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約束
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「メアリー、少し話したい事がある」
金色の光が窓から差し込む図書室。
メアリーが一人で読書をしていると、イセルが中に入ってきた。
「あら、お兄様。なに御用ですか?」
「いや、その……」
照れくさそうに目を逸らすイセル。
まぁ、いつもツンツンしているお兄様が照れるだなんて珍しい。
メアリーは産まれてから、彼がこのような表情をする様子を初めて見た。
「以前、二人で博物館に行かないかという話があったよな?」
「えぇ、ありましたね」
「実はビース地方の貴族が経営している博物館に妖精戦争時代に生きていた翼竜の化石が飾られているらしいんだ。かなり貴重なものでな。一緒に見に行かないか?」
メアリーは本を閉じ、イセルを見つめた。琥珀色の瞳に段々と光が宿る。
「いや、もしお前にとって興味が無い話なら、俺の話は忘れてもらって構わない」
「いえいえ、興味あります。とてもあります!」
急に立ち上がり、イセルに近づくメアリー。
イセルの方は驚いたらしく、焦った表情で一歩退いた。
「翼竜の骨は当時の人々にとって魔法薬の材料だったので、現在は殆ど残っていないと書物に書かれていました。まさに宝石ぐらい価値があるお宝ですよね。是非とも見に行きたいです」
「そっ、そうか。分かった。では、いつ出かけようか?」
「明日がいいです。すぐにでも貴重なお宝を、この目に焼き付けたいですから」
「すまんが明日は少々忙しい。だから明後日にしてもらえないだろうか?」
「分かりました。明後日ですね」
イセルは困惑が隠しきれない表情のまま図書室から立ち去ろうとしたが、ドアに触れようとした瞬間、覚悟を決めたような表情でメアリーの方を見た。
「メアリーお前に話したいことがある」
「なんでしょう?」
いつもよりも低い声のトーンで話すイセルに、今度はメアリーが困惑するような表情を浮かべた。
「世に生を受けてからから今まで、俺の世界にはお義母様しか存在しなかった。なぜならば帝国の盾であるターレンバラ家の跡取りにふさわしい振る舞いを教養してきた父上とは違い、あの方は、ありのままの俺を認めて下さったからだ。だから、この世界に俺の味方となってくれる存在はあの方しか居ないと思っていた」
イセルの言いたいことを察したメアリーはにっこりと微笑む。
相手を許し、安心させる。そんな優しい微笑みを。
「だけど今になってやっと気づいたんだ。俺の世界にいたのはお義母様だけじゃない。他にもかけがえのない存在が……兄として守るべき存在がいたんだ」
「えぇ、私も同じ気持ちです。今まで一つの存在に執着して大切なものを見失っていました」
イセルは跪き、メアリーの手を取る。
「こんな不甲斐な俺だが、どうか兄としてお前の傍に居る権利を与えてくれないか?」
「そんな権利なら初めからありますよ。今までも、これからも、ずっとです」
だからどうか立って下さい。そう言ってメアリーはイセルの手を引いて立たせる。
やっとだ。やっと、わだかまりが一つ解決した。
メアリーの中で、パチンと心を縛り付けていた鎖が切れる音がした。
***
「お嬢様、お届け物です」
父の公務を手伝うために屋敷を出たイセルを見送った後、使用人頭がメアリーに二通の手紙と小箱を渡した。
片方の手紙にはラングスレッタ家の印が押された封蝋がしてある。
グリンダから届いた手紙であろう。
もう片方には――。
「王室の印……」
皇族の紋章である龍が刻まれた封蝋がついていた。
小箱にも同様の印がついている。
「ウィリアム公爵閣下から預かったものです」
「分かったわ。ありがとう」
メアリーは受け取った贈り物を持ったまま早足で自室に戻る。
すぐさま棚からペーパーナイフを取り出し、手紙を開封した。
まずウィリアムから届いた手紙を開く。
いかにも高価そうな質のいい紙の上には、整った文字で「豊穣祭の日はずいぶんと面白いものを見せてもらいました。礼として貴方には二つの贈り物をあげます。一つは小箱の中身。もう一つは、なにか困ったときに私の元を訪れる権利です」と書かれていた。
小箱を開くと、蝶型の金飾りに琥珀色の宝石がはめこまれた耳飾りが姿を現わす。
大粒の魔法石ね。これほどの輝き……いったい、いくらしたのかしら?
メアリーにとって男性から装飾品を貰うのは初めての経験であるため、どのように対応するべきなのか見当も付かなかったが、ひとまずお礼の手紙を書くことにした。
次にグリンダから届いた手紙を見る。
封のやり方がいつもより雑ね。
もしかして急いでいたの?
三つ折りになっていた手紙を開けると、そこには小さくて丸い文字がで、こう書かれていた。
『フィネラ叔母様のことで直接伝えたいことがあります。私より身分の高い貴方に、このような頼み事をすることは失礼だと分かっていますが、できるだけ早く私の屋敷に来て下さい』
フィネラのことでなにか分かったことがあるのね!
