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逃亡編
楽に生きてない
しおりを挟む(十月十一日 正午前)
四局フロアに戻って来たハクエンとカラミンにリョークとアシスが駆け寄った。
「シズ何か話しましたか?」
アシスが尋ねるとハクエンは厳しい顔で首を振った。カラミンは盛大なため息を吐いた。
「自暴自棄になっている感じ。生気もないよ」
カラミンは横目でカザンを見た。カザンは黙ったままだった。
「あいつが泣くなんて思いもしませんでした」
リョークが呟く。リョークとアシスはあの後すぐにシズの後を追い、サウザン邸に駆けつけた。ちょうど飛び出てきた使用人に助けを求められた。そして部屋に行けば血だらけで倒れたサウザン氏と泣き叫ぶシズがいた。その光景を見た瞬間二人は動けなかった。あんなに逞しく強いシズが、初めてか弱く見えたからだった。
「カンダは確かに口が悪くてすぐにメンチ切るけど、なんか大きい理由がないとあそこまでする訳ないです。あんなに壊れる訳ないですよ」
「分かってるよ、クド。そんな事は」
ハクエンが微笑んでリョークの肩を叩いた。そんなことは分かっていたが、その「大きい理由」がここにいる誰にも分からなかった。
「局長! 」
セッシサン副局長が駆け足でやって来た。後ろにはシプリン八局長もいる。
「おお、セッシサン。サウザン氏の秘書何か喋ったか」
「はい。シプリン局長が吐かせてくれました」
シプリンがセッシサンの前に出る。
「カンダが襲撃した時の話があやふやで辻褄が合わない部分があってな。カンダが四局だと名乗ったって言ったがあのサウザン氏が四局を屋敷に入れるとは思えない。しかも応接室ではなく自室にカンダを招き入れている」
「サウザン氏は重度なヨンキョク嫌いだからな。門前払いが普通だな」
オドーは経験があった。
「それでカマをかけたりしてみたら喋ったよ。それで結構なモノに繋がった」
「結構なモノってなんですか? 」
カラミンが尋ねると、シプリンは鼻を鳴らして答えた。
「カンダはコーネス・カーネスの使いの者だと名乗ったらしい」
一同が騒めく。カザンも目を見開いた。
「コーネス・カーネスって確か機密手配書の……」
アシスが零すと、シプリンが頷いた。
「インデッセが手配している人物だ。秘書もコーネス・カーネスの事はよく知らないらしいが結果を先に言えば、あの窃盗グループのリーダーはサウザン氏の娘で合っていたという事だ」
「え? 」
オドーが声を上げた。
「サウザン氏は娘のマイカの仲間達にハートフィールドがリーダーだと言えと口利きしていたそうだ。罪を軽くして金をやると言ってね。だから窃盗グループの奴らに秘書の証言使ってつついたら喋ったわ」
「けどあれだけ顔がそっくりな、」
リョークが全部言い終える前に、シプリンがリョークを指さした。
「そう。それがコーネス・カーネスの仕事らしいわ」
「どういう事だ、シプリン」
「信じにくい話ですよ、局長」
セッシサンが苦い顔で説明した。
「コーネス・カーネスは似た人間、そっくりな人間を連れて来る事が出来るそうです。ただし条件が二つある。一つは異性である事。もう一つは入れ替えである事。今回は娘だったから男のハートフィールドをコーネス・カーネスは連れて来た」
「じゃあ、マイカはコーネス・カーネスによってどこかへやられた? 」
カラミンが聞くとセッシサンはああ、と頷いた。
「そしてたぶんもう生きていないとよ」
「じゃあ私達は間違った人間を捕まえたって事ですね」
アシスが呟くと、静かになった。その重い空気を裂いたのはカラミンだった。
「それもそうだけど、カンダはそれが全て分かっていてサウザン氏の所に向かったって事だよね? なんで局も知らないコーネス・カーネスの 悪事をカンダは知っているんだよ」
「カラミンの言う通りだ。それで俺は思い出したよ」
セッシサンはリョークとアシスを見た。
「ほら学生の時、カンダが大騒ぎしただろう? 九十七期生の集合写真を見て」
リョークが声を上げた。
「顔が全く同じ。もし九十七期生のそいつが男だとしたら」
「カンダとそいつは入れ替えられていたのかもしれねぇな。だからコーネス・カーネスの素性をカンダは知っていた」
「悪くない見解かもしれないな、セッシサン」
シプリンが笑う。けれどアシスは釈然としなかった。
「けど入れ替わった理由は? それに九十七期生はあの悲劇で全員死んでます」
「その理由が言えないからだんまりを決めこんでいるのかもしれん。けどハートフィールドが死ぬ前日まではその事を俺達に話すつもりだったようだ。けどハートフィールドが死んで話す気がなくなった。または話せなくなったか」
ハクエンは話しながら真実を捜していた。それを耳にしながらカザンは俯いていた。そんなカザンをカラミンは見ていた。
昼になりカザンは食堂に行ったが頼んだサンドウィッチは二口程しか喉を通らなかった。仕方なしに残りを包むと食堂をでた。昼のエレベーターは混んでいる。カザンは迷わず階段を上った。二階と三階の踊り場で後ろから人の気配を感じた。カザンが振り返るより早く、カザンは壁に叩きつけられた。相手を見ればカラミンだった。カラミンはカザンの襟首を絞めてさらに壁に押し付けた。カザンは息苦しさに顔を歪めた。
「俺、余裕があって気は長くて優しい先輩だけどさ、」
カラミンの色が変わった瞳がカザンを射る。
「限界ってあるんだよね」
カラミンはカザンの襟首から手を離すと顔の横に手を付いた。
「そろそろはぐらかされているのも終わりだよ、カザン。カンダとこそこそしていた事先輩に教えなさい」
もう黙っているのは無理だ。そうカザンは悟った。けれど脳裏にルバの顔が浮かぶ。カザンはルバとの約束を守りたかった。けれどルバの事を話せば、ルバがアルガーを殺す事を止められるかもしれない。けれど確実にカザンはルバに恨まれるだろう。カザンは完全な板挟みだった。
「俺にだけ話せ」
カザンはカラミンを見た。
「俺にだけ全てを話せ。他の人達に知られたくない事があるなら黙っといてあげる。それがどんなに悪い事でも」
カラミンは壁から手を離した。カザンはルバを裏切る覚悟を決めた。カザンはシズ・カンダの真実を知りたいという欲もあった。恨まれてもいい。助けられるなら。
「あの事件の事知ったらしんどくなりますよ」
カラミンは甘く微笑んだ。
「大丈夫。楽に生きているつもりないから、俺」
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