悪役令嬢はスパイに向いてない

雨音

文字の大きさ
18 / 49

悪役令嬢が乙女ゲームのシナリオを辿るまで 4

しおりを挟む
 *







 さて、入学式を終えたその翌日からは、早速授業が本格的に始まった。

 ゲームの強制力か何かでか、シャルロット、わたし、アイリーン、ハンナ、レオナルド、そしてクルトの六名は当然のごとく同じクラスになった。クルトと同じクラスになれたのは有り難いが、この辺りは零課の思惑が絡んでいるのだろう。わたしはよく知らないが、ボスやレイモンドさんの言いようからして零課は有力な王族に繋がっているようなので。



「ハンナさん、アイリーンさん、お昼はどちらで召し上がるの? よろしければ一緒に食べません?」

「もちろん、ご一緒したいですわ!」

「わたくしもぜひ」

 知っている内容ばかりで眠たい授業をなんとか乗り切り、わたしは近くに座っていたハンナとアイリーンを昼食に誘う。二人はにこやかに了承してくれた。

 クラスの子たちは『もうユリア公女が取り巻きを作っている……』という視線を寄越してくるが、いいのだ。そもそも彼女らは取り巻きではないし、もしそう思われたとしても気にしない。攻略対象の婚約者が暴走をした時に止めるためにも、わたしは彼女らと一緒にいなければならないのだ。

 そこでふと、クルトと目が合う。クルトはわたしが彼に気がついたのを見ると、声を出さずに唇だけを動かした。

『ノールとホルンベルガーか』

『うん、ノール伯爵家は完全中立、ホルンベルガー侯爵家はバリバリの王太子派。問題ないでしょ』

 全てとは言わないが、大体どの家がどの立場に立っているのかという情報は、頭に入っている。

 王弟派と言われる貴族の中で有名なのは、三つの家だ。筆頭は豊潤な材を持つウルリッヒ公爵家。そこに、ディーヴァルド侯爵家、ヴュール侯爵家が続く。ヴェルキアナと繋がっている可能性が高いのもその三家なのだが、いかんせん名家ぞろいで憲兵総局も捜査に二の足を踏んでいる。蜥蜴の尻尾切りでなかなか尻尾を掴めないのだ。

 だが、その三家には現在、王立学園に通うような年の子はおらず、また、かの家ら出身の教師も学園には在籍していない。それはあらかじめ確認済みだ。

『ひとまずはそうだな。だが、警戒はしろよ』

『わかってる』

 読唇術で短く会話をすると、わたしはハンナとアイリーンを連れて学園の食堂へ向かった。





 きゃいきゃいとおしゃべりを終えながら食堂での昼食を終えると、まだ午後の授業が始まるまでは時間があった。さすがは王立学園、超一流のシェフを雇っているだけあって非常に美味しい食事だった。公爵令嬢として美食にはある程度慣れている上に、味覚の訓練も詰んでいるわたしをすら唸らせるとは……。

 ……素晴らしいランチを食べられた上に、久々に同年代の女子とおしゃべりができてホクホクとした気持ちだったが、生憎わたしはただの学生ではなくスパイだ。

 気は乗らないが、時間ができたなら軽く校舎や寮内を歩いてみるくらいはしてみよう。スパイとしても、これから自分が潜伏――という言い方が正しいかは微妙なところだが――することになる場所のことはよく知っておきたい。

 それに、本当に王立学園にネズミが潜伏しているとするなら、何かしらの目的や意図があるはず。となると、王立学園のどこかしらに、必ず、仲間やらなんやらと連絡を取るためなどを目的としたアジトがあるはずだ。

「アイリーンさん、ハンナさん。お二人はお先に教室に戻ってらして」

「え? ユリア様はどうなさるのですか」

 ハンナとアイリーンはまだ話し足りないといった様子だった。わたしは少し苦笑して、ごめんなさい、と告げる。

「わたくし、少し用事がありますの」

「そうなのですか? お付き合いいたしますが……」

 アイリーンがそう言ってくれる。けど、一人の方が気楽なんだよなあ。どうしよう。

 断る方法を考えていると、不意に「あら!」と声を上げたハンナが目をキラキラと輝かせた。

「……もしやユリア様、そういうこと、なのですか?」

「え?」

 そういうこととは? とわたしとアイリーンが目を白黒させていると、「嫌ですわ!」とハンナが夢見がちな表情で頬をおさえた。

「そうならそうと仰ってくださいな、ユリア様! ハインツ殿下のクラスをお訪ねになるのではないのですか?」

 そうきたか。

 アイリーンがぱちぱちと目を瞬かせ、「まあ、そうなのですか?」と言ってこちらを見る。「それならわたくし、大変お邪魔をしてしまうところでしたわ」

(いや別にそんなつもりは微塵もないんだけど……)

 わたしはこの学園では、ハインツ殿下とはなるべく接触しないつもりでいるのだ。正直、嫌われて婚約破棄くらいなら全然構わない。家から国母を出したい父や親戚一同からしては絶対に避けたい事態だろうが知ったことではない。死さえ回避できれば家から追い出されても別にいいのだ――わたしは一人で生計を立てられるし、そもそもわたしは零課のスパイ、つまりは憲兵であるので。