メアリー立ち上がり、侍女を呼んだ。
「ラングスレッタ家へ向かうわ。今すぐ着替えを用意して!」
金色の光が窓から差し込む図書室。
メアリーが一人で読書をしていると、イセルが中に入ってきた。
「あら、お兄様。なに御用ですか?」
「いや、その……」
照れくさそうに目を逸らすイセル。
まぁ、いつもツンツンしているお兄様が照れるだなんて珍しい。
メアリーは産まれてから、彼がこのような表情をする様子を初めて見た。
「以前、二人で博物館に行かないかという話があったよな?」
「えぇ、ありましたね」
「実はビース地方の貴族が経営している博物館に妖精戦争時代に生きていた翼竜の化石が飾られているらしいんだ。かなり貴重なものでな。一緒に見に行かないか?」
メアリーは本を閉じ、イセルを見つめた。琥珀色の瞳に段々と光が宿る。
「いや、もしお前にとって興味が無い話なら、俺の話は忘れてもらって構わない」
「いえいえ、興味あります。とてもあります!」
急に立ち上がり、イセルに近づくメアリー。
イセルの方は驚いたらしく、焦った表情で一歩退いた。
「翼竜の骨は当時の人々にとって魔法薬の材料だったので、現在は殆ど残っていないと書物に書かれていました。まさに宝石ぐらい価値があるお宝ですよね。是非とも見に行きたいです」
「そっ、そうか。分かった。では、いつ出かけようか?」
「明日がいいです。すぐにでも貴重なお宝を、この目に焼き付けたいですから」
「すまんが明日は少々忙しい。だから明後日にしてもらえないだろうか?」
「分かりました。明後日ですね」
イセルは困惑が隠しきれない表情のまま図書室から立ち去ろうとしたが、ドアに触れようとした瞬間、覚悟を決めたような表情でメアリーの方を見た。
「メアリーお前に話したいことがある」
「なんでしょう?」
いつもよりも低い声のトーンで話すイセルに、今度はメアリーが困惑するような表情を浮かべた。
「世に生を受けてからから今まで、俺の世界にはお義母様しか存在しなかった。なぜならば帝国の盾であるターレンバラ家の跡取りにふさわしい振る舞いを教養してきた父上とは違い、あの方は、ありのままの俺を認めて下さったからだ。だから、この世界に俺の味方となってくれる存在はあの方しか居ないと思っていた」
イセルの言いたいことを察したメアリーはにっこりと微笑む。
相手を許し、安心させる。そんな優しい微笑みを。
「だけど今になってやっと気づいたんだ。俺の世界にいたのはお義母様だけじゃない。他にもかけがえのない存在が……兄として守るべき存在がいたんだ」
「えぇ、私も同じ気持ちです。今まで一つの存在に執着して大切なものを見失っていました」
イセルは跪き、メアリーの手を取る。
「こんな不甲斐な俺だが、どうか兄としてお前の傍に居る権利を与えてくれないか?」
「そんな権利なら初めからありますよ。今までも、これからも、ずっとです」
だからどうか立って下さい。そう言ってメアリーはイセルの手を引いて立たせる。
やっとだ。やっと、わだかまりが一つ解決した。
メアリーの中で、パチンと心を縛り付けていた鎖が切れる音がした。
***
「お嬢様、お届け物です」
父の公務を手伝うために屋敷を出たイセルを見送った後、使用人頭がメアリーに二通の手紙と小箱を渡した。
片方の手紙にはラングスレッタ家の印が押された封蝋がしてある。
グリンダから届いた手紙であろう。
もう片方には――。
「王室の印……」
皇族の紋章である龍が刻まれた封蝋がついていた。
小箱にも同様の印がついている。
「ウィリアム公爵閣下から預かったものです」
「分かったわ。ありがとう」
メアリーは受け取った贈り物を持ったまま早足で自室に戻る。
すぐさま棚からペーパーナイフを取り出し、手紙を開封した。
まずウィリアムから届いた手紙を開く。
いかにも高価そうな質のいい紙の上には、整った文字で「豊穣祭の日はずいぶんと面白いものを見せてもらいました。礼として貴方には二つの贈り物をあげます。一つは小箱の中身。もう一つは、なにか困ったときに私の元を訪れる権利です」と書かれていた。
小箱を開くと、蝶型の金飾りに琥珀色の宝石がはめこまれた耳飾りが姿を現わす。
大粒の魔法石ね。これほどの輝き……いったい、いくらしたのかしら?
メアリーにとって男性から装飾品を貰うのは初めての経験であるため、どのように対応するべきなのか見当も付かなかったが、ひとまずお礼の手紙を書くことにした。
次にグリンダから届いた手紙を見る。
封のやり方がいつもより雑ね。
もしかして急いでいたの?
三つ折りになっていた手紙を開けると、そこには小さくて丸い文字がで、こう書かれていた。
『フィネラ叔母様のことで直接伝えたいことがあります。私より身分の高い貴方に、このような頼み事をすることは失礼だと分かっていますが、できるだけ早く私の屋敷に来て下さい』
フィネラのことでなにか分かったことがあるのね!
メアリー立ち上がり、侍女を呼んだ。
「ラングスレッタ家へ向かうわ。今すぐ着替えを用意して!」
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