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南方の領主、ヨハン・ランメルツ……。
初めて聞く名だ。それに俺が使者になるとは?
「北方で勢いを増す黄武迅に対抗する為です。南方の肥沃で広大な領土を持つヨハン様と手を組む事こそが、このブクリエが生き残る道……」
楊は身を屈めたまま、グッと頭を下げる。
ミリアムや高官たち、そして伊能の考えだろう。また都合よく俺を利用するつもりか。
「それと……ヨハン様はチートスキル所有者の可能性が高いとの事……また南方に赴けば、さらなるチートスキル所有者に出会う機会も増えるでしょう」
それはシエラとイルネージュとも話していた事だ。もうこの近くでは新しい所有者の情報は得られない。
うまく話に乗せられた感じになるが……俺は決めた。
「わかったっスよ。でも、チートスキルを手に入れるのが優先っス。同盟の交渉が上手くいくかは自信ないっスよ」
「いえ、受けて下さっただけでも、ありがたい……。それでは、この事を報告しに戻ります。どうかお気をつけて……」
楊は床に頭がつくほど平伏しビュオッ、と風のように去っていった。
やれやれ……また利用された、とシエラにからかわれる。
俺は別室に移動したイルネージュに今の事を説明しに向かった。
ヨハンの治める南方の国。名はクロワというそうだ。
ブクリエの領都からはゆうに半月はかかる……。やはり遠い……ここは新たに得たチートスキルの出番だ。
ステータスウインドウを開いて今までのスキルを確認。
あのマックスとの決闘以来、まともに相手になるような願望者と戦っていないせいか、そのチートスキルの内容もロクに確かめていなかった。
なにせ相手が能力を使う前に速攻で一発ブン殴れば、もうそれで終わりなのだ。
シエラからはひとつひとつ確認しとけと言われていたのだが、面倒なので後回しにしていた。
……おっと、ほらあった。移動に役立ちそうなスキル。
門と瞬間移動。
門はネヴィアが伊能を喚び出したのを見たことあるので、その逆でこちらから好きな場所に行けるのではないか。
「ああ~、門はダメ。こっちから喚ぶことしか出来ないよ。んで、一定時間経ったら元に戻っちゃうから」
寝ぼけまなこのシエラが説明。それなら、この瞬間移動はどうだろうか。一体、どんな相手からいつ奪ったスキルなのか……まったく覚えが無い。
「瞬間移動はその名の通り、一瞬で行きたい場所へ行ける超便利なスキルだけど、メチャ願望の力を使う八つの禁忌のひとつ。一度使うとしばらくなんも出来なくなるから、気をつけるんだ」
ふむ、とあるマンガのとある主人公はバンバン使ってるというのに……この能力もチートというには大げさではないか。
ともかく、ステータスウインドウの隣にワールドマップを開く。
ブクリエはこの異世界シエラ=イデアルの中央に位置している。そこからグゥ~ッ、と南下したところにクロワの国があった。
「一度も行った事がないんスけど、ここをタップすれば行けるんスかね」
「そうだけど、待て待て。いきなり危害を加えるようなところだったらどうすんだ。いきなりクロワの領都はマズイ。まずはちょいと離れた街か村にしとけ」
「もう遅いっスよ。押しちゃったっス」
「……げぇ、このバカ……! おいっ、イルネージュ、つかまれっ」
シエラが慌ててイルネージュの手を取り、俺の肩に触れた。
「おっ、おおっ、うおっ」
腹の辺りから願望の力が吸い出される。相当な量だ──急激に力が抜け、おかしな声が漏れてしまった。
俺から出た願望の力は、目の前に細長い空間を作り出した。
そこへ身体が引き寄せられる。とても通れるようなサイズではないが──それに合わせてギュウウッ、と身体が引き伸ばされる。
そして空中に投げ出されたような感覚。目の前が真っ暗に──。
……気を失っていたのか。
頭を横に振りながら起き上がる。
暗く、やけにジメジメした場所だ。ジャラッ、と手と足に重り付きの枷がはめられている。
暗くて狭い空間。手枷、足枷。そして、目の前には鉄格子。これはまるで監獄の中ではないか。
「おっと、目ェ覚ましたな。おい、おとなしくしとけよ。今からお偉いさん呼んでくるからな」
看守らしき男が覗き込み、早足で去っていく。
いまだ状況がつかめない。シエラとイルネージュはどこだ? 一緒に空間転移したはずだが……。
とりあえず、ここから出よう。
手枷、足枷は簡単にねじ切れるだろうし、俺からすれば鉄格子もトイレットペーパーの芯に等しい。
フン、と力を込める。しかし……切れない。鉄格子もビクともしない。
何度試してもだめだ。これは瞬間移動を使った影響か?
禁忌、といわれるだけあってその反動が大きいようだ。願望の力を大きく消耗している。
カツーン、カツーン、と足音が聞こえてきた。
鉄格子ごしに、看守のうしろからひとりの男が現れる。
痩せた短い金髪の男。丸眼鏡に黒い祭服、胸に十字架……まるで神父のような格好だが、年齢がイマイチ分かりにくい。
青年というには重厚で落ち着いた雰囲気を持っているし、中年かといえばその肌ツヤはやたら若々しい。
頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《神託者》《裁きし者》ヨハン・ランメルツ。
コイツが……クロワの領主。さっそく会えたのは幸運だが、この状況からして歓迎されていないのは確実だ。
ヨハンは涼しげな笑みを浮かべながら口を開く。
「ようこそクロワへ。偽勇者、葉桜溢忌。キミが来る事はすでに知ってましたよ」
初めて聞く名だ。それに俺が使者になるとは?
