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ありのままの貴方が好き
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「お兄様、ごきげんよう」
メアリーがニコッと笑いながら、庭園に入る。気配もなく突然現れた妹の姿を見たイセルは、忌々しそうな目でメアリーを睨んだ。
先ほどまで読んでいた本は、見当たらない。
「急になんの用だ?」
「驚かせてしまって、ごめんなさい。お兄様が面白そうな本を読んでいたものだから、気になってしまって……」
イセルは青ざめてから、膝の方へ視線を移す。
「へぇー、膝の上に本を隠したのね」
「お父様と、お義母様に言いつけるつもりか?」
「別に。悪いことをしているわけじゃあるまいし。言いつける必要なんてないわ」
「はぁ……!?」
心底びっくりしたように、眉を吊り上げ目を見開くイセルの姿を見て、メアリーは確信した。
「あぁ、やっぱり……お兄様は、昔お父様から『我がターレンバラ家の役割は戦士として民を守護することである。学問など必要ない』と言われたことが未だに気になっているのね」
父は昔からペンと本より血と剣を好む性格だった。兄をパブリック・スクールに入学させる話が出たときに、一人だけ不服そうな顔をしていたのは、言うまでもない。
「ふんっ、その通りだ」
目を逸らしながら答えるイセルの姿に、メアリーは少しばかり驚く。
あっさり認めるのね。てっきり言い訳でもするのかと思っていたけれども。
「だけど私は、そんな言葉を真面目に受け止める必要はないと思うわ」
「俺にまで、お前みたいなろくでもない子供になれとでも言うのか?」
「味方してあげているのに『ろくでもない』なんて酷い言い方しなくても良いじゃない。だったら、ハッキリ言わせてもらうわ。お兄様、貴方戦いの才なんて皆無よ」
「馬鹿にしているのか?」
素早く立ち上がり、メアリーの胸を鷲掴みにしようとするイセル。
彼の膝上に乗っていた本は、勢いよく飛び、地面へと落ちた。
だが、イセルがメアリーの体に触れることは無かった。
なぜならば、目にも止まらぬ速さで危険に気づいたメアリーは、体を僅かに逸らし、イセルの手から逃れたのだ。
「だから言ったでしょう?」
腕を組みながらクスリと笑うメアリーに対し、イセルは、これ以上なにも言い返さなかった。
「お兄様、もしよろしければ今度二人で博物館にでも行きましょう?」
「本気で言っているのか?」
鋭い目つきで睨みつけるイセルに、メアリーは優しく手を伸ばした。
「もちろん本気よ。私も魔法生物には以前から興味があったの。なにより、少なくとも私は生物学を愛しているお兄様は素敵だと思うわ」
メアリーには二つの選択肢がある。
一つはイセルが裏で生物学の本を読んでいることを、弱みとして握ること。
もう一つは、救いの手を差し伸べること。
正直、イセルのことは余り好きではない。
かつて、どちらが『お義母様のお気に入り』になれるか争っていた頃も、敵対している現在も……メアリーはイセルのことが嫌いだ。
それでも、彼もフィネラの被害者であることに変わりは無い。だから、メアリーは救う方を選んだ。
「……考えておく」
イセルは地面から本を拾い上げ、メアリーの元から去った。
さて、これでイセルとの関係が改善すればいいけどね。表面上だけでも……。
***
「お嬢様、予言式のことでお義母様が伝えたいことがあるようです」
翌日の朝。
自室で静かに新聞を読んでいると、侍女が声をかけてきた。
「予言式って……もうそんな季節になったのね」
予言式というのは神官や魔道士が今年一年に起きる厄災を占い、結果を各領主に伝える式典だ。毎年、夏に開かれる。
なお、メアリーが処刑される際に蔑称として使われていた『魔女』と『魔道士』は全く異なる存在である。
『魔道士』は魔法の類を扱う人間であるのに対し、『魔女』は妖精の一種だ。
「分かったわ。教えてくれてありがとう」
「奥様が予言式のことでお嬢様を呼び出すだなんて珍しいですね。いつも、準備から当日の指揮までお一人でこなしていらっしゃるのに」
「どうせ、なにか企んでいるのでしょう」
メアリーはため息をつきながら、フィネラの部屋へ向かう。
今年の予言式にて伝えられる占いの結果を、メアリーは知っている。鮮明に覚えている。
