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城人編
シズの休暇(静か過ぎる夜)
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「五年ぐらい前に撮った家族写真。俺とお袋と親父」
「お父さんの隣にいるのはおばあちゃん? 」
椅子に腰かけ杖を前に持ったきりとした顔でおばあちゃんは写っていた。
「そうだよ。一昨年死んじゃったんだ。産婆だったんだよ。ミトスを取り上げたのもばあちゃんだ」
ステアが言った。
「モルダばあちゃんって呼ばれて親しまれていた。私が生んだ時もモルダばあちゃん。もちろん、ステアもね」
レアーメが教える。この村のほとんどの赤ちゃんはそのモルダばあちゃんがとり上げたのだろう。
「厳しいとかじゃなかったけど、滅多に笑わないばあちゃんだったよ」
「そうね。黙々としていたというか、感情を出さない人だったよね」
ステアは急に吹き出した。
「どうしたの? 」
レアーメが不思議そうに聞いた。
「いや、そういや一回だけ冗談言った事あったなって」
「うそ! どんなの? 」
レアーメが興味津々に身を乗り出した。紅茶が入ったカップが少し揺れた。ステアはシズの事をちらりと見た。
「ミトスの事」
ステアはモルダばあちゃんが言った唯一の冗談を話した。レアーメが吹き出す。シズも思わず笑った。古今東西、とういうよりどんな世界でも、失礼な冗談は似たようなものだと思った。レアーメは呆れたようだった。シズもあの時そんな風に笑ったのだと思う。懐かしく恋しい気持ちになった。
「確かにミトスは大人しかったけどね。やんちゃもしなかったし」
「現にミトスにそっくりな女の子が来たしね。本当に来てくれてありがとう、シズちゃん。楽しい思い出話が出来て楽しいよ!」
「そりゃどうも」
シズはそう言うしかない。けど昔話に花を添えるのは悪い気がしない。
ケーキをおいしくたいらげてタルク家を出ると空が橙に染まり始めていた。夕陽を受けた寂しげな一軒家が目に付いた。ベージュ外壁にオレンジにスカーレット、キャロット色など微妙に色が違うが同色系を並べた瓦のような屋根。庭は何もない。草も生えていない。けれど人の気配がない家だった。
「ミトスの家よ」
レアーメが教えた。そして家と同じような寂しげな瞳でミトス・スイドの生家を見つめた。
「月に一回は私とステアの家で掃除しているの。売っちゃうのもね。ミトスはもう帰って来られないんだけど、誰かに譲る事ができないの。あんな死に方だったからかな。誰か住んでくれた方がいいのだけれどね」
レアーメは悲しい微笑を浮かべた。
「ミトスのお墓はこの村に?」
「もちろん。裏山の墓地にあるわ。スイド家みんなのお墓」
「そうか」
フェナで山といえば、アタカマだ。狩人のアタカマ。シズの養父設定の人物。
「私が墓参りしてもいいか? 」
「え? 」
山に行けば何か手がかりが見つけられるかもしれないと、シズは考えた。
「なんかしたくなった。迷惑か? 」
「ううん。そんな事ないわよ! 明日案内するわ。そうだステアも誘いましょう !」
嬉しそうなレアーメを見ると、シズの良心が傷んだ。いい人を装うが、いい人でいる必要は残念ながらない。
「今月はミトスの両親達の命日だしね」
「いつなんだ? 」
「十月二十三日。私達も毎年朝にお墓参りに行くんだけどいつももうお花が供えてあるの」
「それはミトスがいなくなってからの話か? 」
「そう」
きっとミトスが夜のうちにこっそり来て供えていたのだろう、とシズは思った。
「それって去年もか? 」
「うん」
去年の今頃、シズはもうこの世界にいた。ミトスがあっちに行っているとしたら墓参りには来られない。じゃあミトスがこっちにいる可能がある? いや、それならシズをこっちに連れて来る理由がない。シズの憶測ではあっちの世界に逃げるために、シズをこっちに連れてきた。同じ世界に同時に両方存在していいなら、わざわざシズをこっちに連れて来る必要がない。金も必要ない。じゃあ墓参りをしていたのは消去法でアタカマか? とシズは考える。
「なあ」
シズはレアーメを呼んだ。
「なに? 」
アタカマって男知らないか? そんな事このタイミングで聞いたら明らかにおかしい、とシズは踏みとどまった。ミトスが目的でこの村に来たことを勘付かれる。それはあまり良くない気がする。
「私って頭良くなったよな」
こっちに来て凄く頭の回転が早くなった。高校生の頃ならこんなに考える事できなかった。元の世界に戻ったら東大目指せるかもとシズは自信を持った。
「やべ、どうしよう」
「今の発言はただの馬鹿にしか聞こえないけどね」
レアーメは冷静に言った。
静かな夜だった。宿の前を誰かが歩いている。その土を踏む音が開いた窓から聞こえてくるほどにここは落ちついていた。
シズはミトスの過去に追いついた。一人になって、それを徐々にだけれど感じていた。一年前は同じ顔で男、城人に関わりがあることの三つしか分からなかった。ベッドに仰向けに倒れ、シズは天井に手を伸ばす。手のひらを広げて電球の明かりを掴むように握った。ここに答えが、帰るヒントがあればいい。追いついたなら捕まえたい。
