断罪するのは天才悪女である私です〜継母に全てを奪われたので、二度目の人生は悪逆令嬢として自由に生きます

紅城えりす☆VTuber

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最初で最後の約束

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「これ、私が丹念込めて作りました。嫁入りする日に絶対持っていってくださいね!」

 半泣きのグリンダから渡されたのは、星模様の刺繍が金の糸で施された布切れであった。ラングスレッタ領がある地方では、友人が嫁入りするときに、この布切れを渡す風習がある……と本に書かれていた。

「嬉しいけど渡すのが早くないかしら?」

 この布切れは慣例的に嫁入りの前日か当日に渡すものだ。すくなくとも今日――二週間前に渡すものではない。

「だって、当日は涙のせいでなにも見えなくなってるかもしれないですから!」

 いや、もう既に泣きそう……だとは口を滑っても言えず。

 メアリーはグリンダの傷だらけになった手を取り、優しく包む。

「ありがとう、グリンダ。慣れない裁縫をしてまで私の婚姻を祝ってくれて。このお守りは大切にするわ」

「うぅ……」

 我慢の限界に達したのか、嗚咽を漏らしながら泣き始めてしまったグリンダを、メアリーは抱きしめた。

 コンコンコンと、ゆっくりドアのノック音が届く。

 グリンダは我に返ったように涙を拭い、ドアの方から真っ赤な顔が見えないよう、全く別の方を見た。

「お嬢様、お客様がおいでです」

 入ってきたのはアルと……彼の後ろでひょっこりと顔を出すアンジーであった。

「どなたかしら?」

「いつも転移魔法でいらっしゃる方ですよ。今日は珍しく正面玄関からいらっしゃいましたけど……」

 客人の正体を察する。

 実際にはナイチンゲールに化けて窓から入ってくることもあるが、アルには転移魔法でメギスが来るという話しかしていなかった。

「分かったわ。すぐに身支度をする」

「あの方は客間に通しておきますね」

「いや、客間じゃなくて庭園にお願い」

 アルが頷いて立ち去ると、アンジーもついて行った。

 暴動の日からアルとアンジーが共に居る時間が増えた気がする。なにかあったのだろうか?

「では、私は屋敷に帰ります」

 グリンダは腫れた目元をこすってから、廊下で待機しているメイドに帰ることを告に行った。

「グリンダ、私たち、これからもずっと友達よ」

 メアリーの呼びかけにグリンダは、即答する。

「はい、もちろんです!」


***


 なんと美しい春の日であろう。

 空からは黄金色の光が差し込み、赤色のバラを照らしている。噴水の周りでは鳥が春の訪れを告げていた。

「ねぇ、結婚相手が本当に僕で良かったの?」

 噴水の縁に座るメアリーとメギス。

「どっかの公爵とかじゃなくて、ただの研究ばかりしている魔道士の僕なんかで本当に……」

「もう、メギス」

 メアリーは自嘲気味に笑うメギスの口に人差し指を当て、言葉を止めた。

「むしろ貴方じゃなきゃ嫌よ。私はこれからもずっと貴方のそばに居たいの」

「そう、君がそう言ってくれるのなら……」

 メギスはメアリーの方を寄せ、頬に口付けを落とした。今まで耳に届いていた小鳥のさえずりも、風が草をなぐ音すら聞こえなくなる。
 だって、心臓が苦しくてドクンドクンうるさいから。


「僕はずっと君のヒーローで居るよ」

「前もそんなこと言っていたわね。貴方にとって大切な言葉なの?」

「あぁ、ずっと昔に覚えた大切な言葉さ」

 メアリーはその”昔”について詳しく言及しないことにした。彼がなにを言いたいのか大体察したからだ。

 メアリーがメギスの肩に体を預けながら、庭園を眺めていると青色の蝶が空より降りてきた。

「メギス、これは私が育児係ナニーメイドから聞いた話なんだけどね。ずっと昔、相思相愛の男女が居て、悲劇の最後を遂げてしまうのだけれども、彼らが死んだ後、二輪の花が咲いて、周りの花が枯れる中ずっと一緒に咲き続けていたらしいのよ」

「その話なら知っているよ。妖精の国にも伝承として残っている有名なおとぎ話だ」

「そう、良かった。もし私たちが死んだ後に別の人生があったら、必ず私のことを迎えに来てね」

「もちろん、って言いたいところだけど……花だと移動できないから迎えに行けないだろ?」

「そこは愛の力でなんとかしなさいよ」

「無理言うな」


 魔女は去り、夢から覚め、また新しい一日が始まる。
 暖かい風が吹き込む庭園の中で、二人の笑いあう声だけがこだましていた。


***


 これは遠い”昔”の話。

 メギスはずっと、ある少女のことを忘れられないでいた。

 魔道学院でメギスの研究を評価してくれたあの女の子だ。

 ずっと「狂っている」「ろくでもないやつ」と罵られてきたメギスによって彼女は誰よりも大切で、忘がたい存在であった。

 魂の研究で成果を出し、無事大出世を果たしたメギスは少女に礼を言うべく彼女を探していた。

 だが、彼女に関する手がかりは少なかった。メギスが彼女から名前を聞いていなかったからだ。
 手がかりは彼女が貴族の令嬢だということだけ。

 社交界の噂を元に彼女を見つけ出したごろには、

 彼女は牢に入れられ、鎖に繋がれていた。服はみじめな麻の白衣で、髪は銀色。ここで初めて、メギスはメアリーの地毛が茶髪ではないことを知る。

 象牙色の肌には数多くの傷が刻まれている。メギスの中で、抑えがたい吐き気と憎悪が芽生え始める。

「なに、厄災の魔女に石でも投げつけに来た……って貴方だったのね?」

 メギスの姿を見たメアリーは、すぐに彼が誰なのか察したようであった。

「噂で聞いたわ。貴方、ついに研究を成し遂げたようね。おめでとう」

「僕のこと覚えていたんだね?」

「当たり前よ。まぁ、こんな惨めな姿で再会することになってしまったのは残念だけどね」

 傷ついた体で、小さく笑うメアリー。
 これだけ虐げられて、まだ彼女には他人を祝福する優しさが残っている。

「ところでなんの用?」

「君を助けに来た」

 メアリーの表情から微笑が消える。

「そう、悪いけど。私は脱獄する気はないわ。もう生きることに対して諦めたから……」

「無理に脱獄させようとは思えないよ。ただ僕は君に別の人生を与えるつもりだ」

 別の人生。あるはずのない世界。
 それを作り出す手段をメギスは持っていた。時を戻す魔法を使えばいいのだ。

 これはメギスが開発した魔法で、大量の魔力を消費することで時間を巻き戻すことができる。

 妖精戦争時代にタイムスリップして研究したいと考えたメギスが時間干渉の魔法を研究していたところ、偶然完成してしまった魔法である。

 同僚からは賞賛されるどころか「そもそもタイムスリップして、直接、研究材料を集めようとする発想がおかしい」と罵られたうえ、せいぜい一年分巻き戻すことが限界だと分かったので、使わず放置していたのだ。

「別の人生……か」

 メアリーは鉄格子の隙間から手を伸ばす。


「もし私に別の人生があるなら、その時は必ず私のことを迎えに来てね」


 メギスは細くて小さな手を、壊さぬよう優しく握った。

「必ず」

 たとえどれだけ狂っていて、ろくでもないやつでも絶対に君の前ではヒーローだいたい。
 これが僕にとって唯一の望みだから。
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