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悪役令嬢が乙女ゲームのシナリオを辿るまで 5
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(さてと、まずはどこに行こうかな)
そんなことを考えながら、行く宛てもなく歩く。
女子寮に関しては昨日今日でぐるりと回って、位置関係や間取りなどをだいたい把握したので、校舎周りだろうか。男子寮は、まあ、忍び込むことは可能だが、そのあたりの位置関係の把握はクルトがいるから、彼がなんとかするだろう。
王立学園は本校舎が非常に広く大きい上に、敷地面積がとんでもない。見て回るのは大変そうだ。
ゲームの集合絵からわかっていたことだが、王立学園の制服はとてもお洒落で洗練されている。ここはシルヴィア王国の教育制度の顔であるので、見た目からして憧れるようなデザインにしたのだろう。
わたしにとっては王立学園なんて死地でしかなかったが、この制服を着ることができるのはちょっぴり嬉しかったりする。可愛い制服ってテンション上がるよなあ。
「ああ、すまな――」
(おっと)
考え事をしながら歩いていると、突如曲がり角から人が現れたので、肩の位置をずらして避ける。ぶつかると思ったのだろう、出てきた人の口から咄嗟に出た謝罪の言葉が所在なさげに虚空に漂う。
しかしまあ、結果としてぶつかっていないので、わたしが気にする必要もないだろう。
気付かないふりでさっさと行ってしまおうと、その人の横を通り過ぎようとした、その時。
「……ユリア?」
聞き覚えのある声で呼び止められた。
バッ、と声のした方向を振り向くと、そこには心做しかポカンとした表情をした――兄が立っていた。
「っまあ、お兄様、ごきげんよう」わたしはハッと我に返ると、一連の出来事を誤魔化すように淑女の礼を取った。「ようやっとわたくしもお兄様の後輩になれましたわ」
「ああ……入学おめでとう、ユリア」
声を掛けられるまで全っ然気がつかなかった。……たった今、ぶつかりそうになったのは兄だったのだ。
兄は、とりあえずというように適当な祝辞を述べると、眉を軽く顰め、こちらを観察するような視線を向けてくる。……無視しようとしたのがそんな気に食わないのだろうか。いいじゃないかぶつからなかったんだから。
「わたくしは校内をお散歩しておりましたの。お兄様は生徒会のお仕事ですか?」
「まあ、そんなところだよ。それで……お前は、私がその曲がり角から出てくるのがわかっていたのかい?」
「えっ?」
予想外の言葉に目を瞬かせると、兄はさらに眉を寄せた。
「驚くほど自然に、しかも必要最低限の動作で避けただろう。あんな身のこなし、一体どこで……」
「いやだわお兄様ったら!」わたしはやや大きな声で兄の言葉を遮った。「たまたまですわ」
怪しまれている。当然だ、わたしは武術の心得など何もないお嬢様のはずなのだから。
ああもう、咄嗟に避けずにぶつかっておくべきだった。こういうところだぞ自分!
「でもわたくし、お行儀を学びに行った時、ダンスをたくさん練習しましたから。舞踏会でパートナーの殿方や、周りで踊るペアの方々にぶつかって迷惑をかけたらいけないと散々先生に教えられましたので、その時の癖が出たのかもしれませんわね」
「……そう」
兄はまだ少し怪訝そうにしていたが、とりあえずは納得したのか頷いた。……なんか、前にもあったな、こんな感じのやりとり。
「それより、ユリア。お前はハインツの教室を訪ねるという話ではなかったのかい。ここは三年生の教室とは全く別の方向だが」
「え?」
「……ああ、すまない。私も食堂にいたものだから、お前たちの会話がつい聞こえてしまってな」
無表情で淡々と言う兄に、叔父の姿が重なって閉口する。顔が似てるんだよなあ。
本当に『つい』聞こえてしまったのか怪しいなと思いつつ、わたしは「あら、そうでしたの」と微笑んでみせた。
「でも、途中で気が変わったのです。せっかくだから校内をお散歩しようと思い直しましたの。ハインツ殿下も、約束もなしにいきなりわたくしがクラスに来たら、困ってしまうかもしれないでしょう?」
「へえ……」兄の目が探るように細められる。おお、腹黒眼鏡っぽいぞ。「確かにそうだ。いい判断だな、ユリア」
「あら、淑女たるもの当然の気遣いですわ」
わたしはふふんと胸を張ってみせる。
ゲームのユリア・ヴェッケンシュタインならば自分の都合でしか物事を考えなかったのかもしれないが、わたしは違う。
とはいえどこまで『自分』を出してよいのか、どこまでならば『ユリア』らしいのかをはかりかねているのも事実なので、多少振る舞いがぎこちなくなっている可能性はあるけれども。
「それで、ユリア。次はどこに向かうつもりだったんだい」
「え……ええと、北のお庭を見てみようかと思っておりまして。我が家の薔薇園にも劣らないくらい植えられた薔薇が美しくて、噴水が綺麗だと伺いましたから」
「そうか。ああ、偶然だな。私もそちらの方向に用事があってね。途中まで一緒に行こう」
わたしはぱちり、と瞬きをした。……あれ、これもしかしてわたし、見張られてる? なんもしてないのに……。
