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平和編
good-bye
しおりを挟む「カザン」
「お久しぶりです。身体、大分よくなったって聞いたので」
「ああ、来週には退院だよ」
「お花にしようか迷ったんですけど、結局ゼリーにしました」
「ありがとう。一緒にたべようぜー」
カザンが買ってきた苺のゼリーをふたりで黙々と食べた。カザンは一口だけ運んだだけで、どこか下の方を見ていた。
「カンダさん」
ゼリーの底が見えてきたときにやっと、カザンはシズに話しかけた。
「ん? 」
「ルバのことなんですけど、」
「だいたい聞いた。カラミンさんに」
「あ、そうですか」
カザンは俯いた。ルバがアルガー塾長もといカバンサを殺すのを止められなかったのが相当堪えていると、カラミンが珍しく真面目に話していた。俺のジョークで笑ってくれないんだと言っていたが、それはいつものことだとシズは思う。シズはゼリーの残りをかきこんだ。
「僕、色々考えたんです」
「うん」
「それで」
「うん」
「僕、これからも四局続けます」
シズは空になったゼリーの容器を眺める。
「今言えるのはそれだけです」
「そうか。なあ、カザン」
タイミングがいいと言えばいいが、悪いと言えば悪いとシズは思った。けれど伝えなければいけない。
「もうハクエン局長には伝えたんだけど。他の奴に言ってない。私、ヨンキョク辞める」
カザンが目を見開く。
「今回の責任をとるっていうのもあるっちゃ、あるけど、私の立場でとれる責任なんてたかがしれてる。色々私も考えてさ、ヘミモル村に行こうと思う」
「それって、ミトス・スイドの故郷」
「そう。あいつは、本当は小麦畑と共に暮らしたかったんだ。けどできなかった。だから私が引き継ごうと思う。まだできるかわかんないけど、あの村で暮らすってきめたんだ。だから、」
シズはまたな、と言おうとした。そこであの日のキスを思い出した。曖昧にしてはいけない。
「さよならだ、カザン」
カザンは固まり、力が抜けたように笑った。
「どこにも行かないでって言ったんですけど」
「ごめん、行くわ」
「行くわって。俺ら相棒じゃないですか」
「うん。この世界で私の相棒はカザンだけだよ」
カザンはなんかよく分からない表情をして、そっぽを向いてふてた。
「ずるい人ですね。あなた」
カザンの目が少し、うるんでいるのが分かったけれど、シズは知らないふりをした。カザンにはすぐ新しい相棒ができるだろう。嫉妬しないと言ったら嘘になるな、とシズは思ったが言わなかった。
カザンが帰ったあと、シズは外に散歩に出かけた。ジャモンが持って来てくれたこれでもか、と綿が詰められた上着をシズは着こむ。ベッドを出る時は絶対にこれを着るため、財布やら何やらポケットに入れてある。
外に出ると、インデッセほどではないがだんだんと冬が近づき、風が冷たかった。シズのお気に入りの大きな木の下にある青いベンチに座る。常緑樹の葉を見上げる。また風が吹いた。葉が騒めく。そして、シズの視界に一瞬ネイビーがかすめた気がした。目を見開き、固まった。シズはゆっくりと振り返る。そこには大きな幹があるだけだ。シズは再び前に向くとポケットに手を入れて呆れた。
「てめぇ、ゾンビかよ」
「君もなかなかしぶといと思うけど」
カーネスが嫌味ぽく言った。
「あの状況でどうやって助かったんだよ。意味不明」
「死んだふりをしただけさ。泳いで岸まで行って、知り合いの医者に助けて貰ったんだよ」
「左手失くしてそこまでできるとは。ゾンビだよ、やっぱ」
「命に固執して生きてきたからね。おかげで仕事はできなくなったけど」
左手を奪われ、コインはもう裏返せないのかとシズは思った。
「お前、こんなに近くにいるのに俺を捕まえなくていいのか? 」
やっぱりめっちゃ嫌な奴。嫌な奴な上にゾンビって、最悪だな、とシズはつくづく身に染みる。
「もう力がなくてもてめぇがしてきたことは、許さることはない。極悪人だろう。けどそれを私は責めることができない。責めるにはてめぇの人生は重すぎる。私には扱いきれない。だから逃げるよ。ヨンキョクやめる。ヨンキョクの資格がもうわたしにはとっくになかったんだけどな」
サウザン氏を殴りまくったあの日に。シズはポケットから手を出すと、後ろにやった。
「なんやかんやでこれが今私の手にある」
アシスがシズのいた八局室から持ってきてくれていた、太陽のブローチだった。ミトスが母親から貰ったと、シズはカーネスに聞いていた。
「いらない」
カーネスは即答した。
「僕はとっくに太陽は捨てた。それに、僕ひとりだけに太陽があっても仕方ない」
強すぎる思い出は切なすぎるってことだろうか。シズは手を戻し、ブローチを見つめる。
「来年からは私も墓参りするから。私に会わないように気を付けろよ」
返事がいつまでたってもない。シズは立ち上がり、幹の後ろに回るが、カーネスの姿はもうなかった。さよならも言わなかった。まあ、お互いそんな義理もないか。これからカーネスはどうやって、いつまで生きるのだろう。憎しみを持つにしては、人は長く生き過ぎる。そして感情を共有し過ぎるのだ。シズは太陽のブローチをポケットに入れた。
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