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逃亡編
お茶会
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十月二十六日午後四時前。オード・パズートの電話ボックス。
「メト王女と連絡がとれた。これから話に行く」
セドニは電話ボックスの壁に背を預ける。
「そうか。カンダは? 」
「本人は帰る意思がある。そっちは?」
「こっちも今夜話す事になった。王子とプライトさんと」
「……そうか」
「お前上司を欺いていたんだ。戻ってきてもプライト局長と上手くやれるのか? 」
セドニは小さく笑った。
「そんな心の狭い上司じゃない」
「クールな事で。あ、あとお前。入学前にカンダが川に飛び込んだ時に助けたらしいな。なんでその話をしなかった」
さっきまた川に飛び込んだシズを思い出し、セドニはタイムリーだなと思った。
「別に。必要があったか? 」
「カンダが自殺行為をした。その情報は欲しかったね。何らかに絶望した過去があるということがもっと早く知れた。それに最初になんでも報告しろって言っただろう? お前はカンダ関連の事は報告を渋っていた。さっき言った自殺行為はカンダの保護者から聞いたし、九十七期生の集合写真にカンダと同じ顔が写っているのもローザ達の話から聞いた。だから協力するならちゃんとしろって釘をさしたんだ。それでやっとカンダの顔とプライトの姪のフリをしたスパイが同じ顔だって報告した。お前の報告はカンダに関してだけ遅かった。お前の報告が速ければもっとこの案件は進んでいた。なんで出し惜しみをした? 」
「そんなつもりはない」
セドニは澄ました声でとぼけた。カルカは舌打ちをする。
「本当にお前とは合わない」
「お互いさまだな。それと、あれは自殺じゃない、カルカ」
「あ? 」
「カンダが川に飛び込んだのは、帰ろうとしただけだ。あの時、死ぬ気は感じられなかった」
「……異世界ってのは川を泳げば行けるのか? 」
「異世界? 」
「ああ、お前に『コイン』の話はしてなかったな。カンダ本人から聞け。あとカンダに伝言だ」
「なんだ」
「四局がコーネス・カーネスの身柄を捕獲した。話をさせてやるって伝えろ。明日の便乗り過ごすなよ。時間がギリギリなんだ。じゃあ」
カルカは電話を切った。セドニは受話器を戻すと電話ボックスを出た。
「セドニ副局長!」
バリミアがセドニの姿が見えると口に手をあてて呼んだ。セドニは立ち止まり、バリミアが駆け寄る。
「お疲れ様です」
「お疲れ。迎えに来てくれたのか」
「王女に言われて。私が街を歩いていると偶然長期休暇でパズートに来ていたセドニ副局長と出会い連れてくるという設定です。裏口からコソコソ入って貰うより、堂々と正面から来て貰った方がいい訳がしやすいです」
「そうか。ありがとう」
「一応お茶菓子買いに来たって建前なのでケーキ屋よりますね」
「分かった」
無言でふたりは歩いた。バリミアは聞きたい事があるが聞き出すタイミングを伺っていた。
「今回コイズと王女がカンダのためにした事は露見しない。安心しろ」
「それは多分そうなると勝手ながら予想していました。けれど、シズは大きな悪事に巻き込まれてしまうって」
「それは残念だが、もう巻き込まれている」
バリミアがセドニを見上げる。
「俺もあいつを巻き込まないようにしようとしていた」
「セドニ副局長はその悪事をご存知で? 」
セドニは「いや」と首を振った。
「上辺ぐらいだ。根底の事は分からない」
「そうですか」
ケーキ屋に着き、バリミアは焼き菓子の詰め合わせを買った。そして邸宅まで戻る。邸宅の門の前にはオードの四局が警備に立っている。
「あら、セドニさん」
門の向こうからメト王女が驚きに嬉しさを交えた演技をする。
「買い物の途中で偶然会いました」
バリミアが微笑む。
「長期休暇でこちらに来ていまして……」
セドニが言う。
「そうなの。よかったらお茶でも飲んで行って。四局さん、この方はアベンチュレの七局副局長のセドニさんです。私のオード留学の手続きを色々してくださった方です。テラスでお茶を飲むのでここからも見えるでしょう。招いてもよろしいですか?」