とはいえ、ここで固辞するのも不自然か。わたしは笑顔を作り、なんとか頷く。
「嬉しいですわ」
そんなことを考えながら、行く宛てもなく歩く。
女子寮に関しては昨日今日でぐるりと回って、位置関係や間取りなどをだいたい把握したので、校舎周りだろうか。男子寮は、まあ、忍び込むことは可能だが、そのあたりの位置関係の把握はクルトがいるから、彼がなんとかするだろう。
王立学園は本校舎が非常に広く大きい上に、敷地面積がとんでもない。見て回るのは大変そうだ。
ゲームの集合絵からわかっていたことだが、王立学園の制服はとてもお洒落で洗練されている。ここはシルヴィア王国の教育制度の顔であるので、見た目からして憧れるようなデザインにしたのだろう。
わたしにとっては王立学園なんて死地でしかなかったが、この制服を着ることができるのはちょっぴり嬉しかったりする。可愛い制服ってテンション上がるよなあ。
「ああ、すまな――」
(おっと)
考え事をしながら歩いていると、突如曲がり角から人が現れたので、肩の位置をずらして避ける。ぶつかると思ったのだろう、出てきた人の口から咄嗟に出た謝罪の言葉が所在なさげに虚空に漂う。
しかしまあ、結果としてぶつかっていないので、わたしが気にする必要もないだろう。
気付かないふりでさっさと行ってしまおうと、その人の横を通り過ぎようとした、その時。
「……ユリア?」
聞き覚えのある声で呼び止められた。
バッ、と声のした方向を振り向くと、そこには心做しかポカンとした表情をした――兄が立っていた。
「っまあ、お兄様、ごきげんよう」わたしはハッと我に返ると、一連の出来事を誤魔化すように淑女の礼を取った。「ようやっとわたくしもお兄様の後輩になれましたわ」
「ああ……入学おめでとう、ユリア」
声を掛けられるまで全っ然気がつかなかった。……たった今、ぶつかりそうになったのは兄だったのだ。
兄は、とりあえずというように適当な祝辞を述べると、眉を軽く顰め、こちらを観察するような視線を向けてくる。……無視しようとしたのがそんな気に食わないのだろうか。いいじゃないかぶつからなかったんだから。
「わたくしは校内をお散歩しておりましたの。お兄様は生徒会のお仕事ですか?」
「まあ、そんなところだよ。それで……お前は、私がその曲がり角から出てくるのがわかっていたのかい?」
「えっ?」
予想外の言葉に目を瞬かせると、兄はさらに眉を寄せた。
「驚くほど自然に、しかも必要最低限の動作で避けただろう。あんな身のこなし、一体どこで……」
「いやだわお兄様ったら!」わたしはやや大きな声で兄の言葉を遮った。「たまたまですわ」
怪しまれている。当然だ、わたしは武術の心得など何もないお嬢様のはずなのだから。
ああもう、咄嗟に避けずにぶつかっておくべきだった。こういうところだぞ自分!
「でもわたくし、お行儀を学びに行った時、ダンスをたくさん練習しましたから。舞踏会でパートナーの殿方や、周りで踊るペアの方々にぶつかって迷惑をかけたらいけないと散々先生に教えられましたので、その時の癖が出たのかもしれませんわね」
「……そう」
兄はまだ少し怪訝そうにしていたが、とりあえずは納得したのか頷いた。……なんか、前にもあったな、こんな感じのやりとり。
「それより、ユリア。お前はハインツの教室を訪ねるという話ではなかったのかい。ここは三年生の教室とは全く別の方向だが」
「え?」
「……ああ、すまない。私も食堂にいたものだから、お前たちの会話がつい聞こえてしまってな」
無表情で淡々と言う兄に、叔父の姿が重なって閉口する。顔が似てるんだよなあ。
本当に『つい』聞こえてしまったのか怪しいなと思いつつ、わたしは「あら、そうでしたの」と微笑んでみせた。
「でも、途中で気が変わったのです。せっかくだから校内をお散歩しようと思い直しましたの。ハインツ殿下も、約束もなしにいきなりわたくしがクラスに来たら、困ってしまうかもしれないでしょう?」
「へえ……」兄の目が探るように細められる。おお、腹黒眼鏡っぽいぞ。「確かにそうだ。いい判断だな、ユリア」
「あら、淑女たるもの当然の気遣いですわ」
わたしはふふんと胸を張ってみせる。
ゲームのユリア・ヴェッケンシュタインならば自分の都合でしか物事を考えなかったのかもしれないが、わたしは違う。
とはいえどこまで『自分』を出してよいのか、どこまでならば『ユリア』らしいのかをはかりかねているのも事実なので、多少振る舞いがぎこちなくなっている可能性はあるけれども。
「それで、ユリア。次はどこに向かうつもりだったんだい」
「え……ええと、北のお庭を見てみようかと思っておりまして。我が家の薔薇園にも劣らないくらい植えられた薔薇が美しくて、噴水が綺麗だと伺いましたから」
「そうか。ああ、偶然だな。私もそちらの方向に用事があってね。途中まで一緒に行こう」
わたしはぱちり、と瞬きをした。……あれ、これもしかしてわたし、見張られてる? なんもしてないのに……。
とはいえ、ここで固辞するのも不自然か。わたしは笑顔を作り、なんとか頷く。
「嬉しいですわ」
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