「北方で勢いを増す黄武迅に対抗する為です。南方の肥沃で広大な領土を持つヨハン様と手を組む事こそが、このブクリエが生き残る道……」
楊は身を屈めたまま、グッと頭を下げる。
ミリアムや高官たち、そして伊能の考えだろう。また都合よく俺を利用するつもりか。
「それと……ヨハン様はチートスキル所有者の可能性が高いとの事……また南方に赴けば、さらなるチートスキル所有者に出会う機会も増えるでしょう」
それはシエラとイルネージュとも話していた事だ。もうこの近くでは新しい所有者の情報は得られない。
うまく話に乗せられた感じになるが……俺は決めた。
「わかったっスよ。でも、チートスキルを手に入れるのが優先っス。同盟の交渉が上手くいくかは自信ないっスよ」
「いえ、受けて下さっただけでも、ありがたい……。それでは、この事を報告しに戻ります。どうかお気をつけて……」
楊は床に頭がつくほど平伏しビュオッ、と風のように去っていった。
やれやれ……また利用された、とシエラにからかわれる。
俺は別室に移動したイルネージュに今の事を説明しに向かった。
ヨハンの治める南方の国。名はクロワというそうだ。
ブクリエの領都からはゆうに半月はかかる……。やはり遠い……ここは新たに得たチートスキルの出番だ。
ステータスウインドウを開いて今までのスキルを確認。
あのマックスとの決闘以来、まともに相手になるような願望者と戦っていないせいか、そのチートスキルの内容もロクに確かめていなかった。
なにせ相手が能力を使う前に速攻で一発ブン殴れば、もうそれで終わりなのだ。
シエラからはひとつひとつ確認しとけと言われていたのだが、面倒なので後回しにしていた。
……おっと、ほらあった。移動に役立ちそうなスキル。
門と瞬間移動。
門はネヴィアが伊能を喚び出したのを見たことあるので、その逆でこちらから好きな場所に行けるのではないか。
「ああ~、門はダメ。こっちから喚ぶことしか出来ないよ。んで、一定時間経ったら元に戻っちゃうから」
寝ぼけまなこのシエラが説明。それなら、この瞬間移動はどうだろうか。一体、どんな相手からいつ奪ったスキルなのか……まったく覚えが無い。
「瞬間移動はその名の通り、一瞬で行きたい場所へ行ける超便利なスキルだけど、メチャ願望の力を使う八つの禁忌のひとつ。一度使うとしばらくなんも出来なくなるから、気をつけるんだ」
ふむ、とあるマンガのとある主人公はバンバン使ってるというのに……この能力もチートというには大げさではないか。
ともかく、ステータスウインドウの隣にワールドマップを開く。
ブクリエはこの異世界シエラ=イデアルの中央に位置している。そこからグゥ~ッ、と南下したところにクロワの国があった。
「一度も行った事がないんスけど、ここをタップすれば行けるんスかね」
「そうだけど、待て待て。いきなり危害を加えるようなところだったらどうすんだ。いきなりクロワの領都はマズイ。まずはちょいと離れた街か村にしとけ」
「もう遅いっスよ。押しちゃったっス」
「……げぇ、このバカ……! おいっ、イルネージュ、つかまれっ」
シエラが慌ててイルネージュの手を取り、俺の肩に触れた。
「おっ、おおっ、うおっ」
腹の辺りから願望の力が吸い出される。相当な量だ──急激に力が抜け、おかしな声が漏れてしまった。
俺から出た願望の力は、目の前に細長い空間を作り出した。
そこへ身体が引き寄せられる。とても通れるようなサイズではないが──それに合わせてギュウウッ、と身体が引き伸ばされる。
そして空中に投げ出されたような感覚。目の前が真っ暗に──。
……気を失っていたのか。
頭を横に振りながら起き上がる。
暗く、やけにジメジメした場所だ。ジャラッ、と手と足に重り付きの枷がはめられている。
暗くて狭い空間。手枷、足枷。そして、目の前には鉄格子。これはまるで監獄の中ではないか。
「おっと、目ェ覚ましたな。おい、おとなしくしとけよ。今からお偉いさん呼んでくるからな」
看守らしき男が覗き込み、早足で去っていく。
いまだ状況がつかめない。シエラとイルネージュはどこだ? 一緒に空間転移したはずだが……。
とりあえず、ここから出よう。
手枷、足枷は簡単にねじ切れるだろうし、俺からすれば鉄格子もトイレットペーパーの芯に等しい。
フン、と力を込める。しかし……切れない。鉄格子もビクともしない。
何度試してもだめだ。これは瞬間移動を使った影響か?
禁忌、といわれるだけあってその反動が大きいようだ。願望の力を大きく消耗している。
カツーン、カツーン、と足音が聞こえてきた。
鉄格子ごしに、看守のうしろからひとりの男が現れる。
痩せた短い金髪の男。丸眼鏡に黒い祭服、胸に十字架……まるで神父のような格好だが、年齢がイマイチ分かりにくい。
青年というには重厚で落ち着いた雰囲気を持っているし、中年かといえばその肌ツヤはやたら若々しい。
頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《神託者》《裁きし者》ヨハン・ランメルツ。
コイツが……クロワの領主。さっそく会えたのは幸運だが、この状況からして歓迎されていないのは確実だ。
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