異界の相対者

文字の大きさ
135 / 241
逃亡編

平和的契約世界

しおりを挟む

十月二十六日午後。オード・パズート。オード王家所有の邸宅。
 電話が鳴る。すぐ傍にバリミアがいた。アイドは別室にいて、メト王女は学校へ行っていた。バリミアは3コールで電話に出た。
「はい。コイズです」
 電話をかけてくるのはほぼオードの城人だった。
「コイズか? 」
 それかアベンチュレの一局員だった。けれど電話の向こうの声を聞いてもバリミアは誰か分からなかった。
「セドニだ」
「セドニ教官!? 」
 驚きにバリミアは声を上げて、思わず教官と呼んでしまった。
「あ、失礼致しました。セドニ副局長。どうしてここに電話を? 」
「メト王女と話がしたい。学校から戻られたら伝えてくれないか? 」
「わ、分かりました。要件を伺っても? 」
「カンダの事だ」
 バリミアは息を止めた。
「さっきカンダと会った。あいつをアベンチュレに連れて帰ろうと思う」
「な、なんで……」
「九局からの情報だ」
 九局にバレている。その事実にバリミアは顔を険しくした。
「大丈夫だ」
 セドニの言葉にバリミアはえっと返した。まるでバリミアの表情を見ているようだった。
「心配する事はない。俺があいつを守る」
「え? 」
「とにかく話がしたい。メト王女が戻ったら俺の事を伝えてくれ。また時間を置いてかけ直す」
 セドニは連絡先を告げると電話を切った。バリミアはゆっくりと受話器を置く。メイドのアイドが部屋に入る。
「お電話ですか? 」
「はい」
「どなたから? 」
「七局のセドニ副局長からです」
「七局? 」
 アイドが不思議に思った。
「説明します。けどその前に言ってもいいですか? 」
「……どうぞ」
「私に向けて言ったんじゃないですけどね。シズに向けて言ったんですけど、」
「カンダさんに? 」
 アイドの怪訝な表情を無視してバリミアは頬に手をあててセドニが言った「あいつを守る」という言葉を頭の中で反芻させた。
「きゅんっとしたんです。やばいです」
 顔を赤くしバリミアは両手で顔を覆った。
「……はい。ちゃんと説明して頂けますか? バリミア」


 十月二十六日午後九時過ぎ。アベンチュレのどこか。
 午後八時。バライトとカルカは指定された場所で待っていた。バライトは普段着ていないジャケットをきちんと着用していた。すると車が一台停まった。窓が開く。
「乗ってください」
 運転していたのは第一副局長のパイロー・パイローだった。窓はすぐに閉まる。二人は車に乗った。バライトがどこに行くか尋ねたパイローは教えなかった。会話がないまま車が走る。舗装されていない道を走っているのか、車はよく揺れた。一時間弱走り、車は止まった。降りるとそこは山の中で小さな家があった。小さいけれど立派な山小屋だった。ドアが開く。出てきたのは七局長のプライトだった。
「ここは? 」
「王子が二年前に秘密裏に建てられた隠れ家です」
 カルカの質問にパイローが答える。
「ヒミツのアジトね」
 バライトは楽しそうに呟いた。
「王子がお待ちです」
 プライトがドアを開いたまま言った。プライトを先頭にバライト、カルカそしてプライトが入るとドアをしめた。部屋はぼんやりとした明るさだった。
「遠い所まですまない」
 一人がけのソファから立ち上がり、アンドラ王子は微笑んだ。
「バライト九局長に、カルカ副局長」
「私達の事ご存知でしたか」
 バライトも微笑みを返す。
「悪い事をしている自覚はあったからね。九局には気を付けていたが、バレてしまったね」
 アンドラ王子は子どものように笑った。あまりにも和やか様子にカルカは内心、面喰らった。
「どうぞ座りたまえ。パイローお茶を。お二人ともコーヒーでよろしいか? 」
「はい」
「あ、俺のは砂糖とミルク多めでお願いします」
 この状況でも自分の状況を通す上司にカルカは恥ずかしく思ったが真顔を通した。
 真ん中に四角いテーブルがあった。二人掛けのソファがテーブルを挟んで向き合って二つ。アンドラ王子から向かって右にプライトが座り、左にバライト、カルカが座った。パイローはコーヒーを淹れると王子の傍に立った。バライト以外誰もコーヒーに口を付けなかった。
「さて、何から話せばいいかな? 九局長」
 アンドラ王子が始めに話に触れた。バライトはカップを置く。
「単刀直入に聞きます。スパイを使っていますね」
「正しくは使っていた、だ。今はいない」
 アンドラ王子は訂正を入れるまでに正直に言った。
「過去形にせよ、それは四ヵ国条約に違反しています」
「それは重々承知している」
「ではなぜ? 」
 アンドラ王子はしばし黙った。そしてバライトに質問をした。
「九局長、あなたは今の世をどう思う? 」
「話をそらしているんですか? 」
「ちゃんと戻る。九局長の意見が聞きたい」
 バライトは悩まず言った。
「平和な世ではないのですか? 」
 少し嫌味を含んだ言い方だった。アンドラ王子はさらに質問をする。
「そうだな。ではなぜ平和が今保っていられると思う? 」
 バライトはすぐに答えた。
「それは秩序があるからでしょう」
「そうだ。では秩序はどうやってできる? 」
 バライトは答えを考えた。アンドラ王子は答えを待たなかった。
「契約だ。四ヵ国条約も結局は平和と秩序を保つための契約だ。今の世は『契約』の世界だ。『征服』を逃れるには契約をするしかない。だがインデッセは征服を望んでいる」
「だからインデッセにスパイを潜りこませた? 」
「そうだ」
 アンドラ王子は頷いた。
「あなたはインデッセに潜りこませるスパイをつくりあげるために九十七期生の悲劇を利用して生き残りの存在を隠した」
「ああ、そうだ。九局長」
「けど都合よく九十七期生が死んでくれましたね。もしかしてそれも、」
「それは違う」
 ずっと黙っていたプライトが話を遮った。
「あれはクレオの独断だ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...