね、ミトスの両親は畑より楽しい事をもっと見つけて遊べって言ってたの」
「そうなんだ。畑を継ぐなんて親孝行だと思うけど」
シズは言った。
「でしょう? 真面目過ぎるって思っていたのかも。友達と遊ぶより畑だったから。あと、この子はあまり長く生きられないだろうから好きな事を好きなだけさせたいって」
「病弱だったのか? 」
シズが気になっていたことだった。
「ううん。いたって健康よ。私が見る限りだけどね。けど私たまたま聞いた事があったの」
レアーメの声が心持ち小さくなった。
「ミトスの家に遊びに行った時ね、トイレ借りる時にリビングからミトスの両親が話しているのを聞いちゃったの」
「どんな話? 」
「ミトスは十八歳まで生きられないからって。理由は分からなかった。そんな事聞けないしね。けど結局十五歳で死んじゃった。長生きできない呪いでもかけられたのかな」
カザンが言っていた通りだった。ミトスは本当に十八歳までしか生きられないと、本当に思っていたんだ。けれど病弱だった訳ではない。じゃあ誰かに殺されるかもしれないから逃げるためにコインを裏返した。そうだとしたら、ミトスはこの村にいた頃からコインについて知っていた事になる。けれどなぜ十八歳なんだ? 十八歳になったら殺されに来る?本当に呪い? それか、十八歳になったらコインを裏返すとずっと前から決まっていたのだろうか。ずっとそのつもりだったのだろうか。ミトスは人を捜しているとルバに話していた。その捜し人が、自分と同じ、カーネスだったとしたら。早とちりか、とシズは思った。
「どうしたの?凄く難しい顔してるよ」
レアーメが心配する。
「長生きできない呪いって恐ろしいなって思っただけ」
シズのステア・タルクの第一印象はチャラそう、だった。ブロンドの髪に気取ったような長い前髪。片耳だけ開けたピアス。優男といえばいいのだろうか。ステア・ルビオに帽子を取って顔を見せれば、絶句した。食べかけのパンを地面に落とした。もったいない。砂が付いてもう食べられない。ステアは泣き出した。ぎょっとする。
「ミトス。よく来てくれたな」
そう言ってシズに抱き付いた。
「あれ、幽霊なのに抱き付ける。最近の幽霊は凄いね。俺は嬉しいよ」
「何言ってるのよ、ステア。まあ幽霊に間違えるのは分かるけど」
レアーメが呆れている。ステアはシズの第一印象が簡単にひっくり返るほどに、純粋な人だった。人を見た目で判断してはいけないとシズは反省した。ステアは、シズがミトスじゃない事、女である事に一通り驚き、家に入れてくれた。
「収穫終わってうちの親一昨日から、ジルコンに旅行に行っているんだよ。もったいないな、シズちゃんの顔見せたかったぜ」
お前もシズちゃん呼びかい、とシズは心の中で突っ込む。
「今、紅茶入れるね。昨日アップルティー買ってきたんだ。あと朝、チョコレートケーキ焼いた。暇だったからさー。食べてよ」
シズはだんだんステアの好感度が上がっていく。ステアはアップルティーとチョコレートに生クリームを添えて出してくれた。お皿も野イチゴ模様で可愛い。ケーキを一口食べる。
「うまい! 」
シズは感動した。
「よかった! ありがとうシズちゃん」
程よく甘く、程よくしっとりで口の中でとける。
「ステアはね、うちのお母さんよりお菓子作り上手いから」
「そんな事言ったらおばさんに怒られるよ、レアーメ」
そんな談笑が少し続くと、シズはふいに壁に掛けられてある家族写真が目に入った。シズの目線に気が付いたのかステアがああ、と言った。
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