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過去編
城の人々と、ミトスの運命
しおりを挟む〔ミトスとシズが入れ替わる七か月前〕
「神の団? 」
一年間、三国を飛び回りミトスはその存在を掴んだ。そしてそれをアンドラ王子に報告をした。アンドラ王子は白の寝間着をだらりと身にまとい、ソファに腰掛けミトスの報告を聞いた。そのような格好でもアンドラには気品があり、色気もある。これが王族の血か、とミトスは内心感心した。
「はい。その単語は一回しか聞いていないので、確かとは言い切れませんが、各国に散らばった組織がいるのは間違いないかと。そしてアベンチュレに忍び込んでいるスパイもその一味の可能性があるかと」
「神、ね……」
アンドラはそう呟きながらグラスに水を注いだ。
「それで? その神の団というのは、神を復活させようとしているのかい? 」
「そのようかと」
「まるでこの世にまだ神がいるかのような組織だね」
アンドラは喉を鳴らし、水を一口飲んだ。
「いるかどうかまでは、まだ。けれど、その大元はインデッセにあるようで」
「まあ、話の流れからして、そうだろうね。本腰いれて、インデッセを調べてくれるかい? 」
「そのつもりです」
そもそもミトスにとってインデッセは本星だった。小さい頃、家族がなんとなくインデッセについて口にすることを避けていたのを肌に感じていたし、嫌悪を抱いているようであった。インデッセとスイド家にはなんらかの関わりがあるのかもしれない。
「プライトに手配を頼む。しばらく休みたまえ。またプライトから連絡が来るだろう」
「承知致しました」
ミトスはアンドラに背を向ける。
「ミトス」
主に呼び止められて振り返る。
「ミトス、君は従順過ぎる。欲がなさ過ぎる。素直過ぎる」
「……それは苦情ですか? 」
ミトスは困る。アンドラは笑った。
「いや、不思議でね。何か、望んでるものはないのかい? 」
ミトスは少し考えて答えた。
「長生きしたいです」
ミトスの答えにアンドラは黙った。
「……すまない。お前を殺してしまって」
「違います! 」
ミトスはすぐに否定した。
「あなたを責めているわけでも、現状を悲観しているわけでもありません。実際死んでいませんし」
ミトスは微笑んだ。
「……全部終わったら、ミトス・スイドが生存していたことを公表しよう。九十七期生の悲劇の真実を内密にして、こちらで都合通りのシナリオを作ることになるが……」
「アンドラ王子はもっと偉そうでいいと思いますよ。そのうち心労で倒れます。今の私は自分で望んだ立場です。お気になさらず、ご命令を」
「……ありがとう。呼び止めて悪かった。おやすみ」
「おやすみなさい、王子」
ミトスはアンドラ王子の部屋を後にする。そしてこっそり、メト王女のバルコニーに降り立つ。窓を指で叩くとすぐに開いた。
「ミ、」
ミトスがメトの唇に人差し指をあてる。
「お静かに、王女様」
「ごめんなさい、中に入って。寒いでしょう」
あの日、ミトスが落とした太陽のブローチはメトが拾った。そしてミトスのことを口外しないことを条件にメトは自分に時々でいいから会いにきて欲しいと頼んだ。それからミトスは任務が一区切りするたびに、メトに会いに来た。二人の不思議な関係は一年以上続いた。
「久しぶり、ミトス! 」
「もう少し声を小さく! 人が来ます」
「大丈夫よ! 」
メトはミトスに会えたことが嬉しくて堪らなかった。メトはミトスに恋をしている自覚があった。ミトスもメトと会えば、顔には出さないが心が弾んだ。それを恋とミトスは認めるわけにはいかなかった。二人はあまりにも立場が違い過ぎた。
「今夜はどれくらいいられる? 」
「十五分ほどです」
「あっという間ね」
メトは寂しく呟いた。
「当分、アベンチュレいるので会いにこれます」
メトは花のような笑みで喜んだ。
「嬉しい。ミトスの話聞きたいわ」
「私のことは話せません。あと王子には」
「内緒にしてるわ、大丈夫よ」
二人は年相応のじゃれ合い的な会話を楽しみ、いつも名残惜しさを抱えて別れた。ミトスは拠点のアパートへと戻る途中公衆電話から電話をかける。
「ウヴァロさんですか?僕です。彼から連絡は?ああ、ありませんか。また電話します」
受話器を置くと、ミトスは自然に今度はいつの夜にメトに会いに行こうかと考えた。
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