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2 荒木
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「おう、溢忌。今週の上納金出せや」
校舎の隅で俺は五人の不良グループに囲まれていた。
リーダー格の荒木が早くせえ、と手を出してくる。
剃りの入ったリーゼント。異様に短い上着。そこから見える赤いシャツ、金のネックレス。幅のぶっといズボン。まさにザ・不良。不良のお手本みたいな格好の男だ。
俺は無表情のまま、自分の財布から五千円を差し出した。
荒木はそれをビッ、と乱暴に奪い取ると、俺のみぞおちに拳を打ち込んだ。
ぐえっ、と膝をつく。周りの取り巻きが笑い声をあげた。
「溢忌よお~、足んねーゾ、これっぽっちじゃあよう。五等分したらよ、一人千円だぜ。今時千円て、お前、笑っちまうよな、なあ」
また取り巻きたちがどっ、と笑う。俺も見上げながらへへへ、と笑った。
ゴッ、と蹴りが飛んできた。その勢いで校舎の壁にぶつかる。
「テメー、なに笑ってんだヨ。お前のその、笑い方やらしゃべり方がイラつくんだよ。おい、今日帰ったらソッコー、残りの五千円持ってこい」
「え……今日はもう、無理っスよ。来週まで待ってもらえないっスか」
そう言うと、今度は取り巻きの四人がよってたかって蹴りを入れだした。
亀のように丸まって必死に耐える。オウ、と荒木の合図で蹴りが止む。
「今日の五時、いつもの空き地に持ってこい。来なかったら……分かってんだろうな」
俺の目の前でしゃがみ、凄みをきかせる。俺は頷くほかなかった。
放課後、逃げるように家に帰り、自分の部屋へ駆け込む。
机の引き出し、本棚、ベッドの下、ありとあらゆる所から金か、金になりそうな物を探す。
ゲーム本体、ゲームソフト、マンガ本、ラノベ、フィギュアなんかはとっくに売り払った。
今日の五千円だって、欲しい物があるからと無理に小遣いの一部を前借りしたものだ。
ダメだ……小銭が数百円見つかっただけだ。
俺は焦りながらリビングへと移動した。
母の声。電話中のようだ。キッチンであちらを向いたまま、誰かと話している。
ソファーの上には買い物から帰ってきたばかりなのか、バッグに買い物袋。買ってきたものを冷蔵庫にしまう途中で、電話がかかってきたらしい。
バッグは中途半端に空いた状態。長財布の角が見えている。
母の様子を確認し、素早くソファーの後ろまで移動。そこからバッグに手を伸ばす。
何やってんだ、俺は。
親の金にまで手を出して。
一瞬、ピタリと手を止めた。こんなことしてまで、あのクズどもに金を払わなきゃいけないのか。
たとえ今回凌げたとしても、また金を要求されるだろう。
こんなこと、やめるべきだ。
しかし拒否すればどんな目に遭うかわからない。
母は今にもこちらを向きそうだ。俺は伸ばした手を──。
予定より20分も早く空き地へ着いた。
放置されている土管の上に荒木だけが腰かけている。
俺にはまだ気づいていない。うつむきながら、何か考え事をしているようだ。イラついているのか、貧乏揺すりがハンパではない。
小学生の頃は一緒に草野球とかした仲だった。雑貨屋を営んでるアイツの家にも遊びに行った事がある。
同じ女の子を好きになったこともある。あの子は一日に何度も風呂に入る、変わった子だった。
金持ちの息子の家に一緒に行ったこともある。その頃からラジコンやマンガを取り上げたりする乱暴なヤツだったが、いざという時は男気のある、ガキ大将だった。
だが今は……噂では暴走族の先輩とつるんでいるらしい。
