異界の相対者

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逃亡編

密かな交渉

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 午後三時三十五分。アベンチュレ国民局・一階売店前。
「サボってやんの」
 常備食の菓子を買って売店を出たバライトは近くのベンチに座っていたハクエンに絡んだ。
「サボっていない。これから八局棟に行く所だ」
「あいつの尋問か? 」
 コーネス・カーネスの名前を伏せる。
「ああ。お前らもやっているんだろ? カンダの事聞き出せたか? 」
「ふん! お前何かに言うかよ。ってか、こんな所に座ってないでさっさと行けよ」
 バライトは手でしっしっとハクエンを払った。
「お前の姿が見えたから待っていた」
 バライトは顔を顰める。
「俺に用か? 」
「ああ。今夜空いていないか? 」
 バライトは座っているハクエンを睨み見下ろす。
「どういう風の吹き回しだ? 」
「分からないか? 」
 ハクエンもバライトを睨み上げる。バライトはため息を吐く。
「今夜は駄目だ。ついさっき先約が入った」
「急いでいる」
「ごねても今夜は駄目だ。VIPなもんでね」
「……明日は? 」
「明日は非番だ。休日出勤が続いた俺には大事な大事な休日だ。朝七時過ぎにお洒落なカフェでホイップの乗ったコーヒーを飲んでまったりして、図書館に行き気になっていた本を読み、最新の映画雑誌をチェックする。十一時に少し早いランチでバイキングに行く。それから映画を見て、マーケットで晩御飯を買い、ひとり酒を呑んで、歯磨いて風呂入って、柔軟体操して寝る。悪いな、諦めろ」
 バライトは胸ポケットに手を入れると何かをハクエンに投げた。ハクエンはそれを片手でキャッチした。バライトは背を向ける。
「仕事しろよ、自称愛妻家~」
「嫌な独身貴族だ」
 ハクエンは掌を広げる。バライトが投げてよこしたのはカフェのマッチだった。セッシサンがラリマに貰ったと使っていたのと同じだった。マッチにはカフェへの地図が書いてあった。営業時間は朝七時からだった。
「早起きしないとな」
 小さく呟くとハクエンは立ち上がり、八局棟へと向かった。

「俺もシプリン局長と時々変わって、尋問しているんですけどね、『コイン』なんていうおとぎ話みたいな話しかしてくれません」
 シラーは困ったというように肩を落とした。そして八局が尋問した時の調書をハクエンに渡す。ハクエンはその調書をざっと見たが「ミトス・スイド」の名前はなかった。
「ハクエン局長は『コイン』の話を信じているんですか?」
「言い切ることはできん。だが、信じないにしては無視できない辻褄がある」
 カザンのコインを裏返すと言ったのもはったりかもしれない。
「言っている事はなんとなく分かる気がします」
「バライト達も尋問しているんだろう? 」
 シラーは眉を下げた。
「はい。九局が尋問する時はドアの外にラリマを立たせているんですが、バライト局長も苛立っている様子で『コイン』の話しか聞けてないらしいです。まあ八局(うち)はおとぎ話でもサウザン氏の話の裏付け取れて、窃盗グループの事件は、後味が悪いですけど解決しましたから」
 九局が書いた調書は勿論、他の局の人間の目に入る事はない。情報を共有しないのは監察の特権だ。
「うちももう少しカンダの話が聞きたいだけだから。カンダの居場所を知らないとなると、そろそろカーネスはインデッセに引き渡さないといけないだろう? 窃盗グループの件で足止めできる言い訳はもうないしな」
「正直そうですね。でも九局がさっき連絡してきてあと一週間頼む、と。カンダの居場所をカーネスが知っている確信でもあるんですかね」
 ハクエンの頭にまた「ミトス・スイド」の名前が浮かぶ。九局は九十七期生の生き残りであろう「ミトス・スイド」の存在を知っているのではないか。カーネスを引き止めているのはカンダの事と見せかけて「ミトス・スイド」の事を聞き出そうとしている、その確信に近い憶測をした。
「シラー。悪いが今日はカーネスと二人にさせてくれ」
 シラーは顔を渋くした。
「危険ですよ」
「頼む二十分でいい。一対一で一度望みたい」
 シラーはしばし黙り、ハクエンの真剣な様子に負けた。
「十五分です。俺がドアの前に立ちます。何かあったら声を上げてくださいよ」
「恩にきる」
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