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逃亡編
逃げ出す
しおりを挟む「バライト局長。サウザン氏の秘書の調書、確認してきましたよ」
九局フロアにカルカが戻ってきた。
「おー、ご苦労さん。アザム、お前もちょっと来い」
「はい」
三人は隣の別室に移った。カルカが最後に入りドアを閉めた。
「それで? 」
「だいたいカンダと言ってアザム事と噛み合います」
バライトは口笛を吹いた。
「念のため秘書と話させて貰いました。『コイン』という単語に覚えがあるそうです」
「コイン? 」
アザムが首を傾げる。
「カンダが言ったんだ。コーネス・カーネスはコインを裏返す」
「どういう意味ですか? 」
「コーネス・カーネスは似た人間。そっくりな人間を連れて来ることができる。ただし条件は二つ。異性であること、入れ替えであること」
「入れ替えるが、コインを引っ繰り返すって事か。裏と表。男と女」
バライトが楽しそうに喉を鳴らした。
「話についていけてないんですけど……」
「この間窃盗グループの主犯が死んだだろう? 」
バライトが説明をする。
「はい、知っています。サウザン氏の娘にそっくりの……」
そこでアザムは、はっとした。
「捕まったのはサウザン氏の娘にそっくりな男。その男を手配したのがコーネス・カーネス」
バライトは指を鳴らす。
「さっすが。頭の回転早いね、アザム」
「けどどうやってそんなそっくりな顔を」
「異世界からだと」
バライトの言葉にアザムは遠慮なく眉間に皺を寄せた。
「何言ってるんですか? 」
完全にからかわれている。アザムはそう思った。カルカが困った顔で言った。
「カンダが言ったんだよ、自分は異世界から来たって」
「え? 」
あまりにふざけた事にアザムは言葉が見つからなかった。
「馬鹿じゃないですか? 」
やっと出た言葉がそんなものだった。
「俺もそう思う」
カルカはため息を吐いて続けた。
「カンダは自分にそっくりな男とコーネス・カーネスに一年前に入れ替えられたと言っている。九十七期生の写真に写っている男に」
「その話が本当であれば、カンダのそっくりは間諜の可能性が高い」
バライトは自分をまっすぐ見て「理由は知りません」と言ったカンダの目を思い出していた。カンダはミトス・スイドがスパイだと知っていた。嘘を吐いた事がばれないように自分から目線を離さなかったことにバライトは気が付いていた。
「スパイにそっくりな城人志望が現れたら、そりゃあ見張るだろうな」
「バライト局長はカンダが異世界から来たっていうの信じているんですか?」
アザムは軽蔑じみた口調で上司に尋ねた。
「どうだろうねー」
バライトは答えをはぐらかした。
「とりあえず明日、カンダの保護者のジャモン・サーペティンに来て貰おう」
夕食を食べ終え、窓辺に並んだリンゴをシズは眺めた。突然消えたら、ジャモンとか困るよな。そう思い、消灯前にシズは手紙を書いた。そしてテーブルの上に置き、飛ばないようにリンゴを置いた。
布団に潜るり、シズは天井を見る。そして壁の上へ目線を移した。通気口だ。考えて来るならここしかないとシズは思った。
零時を過ぎた頃、ノックが聞こえた。ドアからではない。案の定、通気口からだった。シズは起き上がる。すると通気口のすき間から紙が落ちてきた。腕を伸ばしそれを掴む。
【これから蓋を外すので、この紙を水に流した後受け止めてください】
読んですぐシズは水に流すと、掛布団を通気口の下に敷いた。万が一取り損ねても音が響かないようにだ。蓋はすぐに外れた。落ちてきた蓋を無事受け止めた。するとロープが垂れてきた。続いて手袋も。上れという事らしい。手袋をはめてロープを掴み通気口まで上ると身体を滑らせた。すると前にいた人がほふく前進で進み出す。ライトか何かを持っているようでほんのりと明るかった。ロープを掴んだままそれにならって私も進んだ。途中通気口の分岐点で前の人が身体の向きを変えた。そこでシズは自分を逃がしてくれたのが女の人だったと分かった。
「もうすぐ出口です。ここは三階なのでロープをつたって壁から下ります。あなたならできますよね」
女が囁いた。シズが頷くと女は微笑んだ。それからすぐに出口から脱出し、手にはロープ壁に足を付けて地上に降り立った。女は手早くロープを片付ける。
「走ります。急いで」
女に言われるがまま、シズは走った。ああ、逃げてしまった。後悔というか、罪悪感がシズに残った。けど戻りたいとは思わなかった。戻る場所だとも思わなかった。
城を囲む塀を越えて行くと路地に入った。女はバケツを開けると袋を出した。
「これに着替えて」
シズが着ていたのは白いパンツに白い長袖。言えば囚人の服だ。袋の中はワンピースだったが文句は言えない。シズは素直に着た。
「あなたは?」
やっと名前を聞いた。
「アイド・クレースと申します。メト様のメイドをしております。この名前が明日からオードに着く間はあなたの名前になりますので」
「え? 」
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