ヤツ自身、その先輩に上納金を納めなければならないようだ。だからこんな、弱い者から金を巻き上げるような真似をする。
荒木は俺に気づいた。土管から飛び降りると、大股でこちらに近づいてきた。
「おう、ずいぶん早く着いたな。金は持ってきたんだろうな」
「……ないっス。やっぱり今日は無理っスよ。いや、もう来週も無理っス。お前に払う金なんてないっスね」
怖いはずなのに、さらっと口から言葉が出た。自分でも驚く。目は合わせてないが、上目遣いでちらっと様子をうかがう。
怒り狂うと予想していた荒木は、意外に冷静な顔をしていた。
「お前の、そういう所だよ。すました顔しやがって。昔からそうだよな、クラスでなんかするにも一人だけ冷めた感じでよ、自分は関係ねえ、自分はお前らと違うっ、てツラだ」
「………………」
「だがな、はいそうですか、じゃ済まねえんだよ。お前みたいのが一人でもいると、上納金の集まりが悪くなるだろーがっ」
荒木が胸ぐらを掴もうとする。俺はその手を払い、背を向けて走りだした。
オウ、ゴラアッ、と怒鳴り声。一気に恐怖感が高まる。なんで金もないのに来てしまったのか。なんであんな強い調子で断ったのだろうか。
後悔しても遅い。
俺は必死に走った。までゴラア、メガネ叩き割るぞコラア、と荒木が猛獣のように追いすがる。
逃げ足には自信があるのだが──路地を抜け、大通りまで出たのにまだ追ってくる。今回の執念は並みではない。
交差点。まずい、向こうから歩いてくる四人組は荒木の取り巻きだ。かといって引き返せば荒木に捕まる。
道路の反対側に渡らないと……しかし信号は赤。変わるまで待ってる余裕はない。
ブゥン、ブゥンッ、と車が数台通り過ぎた。今なら反対車線にも車はいない。
もう、すぐそこまで荒木が迫っている。俺は迷わず道路へ飛び込んだ。しかし、停車している車の陰からトラックが飛び出して──。
「あっ……」
間の抜けた声。それがこの世で聞いた、最期の声だった。
校舎の隅で俺は五人の不良グループに囲まれていた。
リーダー格の荒木が早くせえ、と手を出してくる。
剃りの入ったリーゼント。異様に短い上着。そこから見える赤いシャツ、金のネックレス。幅のぶっといズボン。まさにザ・不良。不良のお手本みたいな格好の男だ。
俺は無表情のまま、自分の財布から五千円を差し出した。
荒木はそれをビッ、と乱暴に奪い取ると、俺のみぞおちに拳を打ち込んだ。
ぐえっ、と膝をつく。周りの取り巻きが笑い声をあげた。
「溢忌よお~、足んねーゾ、これっぽっちじゃあよう。五等分したらよ、一人千円だぜ。今時千円て、お前、笑っちまうよな、なあ」
また取り巻きたちがどっ、と笑う。俺も見上げながらへへへ、と笑った。
ゴッ、と蹴りが飛んできた。その勢いで校舎の壁にぶつかる。
「テメー、なに笑ってんだヨ。お前のその、笑い方やらしゃべり方がイラつくんだよ。おい、今日帰ったらソッコー、残りの五千円持ってこい」
「え……今日はもう、無理っスよ。来週まで待ってもらえないっスか」
そう言うと、今度は取り巻きの四人がよってたかって蹴りを入れだした。
亀のように丸まって必死に耐える。オウ、と荒木の合図で蹴りが止む。
「今日の五時、いつもの空き地に持ってこい。来なかったら……分かってんだろうな」
俺の目の前でしゃがみ、凄みをきかせる。俺は頷くほかなかった。
放課後、逃げるように家に帰り、自分の部屋へ駆け込む。
机の引き出し、本棚、ベッドの下、ありとあらゆる所から金か、金になりそうな物を探す。
ゲーム本体、ゲームソフト、マンガ本、ラノベ、フィギュアなんかはとっくに売り払った。
今日の五千円だって、欲しい物があるからと無理に小遣いの一部を前借りしたものだ。