警備の四局二人はお互いを見る。セドニは城人が持つ国章の銀のバッチを見せた。
「城人の方なら大丈夫でしょう。どうぞ」
「ありがとうございます」
セドニは礼を言って門の中に入った。テラスは門からよく見える所にあったが、声が聞こえるには少し遠かった。丸テーブルをアイド以外の三人が囲む。アイドはバリミアが買って来た焼き菓子を皿に並べると、紅茶を淹れた。
「あまり長居は致しません」
「それは残念」
メトは紅茶の香りを楽しむと一口飲んだ。
「……私がシズを連れてきたのは最初からばれてしまっていたのですか?」
メト王女が尋ねる。
「最初は分かっていませんでした。けれど、すぐに九局が察しました」
「あら、そうなの。うまくいったと思ったのに」
メト王女は悪戯ぽく笑った。
「けれど、カンダはとりあえずアベンチュレ国外にいた方が都合がいいとなったのですぐに確保には向かいませんでした」
「それはどういう意味で? 」
「王子がカンダに接触することを避けたかったんです」
メト王女は微笑みを寂しくした。
「九局は兄がした事を知っているのですね」
「ええ」
「あなたも九局に協力していたのね」
「事情があったので」
「それであなたがシズを迎えに来たという事は九局が兄に何かするって事ね」
「今夜話をするそうです。その後九局がどうするかは私にはまだ分かりません」
「あの、バライトって方とは、話した事あるわ。ちょっと怖い人ね。心が読めない」
「そうかもしれませんね」
「ああ、兄の事が露見すれば私のここでの立場はなくなるわね。それこそスパイだと言われるわ。怖いわね」
「心中お察し致します。けれど、これは私の考えですが九局はこの件を秘密裏に処理すると思います」
「インデッセが関わっているのにそんな事できるかしら」
「向こうも表沙汰にはしたくないでしょう」
「それもそうでしょうけど。けれどやっぱりシズをアベンチュレに連れ戻すよりオードに居た方が安全では? 」
「密国ですからね。見つかった時こそこの国でのあなたの立場が悪くなります。それに本人に帰る意思があります」
「メト王女と連絡がとれた。これから話に行く」
セドニは電話ボックスの壁に背を預ける。
「そうか。カンダは? 」
「本人は帰る意思がある。そっちは?」
「こっちも今夜話す事になった。王子とプライトさんと」
「……そうか」
「お前上司を欺いていたんだ。戻ってきてもプライト局長と上手くやれるのか? 」
セドニは小さく笑った。
「そんな心の狭い上司じゃない」
「クールな事で。あ、あとお前。入学前にカンダが川に飛び込んだ時に助けたらしいな。なんでその話をしなかった」
さっきまた川に飛び込んだシズを思い出し、セドニはタイムリーだなと思った。
「別に。必要があったか? 」
「カンダが自殺行為をした。その情報は欲しかったね。何らかに絶望した過去があるということがもっと早く知れた。それに最初になんでも報告しろって言っただろう? お前はカンダ関連の事は報告を渋っていた。さっき言った自殺行為はカンダの保護者から聞いたし、九十七期生の集合写真にカンダと同じ顔が写っているのもローザ達の話から聞いた。だから協力するならちゃんとしろって釘をさしたんだ。それでやっとカンダの顔とプライトの姪のフリをしたスパイが同じ顔だって報告した。お前の報告はカンダに関してだけ遅かった。お前の報告が速ければもっとこの案件は進んでいた。なんで出し惜しみをした? 」
「そんなつもりはない」
セドニは澄ました声でとぼけた。カルカは舌打ちをする。
「本当にお前とは合わない」
「お互いさまだな。それと、あれは自殺じゃない、カルカ」
「あ? 」
「カンダが川に飛び込んだのは、帰ろうとしただけだ。あの時、死ぬ気は感じられなかった」
「……異世界ってのは川を泳げば行けるのか? 」
「異世界? 」
「ああ、お前に『コイン』の話はしてなかったな。カンダ本人から聞け。あとカンダに伝言だ」
「なんだ」