 だがまあ、そんなことを目の前の二人に正直に告げる訳にもいかない。

 ハインツ殿下に会いに行く、と言うことで一人になれるのなら、そういうことにしてしまおう。

 わたしはにっこりと笑い、愛用している黒檀の扇子で口許を隠した。

「……まあ、そういったところですわ」

「きゃあ!」

 素敵! と声を上げるハンナ。そんな彼女を見て若干申し訳ない気持ちになりつつ、わたしはそそくさと食堂を出ていくことにした。

 まずいまずい、割と目立ってしまっていたようだ。あとからクルトに小言を言われては堪らない。退散退散。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

虜囚の王女は言葉が通じぬ元敵国の騎士団長に嫁ぐ

あねもね
恋愛
グランテーレ国の第一王女、クリスタルは公に姿を見せないことで様々な噂が飛び交っていた。 その王女が和平のため、元敵国の騎士団長レイヴァンの元へ嫁ぐことになる。 敗戦国の宿命か、葬列かと見紛うくらいの重々しさの中、民に見守られながら到着した先は、言葉が通じない国だった。 言葉と文化、思いの違いで互いに戸惑いながらも交流を深めていく。

悪女として処刑されたはずが、処刑前に戻っていたので処刑を回避するために頑張ります!

ゆずこしょう
恋愛
「フランチェスカ。お前を処刑する。精々あの世で悔いるが良い。」 特に何かした記憶は無いのにいつの間にか悪女としてのレッテルを貼られ処刑されたフランチェスカ・アマレッティ侯爵令嬢(18) 最後に見た光景は自分の婚約者であったはずのオルテンシア・パネットーネ王太子(23)と親友だったはずのカルミア・パンナコッタ(19)が寄り添っている姿だった。 そしてカルミアの口が動く。 「サヨナラ。かわいそうなフランチェスカ。」 オルテンシア王太子に見えないように笑った顔はまさしく悪女のようだった。 「生まれ変わるなら、自由気ままな猫になりたいわ。」 この物語は猫になりたいと願ったフランチェスカが本当に猫になって戻ってきてしまった物語である。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜

白雲八鈴
恋愛
全ては勘違いから始まった。  私はこの国の王子の一人であるラートウィンクルム殿下の婚約者だった。だけどこれは政略的な婚約。私を大人たちが良いように使おうとして『白銀の聖女』なんて通り名まで与えられた。  けれど、所詮偽物。本物が現れた時に私は気付かされた。あれ?もしかしてこの世界は乙女ゲームの世界なのでは?  関わり合う事を避け、婚約者の王子様から「貴様との婚約は破棄だ!」というお言葉をいただきました。  竜の谷に追放された私が血だらけの鎧を拾い。未だに乙女ゲームの世界から抜け出せていないのではと内心モヤモヤと思いながら過ごして行くことから始まる物語。 『私の居場所を奪った聖女様、貴女は何がしたいの?国を滅ぼしたい?』 ❋王都スタンピード編完結。次回投稿までかなりの時間が開くため、一旦閉じます。完結表記ですが、王都編が完結したと捉えてもらえればありがたいです。 *乙女ゲーム要素は少ないです。どちらかと言うとファンタジー要素の方が強いです。 *表現が不適切なところがあるかもしれませんが、その事に対して推奨しているわけではありません。物語としての表現です。不快であればそのまま閉じてください。 *いつもどおり程々に誤字脱字はあると思います。確認はしておりますが、どうしても漏れてしまっています。 *他のサイトでは別のタイトル名で投稿しております。小説家になろう様では異世界恋愛部門で日間8位となる評価をいただきました。

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

婚約破棄されたスナギツネ令嬢、実は呪いで醜くなっていただけでした

宮之みやこ
恋愛
細すぎる一重の目に、小さすぎる瞳の三百眼。あまりの目つきの悪さに、リュシエルが婚約者のハージェス王子に付けられたあだ名は『スナギツネ令嬢』だった。 「一族は皆美形なのにどうして私だけ?」 辛く思いながらも自分にできる努力をしようと頑張る中、ある日ついに公の場で婚約解消を言い渡されてしまう。どうやら、ハージェス王子は弟のクロード王子の婚約者であるモルガナ侯爵令嬢と「真実の愛」とやらに目覚めてしまったらしい。 (この人たち、本当に頭がおかしいんじゃないのかしら!?)

【完結】前代未聞の婚約破棄~なぜあなたが言うの?~【長編】

暖夢 由
恋愛
「サリー・ナシェルカ伯爵令嬢、あなたの婚約は破棄いたします!」 高らかに宣言された婚約破棄の言葉。 ドルマン侯爵主催のガーデンパーティーの庭にその声は響き渡った。 でもその婚約破棄、どうしてあなたが言うのですか? ********* 以前投稿した小説を長編版にリメイクして投稿しております。 内容も少し変わっておりますので、お楽し頂ければ嬉しいです。

処理中です...