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平和編
恋は無責任
しおりを挟むインデッセ城。国王執務室。
朝は新しくなんてない。続きだ。ダイアスが宇宙の果てに消えてから何度かの朝が来た。銃はヂュモルティの足音が聞こえた時に、ヨール王自身で鏡泉の中に沈めた。それから今まで、ヂュモルティとこれから神の団の処理について相談している。ヂュモルティはヨール王がカバンサに洗脳されていると思っていたため、ヨール王が洗脳から覚めたと今は思っている。二局長のトラメはアベンチュレにはめられたと激怒したが、ダイアスがもういないことを知って、戦争をするにも勝機がないことは理解しており、爪を噛んでいる。とにかく歴史が長い組織の分、後処理に長く手を焼きそうだった。その中で、インデッセのオーツ国王がお忍びにやってきた。
「アベンチュレの王に頼まれてはるばるインデッセまで? 」
タイミング的にもヨールはわかっていた。接待室にはオーツが人払いを頼んだため、ヨールとオーツしかいなかった。ふたりの間には紅茶の湯気と香りが漂う。暖炉の火を眺めていたオーツは首を振った。
「アンドラ王子から手紙をもらって。ヨール王の側近だったカバンサが元々はうちの二局員だったようでね。何か問題を起こして大変そうだから話しをしにいってくれないかと」
「それだけですか? 」
ヨール王が疑う。オーツは垂れ目の目尻をさらに下げて、ソファに背をあずた。
「それ以上になにかあるのですか? それは私が聞いても大丈夫かい? 」
ヨールは思わず笑った。
「内緒にしておきます」
「じゃあ聞くのをやめておこう」
オーツはおどけたが、すぐに真面目なかおに戻った。
「カバンサの本名は、ガレナ・ホーエンという。元上司に話を聞いたら、危ない人間だったと話していた。どうにもならないようなことをあなたの国でやってしまったのか? 」
「今、どうにかしている最中です。それに、その、ガレナ・ホーエンは死にました。私が彼に洗脳されているとい話は聞きましたか」
オーツは黙ったが、正直に頷いた。
「誰からとは言わないが、聞いたよ。まさか今もとは言わないよね」
「それは、大丈夫なつもりです」
「それはよかったよ。死人に洗脳されたら、あの世に連れて行かれてしまう」
オーツはジョークのつもりだったらしいが、ヨールは笑ってあげることができなかった。それをごまかすために紅茶を飲もうとしたが、できなかった。
「私はもう、汚れた王です」
ヨールは紅茶に映る自分の顔を見た。自分の顔なのに、どこか違う人のようで、そうあって欲しいというよくわからない願いがあった。
「私は人の目を気にするばかり、人の王にならざる者になってしまったのかもしれません」
「汚れているならいいじゃないか」
えっと、ヨールは顔を上げた。
「綺麗なもの以外を感じてきたからこそ、汚いものを触れた手だからこそ、優しく美しいものを正しく救える手になるのではないですか? 汚いものを知った人間の方が、美しいものに敏感だ。それにあなたはとても傷ついている」
オーツはヨールの顔を見つめ、まるで父のように優しく語った。
「傷つく心がこの世からなくなることはないだろう。もしあるとすれば、それは人が心を失くしたときだ。そなたの心は正しい。大丈夫だ。あなたは、人の王だ」
ヨールはカップを握りしめる。紅茶が揺れる。
「歴史に磨かれた理性を今の我々は持っている。環境、境遇の経験からできる固定概念、またはそれに対する依存、思想、俗念、順応拒否。それらを使って生物は選択をする。理性で選択するという選択を持っている。ヨール王、国はなぜあると思う? 」
その問いにヨールは、シズにした問いの答えが真っ先に浮かんだ。
「絶望が諦める理由にならないために」
「そうだよ」
オーツはヨールの答えを喜んだ。
「望むように生きられない人間にもまっとうな一生を送れるために国はできたのだ」
誰しも完璧に離れない。完璧が平和ではない。完璧を求める過程が平和なのだ。ヨールは紅茶を置くと立ち上がり、デスクの鍵のかかった引き出しから、日記を取り出した。
「それは? 」
「昔の王族が書いた日記です。無責任な恋をした人の日記です」
「恋は無責任なものさ。あれは感情論だからね」
ヨールはつい、笑った。そして、暖炉の前に来ると、その中に日記を投げた。端から黒く色を変えていく。それは二人の百年の恋の終わらせたようであった。オーツは何も聞かずそれを見ていた。
「オーツ王」
「なんだい? 」
ヨールは日記が灰になるのを見届けながら、聞く。
「私は生まれ変われるでしょうか? 」
オーツはすぐに答えてくれた。
「生まれ変れるさ。君は過去を忘れずに生きているのだから」
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