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40 伊能の企み
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城に到着した俺たちを、数人の文官が出迎えてくれた。
伊能は形式的な挨拶を交わし、簡単に俺たちの事を説明。
宿に滞在するはずだったシエラとイルネージュも城に入れることになった。
「まあ、本当はこっちの嬢ちゃんだけだったかもしれねえが、別にいいだろ」
領主のアドンはたしかにイルネージュも城で待っておけと言った。しかし、シエラの事はなんにも触れていない。いや、その存在に気付いてさえいないかも。
「んん? なんかシエラ、ぞんざいな扱いされてない? 《女神》なのに。おい、イルネージュ、お前のせいだぞ。お前のこの、むちむちでえっちぃボデーが目立つせいだ」
「ええっ、ご、ごめんなさい。目立とうとしてるつもりはないんですけど……」
「まあまあ、みんな城に入れたからいいじゃないっスか。とりあえず部屋で待機っスよ」
使用人に案内された部屋──来賓室は、豪華な絨毯、家具、調度品に囲まれた部屋だった。
城の貴族趣味な内装がより凝っている感じで、どうにも落ち着かない。
「アドンも腹心のふたりもいねえし、都合がいい。今のうちに調査員、探してくるぜ」
伊能が案内されて早々、部屋の外に出ようとする。忘れるところだったが、本来はギルドの仲間を探しに来たのだった。
「勝手に出歩いて、怒られないっスかね。客っていっても、RPGの主人公みたいにうろうろ出来ないっスよね」
「俺ひとりなら大丈夫だ。気配を消すスキルがあるからな……おい、お前さん方はここから離れるなよ。俺の事を聞かれたら、適当にごまかしといてくれ」
そう言って伊能は静かにドアを開け、周囲を確認。素早く外へ出ていってしまった。
「なーんか胡散臭いんだよな、あのおっさん。前から何考えてるか分からないヤツなんだけど」
シエラがソファーにだらしなく座る。そういえば、シエラは以前から伊能の事を知っているのか。
「伊能って前からあんな、お節介焼きっつーか、馴れ馴れしいんスかね」
「前の活動期の時は、まだ副長じゃなかったけど……いや、馴れ合うようなヤツじゃなかったなあ。腕は立つけど、自分勝手な感じで」
「大丈夫でしょうか? 伊能さんまで捕まったりしたら……わたし達、どうなるんでしょう」
イルネージュは落ち着かない様子で、部屋の中を歩き回っている。
かなりの時間が経ったが、伊能はまだ戻ってこない。
使用人が入ってきて、部屋の燭台に明かりを点けてまわる。
伊能がいない事には気付いてないのか、何も聞いてこなかった。ただ、もうすぐ夕食だと言うことを告げた。
本来なら領主アドンとともに会食の予定だったが、今夜はこの部屋に直接料理を運んでくるらしい。
しばらくして数人の使用人がテーブル、椅子、食器や大量の食事を運んできた。
「わあ、すごい豪勢……そしてすごい量」
イルネージュが驚いている。
銀製の食器に盛られた数々の料理……使用人が説明する。豚や鶏、鹿を焼いた肉の塊に、ウサギ肉に玉ねぎ等の入ったシチュー。牡蠣のフライ、カラスミ。
ニシンやタラの焼き魚、スープ。テーブル中央にあるタワーのようなものにはリンゴやブドウ、梨やプラム等の果物が飾るように盛り付けられていた。
伊能がいたとしても食べきれる量ではない。
半分以上を残し、使用人が片付け終わった頃にようやく伊能が部屋に戻ってきた。
「ダメだな。城中探したが、調査員は見つからねえ。城のモンの会話にもそれらしき情報はねえな」
疲れた様子でソファーに座る。伊能はしばらくうつむいていたが、ククク、と笑いだした。