ダメだ……小銭が数百円見つかっただけだ。
俺は焦りながらリビングへと移動した。
母の声。電話中のようだ。キッチンであちらを向いたまま、誰かと話している。
ソファーの上には買い物から帰ってきたばかりなのか、バッグに買い物袋。買ってきたものを冷蔵庫にしまう途中で、電話がかかってきたらしい。
バッグは中途半端に空いた状態。長財布の角が見えている。
母の様子を確認し、素早くソファーの後ろまで移動。そこからバッグに手を伸ばす。
何やってんだ、俺は。
親の金にまで手を出して。
一瞬、ピタリと手を止めた。こんなことしてまで、あのクズどもに金を払わなきゃいけないのか。
たとえ今回凌げたとしても、また金を要求されるだろう。
こんなこと、やめるべきだ。
しかし拒否すればどんな目に遭うかわからない。
母は今にもこちらを向きそうだ。俺は伸ばした手を──。
予定より20分も早く空き地へ着いた。
放置されている土管の上に荒木だけが腰かけている。
俺にはまだ気づいていない。うつむきながら、何か考え事をしているようだ。イラついているのか、貧乏揺すりがハンパではない。
小学生の頃は一緒に草野球とかした仲だった。雑貨屋を営んでるアイツの家にも遊びに行った事がある。
同じ女の子を好きになったこともある。あの子は一日に何度も風呂に入る、変わった子だった。
金持ちの息子の家に一緒に行ったこともある。その頃からラジコンやマンガを取り上げたりする乱暴なヤツだったが、いざという時は男気のある、ガキ大将だった。
だが今は……噂では暴走族の先輩とつるんでいるらしい。
ヤツ自身、その先輩に上納金を納めなければならないようだ。だからこんな、弱い者から金を巻き上げるような真似をする。
荒木は俺に気づいた。土管から飛び降りると、大股でこちらに近づいてきた。
「おう、ずいぶん早く着いたな。金は持ってきたんだろうな」
「……ないっス。やっぱり今日は無理っスよ。いや、もう来週も無理っス。お前に払う金なんてないっスね」
怖いはずなのに、さらっと口から言葉が出た。自分でも驚く。目は合わせてないが、上目遣いでちらっと様子をうかがう。
怒り狂うと予想していた荒木は、意外に冷静な顔をしていた。
「お前の、そういう所だよ。すました顔しやがって。昔からそうだよな、クラスでなんかするにも一人だけ冷めた感じでよ、自分は関係ねえ、自分はお前らと違うっ、てツラだ」
「………………」
「だがな、はいそうですか、じゃ済まねえんだよ。お前みたいのが一人でもいると、上納金の集まりが悪くなるだろーがっ」
荒木が胸ぐらを掴もうとする。俺はその手を払い、背を向けて走りだした。
オウ、ゴラアッ、と怒鳴り声。一気に恐怖感が高まる。なんで金もないのに来てしまったのか。なんであんな強い調子で断ったのだろうか。
後悔しても遅い。
俺は必死に走った。までゴラア、メガネ叩き割るぞコラア、と荒木が猛獣のように追いすがる。
逃げ足には自信があるのだが──路地を抜け、大通りまで出たのにまだ追ってくる。今回の執念は並みではない。
交差点。まずい、向こうから歩いてくる四人組は荒木の取り巻きだ。かといって引き返せば荒木に捕まる。
道路の反対側に渡らないと……しかし信号は赤。変わるまで待ってる余裕はない。
ブゥン、ブゥンッ、と車が数台通り過ぎた。今なら反対車線にも車はいない。
もう、すぐそこまで荒木が迫っている。俺は迷わず道路へ飛び込んだ。しかし、停車している車の陰からトラックが飛び出して──。
「あっ……」
間の抜けた声。それがこの世で聞いた、最期の声だった。
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