「四局がコーネス・カーネスの身柄を捕獲した。話をさせてやるって伝えろ。明日の便乗り過ごすなよ。時間がギリギリなんだ。じゃあ」
カルカは電話を切った。セドニは受話器を戻すと電話ボックスを出た。
「セドニ副局長!」
バリミアがセドニの姿が見えると口に手をあてて呼んだ。セドニは立ち止まり、バリミアが駆け寄る。
「お疲れ様です」
「お疲れ。迎えに来てくれたのか」
「王女に言われて。私が街を歩いていると偶然長期休暇でパズートに来ていたセドニ副局長と出会い連れてくるという設定です。裏口からコソコソ入って貰うより、堂々と正面から来て貰った方がいい訳がしやすいです」
「そうか。ありがとう」
「一応お茶菓子買いに来たって建前なのでケーキ屋よりますね」
「分かった」
無言でふたりは歩いた。バリミアは聞きたい事があるが聞き出すタイミングを伺っていた。
「今回コイズと王女がカンダのためにした事は露見しない。安心しろ」
「それは多分そうなると勝手ながら予想していました。けれど、シズは大きな悪事に巻き込まれてしまうって」
「それは残念だが、もう巻き込まれている」
バリミアがセドニを見上げる。
「俺もあいつを巻き込まないようにしようとしていた」
「セドニ副局長はその悪事をご存知で? 」
セドニは「いや」と首を振った。
「上辺ぐらいだ。根底の事は分からない」
「そうですか」
ケーキ屋に着き、バリミアは焼き菓子の詰め合わせを買った。そして邸宅まで戻る。邸宅の門の前にはオードの四局が警備に立っている。
「あら、セドニさん」
門の向こうからメト王女が驚きに嬉しさを交えた演技をする。
「買い物の途中で偶然会いました」
バリミアが微笑む。
「長期休暇でこちらに来ていまして……」
セドニが言う。
「そうなの。よかったらお茶でも飲んで行って。四局さん、この方はアベンチュレの七局副局長のセドニさんです。私のオード留学の手続きを色々してくださった方です。テラスでお茶を飲むのでここからも見えるでしょう。招いてもよろしいですか?」
警備の四局二人はお互いを見る。セドニは城人が持つ国章の銀のバッチを見せた。
「城人の方なら大丈夫でしょう。どうぞ」
「ありがとうございます」
セドニは礼を言って門の中に入った。テラスは門からよく見える所にあったが、声が聞こえるには少し遠かった。丸テーブルをアイド以外の三人が囲む。アイドはバリミアが買って来た焼き菓子を皿に並べると、紅茶を淹れた。
「あまり長居は致しません」
「それは残念」
メトは紅茶の香りを楽しむと一口飲んだ。
「……私がシズを連れてきたのは最初からばれてしまっていたのですか?」
メト王女が尋ねる。
「最初は分かっていませんでした。けれど、すぐに九局が察しました」
「あら、そうなの。うまくいったと思ったのに」
メト王女は悪戯ぽく笑った。
「けれど、カンダはとりあえずアベンチュレ国外にいた方が都合がいいとなったのですぐに確保には向かいませんでした」
「それはどういう意味で? 」
「王子がカンダに接触することを避けたかったんです」
メト王女は微笑みを寂しくした。
「九局は兄がした事を知っているのですね」
「ええ」
「あなたも九局に協力していたのね」
「事情があったので」
「それであなたがシズを迎えに来たという事は九局が兄に何かするって事ね」
「今夜話をするそうです。その後九局がどうするかは私にはまだ分かりません」
「あの、バライトって方とは、話した事あるわ。ちょっと怖い人ね。心が読めない」
「そうかもしれませんね」
「ああ、兄の事が露見すれば私のここでの立場はなくなるわね。それこそスパイだと言われるわ。怖いわね」
「心中お察し致します。けれど、これは私の考えですが九局はこの件を秘密裏に処理すると思います」
「インデッセが関わっているのにそんな事できるかしら」
「向こうも表沙汰にはしたくないでしょう」
「それもそうでしょうけど。けれどやっぱりシズをアベンチュレに連れ戻すよりオードに居た方が安全では? 」
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