「だがな、今回の討伐隊の情報は仕入れたぜ。おもしれー事になりそうだ」
「超級魔物が出たっていうアレっスか。どう面白いんスか」
「雇った願望者数人を先行させて誘き寄せる作戦のようだな。少数精鋭は間違ってねえが……失敗するだろうな、ありゃ。超級をよく知っているお前さんなら分かるだろ、シエラ」
聞かれたシエラは神妙な顔で頷く。
「うん……超級はそんな甘いもんじゃない。あの腹心のふたりがいても多分、無理だと思う」
「だろ? あん中じゃあ、《聖騎士》マックスのヤツがイイ線いってるとこだが……ヤツは防御に特化した能力だからな。やっぱ全体的に火力が足りねえ。超越者が最低でもひとりは必要だな」
「だ、だったら、わたし達もお手伝いに行ったほうが良かったんじゃ……」
イルネージュが焦った様子で俺の顔を見る。俺はどうっスかね、と考えるフリをして伊能に答えを求めた。
超級って、以前千景と一緒に戦ったフェンリルとかいうメチャ強い魔物と同じという事だ。
戦って負けはしないだろうが、多少ケガはするだろうし、面倒……何より、あのアドンとかいう領主が喜びそうな事はしたくない……。
「いやいや、だからよ。アイツらが負けて戻ってきたところで勇者殿の出番ってわけよ。領主の軍が倒せなかった魔物を、勇者殿ひとりで倒してみろよ、一気にこの国で名声が高まるぜ。英雄扱いだ」
伊能の提案にシエラがおお、と立ち上がる。
「それはいい考えだ。多くの人に知られる、つまり認識されるチャンスだ。そして勇者の名声が上がればこの《女神》シエラの名も知られるという事。溢忌、この機会を逃すなよ」
また勝手な事を……だが、こちらがいやっスよ、という前にすでにふたりで盛り上がっている。
俺の乗り気でない雰囲気を感じとったのか、伊能がそうだ、と自分の得物──仕込み杖をぽんと叩く。
「念には念を入れて、この機会に俺のチートスキルを勇者殿に譲ろうじゃないか。よし、今この場で立ち合おう」
伊能は形式的な挨拶を交わし、簡単に俺たちの事を説明。
宿に滞在するはずだったシエラとイルネージュも城に入れることになった。
「まあ、本当はこっちの嬢ちゃんだけだったかもしれねえが、別にいいだろ」
領主のアドンはたしかにイルネージュも城で待っておけと言った。しかし、シエラの事はなんにも触れていない。いや、その存在に気付いてさえいないかも。
「んん? なんかシエラ、ぞんざいな扱いされてない? 《女神》なのに。おい、イルネージュ、お前のせいだぞ。お前のこの、むちむちでえっちぃボデーが目立つせいだ」
「ええっ、ご、ごめんなさい。目立とうとしてるつもりはないんですけど……」
「まあまあ、みんな城に入れたからいいじゃないっスか。とりあえず部屋で待機っスよ」
使用人に案内された部屋──来賓室は、豪華な絨毯、家具、調度品に囲まれた部屋だった。
城の貴族趣味な内装がより凝っている感じで、どうにも落ち着かない。
「アドンも腹心のふたりもいねえし、都合がいい。今のうちに調査員、探してくるぜ」
伊能が案内されて早々、部屋の外に出ようとする。忘れるところだったが、本来はギルドの仲間を探しに来たのだった。
「勝手に出歩いて、怒られないっスかね。客っていっても、RPGの主人公みたいにうろうろ出来ないっスよね」
「俺ひとりなら大丈夫だ。気配を消すスキルがあるからな……おい、お前さん方はここから離れるなよ。俺の事を聞かれたら、適当にごまかしといてくれ」
そう言って伊能は静かにドアを開け、周囲を確認。素早く外へ出ていってしまった。
「なーんか胡散臭いんだよな、あのおっさん。前から何考えてるか分からないヤツなんだけど」
シエラがソファーにだらしなく座る。そういえば、シエラは以前から伊能の事を知っているのか。