「お父さんの隣にいるのはおばあちゃん? 」
椅子に腰かけ杖を前に持ったきりとした顔でおばあちゃんは写っていた。
「そうだよ。一昨年死んじゃったんだ。産婆だったんだよ。ミトスを取り上げたのもばあちゃんだ」
ステアが言った。
「モルダばあちゃんって呼ばれて親しまれていた。私が生んだ時もモルダばあちゃん。もちろん、ステアもね」
レアーメが教える。この村のほとんどの赤ちゃんはそのモルダばあちゃんがとり上げたのだろう。
「厳しいとかじゃなかったけど、滅多に笑わないばあちゃんだったよ」
「そうね。黙々としていたというか、感情を出さない人だったよね」
ステアは急に吹き出した。
「どうしたの? 」
レアーメが不思議そうに聞いた。
「いや、そういや一回だけ冗談言った事あったなって」
「うそ! どんなの? 」
レアーメが興味津々に身を乗り出した。紅茶が入ったカップが少し揺れた。ステアはシズの事をちらりと見た。
「ミトスの事」
ステアはモルダばあちゃんが言った唯一の冗談を話した。レアーメが吹き出す。シズも思わず笑った。古今東西、とういうよりどんな世界でも、失礼な冗談は似たようなものだと思った。レアーメは呆れたようだった。シズもあの時そんな風に笑ったのだと思う。懐かしく恋しい気持ちになった。
「確かにミトスは大人しかったけどね。やんちゃもしなかったし」
「現にミトスにそっくりな女の子が来たしね。本当に来てくれてありがとう、シズちゃん。楽しい思い出話が出来て楽しいよ!」
「そりゃどうも」
シズはそう言うしかない。けど昔話に花を添えるのは悪い気がしない。
ケーキをおいしくたいらげてタルク家を出ると空が橙に染まり始めていた。夕陽を受けた寂しげな一軒家が目に付いた。ベージュ外壁にオレンジにスカーレット、キャロット色など微妙に色が違うが同色系を並べた瓦のような屋根。庭は何もない。草も生えていない。けれど人の気配がない家だった。
「ミトスの家よ」
レアーメが教えた。そして家と同じような寂しげな瞳でミトス・スイドの生家を見つめた。
「月に一回は私とステアの家で掃除しているの。売っちゃうのもね。ミトスはもう帰って来られないんだけど、誰かに譲る事ができないの。あんな死に方だったからかな。誰か住んでくれた方がいいのだけれどね」
レアーメは悲しい微笑を浮かべた。
「ミトスのお墓はこの村に?」
「もちろん。裏山の墓地にあるわ。スイド家みんなのお墓」
「そうか」
フェナで山といえば、アタカマだ。狩人のアタカマ。シズの養父設定の人物。
「私が墓参りしてもいいか? 」
「え? 」
山に行けば何か手がかりが見つけられるかもしれないと、シズは考えた。
「なんかしたくなった。迷惑か? 」
「ううん。そんな事ないわよ! 明日案内するわ。そうだステアも誘いましょう !」
嬉しそうなレアーメを見ると、シズの良心が傷んだ。いい人を装うが、いい人でいる必要は残念ながらない。
「今月はミトスの両親達の命日だしね」
「いつなんだ? 」
「十月二十三日。私達も毎年朝にお墓参りに行くんだけどいつももうお花が供えてあるの」
「それはミトスがいなくなってからの話か? 」
「そう」
きっとミトスが夜のうちにこっそり来て供えていたのだろう、とシズは思った。
「それって去年もか? 」
「うん」
去年の今頃、シズはもうこの世界にいた。ミトスがあっちに行っているとしたら墓参りには来られない。じゃあミトスがこっちにいる可能がある? いや、それならシズをこっちに連れて来る理由がない。シズの憶測ではあっちの世界に逃げるために、シズをこっちに連れてきた。同じ世界に同時に両方存在していいなら、わざわざシズをこっちに連れて来る必要がない。金も必要ない。じゃあ墓参りをしていたのは消去法でアタカマか? とシズは考える。
「なあ」
シズはレアーメを呼んだ。
「なに? 」
アタカマって男知らないか? そんな事このタイミングで聞いたら明らかにおかしい、とシズは踏みとどまった。ミトスが目的でこの村に来たことを勘付かれる。それはあまり良くない気がする。
「私って頭良くなったよな」
こっちに来て凄く頭の回転が早くなった。高校生の頃ならこんなに考える事できなかった。元の世界に戻ったら東大目指せるかもとシズは自信を持った。
「やべ、どうしよう」
「今の発言はただの馬鹿にしか聞こえないけどね」
レアーメは冷静に言った。
静かな夜だった。宿の前を誰かが歩いている。その土を踏む音が開いた窓から聞こえてくるほどにここは落ちついていた。
シズはミトスの過去に追いついた。一人になって、それを徐々にだけれど感じていた。一年前は同じ顔で男、城人に関わりがあることの三つしか分からなかった。ベッドに仰向けに倒れ、シズは天井に手を伸ばす。手のひらを広げて電球の明かりを掴むように握った。ここに答えが、帰るヒントがあればいい。追いついたなら捕まえたい。
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