『厄災の魔女が王都に降り立ち、全てを炎に包むであろう』
この占いがメアリーの魔女判決に一役買ったのだ。
メアリーがニコッと笑いながら、庭園に入る。気配もなく突然現れた妹の姿を見たイセルは、忌々しそうな目でメアリーを睨んだ。
先ほどまで読んでいた本は、見当たらない。
「急になんの用だ?」
「驚かせてしまって、ごめんなさい。お兄様が面白そうな本を読んでいたものだから、気になってしまって……」
イセルは青ざめてから、膝の方へ視線を移す。
「へぇー、膝の上に本を隠したのね」
「お父様と、お義母様に言いつけるつもりか?」
「別に。悪いことをしているわけじゃあるまいし。言いつける必要なんてないわ」
「はぁ……!?」
心底びっくりしたように、眉を吊り上げ目を見開くイセルの姿を見て、メアリーは確信した。
「あぁ、やっぱり……お兄様は、昔お父様から『我がターレンバラ家の役割は戦士として民を守護することである。学問など必要ない』と言われたことが未だに気になっているのね」
父は昔からペンと本より血と剣を好む性格だった。兄をパブリック・スクールに入学させる話が出たときに、一人だけ不服そうな顔をしていたのは、言うまでもない。
「ふんっ、その通りだ」
目を逸らしながら答えるイセルの姿に、メアリーは少しばかり驚く。
あっさり認めるのね。てっきり言い訳でもするのかと思っていたけれども。
「だけど私は、そんな言葉を真面目に受け止める必要はないと思うわ」
「俺にまで、お前みたいなろくでもない子供になれとでも言うのか?」
「味方してあげているのに『ろくでもない』なんて酷い言い方しなくても良いじゃない。だったら、ハッキリ言わせてもらうわ。お兄様、貴方戦いの才なんて皆無よ」
「馬鹿にしているのか?」
素早く立ち上がり、メアリーの胸を鷲掴みにしようとするイセル。
彼の膝上に乗っていた本は、勢いよく飛び、地面へと落ちた。
だが、イセルがメアリーの体に触れることは無かった。
なぜならば、目にも止まらぬ速さで危険に気づいたメアリーは、体を僅かに逸らし、イセルの手から逃れたのだ。
「だから言ったでしょう?」
腕を組みながらクスリと笑うメアリーに対し、イセルは、これ以上なにも言い返さなかった。
「お兄様、もしよろしければ今度二人で博物館にでも行きましょう?」
「本気で言っているのか?」
鋭い目つきで睨みつけるイセルに、メアリーは優しく手を伸ばした。
「もちろん本気よ。私も魔法生物には以前から興味があったの。なにより、少なくとも私は生物学を愛しているお兄様は素敵だと思うわ」
メアリーには二つの選択肢がある。
一つはイセルが裏で生物学の本を読んでいることを、弱みとして握ること。
もう一つは、救いの手を差し伸べること。
正直、イセルのことは余り好きではない。
かつて、どちらが『お義母様のお気に入り』になれるか争っていた頃も、敵対している現在も……メアリーはイセルのことが嫌いだ。
それでも、彼もフィネラの被害者であることに変わりは無い。だから、メアリーは救う方を選んだ。
「……考えておく」
イセルは地面から本を拾い上げ、メアリーの元から去った。
さて、これでイセルとの関係が改善すればいいけどね。表面上だけでも……。
***
「お嬢様、予言式のことでお義母様が伝えたいことがあるようです」
翌日の朝。
自室で静かに新聞を読んでいると、侍女が声をかけてきた。
「予言式って……もうそんな季節になったのね」
予言式というのは神官や魔道士が今年一年に起きる厄災を占い、結果を各領主に伝える式典だ。毎年、夏に開かれる。
なお、メアリーが処刑される際に蔑称として使われていた『魔女』と『魔道士』は全く異なる存在である。
『魔道士』は魔法の類を扱う人間であるのに対し、『魔女』は妖精の一種だ。
「分かったわ。教えてくれてありがとう」
「奥様が予言式のことでお嬢様を呼び出すだなんて珍しいですね。いつも、準備から当日の指揮までお一人でこなしていらっしゃるのに」
「どうせ、なにか企んでいるのでしょう」
メアリーはため息をつきながら、フィネラの部屋へ向かう。
今年の予言式にて伝えられる占いの結果を、メアリーは知っている。鮮明に覚えている。
『厄災の魔女が王都に降り立ち、全てを炎に包むであろう』
この占いがメアリーの魔女判決に一役買ったのだ。
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