「伊能って前からあんな、お節介焼きっつーか、馴れ馴れしいんスかね」
「前の活動期の時は、まだ副長じゃなかったけど……いや、馴れ合うようなヤツじゃなかったなあ。腕は立つけど、自分勝手な感じで」
「大丈夫でしょうか? 伊能さんまで捕まったりしたら……わたし達、どうなるんでしょう」
イルネージュは落ち着かない様子で、部屋の中を歩き回っている。
かなりの時間が経ったが、伊能はまだ戻ってこない。
使用人が入ってきて、部屋の燭台に明かりを点けてまわる。
伊能がいない事には気付いてないのか、何も聞いてこなかった。ただ、もうすぐ夕食だと言うことを告げた。
本来なら領主アドンとともに会食の予定だったが、今夜はこの部屋に直接料理を運んでくるらしい。
しばらくして数人の使用人がテーブル、椅子、食器や大量の食事を運んできた。
「わあ、すごい豪勢……そしてすごい量」
イルネージュが驚いている。
銀製の食器に盛られた数々の料理……使用人が説明する。豚や鶏、鹿を焼いた肉の塊に、ウサギ肉に玉ねぎ等の入ったシチュー。牡蠣のフライ、カラスミ。
ニシンやタラの焼き魚、スープ。テーブル中央にあるタワーのようなものにはリンゴやブドウ、梨やプラム等の果物が飾るように盛り付けられていた。
伊能がいたとしても食べきれる量ではない。
半分以上を残し、使用人が片付け終わった頃にようやく伊能が部屋に戻ってきた。
「ダメだな。城中探したが、調査員は見つからねえ。城のモンの会話にもそれらしき情報はねえな」
疲れた様子でソファーに座る。伊能はしばらくうつむいていたが、ククク、と笑いだした。
「だがな、今回の討伐隊の情報は仕入れたぜ。おもしれー事になりそうだ」
「超級魔物が出たっていうアレっスか。どう面白いんスか」
「雇った願望者数人を先行させて誘き寄せる作戦のようだな。少数精鋭は間違ってねえが……失敗するだろうな、ありゃ。超級をよく知っているお前さんなら分かるだろ、シエラ」
聞かれたシエラは神妙な顔で頷く。
「うん……超級はそんな甘いもんじゃない。あの腹心のふたりがいても多分、無理だと思う」
「だろ? あん中じゃあ、《聖騎士》マックスのヤツがイイ線いってるとこだが……ヤツは防御に特化した能力だからな。やっぱ全体的に火力が足りねえ。超越者が最低でもひとりは必要だな」
「だ、だったら、わたし達もお手伝いに行ったほうが良かったんじゃ……」
イルネージュが焦った様子で俺の顔を見る。俺はどうっスかね、と考えるフリをして伊能に答えを求めた。
超級って、以前千景と一緒に戦ったフェンリルとかいうメチャ強い魔物と同じという事だ。
戦って負けはしないだろうが、多少ケガはするだろうし、面倒……何より、あのアドンとかいう領主が喜びそうな事はしたくない……。
「いやいや、だからよ。アイツらが負けて戻ってきたところで勇者殿の出番ってわけよ。領主の軍が倒せなかった魔物を、勇者殿ひとりで倒してみろよ、一気にこの国で名声が高まるぜ。英雄扱いだ」
伊能の提案にシエラがおお、と立ち上がる。
「それはいい考えだ。多くの人に知られる、つまり認識されるチャンスだ。そして勇者の名声が上がればこの《女神》シエラの名も知られるという事。溢忌、この機会を逃すなよ」
また勝手な事を……だが、こちらがいやっスよ、という前にすでにふたりで盛り上がっている。
俺の乗り気でない雰囲気を感じとったのか、伊能がそうだ、と自分の得物──仕込み杖をぽんと叩く。
「念には念を入れて、この機会に俺のチートスキルを勇者殿に譲ろうじゃないか。よし、今この場で立ち合おう」
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