【完結】ゲーム序盤に殺されるモブに転生したのに、黒幕と契約結婚することになりました〜ここまで愛が重いのは聞いていない〜

紅城えりす☆VTuber

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いつまでも一緒に居よう

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 しびれを切らした両親が立ち去ると、エントランスホールに静寂が訪れる。傍で控えていた使用人は、屋敷の正面玄関を閉め、踏み荒らされたカーペットを掃除し始めた。

「ありがとう……ルイス」

 小さな声で本音を漏らすと、ルイスは私の腰に手を回し、そのままの方階段へと向かった。そろそろ部屋に戻れという事だろう。

「礼など要りませんよ。夫として当然の義務を果たしただけですから」

 階段までたどり着くと、今度は私の斜め後ろ側へルイスが移動する。これは専属使用人レディーズメイドであるマダム・アドラーから聞いた話であるが、淑女が階段を登る際に、紳士が背後に回る理由は、淑女が万が一足を滑らせても受け止められるようにする為である。

「シータ。これで君は晴れて自由の身ですよ。もう両親の道具ではありません」

「えぇ、本当にありがとうござい……」

 再び礼を述べようとした、その時。
 ルイスの右腕が素早く私の肩を掴む。



「要は僕がシータに何をしようが、止める人は居ない――そうですよね?」


 耳元で囁かれた甘い声に、思わず身をふるわせる。

「趣味が悪いにも程がありますよ!」

 反射的にルイスの腕を振り払い、階段を駆け上がった。背後から「急に走り出すと危ないですよ」という声が聞こえたが無視する。

(私は白百合が何色にも染まらぬよう守ると誓ったわ……でも、あの人は、もしかすると百合ではなく薔薇かもしれない。だって、触れようとする度に棘が刺さるもの)


***


 すっかり日が暮れ夜が訪れる。
 晩餐を食べ終わった私は、アーシャの為にパンやローストビーフを少しくすねてから、寝室へと続く階段へ向かった。

 なんとか、くすねることに成功した料理を、アーシャに渡すと、黒髪の少女は優しい笑みを浮かべた。

「ありがとうございます。奥様」
「気にしなくていいのよ。無事に執事や他使用人に気づかれずに、くすねる事に成功したし問題ないわ」

(多分、ルイスには気づかれているけどね……)

 本当に気づかれていたとしても、彼の性格上咎められることは無いだろう。

 階段を三階まで登ると、廊下の窓から、外の景色を眺めているルイスが目に映る。

(月でも見ているのかな?)

 階段を登る足を止め、ルイスの方へ向かう。月光に照らされた彼の姿は、恐ろしいと感じてしまうほど美しかった。白磁色の肌に月光が反射し、まるでその姿は月下美人のようであった。ブルーの瞳が白磁色の肌に重なり、神秘的なオーラを放っている。

(彼はなにを考えているのだろう?)

 もしかすると、どうやって私を利用するべきか考えているのかもしれない。

 私の人間関係を制限して、実家との関係も絶った。その上、思考を放棄しろという。

 彼が今までやってきたことは

 彼は私を操ろうとしている。
 マリオネットみたいに。
 いともたやすく。

「あの……ルイス?」
「こんな夜分に、どうかしましたか?」

 ルイスは視線を動かさず、そのまま言葉を紡ぐ。彼の態度に変化はない。まるで、昼間、私が彼にした行いなど覚えていないようであった。

「もしかして、一人だと眠れませんか?」
「そんな訳ないでしょう。ルイスと眠った方が余計に眠れませ……」

 そこまで呟きかけたが、口を噤む。

(昼もルイスに対して酷いことをしてしまったのに、また彼を傷つけるようなことを言ってしまいそうになった……)


 本人の言動がどうであれ……助けてくれた人に対して、私は――。

 己の愚行に気づき、顔を伏せる。


(私はルイスを闇落ちから救うために、この場所に居るのだ。それなのに……逃げてばかりでは意味が無いではないか)

 逃げるのではなく、寄り添わなくては。
 離れるのではなく、理解しなくては。

「いいえ。なんでもありません。ごめんなさい、ルイス」

「どうしてシータが謝るのかな?」

 再び顔を上げると、そこにはいつも通り、優しい笑みを浮かべたルイスがいた。
 こちらの身長より、彼の背丈の方がはるかに高いので、月明かりに照らされたルイスの笑みが、より神々しく見える。

「謝るべきなのは僕の方だろう?」

 そして、こちらを見つめる瞳は、少し悲しげだった。

「ねぇ、ルイス。私はルイスと寝床を共にすることはできないけど――それでも、何度、月が落ち、日が昇ったとしても、私は必ず貴方のそばに居るから」

 喉の奥で溢れんばかりの言葉が溢れてくる。しかし、それらの大半は喉元でつっかえてしまう。

「だから、どうか、どうか、そんな悲しそうな顔をしないで。何か思い悩むことがあっても、一人で悩まないで……」

 ルイスの目元が、僅かに緩む。

「あぁ、分かった。だから、どうか君も泣かないでくれ」
「私が泣くわけないでしょ……」

 恐る恐る、己の頬へ手を伸ばす。
 すると、一筋の涙が手の甲を濡らした。

「ルイス、私ね……ずっと貴方に言いたかったことがあるの」

「どうしました?」

「貴方は、ずっと前からノックス家の悪行を知っていたのよね?」

「えぇ、大体は」

「それなのに……ノックス家の長女である私を妻に選んだの?」

 ルイスは、しばらく沈黙してから口を開いた。お願い、教えて。
 貴方の目的を。
 本性を。

 大丈夫。私は初めから全て知っているから。知ったうえで愛しているから。

「そうですね……正直に申し上げますと、最初僕は、君に婚約を申し込むつもりは、ありましたが結婚するつもりはありませんでし
た」

「それって……どういうこと?」

「あくまで君からノックス家の情報を得る為に、近づきました」

 あぁ、そういうことか。
 全てを理解した。
 元々彼は、私を経由してノックス家の情報を得てから『夜烏』として、一族諸共殺害する予定だったのだろう。
 
 だとすれば、私は知らぬ間に本当に九死に一生を得ていたことになる。

「でも、君について調べている間に――僕は知らず知らずのうちに、君という存在に惹かれていました」

「私のどこに惹かれる部分が……」

「それは、僕にとっても、まだ答えが出ていない問いですね。舞踏会の夜、僕はこの問の答えは『シータが僕を楽しませてくれる存在だから』だと考えていましたが……きっと本当の答えは、違いますね」

「では、その『答え』とやらは?」

「それは、人間が利益や、快楽、愉悦すらも、棚に上げて惹かれる感情――言い換えるのならきっと恋情でしょう」

 『恋情』。まさか、セシル侯爵からこのような言葉を聞ける日がこようとは。

「シータ。愛してます」

 ルイスが私の頬へ手を伸ばす。しかし。それより先に、私の方が彼の頬へ唇を落とした。



***






 私は旦那様を愛していない。

 だって、私達は形だけの夫婦だから。



――貴方は、いずれ私を殺すであろう未来の悪人で。

――私は、貴方に殺されるであろう今の悪人。


 私達はまるで、本来は交わるはずがない運命の糸そのものだ。
 それでも、糸はもう既に交差してしまった。むしろ絡み合ってしまったと言うべきだろう。

 だから、どうかこれだけは言わせて。
 こう返答させて。



「私も愛してるよ。ルイス」








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