奴隷狂公爵の秘密

猫科 類

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奴隷競売

開幕

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競り場の客席が満員になり、シャンデリアの炎が落とされ、舞台に大きな篝火が炊かれる。

薄暗い場内に炎の赤々とした光が揺らめく。
独特な雰囲気を漂わせる場内ーー


舞台の両サイドがら、競り場の従業員に首輪と鎖で引かれた、奴隷が出てきた。
左からは、鉄の口輪に手枷、足枷を付けられた大柄で屈強な男の獣人。
右からは、口枷に目隠し、手枷の男のケンタウルス。
どちらも興奮しているのか、上半身裸の体からは汗が吹き出し、湯気まで見えるようだ。
同時にいくつもの傷痕と真新しい血の滲む傷が幾つも見える。
左の舞台袖から出てきた獣人の方は特に酷そうだ。

競り場の従業員がこれ見よがしに首輪の鎖をじゃらじゃらと音を立てながら引いていく。

二人の奴隷は舞台中央最奥の大扉の前に来ると、他の従業員も手伝い大扉の取っ手と獣人、ケンタウルスの体とを鎖で繋ぐ。

そして、


響くファンファーレ。
同時に鞭がしなる。

低い唸りをあげながら、二体の奴隷が力一杯扉を引く。

振り下ろされる鞭に耐え、血を流しながら、二体の奴隷が大扉を引き開く。

パチパチと至るところから拍手が起こり始める。

奴隷の競りが公認であるこの国では、一種のエンターテイメントと化している。

屈強な奴隷が何トンも有ろうかと思える大扉を開き、美しい奴隷が裸で盛り上げ、調教された魔獣が練り歩き、一吠えし、満を持して進行役の紳士淑女のお出ましとなる。


いつもならーー


と、左の大扉が開ききる前に、獣人の奴隷が床に膝をつく。

肩で息をして、辛そうだ。

しかし、従業員はかまわず鞭を振り下ろす。

当初はおどけてみたり、蔑んだり、呆れたりしたパフォーマンスをしていた従業員も、ケンタウルスの奴隷が右の大扉を開ききってしまった辺りでは既に焦りに変わっていた。


罵声と怒声を喚きながら、必死に鞭を振り下ろす。


自分からすれば、あの従業員の男の方が滑稽だ。


「フッ…」

思わず鼻で笑ってしまった。


そして、


「うわぁ!!」


情けない叫び。


「へぇ……」


思わずこぼした感嘆の声……



なんと、獣人の奴隷はガムシャラにふるわれる鞭を手枷された腕で掴み毟り取った。

そして、その鞭を放り投げる。

放られた鞭は舞台でバウンドし、よりにもよってこちらに飛び込んで来る。
メイドがテーブルの前に立つが、途中で失速した鞭は舞台を滑り落ち、床を滑り、メイドの足元とテーブルの下を潜り、靴に軽く当たって止まった。

「危ないな……」

鞭を拾い上げ、何となく、振ってみる。



「ヒイイ!」


悲鳴に顔を上げると、鞭を奪われた勢いで前のめりに倒れ込んだ従業員の頭を鷲掴み持ち上げる獣人の奴隷……
床に叩きつけようとしたのか、投げ飛ばそうとしたのかは定かではないが……


「ぐぉぁ!!」

その前に炎の塊が獣人の背中を焼く。
炎の塊がぶつかる勢いで、獣人の体が吹き飛ぶが、いまだに大扉に繋がれたままの為、ギチリ、と、鎖がけたたましい音を立て、獣人の体は大扉の取っ手にぶら下がるように伏している。


獣人奴隷の手から逃れることができた従業員は、暫くは呆然としていたが、同僚達に助け起こされると、その手を振りほどき、髪を振り乱し、泣き喚きながら一心不乱に獣人を蹴りだした。
流石に、みっともないと連れていかれる従業員。
伏せて動かない獣人は、他の屈強な奴隷に引きずられていく。

「……………」

目が…合ったような気がしたが……
気のせいだろう……

ただ、その眼光の鋭さが、印象的だった。


結局、左の大扉は他の屈強な奴隷が数人がかりで開けた。


そして扉から出てきたのは美しいエルフや人獣の女性達。
扇情的な衣装を身に纏い、裸同然の姿で舞台を跳ね回り、手を振り、尻を振り、投げキスと笑顔を振り撒く。


彼女達は商品であると同時にこの競り場のスタッフでもある。
特に見た目の美しい奴隷が選ばれ、他の奴隷とは別に大切に扱われる。
王公貴族の練習相手、他国の賓客や要人の夜の相手、高貴な身分の妾や性奴隷等に使用される事が多いため、それなりに清潔で美しく着飾らせておく必要があるためだ。
そして、彼女達もそれを理解している為、素直に従う。
でなければ、貶められ、安価で買い叩かれたり、特に変わった客の元へと売られてしまう事を知っているからーー
故に、あえて鎖で繋ぐ無粋な事はされない。


が、先程のトラブルによってか、いつもより表情がぎこちない。


そして、そんな美女が色気を振り撒く為客席に降りてくる。

薄絹のヴェールを纏い、透けたり、宝石だけの極端に小さな胸当て。
薄絹のスカートの下は絹の前当てに後ろはリボンだけだったり、宝石ビーズだったり、総レースだったりと、下着の役目は一切果たしてはいない物を身に付けている。

そんな、裸同然の女性奴隷達が躍り回るのを紳士達は下卑たニヤツキで、淑女は嘲りで見つめる。
時には、女性奴隷の尻をこれ見よがしに叩いてみたり、あてがわれたスペースに引き込もうとする者も居る。

稀に、我慢できずにいたしてしまう紳士の為に別室も用意されている。
使用後はかなりの額を払うと耳にはさんだ事がある。


美女奴隷が客席へと降りた舞台に現れたのは、均整の整った肉体を持つ男達。
こちらも見目の良いエルフが中心だ。
こちらは男娼と言うべきか…
上半身は裸で、下半身はこちらも女性奴隷と変わりは無い。
絹の面積の少なすぎる前当てと、両側に腰まで入ったスリットの薄絹の腰巻。
均整の取れた肌を自らなぞり、淑女達の黄色い悲鳴を誘う。

特に目立つ中央には、まだ少年といえる顔立ちの人獣。

そのたどたどしい手つきや羞恥と怯えを隠しきれない表情が、淑女だけでなく、特殊な趣味を持つ者達も釘付けにする。


そして、いつもならば、ここで魔獣が吠え唸りながら引く車で優雅に司会者が登場するが、本日は初っぱなのトラブルの為か徒歩で入場してきた。


司会役の中年の紳士と真っ赤なドレスを纏った若い淑女が恭しく礼をする。


「皆様!大変お待たせいたしました!!」

紳士が声をあげーー
表に出ていた美しい奴隷達は一斉に礼をする。

「「競りの開催でございます!!!」」

男女声を合わせて奴隷競りの開催を宣言する。

鳴り響く拍手。


自分も拾った鞭を掌にペチペチと当て、拍手の替わりとした。
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