異界の相対者

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逃亡編

幽霊の叫び

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「なんかすげぇわくわくして来た! なんか冒険みたいだな! 」
「私もなんかドキドキしている」
 レアーメとステアは興奮しながらカラミンの背中に付いて行く。最後尾をカザンが気を付けながら一歩一歩階段を進む。階段を上り下りるとカラミンが壁にランプをかざす。
「スイッチがある」
 カラミンがスイッチを上げるとぼんやりとだが電気が付いた。するとそこには大きな布で覆われた何かがあった。ステアが布を恐る恐る引っ張る。埃が舞い現れたのは本棚とテーブル、テーブルの上に置かれた椅子だった。
「ミトスの家のリビングにあった奴だ……」
 レアーメが呟く。
「地下に全て運んだようですね。それでも一人でするには随分骨が折れたでしょう」
 カザンは感心しながら地下を見渡した。するとドアを見つけた。開けてみると風呂とトイレがあった。
「風呂とトイレか。あっちにはコンロと流しがあった」
 いつの間にかカザンの隣にカラミンがいた。
「地下に風呂とトイレにコンロ……。人が住んでいた? 」
「かもね。地下にこれだけ揃えるのはおかしい。使用した形跡もある。見れば比較的新しいものだ。戦時中の物ではないね。どんなに古く見積もっても、三十年ぐらいじゃないか?」
「じゃあこの三十年の間に誰かが隠れ住んでいた?」
 カラミンは頷いた。
「何か掴めるかもって来たけど根っこが深くなる一方だよ。頭痛いねー」
「あれ、壁に何か描いてある」
 ステアが奥の壁に近づく。カラミン達も駆け寄った。壁にも布で覆われた家具が押し詰められていた。その家具に隠れて少しだけ壁に描かれた何かが見えた。
「文字かしら? 」
「ちょっと家具を動かしてみよう」
 カラミンとステアで家具を横へ動かす。カザンも手伝った。壁に描かれた文字は少しずつ姿を見せて文章となった。ステアはその文章を読んで笑った。
「なんだこれ」
「青春じみた言葉ね」
 笑うステアとレアーメに反し、カラミンとカザンはただその文章を見つめた。

【俺は生きている】

 黒いペンキででかでかと殴り描きされたその文章はミトス・スイドが描いたものだとカラミンとカザンには分かった。九十七期生の悲劇で死んだ事になりスパイとして暗躍する。自分で決めた事だが、それでも生きているのに死んだ事にされている恐怖だったのだろう。それが文字ににじみ出ていた。生きていることを吐き出せない。そステア我慢出来ずにこっそりここに戻ってきて描き殴ったのだろう。
「出ようか……」
 カラミンが文章に背を向いて呟いた。


 地下室を閉めるとステア達はこの事は内緒にしておこうと言った。
「ミトスは隠したかったんだから、隠したままにしておこう」
 レアーメが悪戯ぽく笑う。カラミンはミトス・スイドも喜ぶんじゃないかなと、微笑んだ。四人はノイナー家を後にするとシズと同じように墓参りに山を登った。
「ミトスの両親と伯父さんの命日もうすぐなんですよ」
「そうなんだ」
 カラミンはレアーメの会話をカザンは後ろで聞いていた。
「私達も毎年墓参りに行っているんですけど絶対に一番乗りじゃないんです。誰かがいつもお花を供えているんです」
「それはミトス・スイドが九十七期生の悲劇で死んだ後も? 」
「はい。去年までずっと毎年」
「毎年ね……」
 二人は墓参りを終えるとステアと別れ宿に戻った。カラミンはすぐに四局に電話をかけた。さっきと同じセッシサンが電話に出た。
「おしい、さっきまで局長いたんだが」
「そうですか。それで九局の様子は? 」
 セッシサンは歯切れの弱い間延びした声を出した。
「お前ら今下手にこっち帰って来るよりもそっちにいた方がいいかもね」
「どういう事ですか?」
「こっちで九局見張らせているんだが、フェナに行く気配がない。下手に帰ってきて九局に見つかるより一晩そっちにいろ」
「逆に怪しいですね」
「俺もそう思う。もしかしたらもうすでにカンダの居場所に目星があるのかもしれねぇ」
「見つけてくれるならどっちでもいいですけど」
「そうか? あっちが見つけたらまた主導権九局に取られるぞ」
「それは悩ましい所ですけど。他に何か分かった事ないですか」
「ああ、ある。ローザ達がジャモン・サーペティンから話を聞いたらしい。住んでる所が同じだからな。けどな、」
「けど? 」
「かなりけったいな話だ」
 セッシサンはカラミンに「コイン」の話をした。
「その話が本当だとして、」
「お前信じるのかぁ? 」
 セッシサンが素っ頓狂な声を出した。
「じゃないと話進まないんで。本当だとしたら、生きているにしても死んでいるにしても去年の六月にはもうここにはミトス・スイドがいなかったって事ですよね? 」
「そうなるな」
 カラミンはラウンジに掛けてあるカレンダーを見た。
「そのふざけた話、本当かどうか確かめる方法がひとつありますよ」

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