異世界の餓狼系男子

みくもっち

文字の大きさ
53 / 77

53 真実?

しおりを挟む
 シエラとイルネージュ……無事だったのか。いや、様子がおかしい。何の反応も示さない。俺には気付いているはずなのにこちらを見てもいない。
 虚ろな視線、ぼうっとした表情。そもそも、その黒ずくめの修道服、ヨハンと同じ首からさげたロザリオ……ひどく違和感のある格好だ。
 
「シエラ、説明してくださいっスよ。俺が本物の勇者だってことを。イルネージュもなんかおかしいっスよ」

 呼びかけてみる。シエラはギ、ギギ、と首だけをこちらに向けて口を開いた。

「本物の勇者はアンタじゃなかった……こっちの荒木賀地男あらきがちおが真の勇者。アンタのほうが偶然巻き込まれたの。チートスキルを得られるのも巻き込まれた影響に過ぎない。アンタは偽者、紛い物……」

「ちょ、何言ってるんスか。今まで一緒に旅してきたじゃないっスか。シエラが言ったんスよ、俺が世界を救う勇者だって」

「しつこい。《女神》のシエラさんがそう言ってるんだから、間違いないのに。ここにいる誰もがあなたなんか認めてないのに、まだ自分が勇者だなんて……気持ち悪い」

 イルネージュから信じられない言葉が飛び出す。俺が驚きで口ごもっている間にヨハンが荒木の横まで近づいていた。

「真実とは残酷なもの。これ以上傷つく前にこの国を去りなさい。それがキミにとって最良の選択だと思うがね」

「惨めなモンだな。ボコボコにしてやろうと思ったが、そんな気も失せたぜ。こっちのデカチチは俺の女にしてやるからよ。テメーは安心してどこへでも行けよ」

 荒木が見下ろしながら笑う──俺は剣を抜いた。
 願望の力はまだ戻っていないが、この神器練精アーティファクトで作った武器ならば、今の俺でも高威力の攻撃が出せるはず。
 俺を捕らえた時点で装備を外していなかったそっちがマヌケなのだ。

 荒木を袈裟懸けに斬り落と──ガチイッ、と拳で弾かれた。
 バカな、このガラティーンを素手の拳で……。

「バカが。武器を奪ってねえのは、ハナから通じねえからだよ。この俺の男の拳アイアンフィストにはなぁ」

 荒木が拳を振り下ろす。盾で受け止めるが──長椅子をいくつも破壊しながら俺は吹っ飛んでいた。

 床に叩きつけられる前になんとか体勢を立て直し、着地。だが、荒木も目の前に迫っている。
 大振りのアッパー。これも盾でなんとか防ぐ。いや、鈍い音とともに盾が割れた。

「テメーのチンケなスキルなんぞいらねぇが、歯向かうんならやっちまうぞ、コラァッッ!」

 前蹴りが飛んでくる。屈んでかわし、剣で反撃。 

「オラアッッ!」

 荒木に触れていないのに衝撃。扉をぶち破り、俺は城の外まで吹き飛ばされた。こいつは……気合いだけで攻撃してきたのか。

「どうだ、俺のメンチ切り気合い砲はよォ。テメーはどの世界でも同じだ。俺に痛めつけられるだけな無力な存在なんだよ」

 くそ……ダメージがある。基本的な能力値も低くなっているのか。回復もしない。
 ステータスウインドウすら開く事ができない。あの瞬間移動のスキル……やはり慎重に使わなくてはいけなかった。
 
「これでシメーだっ! くたばりやがれェッ!」

 荒木が跳躍。闘気を全身にまとい、そのまま体当たりするつもりだ。

 だが、空中の荒木にドドッ、ドンッ、と何かが飛んできて爆発する。
 荒木は煙を出しながら落下。唖然とする俺の襟首を誰かが掴む。

「えっ、な、誰っスか」

 振り向く間もなくズザアアアーッ、と引きずられてその場を離れた。
──乱っ、暴っ、だっ。
 俺の身体は地面のデコボコや石にしこたま打ちつけられる。

 それから10分ほども疾走。城からだいぶ離れたところでようやく解放された。その時も物を放り投げるようなぞんざいな扱いだが。

「なんなんスか、いったい……」

 ムカッとしながら振り向くと、そこにいたのは──ちょいとえっちいアニメに出てきそうな、ムッチムチの赤いハイレグのボディスーツに身を包んだ女性。
 オレンジ色のおかっぱ頭に、海外の近未来SFに出てきそうな、ちと濃い顔。

 俺の頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《願望式人型戦闘兵器》シトライゼ。

 シトライゼは尻餅ついている俺を見下ろしながら言った。

葉桜溢忌はざくらいつき様ですね。我がマスター、カーラの命によりあなたを助け出しました」

 感情のこもっていない棒読みセリフ……いや、それより……カーラの名が出た。もしやギルド【ブルーデモンズ】のメンバーか。

「もしかして遠方に行っていたメンバーのひとりって、アンタのことっスか」

 ブルーデモンズには5人のチートスキル所持者がいた。
 ヒューゴにネヴィア、伊能。まだ能力の分かっていない楊永順ヤンヨンシュン。そしてもうひとりが──このシトライゼか。

「そうです。このクロワの情勢と、あの新たに勇者だと名乗る男、荒木の事を調べていました」

「でも、俺は伊能の口車に乗ってブクリエの領主になっちまったんスよ。カーラは怒ってないんスか」

 シトライゼは首を横に振りながら、いいえ、全然と答えた。

 シトライゼの右腕がギュルルルと回転。バカッ、と外れて中身は──機械。まさか、ロボットの願望者デザイアとでもいうのか。

 外した腕の中に小型のロケット弾を装填している。さっき荒木に打ち込んだヤツか。
 
 この異世界でこんな戦闘ロボットみたいなのは認識されにくいはずだ。
 かなりの願望の力の持ち主ということになる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

処理中です...